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『8/6 ノベルstory07 発売』私は悪役王妃様  作者:


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予想外




「セリーヌ様……」


アネリのか細い声にハッとし、アーチボルトの背後に佇むアネリに対し首を横に振る。

勝手に押しかけてきたとしても相手はこの国の王で、あのアーチボルトだ。

私ならまだしも、侍女でしかないアネリがアーチボルトに何かすればただでは済まない。

不安そうな顔をするアネリに再度首を振るとコクリと頷き部屋を出た。

安堵し目の前にいる人物に意識を移す。


「セリーヌ……」


アーチボルトを見上げ微かに震える身体を抑え睨みつけた。

王とはいえ王妃が管理している場所に無断で入る事は出来ないはず。それなのにこうして誰にも止められず私の部屋まで来て許可は得ていると言っていた。


「許可、ですって……?」

「あぁ、ジレスから許可は得た。門番は何も言わずとも私を通した」

「ジレス、何故あの者が許可を出せるのですか?ここは私の許可が必要なはずです!」

「断るが良いか、とセリーヌも言っていただろ?何が不満だ」

「私は夜の訪れは拒否しましたわ。それは昼間に訪れる際の先触れに対しての話しです」

「別に何もしない、それだったら昼も夜も同じだろう?」


不可解な面持ちで問いかけてくるアーチボルトに恐怖を感じた。

今迄いない者として扱ってきたから、フランが好きで他の者など目に入っていなかったから、話し合いの席で私を憎んでいたと聞いたから、だからあの場で「触るな」「夜の訪れは拒否する」と言っておけば大丈夫だろうと思った。

私の意志に反して何かすればラバンが出てくると脅し、アーチボルトの望み通りにフランと添い遂げさせてやると言ったのに。


私はどうやらこの男を見誤っていたらしい。

知能が高く、言葉を有するのが人だ。だとしたら目の前に立ち私に向かって手を伸ばすこの男は人では無い。

私が最も嫌悪する種類の男、いや、ゴミだ。


伸ばされた手が頬へと届く前に後ろへ下り、私が避けたことに気付いたアーチボルトは自身の手と私を交互に見た後笑みを浮かべる。


「何故避ける?何もしないと言っただろ」

「必要以上の接触はお断りしますと申しましたわ」

「必要かそうで無いかは私が決める」

「どうやら意味が分かっていらっしゃらないようなのでもう一度分かるように言いますわね。公の場以外では私に、指一本触れないでください」

「……くっ、はははっ」


何が楽しいのか笑い声を上げるアーチボルトは不気味で、いざとなれば寝室に逃げ込もうと様子を伺っていたら私から離れソファーに座り隣を手で叩いた。


「座れ」


何がしたいのかさっぱり分からない。平静を装い向かい側に座ると「そこでは無い」と言われたが無視をした。

誰が危険人物の隣に座るのよ。


「……このような時間に何をしに来られたのですか?」

「顔を見に来た」

「アーチボルト様は私の顔など見たくも無いと思っていましたが、昼の事でしたら心配などなさらずともお約束さえ守っていただけたら私は何もいたしませんわ」

「そうだな……だがその事で来たわけではない」


じゃあ、さっさと帰れと言いたい……。

アーチボルトと二人で部屋にいるなど耐えられない。私に向けられていた冷たかった瞳は見る影もなく、今はもっと別な熱のこもった瞳に寒気がする。


「顔を見れば何かわかるかと思ったが……よし、セリーヌ」

「何でしょうか」

「私を殴れ」


……は?


「聞こえなかったのか?私を「聞こえていましたわ」そうか、なら早くしろ」


頭が痛い……。

前世でも今世でも、真剣な顔をして殴れとか言われたことが無いんだけど。

「ここか?いゃ、この辺りか……」とか言いながら殴られる場所を決めている。

え、やだ、どうしょう……顔が良いだけに余計に気持ち悪い。


「アーチボルト様、直ぐにお部屋にお戻りになってお休みください」

「何故だ?まだ眠くはないぞ」

「言動が可笑しいとお気づきですか?」

「……何処も可笑しくはないが?」


言動どころか明らかに頭の中が可笑しいわよ。

そうだこの人言葉が通じないんだったわね。実力行使……いや、駄目だわ。殴れとか言うくらいなんだから逆に訳が分からないことになりそうだ。


「アーチボルト様を叩けば私の手が痛みますわ」

「そうだな、その手では私よりセリーヌの方が辛いか」

「ですからお部屋に「なら、先程みたいに踏んでみてくれ」……」


名案だとばかりに笑顔で言い切るアーチボルト。確か私より五つ上だから……二十過ぎた男が十代の少女に何をさせる気よ!?

