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薄暗い室内で、わたしはぼんやりと天井を見上げていた。
わたしは何も要求していないのに、頭の下には宮沢の右腕がある。「腕枕」なんて言葉は知らなかったし、心地良いものでもない。でも宮沢が得意げに「このほうがいいだろ」と言ってきたので、断らなかった。
土下座をして数時間後、わたしはホテルのベッドにいた。初めてであるわたしに、気を利かせてくれたらしい。一泊数万円もするホテルのスイートルームを宮沢は取ってくれたのだという。別に約束さえ守ってくれるなら、どこでも良かったのに。
わたしの初めては全部、宮沢に持っていかれた。
初めてキスをされた。初めて男の人に自分の裸を見られた。体のいろんな部分を触られ、舐められた。痛いのも我慢した。宮沢の指示通りにわたしは動いた。自分が願い、望んだことなのだ。つらいわけがない。
わたしはベッドから這い出た。
「どうしたんだい」
宮沢が背後から声をかけてくる。
「ちょっと、シャワー浴びてきます。汗かいちゃったし」
一応笑顔を作ったつもりだけど、ちゃんと笑えた自信はない。薄暗い室内だから、それでもばれないだろう。
「いいけど、まだ終わりじゃないよ」
宮沢の声は当然、と言わんばかりのニュアンスを含んでいるように感じた。
「わかってますよ。ほら、わたしビギナーなんで、少し休憩させてもらわないと」
「そうかい。まあ、始まったばかりだしね」
宮沢からの許しをもらって、わたしはバスルームへと入る
わたしの家の三倍はあるような浴室だった。
レバーを最大に回し、ありったけの水量でシャワーを出して、頭からかぶる。
水は冷たくない。
なのに、膝がガクガクと震えてくる。わたしはその場にへたりこんだ。
胸の底からこみ上げてくる。わたしはそれを抑えることなくなく、口から吐き出す。涙は不思議と出ない。その代わりみたいに、わたしの口から醜い吐しゃ物が溢れ出した。
シャワーから出る水が、わたしの中から出た汚物を洗い流していく。
そのときだった。
わたしの見ている光景からだんだんと色が消えていった。吐しゃ物も、しゃがんでいるタイルの色も、わたしの手も……鏡に映ったわたしの顔も、すべて、黒と白の濃淡で見えるようになった。
わたしの見える世界は、色を失った。




