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『8/6 ノベルstory07 発売』私は悪役王妃様  作者:


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【裏側】夜会前




side ギー


「ねぇ、グエン。主様はあの場所で何をしてるのかなぁ」

「さぁ?そんなことよりも主に判を押して貰う書類を準備して」

「でもね、もうずっと立ったまま空を見上げてるよ」

「……ギー、主はお空に向かって何かと対話をしているから放置しておいて」

「外真っ暗だし、主様危ないよ」

「…………」


朝まではいつも通り仕事をこなし、昼頃からそわそわして、夕方からお顔が険しくなってきたなぁと思っていたら日が落ちた頃執務室のテラスに立って動かなくなった。

我が主様、レイトン・フォーサイス様は不思議な方です。




書類とお茶の準備を終えたとき、グエンが「主ー!いい加減にしてください!」とテラスに飛び出し主様の腕を引っ張りだした。

多分……主様はあの場から動かないと思う。

だって、何かを祈るように空を見つめているから。きっとセリーヌ様のお手紙を待っているんだよ。

大丈夫、判の押されていないものは急ぎのものではないから、二、三日放って置いても平気だし。

主様は仕事が早い、こんなのぱぱっとやってしまう。


「主ーー!部屋の中で待っていてください、必ずお返事は届きますから!」


グエンが一生懸命に主様を部屋へ連れ戻そうとしてるけど、絶対に無理だよ。

主様はラバンの全騎士団を率いる隊長。王太子としての仕事をこなしながら騎士団の訓練にも参加してるし、寝る前は沢山お勉強をしている優秀な王太子殿下。

あの帝国の皇子、セオフィラス様が主様を鬼才と呼んでいるぐらいだから。

うむうむ……と頷いているとグエンがぐったりしながら部屋へ戻って来た。

あれれ?とテラスを伺うと微動だにしない主様。

やっぱり無理だったんだね、グエン。


「主に何か羽織る物を……後は、暖かい飲み物と、軽食と……」


そのままふらふらと扉の外へ消えたグエンを見送り、やることが無くなったので我が主様の元へ。

足元に腰を下ろし、一緒に真っ暗な空を見上げてみた。

こんなに暗くてはお返事を持ってくるレンなんて見えない。主様には見えるのかなぁ?


「ギーは部屋へ戻りなさい」

「主様が外にいるのに?」


声をかけられ空ではなく主様を見上げるが、視線が合うことはない。でも、代わりに頭の上に手が乗せられ優しく撫でてくれた。


「夜は冷えるよ、具合が悪くなったらどうするんだい?」

「グエンがいます」

「僕が、ギーが倒れたら困るんだよ」


主様はお優しい。

口元を両手で押さえ、くふくふ笑っていたら視界が何かで覆われた。

慌ててそれを退かし隣を確認すると、主様はグエンに毛布でぐるぐる巻きにされていた。

うん、暖かそう。


「主もギーもしっかりと身体に巻き付けておいてください。風邪でもひかれたら誰が苦労すると思っているのですか」

「僕は兎も角、ギーを部屋へ戻しなよ」

「主が寒空の下におられるのに、我々に戻れとおっしゃいますか。侍従である我々が側を離れることはありません……大丈夫です、毛布は三枚用意いたしました」


グエンも主様の隣に座り、絶対に動かない姿勢を見せる。主様も頑固だけど、我々も頑固なのです。

ちらっと、庭と室内に護衛が配置されているのを確認し、また夜空を見上げくふくふ笑った。




夜が明け、だんだん明るくなってきたとき。


「……もう、無理だね」


主様の感情のこもっていない声に、背筋がぞわぞわっとした。

踵を返し、執務室に入って行く主様の後を追いかけようと立ち上がるが身体が固まって思うように動けない。

グエンはサッと立ち上がりお茶の片付けをしているのに……主様もグエンも絶対に変だ。


軽く身体を動かしていると主様がテラスへと戻って来た……のだが、腕にいる真っ白な鳥を見て慌てて駆け寄った。


「あ、主様!それっ、セリア様!」

「うん、確実にセリーヌに届けて貰いたいからね。さぁ、行っておいで、セリア」


普段なら絶対に手元から離さないセリーヌ様専用の鳥、セリア様を主様はひと撫でし空へと放つ。

コレは思っている以上に主様がご乱心だ。

セリア様が飛び去った方角を口を開けて見つめていたら、「城を出るよ、準備を」と主様は颯爽と部屋へ戻っていった……。


「グエン?主様は……」

「ギーは国王様に報告、護衛騎士達は部隊に連絡してください。主は、国境を越えヴィアンに攻め込む気だと」


うぇえぇー!?主様、ブチ切れたあぁー!