何これ?私のせいなの?え、元々の性癖?


軽くパニックになっているとアーチボルトは立ち上がり私の直ぐ側に片膝をつく。


「こうだったな?」


再現しなくていいから!期待に満ちた顔で私を待たれても絶対にやらないわよ。


「押せば倒れるぞ」

「押しませんわ」

「我儘な奴だな、仕方がない」

「自ら床に倒れても踏みませんわ、絶対に」

「…………」


ナニコノヘンタイ。

あれだけ拒否したにもかかわらず夜中におしかけ嫌がる相手に無理強いとか、我儘はお前だ。もういいから帰ってくれ。


「なぁ……」

「何でしょうか……」


次は何だと足元にいる変態を睨むとアーチボルトは床に座り込み天井を見上げていた。


「お前は口を開くな、動くな、ただ座っていろ」

「…………」

「何もしなくて良い、言われたことだけを行うのがお前の仕事だ」


え、何?まだ言うかこいつ!?と拳を握り締めたが、続けられた言葉に思わず「は?」と口から零れていた。


「私が父に言われていた言葉だ。最後に聞いたのはセリーヌがヴィアンに来る前日だな」


仮にも次代の王に言う言葉ではないだろう。

それは王というお飾りの人形になれということだ。


「幼い頃は父では無く祖父の側に置いておかれることが多くてな、祖父や祖父を補佐していた者に色々なことをさせられていた。祖父には自身の目で見て、周りの言葉を良く聞き、己で考え、その上で信頼出来る者を見つけ国を導けと…父とは真逆の事を言われていたが祖父が亡くなってからは父やその周囲にいた者から先程の言葉を言われ続けた」

「…………」

「最初だけだな、父に何故だと問いかけたのは。お前は私の可愛い子だからだと言われ、祖父は己の家族よりも国を取ったのだと言われ、私は父には愛され祖父には国の駒にされていたのだと。環境は変わったが、生活は変わらなかったからな、まあ良いかと父やその周囲にいた者に言われた通りに生きてきた」


愚かなはずだわ。祖父から父に変わり碌な教育をされていないらしい。

いずれ王位を継ぐ者だからこそ幼い頃から厳しく躾けられ、賢王と名高い祖父の元で色々学ぶはずだったのだろう。

なのに最高のお手本が亡くなりアーチボルトの教育を担った前王が最高の愚か者だったとは。

それに教育され出来たのが最高の愚かな顔だけ王か。

これだと、前王についていた者達は誰一人使えないわね。


「初めて父に逆らったのが結婚の事だ、その場で却下されたがな。後は先程私が言った通りだ。セリーヌを憎く思っていたのもそうだが、父に大切に扱うよう言われていたから尚のこと忌々しかった」


……反抗期の子供か。私、完全にとばっちりを食っただけじゃない。


「セリーヌに言われるまで、私の行ってきたことがお前にどのようにとられ、国にどのような影響を及ぼすかなど考えたこともなかった。王族の義務などもな。あの後、ジレスにセリーヌの扱いを変えるよう、側室を直ぐに取るよう言われた」


前王のお人形でいればある意味幸せだったろうに。二十代の反抗期で国滅亡、或いは属国など南無三。


「今更だと思うだろうが色々と学び考えて行こうと思う。私はヴィアンの王となったのだから」


……いや、それは私がこの国を去ってからにして欲しい。

何だろう、キラキラスマイルで此方を見上げてくるアーチボルトに嫌な予感がするのだけれど。


「セリーヌ、今迄辛い思いをさせたな。これからはお前を大切にする。意地を張らずに私の手を取ってくれ」

「え、は?アーチボルト様?」

「私は王族だ。同盟の為に政略結婚は当たり前だとセリーヌは言っただろ?」


ちょっと色々待ちなさいアーチボルト、取り敢えず何故にジリジリと近付いてくるの?

言っている事が滅茶苦茶だ!意地など張っていないわよ!?

そうだった、この男馬鹿なだけじゃなく妄想癖もあるんだった!


