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『8/6 ノベルstory07 発売』私は悪役王妃様  作者:


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一息


抑揚のない声が室内に響き皆が私の動向を窺い張り詰めた空気の中、アーチボルトは視線を彷徨わせたあと目を背けてしまった。弁解するなら今だったのに肩を竦めながら話を続ける。


「私の専属護衛騎士であるウィルス、テディ、アデルの三名が牢に入れられたと聞いたのですが」

「誰にだ……」

「そこは重要ではありません。一体どのような理由で彼等を牢へ?」

「襲撃者から私とセリーヌを護りきれなかったのだから処罰は当然のことではないのか?」

「それでしたら、アーチボルト様の護衛騎士と、当日の城内と後宮の警備を担当していた騎士団の者達にも処罰を与えなくてはいけませんわね」


あの分厚い調査報告書には、私とフランが拉致されてからルーティア大司教がオルソン国へ向かうまでの間のことが事細かに記されていた。報告書の中に王妃専属護衛騎士を処罰対象とするといった文字を見つけたのだが、処罰に至る理由もどういった処罰を受けるのかも一切書かれていなかったのだ。逆にグエンが纏めた報告書にはウィルス達が正当な理由なく牢へ入れられ行動を阻害されていたこと、レイトンによって一時的に牢から出て処罰が見送られていることが書かれていた。

ガスを吸い込まないよう注意を促したアデル。襲撃者達を部屋の入口で留めていたテディ。朦朧とする意識を繋ぎ最後まで抗ったウィルス。彼等は処罰を受け入れ牢の中でジッと時を待っていたという。


「ほんの数分で人の意識を奪うような物を使われたのです。あの場に誰が居たとしても防ぐことはできませんでした」

「それだけではない。私の指示を無視し、勝手に行動しようとしたからだ」


命令違反ということだろうか?ウィルス達が……?


「それを、あいつは陸地の封鎖や港の捜索、騎士団にまで口を出してきたのだ!それを指示するのは私であってあいつではない!」


アーチボルトがあいつと称し睨みつけている先にはウィルスが立って居る。

話の内容からしてウィルスの取った迅速な対応が癇に障ったのだろうが、あの状況でそれなの?もっと、こう……藁にも縋るというか。


「彼は指示をしたわけではなく、騎士として……」

「騎士団を統括しているのはあの者ではなくクライヴだ。だからこそ、勝手なことをせず待てば良いものを、制止を振り切って行こうとしたから牢へ入れたまでだ」


王であるアーチボルトの指示に従うのは当然のことで、コレに関しては私では庇ってあげることはできない。


――そう、私では……。


「一刻を争うときに騎士団を統括している者がその場に居なかったのだから、直ぐに動ける者達を使わなくては」

「……」

「拉致されてからどのくらいの時間が経ったと思う?三人居るのだから、国境、港、王都に分けて先に捜索させるべきだったんだよ。もし彼等を動かしていたら、二人を救出できたかもしれない。アーチボルト王の役目は憤ることではなく、誰よりも早く状況を理解し適切な処置を施すことだった。違うかな?」


優しく諭すように語り掛けるレイトンにアーチボルトは気圧され、助けを求めるかのようにジレスを窺うが緩く首を左右に振られてしまう。

微笑んではいるが目が獲物を狙う捕食者で、声は穏やかなのに胸に突き刺さる言葉の数々。

誰かに縋りたくなる気持ちも分かるわ……と思いながら「ですが……」と口にすれば、パッと勢いよく顔を上げ私を見たアーチボルトの顔色は悪く物凄く怯えていた。


え、失礼じゃない?助けるつもりはなかったけど、失礼じゃない?


「王族を守れなかったのですから、処罰は必要かと」


ウィルス達へ向け冷たく言い放つとアーチボルトサイドから小さく驚く声が上がった。

自らの護衛騎士を庇い処罰を無くすよう頼むことはできるが、それは悪手でしかない。王の決定を否定し体裁を潰す王妃など国の害にしかならず、ベディング伯爵と同類だと後ろ指を指されてしまう。


「処罰を、与えるのか……?」

「職務を全うできなかったのですから。先程アーチボルト様がそう仰っていましたでしょう?」

「それはそうだが……本当に良いのか?」

「えぇ。過剰な処罰でないかぎりは」

「……セリーヌはどのような処罰を望んでいる?」


まさかここで私の意見を訊いてくるとは思っていなかった。

短絡的で激情型のアーチボルトのことだから何も考えずウィルス達を牢へ入れただけでそのあとのことは特に何も考えていない。だからあとでジレスを巻き込んで色々此方の優位に進める予定だったのだが……。


「そうですわね、私の専属護衛騎士には二週間の謹慎を与え、更に彼等を代表してウィルスには二ヵ月の減給処分を。勿論、アーチボルト様の護衛騎士と後宮の警護を担当していた騎士にも同等の処罰を与えることを前提としていますが」

