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『8/6 ノベルstory07 発売』私は悪役王妃様  作者:


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110/113

前日


いよいよ会談前日。

帝国と会談を行うということを王都の民へ周知させ、王都の門では身分確認を徹底し、毎日街中を見回っている騎士達には何か不審な点や物がないか、隅々まで調べさせている。

長年互いに一歩も引かず争ってきた帝国とヴィアン国との初会談。

しかも帝国側は使者を寄越さず皇帝本人が直接ヴィアンにやって来るというのだから、王都の民は困惑し、何か起こるのでは?と不安を抱え、帝国との争いで騎士である夫や息子を亡くした者達は憤りを隠し、会談当日まで過ごすことになる筈だった。

けれど、幸いなことに祭日に向け王都は賑っていて、誰もが笑顔で過ごせ、普段よりも他者を気に掛け労わる余裕が生まれている。

だから後は暴動やこの会談に乗じて他国から間諜や刺客が入ってくることを懸念し、予想できる全てに対処法を検討しておくこと。

そして最も重要なのは、会談での交渉だろう。

今回の会談では、両国の国王と皇帝が主幹となって交渉が進められる。アーチボルトとは何もかも違うセオフィラスを相手に、少しでもこちらに有利な条件をもぎ取ることが重要だ。

自身の戴冠式で、帝国は武力だけではないということを知らしめてやると豪語していたくらいなのだから、こちらも色々と準備をして会談に臨むべきである。


「これに関しての統計と年額の資料はこちらです。賠償額等が書かれたものはそちらに」


だからこそ、最終確認として前日の午前中にティーサロンで微睡む私の下を訪れたジレスと、顔を突き合わせながら明日使う資料等の確認をしている。

書類を両手に抱えてティーサロンに入って来たジレスに向かって、「何故、私が?」と抵抗を試みたのだが、ここ数日ずっとアーチボルトはこの倍の量の資料を頭に詰め込んでいると聞き諦めてしまった。


「こちらの文官は?」

「私を含め三名ほどかと」

「通常の会談だとしたら少ないところだけれど、帝国側は一人も文官を連れて来ないのよね?」

「はい。ですが会談で使われる資料等は持たされていると思います」

「そうよね……」

「もしかしたら、皇帝の側近は文官の役目も担っているのではないでしょうか?現皇帝は側近だけを連れ外遊を行っていると聞いたことがあります」

「……外遊」


外交目的で諸外国を歴訪するのは王子や皇子であれば珍しくはないのだが、レイトンやセオフィラスのはそれとは違い、身分を隠し、許可も取らず、勝手に入り込むといった、ただの不法入国である。


「帝国から提案されている内容としては、休戦協定、直近三年間の両国の損害を差し引いた分の賠償、現皇帝が即位している期間は協力的な関係を保った外交を行うといったことです」

「こちらにとって不利益なことはなく、因縁のように長く続けられた争いに終止符を打てるのだから喜ばしいことなのだけれど、帝国側には何の利益があるのかしらね……」


ヴィアンとラバンが同盟を結ぶほど圧倒的な武力を誇る帝国が、何の条件も提示せずこちら側にとって有益となる提案をするだろうか?


「領土を毟り取るつもりかしら?」

「その可能性もなくはありません」

「山に囲まれている帝国が欲する土地は、海がある港よね」

「それだとこの王都になりますが……」


それはないわねとジレスと首を横に振り、他に何かあるだとうかと思案する。

セオフィラスには幾度となく助けられ、恩人と言っても過言ではない人だが、私は彼の表面的な部分しか知らず、帝国の皇帝であるセオフィラス・アディソンがどのような人間なのか知らない。だからこそ安易に信用などできず、長年争ってきた敵国からの破格の提案を疑ってしまう。


