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思い出した立ち位置




幸せになれると思っていた。




「私アーチボルト・カーライルは、あなたをいつまでも大切にし、幸せにすることを誓います」

「私セリーヌ・フォーサイスは、あなたを生涯変わることなく愛することを誓います」


城から愛する方と二人で手を振り、民からの歓喜の声を聞き祝福されているのだと実感した。




私は誰よりも幸せになれると思っていた。




※※※※※※※




私の国ラバンはアーチボルト様の国ヴィアンと産まれてきた子を結婚させる約束をしていた。

互いにそれなりに大国ではあるが帝国には敵わない。ならば、帝国からの脅威に晒されぬようにと手を組んだのだ。

アーチボルト様は第一王子、私は第一王女。歳も近く結婚するには丁度良かった。


政略結婚だったのだ。


けれど幼い頃の私は毎年送られてくる婚約者の絵姿を楽しみにしていた。

宝箱の中に仕舞われている絵姿は輝くばかりに美しい笑顔や頬を膨らませながら怒っている顔、翡翠の様な瞳を潤ませ泣いている顔、どれもとても素敵で一日中でも眺めていられた。

勿論向こうにも私の絵姿が送られている、私は少しでも可愛く見えるよう毎回髪を結い上げたり下ろしてみたり、ドレスも変え何度も自身の絵姿を確認し一番良いものを渡していた。

将来は国母となる、勉強もマナーも大変だったがアーチボルト様の為と思い頑張ってきた。


私は会った事もない彼に恋をしていた。





16になった日、約束通り五つ上のアーチボルト様に嫁いだ。

ヴィアンからは何も心配せず身一つで良いと言われていたので、侍女も護衛騎士も自国へ置いてきた。

そもそも私の周りには既婚者という兄が厳選した者しかいなかったのだ。私に着いて行くのなら家族と離れてしまうため皆を説得し残ってもらうことにした。

兄は当日まで渋っていたが結局私の意を汲み「辛い目に合ったらいつでもいい、私に手紙を。必ず救いに行くから」と兄に直接繋ぎが取れる専用の鳥を贈られた。


ヴィアンから送られて来た護衛騎士達に守られ私は馬車の中で幸せを噛み締めていた。


けれど、出迎えてくれたのは王様と王妃様の二人で、アーチボルト様の姿は何処にも無かった。

結婚式と共に戴冠式も行われるのだ、多忙なのだろうと寂しさを堪えその日を待った。


華やかな衣装に美しい刺繍の施されたヴェールを被り愛しい方と対面した日を私は生涯忘れないだろう。


国、いや世界で最も美しいと言われているアーチボルト様。その方が私を見る目はとてもじゃないが愛する者を見る目では無かったのだから。

お会いしたかったと歓喜に震える心とは裏腹に顔も身体も強張り、そんな私を一瞥すると手を取り広間に引き摺られる様に連れて行かれた。



※※※※※※※




滞りなく全て終わった後、放心状態の私は侍女達に上から下まで磨かれて寝室のベッドの上に座らされていた。

薄暗く静かな寝室で私が考えていることは愛する方のこと。

昼間に見たあの冷たい瞳を思い出し背筋が震えた。

私は何かしてしまったのだろうか……。

この国に来てからの事を思い返すもほとんど部屋から出ず本を読んで過ごしていたのだ。

わからない……何故?

王となったアーチボルト様ときちんとお話しをしよう。私は今日からあの方の妃になったのだ、少しでも愛されるよう至らない点は直さなくては。


きゅっと王の為に用意された官能的な衣装を握りしめ音が聞こえるのではないかと思うほど高鳴る心臓を深呼吸をし宥めた。



しかし、そんな決意も想いも、暫くして訪れた侍女の言葉に全て壊れてしまった。


「今宵、王は訪れになりません」


緊張と不安で押し潰されそうになっていた私の心はズタズタに引き裂かれたのだ。





※※※※※※※




一月目は、お忙しいのだから仕方が無いと我慢し。


二月目は、夜の訪れは諦めた。


三月目は、大丈夫よ、一緒に食事をしてくださるのだから。まだ、お顔を見れるのだからと言い聞かせ。


四月目の夕食に「可愛げが無い。少しは愛想良く出来ないのか?」と言われ涙を堪え。


半年経つ頃には広い場所で一人で食事を取り(あぁ、最近はお顔を見ることさえ無くなった)と嘆いた。


それでも諦めきれなかった。いつかは愛してくれるのではないかと。



部屋の窓からは王妃専用の庭園が見える。

緑豊かで森のような広大な庭園には池や花の庭園もあり、部屋に居るよりはと侍女とよく散策をしている。


その庭園に入っていく人影を見つけ、私は急いで部屋を飛び出し後ろから慌てて侍女が追いかけてくるのを確認しはやる気持ちを抑え足早に歩いた。


(少しでもいいから、嫌な顔をされても構わないからお話しがしたい!)


今度こそ、と庭園の奥にある噴水の前にアーチボルト様を見つけ足を止めた。


そこには笑いながら向かい合う二人の姿。

見たことの無い騎士の姿をした少年の頭を愛おしそうな顔で撫でているのは間違い無くアーチボルト様だった。


(どうして、何故なの?私には会いにすら来てくださらないのに、あの様に笑いかけてくれたことなど無いのに!?)


「セリーヌ様……お部屋へお戻りください」

「何故?どうして私が去らなくてはならないの?」

「……今声をおかけしたらセリーヌ様がお叱りを受けます」

「私が、怒られるの……?」

「……はい」

「……そう」


部屋までどうやって戻ったのかは覚えていない。

覚えていたのはあの少年への羨望だった。


その日から、大人しくしていたのが嘘のように毎日ドレスを新調し宝石を買い、食事は全て自室で取り部屋からは出なかった。


なんでもいい、私を気にして欲しい。我儘もいい加減にしろと叱りに部屋へ訪れに来てくださるかもしれない。


もう、限界だったのだと思う。


久々に顔を合わせ「お前は口を開くな、動くな、ただ座っていろ」と言われたときに初めて自分は愚かだったと知った。

何をしてもしなくても、この方に愛されることは無いのだ。



広間に集る騎士達を眺め、前列にいる二人の騎士に優しく声をかける王の横に座り心の中で泣いていた。


(何故だろう……何がいけなかったのだろう。幸せになれると思っていたのに……)



目の前が暗くなり息が乱れ顔を真っ青にした王妃に誰一人気づかなかった。




※※※※※※※




騎士の帰還式が終盤に差し掛かる頃。

真っ青だった王妃の表情が変わり、いつも何かに耐えるように固く結ばれていた口元は微かに口角を上げた。


(はっ、あり得ないわ)


目の前に並ぶ煌びやかな騎士達を眺め今しがた思い出した記憶と一致しそっと息を吐き出した。


幸せになれなくて当たり前だわ。



だって、この世界は、姉がやっていたBLゲームの世界じゃん。



しかも、私、悪役王妃だし。







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