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『8/6 ノベルstory07 発売』私は悪役王妃様  作者:


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在りし日の夢




side ???


冷蔵庫から缶ビールを取り出し中身を喉に流し込み「雨、降ってきたな」と、ソファーに座り窓の外をジッと睨みつけるように見ている親友の前に空いていない方の缶を差し出した。


こいつは学校帰りにふらっと立ち寄り好きなだけ居座りいつの間にか帰って行く。お互い気にせず好きな事をしているから会話が無い日もある。

今日も何時もの様に勝手に鍵を開けリビングに座っていた。携帯を弄りながら横目で確認しシャワーを浴びて戻って来たときに初めて異変を感じた。

三十分くらい全く変わらず窓の外を眺めていたからだ。普段干渉しないとはいえ流石にこれは何かあったのかと思い、缶を受け取るのを確認し対面に座り聞く体制をとった。


「……未成年なんだけど」

「今更だろ。で、何かあった?」

「あー、親父がさ、再婚するみたい」

「へぇ……」


あの親父さんがね……。

目の前に座っているこいつもかなり整った顔をしているが、親父さんはその上をいく美形だ。加えてでかい会社の社長さんときたら女だったら目の色変えて飛びつく優良物件、今迄再婚していなかったのが可笑しい。


「なに?反対なのかよ」

「いや、相手の女性も良い人だったし、いつまでも亡くなった母さんを想うよりいいと思う」

「なら喜ばしいことだな。で、その辛気臭い面はどういう事だよ」

「相手にも子供がいるんだ……」

「ん、もしかして女?嫌だったら今迄通り俺のとこに来てればいいじゃん」

「中学生の女の子」

「歳が近い女は厄介だからな。ましてや家族になんだろ、お前その辺の女にしてるみたいな塩対応出来ねぇだろ」

「塩対応って……」

「校内じゃ纏わり付いてくる女を無表情でシカトして、外ではソレに毒舌がプラスされてんだろ。告られればバッサリ振るし。お前何て呼ばれてるか知ってるか?魔王だぞ」

「変に気を持たせるお前よりはマシだと思うけど?」

「俺はそれなりに楽しんでるから」

「……話が逸れたけど、その妹になる子、訳あって男嫌いらしい」

「……なら逆に良かったんじゃ?お互い色々あるし当たり障りなくやれば」

「そうなんだろうけど、ほら、俺兄弟欲しかったから」


あー、そういう事か。

小さい頃に母親を病気で亡くし、父親は仕事で家に居ない。ハウスキーパーが出入りしてるとはいえ、広い家にたった一人。

俺の家に入り浸りなのも自分の家に帰りたくないからだろう。愛されて育ったこいつは寂しがりやだからな。

俺みたいに両親から見放されてれば寂しいとか思わないだろうに。


「来週会うんだけど、大丈夫かな」

「心配し過ぎだろ、男嫌いって言っても家族は別じゃないの?」

「……お前さ、もし会って嫌そうな顔されたら俺泣くよ?お前殴りにくるよ?」

「いやいやいや、可笑しいからな?俺は関係無いだろ!」

「家族も無理そうなんだよな。原因が前の父親みたいだし」

「あ、ソレは無理だろ。赤の他人よりも家族の方がトラウマは大きいだろうしな」

「……だよな」

「…………女装でもしたら?ほら、第一印象は大事だっていうだろ。見た目女の方が中身は男でもまだマシかもしれないじゃん」

「…………」

「悪い、冗談です」


その冷たい眼差しを俺に向けるな。

その話しの後、またお互い好きに時間を過ごしていたから俺はすっかり忘れていた。


俺が何気に言った発言を思い出し絶句したのは次の週。


「私の荷物、置かせて貰うから」


他校にまで知れ渡る程のモテ男が、どこから見ても絶世の美女になって俺の家に入って来たとき。再婚し妹が出来る前日だった。