「考えるだけ無駄ね……皇帝と対峙するのはアーチボルト様だから、帝国側から何か要求されてもその場で勝手に返答しないよう、しっかり言い聞かせておきなさい」

「はい」


確認し終えた書類をジレスに戻し、「他には?」と温くなった紅茶を口にする。


「王城内で働く役職を持つ貴族はごく一部の者を除き、前日である今日から祝祭の日まで王城への立ち入りを制限しました」

「当日に制限するより、前日の方が円滑に回るわね……」

「王城内には近衛騎士隊と第一騎士団が配置されますので、警備に関して問題はないかと」

「配置場所と人数だけ、今日中にクライヴと再度確認を。何かあったときに第二騎士団と第三騎士団がどう動くようになっているのか、その確認もしておいて」

「それと、今回の帝国との会談に携わっている貴族が変更となりましたのでご確認を」

「変更?会談はもう明日よ?」


帝国直属の第一騎士団が王都内に待機することになり、騎士達が休める宿の手配、食事、馬の管理など、王城外でのことを複数名の貴族に任せることになっていた。

王都に近い領地を持ち、財力、人脈等を考慮して結果選出されたのはベディング伯爵の派閥の者達だったが、他に当てはまる者が居らず今回だけはと、ほくそ笑むベディング伯爵から打診してもらったのに?


「どういうことなの?」

「数日前に皆、辞退を申し出てきました」


最近急激に視力が低下したと嘆いていたジレスが眼鏡を外し、目元を指で解しながら疲れた声を出す。たったそれだけのことなのに絵になるのがこの男である。


「辞退ですって?それって、ベディング伯爵の派閥の者達のことよね?」

「はい。突然のことでしたので少し混乱はありましたが、何か問題があったときの為に事前に後任として他の貴族に打診をしてあったので、問題なく済ませることができましたが」

「派閥の者達を使って帝国との会談を成功させ、賞賛や称賛を受けることが目的だと思っていたのだけれど……派閥の者達が辞退したことをベディング伯爵は知っているの?」

「ベディング伯爵から辞退するよう言われたと聞いています」

「聞いているって、ベディング伯爵本人は何と言っているの?」

「そのことなのですが、その辞退の話があってからベディング伯爵は王城へ出仕せず、王都の別宅から出ていません」

「呼び出して問い詰めている時間もないものね……」

「もしかしたら明日の会談に来られないかもしれません」


ただでさえ帝国との会談が迫っていて苦慮しているというのに、仲間内からも問題を起こされては堪らない。


「何もなければいいのだけれど……」

「この会談が失敗に終わってもベディング伯爵に利はありませんし、帝国とは友好的な関係が築けたらと再三口にしていた方なので、問題を起こす可能性は低いかと思います」

「……」


ふっ……と息を吐き出し、だとしたら残すは明日の早朝に開かれる王都の門からセオフィラスがやって来るのを待つだけだと、椅子の背に凭れる。


夜会で攫われたとき、レイトンに前世の話を告白したときと二回も助けられ、戴冠式後に開かれる宴に招待された挙句、二人だけの晩餐や夜中の訪問まで。ゲーム上の悪役王妃である私が帝国の皇子であるセオフィラスと関わり、皇帝となった彼が休戦協定を掲げてヴィアンを訪れる。

本来であれば、ゲームの主人公であるフランが帝国との戦争に勝利して英雄となり、全ての者達から認められ愛される人物となる筈なのに、このままでは確実にそのイベントがなくなってしまう。


(案外、ゲームのシナリオを壊しているのはセオフィラスなのでは……?)


何もかもがゲームとは違うこの世界。

けれど、それももう間もなく終わる。

帝国との会談を無事に成功させ友好的な関係を結べれば、側室に頼らずともこの国を去ることができるかもしれない。

あと少し、もう少し……と自身を鼓舞しながら、明日の会談が成功するよう心の中で祈る。


「やっとだわ……」


私が呟いた言葉に反応し顔を上げたジレスに書類を持たせ、さっさと退出するよう促せば、肩を竦めたジレスが「お茶はいただけないのですか?」と図々しいことを口にするので、しっかりと首を横に振っておく。


「とても残念なのだけれど、これから此処で私の誕生日会が開かれるのよ」

「誕生日会、ですか?」


それは何なのだろうかと困惑するジレスに頷きながら、午後から側室達が開く誕生日会が始まるのだと苦笑した。



活動報告のほうでお知らせがありますので、是非ご確認を!

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