「何を馬鹿な事を、取引きだと言ったはずですわ。約束を反故にされるのですか?」

「いや、王妃としての公務もさせる、夜会や人の多い場所にも一緒に出よう。だが、側室は要らぬ」

「フランには後継ぎは産めませんわ」

「ならば、フランを側室にする」


近付いてくるアーチボルトから逃げる為にジリジリと後ろに下がっていたが、背中にソファーの肘掛けが当たりとうとう逃げ場が無くなった。

目の前には私を覆うように手をついたアーチボルト、この体勢は駄目だ。逃げろと頭の中で警報が鳴り響く。


「逃げるな、セリーヌ」


掬い上げた髪にキスをするアーチボルトに血の気が引く。振り払おうと手を上げるが腕を掴まれ身動きが取れなくなった。


「アーチボルト様!!」


声を上げ睨みつけるが変態は何が可笑しいのか微笑み耳元に顔を近づけ。


「私はセリーヌに子を産んで欲しい」


囁いた。


触るな!と叫ぼうとするがカタカタと歯のなる音が聞こえるだけで声が出ない。

掴まれている腕を動かそうとするが震える身体は言う事をきかず……。


「……セリーヌ?」


顔を背け目をぎゅっと瞑る。

知らない、こんなの聞いていないっ、嫌だ、触らないで、気持ち悪い!

助けて、誰かっ、姉さん、姉さん!!


「セリーヌ様っ!!」


バンッ!という音と、此処に居るはずの無いアネリの声にぎゅっと瞑っていた目を開けると、直ぐ近くにいたアーチボルトは身体を起こし私では無く別の場所を見ていた。


アーチボルトが見ている先には開かれた扉、其処にはアネリとジレス。


「……どうして」


そして、テディがいた。


「お前達、呼んでいないぞ。即刻立ち去れ」

「アーチボルト様、何をしているのですか」

「何をだと?ジレス、側室が嫌ならセリーヌの元へ訪れ頼めと言ったのはお前だ」

「許しを得るまで何度でも訪れろとは言いましたが、セリーヌ様は夜の訪れは断られていたでしょう!」

「セリーヌは傷つきそのような事を口にしただけだ、本心では無い」


アーチボルトは私の腕を離さぬままジレスと言い合っているが、今の私はそれどころでは無い。私の許可を得ずにジレスがこの場所に居るのは何とかなるだろうがテディはそうはいかない。何の後ろ盾も無い平民のただの騎士がこの場所に入るなど許されない。


「ジレス下がれ……おい、其処の騎士。お前は一体どういうつもりだ?」

「…………」

「答えろ!」


アーチボルトに応えず私を見るテディ。目を逸らさずジッと私だけを見ている。


「下りなさい」

「…………」


テディはジレスの言葉にも従わずその場から動かない。何をしているの、何故来たの?

いや、違う。何も知らぬテディが一人で此処へ来るわけが無い。

多分アネリが連れて来たのだ。だったら私が下がれと、部屋から出なさいと言えば良いだけ。


「……テディ」


けれど、私の口から出たものは掠れ震えた声で紡がれたテディの名だった。


その直後だった。


私を見続けていたテディは視線を外し、一瞬の内に距離を詰め「失礼します」と覆い被さっていたアーチボルトの腕を取りソファーから落とし私を背に庇った。

その行動に驚いたのは私やアーチボルトだけでは無いだろう。誰もが言葉を発せずにいた中一人声を張り上げた。


「元第三騎士団所属、現ヴィアン国王妃セリーヌ様専属騎士テディ。此処はセリーヌ様の許可が無くては入れません、部屋へお戻りくださいアーチボルト様!」


テディは照れ笑いしながら夢を語り、強いのに手柄を取られたり嫌がらせを受けたりと貧乏くじを引きながらも訓練を受け、努力し近衛騎士隊に入りたいと言っていたのに。


「セリーヌ様、一度だけなら僕を助けてくれると仰っていましたよね?」


私の専属騎士だと言っていた力強い声ではなく、私の気持ちを和らげるためか柔らかな声でおどけたように私に聞こえるくらいの小さな声で言われ視界がにじむ。


これじゃあ私が助けられてるじゃない。


「……専属騎士だと?」


アーチボルトの声に反応し若干まだ震える身体を叱咤しテディの横に並ぶ。


「ええ、テディは私の専属騎士ですわ。国でもなく、王でもなく、私のみに仕える騎士。アーチボルト様おふざけが過ぎますわ、騎士に摘まみ出される前にご自分でお帰りください」


ごめんなさいテディ。

優しい貴方の命運は私が預かります。





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― 新着の感想 ―
うおおおおおテディカッコイイ!! カッコイイぞ!
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