※※※※※※※



十代、それも思春期真っ最中の男子校生が家の中と妹と一緒にいる時間に女装するなど俺だったら耐えられないと思う。

しかも、あいつは見た目だけじゃなく口調や仕草など、完璧に成りきった。

新しい家族とは仲良くやっているのか俺の家に来る回数は格段に減り、偶に来れば妹の相談だったりと前の俺達では考えられない日々を過ごしていた。

俺の使っていない部屋にはあいつの男としての私物が置かれ、高校、大学、社会人と毎朝着替えにやって来る。


良くやるなぁ……と最初の頃は呆れて見ていたがどうやら俺も同じ穴の狢だったらしい。

中々妹ちゃんを紹介してくれないからあいつの新しい家に突撃した。ほら、高校生だったし若気の至りだ。

あいつから絶対零度の眼差しを浴び、玄関で震えていた俺の前に現れた妹ちゃんは俺を視界に入れた瞬間、眉間に皺を寄せやむなしに軽く頭を下げ二階に駆け上がって行った。

俺は変質者かなんかだろうか……女にされた事が無い対応に困惑し悲しかったことを生涯忘れないだろう。親友だと思っていた奴が爆笑していたのもな。


その日から、手土産持参で毎日訪れた。

二階の部屋から余り出てこない妹ちゃんに会えた日はなるべく離れて挨拶を繰り返し、何か興味をひく物がないかと親友と二人でありとあらゆる物を揃えた。その中の一つに興味を持ちソレを使って家族団欒していると聞いた時には頭を抱えた。


何年も過ごしているうちに気づいた事、家族なんて要らないと思っていた俺はどうやら相当寂しかったらしい。


親友の妹ちゃんは俺の妹ちゃんにもなった。



※※※※※※※



そんな楽しい生活も、月日が経てば想いは変わるらしい。


俺達は社会人になりばりばり仕事をこなし小さかった妹ちゃんが大学生になり、俺の家で着替えていた奴にさり気なく話しかけた。


「なぁ」

「ん……腹減ったのか?もう少し待て」

「今日は飯何?妹ちゃんが担当の日だろ」

「さぁ?メールしてみれば」

「了解、後さぁ」

「んー?」

「俺、妹ちゃん好きだから。嫁に頂戴お姉ちゃん」

「…………はぁ?」


その日は、顔を腫らした俺達を見て妹ちゃんは走って逃げた。久々にくらった対応に二人して半泣きだった。


特別美人というわけでも無い、至って普通な女の子。男嫌いという不利な条件があるが一緒に過ごしているうちに好きになっていた。

勿論俺の片思い、先ずは受け入れて貰わないといけないわけで。しかも、その先には厄介な姉という名の壁があるわけだが。纏めて面倒みてやるつもりだ。

寂しい俺の未来には二人が必要なんだ。

俺は妹ちゃんの誕生日に、告白することにした。


けれど、その日。

急に雨が降り、待ち合わせの場所を変更しようとあいつに連絡をする前に鳴った部屋の電話を取り、俺はソファーに座り込み窓の外を眺め続けた。


『車で事故に……病院は……』


あいつの親父さんの声が遠くに聞こえ、力が入らず動く事が出来なかった。


二日後、二人は俺を置いてこの世から消えてしまった。




※※※※※※※



雨がガラス戸に叩きつける音で目が覚めた。

ゆっくりとベッドから起き上がり、濡れていた頬を拭い窓の外を見つめた。


懐かしい、前世の夢を見た。


もう二度と会えない大切な人。

もし出会える日が来たとしても気づくことは無いだろう。余りにも変わり過ぎてしまったのだから。


それでも、もし出会えたなら。


「さて、仕事しますか。我が主は人使いが荒いからな」


俺の未来には二人がいて欲しい。


けれど、大事なのは今。


「さて、今世の親友君はどうなったのかな。処罰されてなきゃいいけど……巻き込まれ体質だからなぁ」


明るくなってきた空。昨夜の事を思い出し早めに部屋を出た。





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