「謹慎と減給か……」

「妥当だと思うよ。私だとしても、あのような物を使われては同じ状況になると思うからね」

「ジレスはどう思う?」

「私も妥当かと思います」

「そうか……」


私の発した内容にレイトンとジレスが同意を示すと、暫く悩んでいたアーチボルトが「分かった」と了承した。

先ずはコレでと安堵しながらウィルス達を見ると軽く私に向かって三人が頭を下げたのだが、それに対して私は緩く左右に首を振って見せる。ウィルスとテディは微笑んでいるが、アデルだけは眉間に皺を寄せ胡乱な目を向けてきた。

流石アデル、私を分かっているわね。


「ですが」

「……ですが?」


了承したことで護衛騎士の処罰に関しての話は終わったと思っていたのだろう。

またか!?という顔をするアーチボルトに向かって、またですよ?と微笑みながら頷く。

そんな不安気にソワソワしなくても、次は功労者を労わるだけよ?


「私の護衛騎士は最低人数の三人しかおりません。ですので、彼等の代わりは存在しませんので、執行猶予という形にしようと思います」

「何だ、それは……」

「あら、ご存知ありませんか?処罰は科されますが、現実的な刑の執行は猶予されるということです。代わりが居ないのですから、仕方がありませんわよね?」

「処罰は科されるのか……いや、猶予だと……」

「それと、私とフランをオルソン国まで迎えに来た者達には褒賞をお与えください」

「褒賞……そうだな、それについてはジレスに任せる」

「ありがとうございます」


アーチボルトはよく分かっていないようだったが、これで謹慎はなくなり褒賞で減給分は補えるだろう。

取り敢えず私のやるべきことは終えたと、あとは黙って会議の様子を眺めていた。




「セリーヌ」


伯爵とその側近、書記官が会議室から出て行くのを見届け、私もそろそろ退出をと思っていたタイミングでレイトンから声を掛けられた。何やら真剣にアーチボルト達と話をしていたので私からは声を掛けられなかったので良かった。


「熱が出てきたようだね……」


慣れた手つきで私の額に手を当てたレイトンが低く呟く。

手が冷たくて気持ちが良いと思ったら、どうやら熱が出ていたらしい。


「セリーヌが回復するまでは見守りたかったのだが、直ぐに国に戻らなくてはならない。すまない」

「お兄様にはとても感謝していますわ。ですので、悲し気な顔をされないで」


私から手を伸ばし謝罪するレイトンの身体を抱き締めると、嬉しそうに破顔したレイトンも抱き締め返してくれる。


「また会いに来るから」

「はい。待っています」


クスクス笑い合いながら別れの挨拶をしていたら、レイトンの唇が耳に触れ肩を跳ねさせた瞬間。


「側室の件については手紙で詳しく説明しておくれ」


耳元で囁かれた甘ったるい声に背筋震え、告げられた内容には別の意味で震えた……。


「どのくらいの時期を見て行動しているのかなど、詳しく教えてくれると助かるかな」


互いの顔がハッキリと見える距離まで顔を離したレイトンに笑顔で凄まれ何度も頷くと、優しく髪を撫でられ「良い子だね」とお褒めの言葉を貰った。


「それと、もうすぐセリーヌの誕生日だろう?ラバンから使者を出し盛大に祝う予定だから楽しみにしていて」

「お気持ちだけで十分ですわ」

「その気持ちを伝える為にすることなのだから、諦めて祝われていなさい」


誕生日といっても、まだ随分と先の話だ。

しかも、その日はヴィアンに嫁いで来た忌まわしき日でもある。


「この国に誕生日を祝う習慣などないはずですが?」

「去年は嫁いだばかりだからと遠慮したが、もうその必要はないだろう?近々出て行く国なのだから」


それはそうだが……と頷く。

レイトンがやると言ってやらなかったことがなく、止められるわけでもないのだから好きにさせるしかない。


「さて、これ以上無理をさせるわけにはいかないね。まだ何か話しておくことはあるかい?」

「いいえ」

「それならもう部屋へ戻りなさい」


具合が悪いと気付くと急に身体が重くなってくるもので、段々と寒気がしてきた身体を温めるようにレイトンに凭れかかっていた私は、「失礼します」という間近で聞こえたウィルスの声と共に身体が浮いたことに驚き声にならない悲鳴を上げた。


「このままお部屋までお連れいたします」

「アーチボルト王には私から言っておくよ」

「軽食のほうは部屋にご準備してありますので、そちらで」


軽々と私を横抱きにしているウィルスに驚いている間に、私を置いてレイトンとウィルス達とで話が進んでいく。あとは私の退出の挨拶のみだ。


「アーチボルト様、私はこれで下がらせていただきます」

「あ、あぁ。ゆっくり休むと良い」


アーチボルトと、彼の傍らに立つフランを一瞥し部屋を出た。

熱の所為で回らない頭をどうにか動かし、側室候補達への手紙、後宮の部屋の準備等の指示をアネリ達に出しつつウィルスの腕に身を預けそっと目を閉じた。




――もう、終わりのカウントダウンが始まっているとは思わずに。






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