1/32
0 ――colorless――
0
いつからだろう。
右手にあるジッポのライターはもうオイルがなくなっているらしい。何度ホイールを回しても、火花を散らすだけだった。
それでもわたしは、蓋を開けた瞬間にホイールを回し、再びそれを閉じるという一連の動作を繰り返す。蓋が開くときの金属が弾けるような音、ホイールを擦るときの親指の感触。今となってはそれらが、輪郭の定まらないわたしの心に奇妙な安心感すらもたらしてくれた。
屋上のフェンスに寄りかかっていると、いやらしい風が制服のスカートを捲り上げようとしてくる。別に誰かに見られるわけでもないけど、なんとなくスカートの裾を押さえてしまうのは条件反射のようなものだろう。
空には雲らしきものもなく、抜けるような青空が広がっている……のかもしれない。
確信が持てないのは、今のわたしの目に「青」が映っていないからだ。
いつからだろう。
わたしの見える世界が色を失ったのは。
あの頃はまだ、世界はカラフルだったのに。
別に、いいことなんて一つもなかったけど。




