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眠い……。
もともと朝は強くないけど、アルバイトを始めてからというもの、本当に朝がつらい。制服を着るときに、ワイシャツのボタンを留めるのもひと苦労だ。
“ガン”という音が鳴って、わたしは目を開ける。
目玉焼きの乗ったお皿が、わたしの前に置かれていた。たぶんお母さんが乱暴に置いたのだろう。
わたしはダイニングのテーブルでトーストを口にくわえたまま、半分寝ていたらしい。
「まったく、毎晩遅くまで、どこをほつき歩いてんだか。塾辞めたからって、勉強しなくいいってわけじゃないんだからね」
お母さんは不機嫌全開だった。
気持ちはわからなくもない。でも、本当のことなど言えるわけもないので、わたしはアリバイを偽証する。
「だからぁ、友達と勉強してるんだってば」
「へえ。なら、昨日は何勉強したのよ?」
「んー、現代社会?」
これはあながち嘘とは言い切れない。
お母さんは「とにかく!」と、持っていたフライパンを放るようにコンロに置いた。
「塾を辞めさせたのは申し訳ないけど、お父さんだって、アンタを大学行かせようとして、一生懸命やって……」
わたしは耳を塞ぐポーズを取った。
「もうカンベーン。これ以上、人の愚痴聞く気力、残ってないってば」
一瞬、失言したかな、と思ってお母さんを見たけど、特に勘付かれた様子はない。お母さんは溜め息をつきながら、わたしのほうを見ていた。
「ねえ、葵。愚痴じゃないから、ちゃんと聞いて」
「何?」
「来週から朝食の用意は自分でして。それから、お昼はパン買うか学食で済ますかして」
「え? なんで?」
「お母さんもこのまま主婦専業ってわけには、いかないでしょ」
お母さんは腰に手を当てて俯いた。
「バイト……パートすんの?」
「そう。知ってる? オレンジ弁当っていうお弁当屋。朝七時からのシフトなのよ」
お母さんはそれだけ言うと、再びキッチンのほうを向いて、洗い物を始めた。
リビングにお父さんはいない。
朝からハローワークに通いつめ、夜は例のコンビニエンスストアでアルバイトをしているのだという。お母さんの話によると、いろんな会社に電話をして面接を断られまくった日、たまたまあのコンビニエンスストアの求人を見つけ、藁にもすがる思いで応募してしまったらしい。
わたしは朝食を食べ終えると、テーブルに突っ伏した。
「いよいよ家族全員バイト生活ですか……」
独り言が耳に入ったのか、お母さんが「なんか言った?」と訊いてくる。
「なんでもぬー」
わたしは席を立ち、お弁当を持つと、「行ってきます」とダイニングを出た。




