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『8/6 ノベルstory07 発売』私は悪役王妃様  作者:


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繋がり



他愛もない話をしながら庭園の中を歩き、時折見かける側室付きの騎士とウィルスが目配せするのを横目に、ここ数ヵ月でこの後宮も随分と様変わりしたものだと感心する。

嫁いできた当初からずっと護衛騎士は居らず、王妃であるセリーヌと後宮は見向きもさることなく放置され、庭園にいたっては国王が愛妾との逢瀬の場に使っていた。

それが今では、私には専属の侍女だけではなく護衛騎士がいて、ゆっくりと寛げるティーサロン、後宮には話の通じる側室が三人も入ってきたのだから上々である。

後は明日の帝国との会談を無事に終わらせ、アーチボルトが私との約束を果たせば憂いを残すことなくこの国を出ていける。

順調過ぎて怖いくらいだわ……と口元を綻ばせ、庭園の中央に建つ真っ白なティーサロンの前まで来ると。


「極力気配を消しておきます」

「……っ、ふっ」


隣に立つウィルスがそんなことを真顔で口にするものだから、思わず吹き出してしまった。

どうやって気配を消すのか凄く興味をそそられつつ、ティーサロンの扉の前に立ち何やら話し込んでいるテディとアデルに向かって声を掛けた。


「そこのお二人、もう中に入っても良いのかしら?」

「……っ、あっ、すみません、気付きませんでした。既に準備は整っているそうなのでこのままお入りください」


ハッとし私に向かって軽く頭を下げたテディとは違い、アデルは眉根を寄せ堅い表情をしている。何かあれば直ぐに報告をするだろうし、通常通りのテディの様子からして深刻な事が起きているとは思えないのだけれど。


「アデル?」

「……いえ、すみません。私とテディは外で待機しますので、ウィルスとお入りください。側室方の護衛騎士は数ヵ所に分け庭園内に待機、ティーサロン内にはアネリが居ります。エムとエマは料理を全て出し切った後、こちらに合流する予定です」

「そう」


眉間の皺をそのままにしたアデルから報告を受け、あれっ?と思いながら頷いた。

問題が起きたわけではないらしく、それなら良かったと安堵しながら開かれた扉の中に足を踏み入れ。


「あいつと、誰か繋がっているぞ」


すれ違いざまにアデルから囁かれた言葉に目を見張った。

アデルが指す『あいつ』なんて一人しか居らず、海を越えた向こう側で飄々と暮らしている姉さんが、此処に居る誰かと、何て!?

どういうことかとアデルに訊ねる間もなく扉は閉められ、それと同時に拍手が鳴り響く。


「お誕生日、おめでとうございます」

「おめでとうございます……っ、何よ、これ!?」

「おめでとうございます、セリーヌ様。それはクラッカーというそうよ」

「クラッカー?これもミラベルが用意したの?」

「それはティアよ」


ミラベル嬢のお祝いの言葉が合図となっていたのか、彼女の左右に立っていたモーナ嬢とティア嬢もお祝いの言葉を口にしながら手に持っていたクラッカーを鳴らした。

円錐型の紙容器に紐が付いているそれは前世と同じで、紐を引き大きな音と共に中から紙が飛び出すタイプの物。初めて目にしたのか、三人共興味深そうに使用済みのクラッカーを観察している。

最近巷で噂のテディベアやこのクラッカーといい、この世界にはなかった物が市場に流れてくるようになった。

流している犯人は姉さんしかいないのだけれど、一体何を企んでいるのだか……。


「三人共、ありがとう……っ……!?」


アデルの言葉は気になるが一先ずこちらが先だとお礼を口にし、ウィルスに促されサロン内へ足を進めた矢先、ヒールの爪先に何か当たったことに気付き視線を下げ、息を呑んだ。

溢れんばかりの花々で飾り付けられたティーサロン内。普段とは違った趣向が施されたそこにあったのは、真っ赤なマントを付けた茶色のテディベアで、私の爪先に当たり床に転がった小さなテディベアをそっと抱き上げた。


「どうして、これが……ここに……」


テディベアの首元にあるのは宝石が付いたネックレスではなく大きなリボン。微かに震える指先でそれを撫でたあと、まさかと辺りを見回し、少し先でこのテディベアのように床に座り待機している物を見つけ唖然とする。


「嘘でしょう……?」


あの幸せだった前世を彷彿とさせるように、サロンの奥まで点々と置かれたテディベアの数々。これは誕生日やクリスマスの日に姉さんがよくやっていたことと同じ。

拾ってくれとばかりに床に置かれているそれらを拾い上げていき、お誕生日席であろう大きなソファーへたどり着くと、案の定そこには私と同じくらいの大きさのテディベアが座っていた。


「繋がって……そういうこと」


先程のアデルの言葉を思い出し納得する。

ここまで酷似していれば気付いてくださいと言っているようなもの。

ただ純粋に前世で義妹だった私の誕生日をお祝いしてくれているのか、それとも何か意図があってこんなことをしているのか分からないが、取り敢えずこの中に姉さんと繋がっている者が絶対にいることは間違いない。

寧ろ姉さんなら誰かではなく、三人全員と繋がっていそうで恐ろしい。


「とても素敵ね」


何食わぬ顔で此処にいる姉さんの協力者は誰だろうか……と、巨大なテディベアの隣に腰掛け、同じく自身の椅子に座ったモーナ嬢、ティア嬢、ミラベル嬢に向かって微笑み掛けた。



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