城の廊下を護衛騎士達と走りながらやり取りし、国王様の部屋の前にいる騎士に「非常事態です!」と言い数回ノックした後、返事を待たずに乱暴に扉を開けた。

本来なら処罰ものだけど、このような対応をするときは決まって主様のことでだから大丈夫。国王様は毎回許してくれているのです。


「失礼します、レイトン様が国境へ向かうと皆に準備をさせています!」


起きたばかりなのか、気怠げにソファーに座っている国王様は苦笑しながら側にいた侍従に紙とペンを貰い、その場でさらさらと何かを書き上げ手渡してきた。


「それを、国境に着いたら部隊長とレイに渡しなさい」

「承知しました」


手を振る国王様に笑顔で振り返し、紙を懐へと忍ばせ主様の元へ走り出した。




※※※※※※※



グエンside


夜が明けたばかりの時間、まだ寝ているであろう騎士達を叩き起こしてもらい出立の準備をさせ、一人さっさと準備を終え馬に跨る主の前に立ち塞がり皆が揃うのを待っていた。

主は護衛もつけずに影のみを連れ、毎度勝手に城を出て放浪の旅へ出てしまう。

これは幼少の頃からで、今では皆慌てず騒がずそれぞれの仕事をこなしている。


「もう良いかな?僕は一刻も早く国境へ向かいたいのだけれど」

「ギーが戻れば出発出来ます」

「ギーとグエンは寝ていないのだから城へ残っていて良いんだよ」


首を横に振れば、主は溜息をつき城の門を見据える。門の先は国境、更にその先はヴィアン国。

主の気持ちも分かる。同盟など関係無く、セリーヌ様をヴィアン国に嫁がせたくなどなかったのだから。

あの国は前王からの治世下からどこか歪みが生じていた。主はそれらを調べる為に度々城を抜け出し、秘密裏に人を動かし国王様に報告している。

けれど、セリーヌ様はヴィアンのアーチボルト様を愛しておられた。

恋は盲目だとは良くいうが、国王様と主にそれとなく止められていたのにセリーヌ様は嫁がれてしまった。

国王様は生きて戻れぬ覚悟なのだからと許し、主は嫌われたくはないと条件をつけ許した。

その条件の所為でこの状態だが。

毎日届いていた手紙が昨日は届かなかった。もし、今日届かなければ主は確実にヴィアンへ攻め込む。正面からではなく、裏から。

ヴィアンの城下の街にラバンに組している者がどれほどいるかなど彼の国の者達は知らないだろう。

これを知ったとき、主はヴィアン国を滅ぼす気なのだと思った。

けれど、実際にはセリーヌ様の為に少し頑張っただけだった。


「主様ー、お待たせしました」

「行くよ」


ギーが走ってきたのを確認し、主は馬を走らせ門から出て行かれた。


「ギー」

「貰ったよ」


馬に跨りギーに声をかければ、返事と共にパン!と胸元を叩きそこに国王様から渡されたものがあるのを確認し我々も馬を走らせた。




主や護衛騎士より数刻遅れヴィアンとラバンの国境にある砦へと着くと、主は部隊長と何か話しをしていた。

本来なら何の連絡も無く王太子自ら国境まで来るなどあり得ないことだが、此処に待機している部隊は主の私兵……盲信者達。

部隊長は元セリーヌ様の護衛騎士隊長。

要件も分かっていて、それを止めはせずに共に実行するという人達だ。

恐らく、二人でヴィアンを滅ぼす計画でも立てているのだろう。

主と部隊長の元に近づくと、それを確信した。


「国境へ入ったら別れて動く、少人数で動いたほうが良い」

「そうですね、私の方はセリーヌ様の安全を確保してから合流した方が良いかもしれません」

「まぁ、僕等が動いたことを彼等が知るのはことが起こってからじゃないかな。あの国は無能が多いから」

「開始時刻は?」

「城へ進入出来る者に連絡をつけたのち行動を開始する」

「でしたら、直ぐに」


さて、そろそろですね……とギーから紙を受け取り主の隣に並ぶ。


「主、これを」


折りたたまれていた紙を目の前に広げて見せた。内容は見なくても分かる。


「……これ」

「国王様から直接受け取りました」

「……チッ、今しばらく待機だ。皆にそう伝えておいて」

「承知しました」


砦の中へと消えていく主はギーに任せ、主にしたように隣にまだいるもう一人にも紙を広げて見せると、部隊長は頬をかき苦笑しながら隊の元へ歩いて行った。


それから数刻ほど経ち、部屋の窓から空を見ていた主が急に飛び出したので、我々も後を追い部屋を出た。


砦の外に出ると大きな黒い鳥が主の腕に止まり頭を羽で叩く。

主専用の鳥、レイがセリーヌ様の手紙を届けに来たのだろう。

羽やクチバシで攻撃される中、手紙を開いた主はその場で崩れ落ちた。

何事かと周囲が騒つくが、大丈夫です。何時ものこと。


「何故、どうして、やっと……僕の愛は届かなかったのかい?……偽物?いや、この美しい字はあの子のものだ。なら、アレを消すと書いたのがいけないのかい?でも、だとしたら……抹殺?暗殺?」


さあ、撤収ですね。

主の横で同じく崩れ落ちている部隊長を無視し、落ちている手紙を拾い上げた。

流石セリーヌ様、たった数行の文字で主を沈めました。


ですが、多分次は有りません。

主はもうかなり際どい状態なのですから。


国王様からの紙を取り出しセリーヌ様のと並べてみた。



『落ちつき、考えて対処せよ。焦って失敗したら、セリーヌに嫌われるぞ』


『私は大丈夫ですわ。ですからお兄様、ラバンへお帰りください。ハウス』


国王様のは予想通りです。

しかし、セリーヌ様の最後の文は……どういった意味があるのでしょうか。







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