真希達はいちゃついています。
「理人…、あんなにやっちゃ駄目だよ?」
公開処刑を決行した次の日、教室に行くと春ちゃんが顔を歪めて、俺に向かってそう言った。
「えー、何で?」
「理人が、容赦ないって俺知ってるけど。あんなに堂々とやったら、皆から反感かっちゃうし……」
そうやって、春ちゃんは俺の方を真っすぐ見つめる。
うん、要するに春ちゃんは俺の心配をしてくれているわけだ。やっぱ、春ちゃんは可愛い。
安心させるように俺は笑って、春ちゃんの頭をなでた。
「だいじょーぶだよ。
誰が敵だろうと、俺は負けてやる気はないし」
本当、誰かに負けるとかしたくないんだよね。俺。
あーでも、葉月とタイマンとかは流石に無理。
俺、そこまで喧嘩慣れしてるわけじゃないし。まぁ、喧嘩の仕方とか『クラッシュ』の奴らに習ったわけで、護身術も習ったけど。
まぁ、喧嘩で勝てないなら、別の方法で勝てばいいんだけどね?
俺にはそれが出来るし? 人脈って偉大だよね。
親衛隊の可愛いわんこちゃん達だけでもかなりの数居るしね。
何て事を考えながら、春ちゃんの頭をなでていたら、
「…柏木の奴、よくあんなの見た後に仲良くできるよな」
「確かに……。つか、佐原があんな奴だったとは」
なんてコソコソ喋ってるクラスメイト達の声が聞こえた。
まぁ、俺は目立たないように学園生活送ってたつもりだしね。
毛玉君騒動で人前で少し暴れたけど、見せしめほどは容赦なくやってなかったしね。
「それに、千尋ちゃんも…」
「ああ、千尋ちゃんが、あんな――」
…そういえば、千尋暴れたんだっけ。
本人も隗も言ってたしなぁ。本当、千尋は手が早い。
千尋の親衛隊の子殴っちゃったらしいから、思わず苦笑いが浮かぶ。
「理人、どうしたの?」
「あー、千尋が暴れたんだよな、って思って」
「…千尋って、容赦ないよね」
「そうだね。千尋の場合手がすぐ出るから。暴走したら俺か葉月ぐらいじゃないと止められないかも」
本当、並の奴が止めても千尋は止まらない。
千尋は暴れる、狂猫だから。俺か葉月しか止められない。
「そうなの…?」
「うん。あのね、千尋は元々外国いくまで『クラッシュ』の幹部やってたんだよ。中学生で」
「…え、そうなの?」
「うん、そう。だから喧嘩は滅茶苦茶強いよ、俺と互角ぐらいかな?」
千尋は、強い。
正直言って会長何かすぐに千尋はぶちのめせると思う。
俺と互角ぐらいだった、っていうのは、まぁ……、初対面の時に、あのカッターと首絞めの出会いの時に軽くやりあった時相撃ちみたいな感じだったんだよね。
今は千尋は俺が大好きみたいだから、俺の声で暴走止めてくれるけど。
「本当、見た目じゃ中身はわからないもんなんだねぇ」
そうやって春ちゃんは呟く。
「春ちゃんは、千尋を怖いと思った?」
「んー、怖い、けど。理人の仲良しな人だし、なら、大丈夫だって思ってるから。
俺理人の事は信頼してるし」
そう言って、口元を緩めて笑う、春ちゃん。
…うん、なんか嬉しいね。
そういう事言われると。
「そっか。
ならさ、千尋さ、結構暴走癖あって、あんまり仲良い人居ないんだよね。
だから、春ちゃんも仲良くしてあげてね?」
千尋は、今は恋人ってわけじゃないけど、それでも千尋は俺にとってお気に入りなのは紛れもない事実。
だからこそ、俺はそう言って笑った。
そうすれば、春ちゃんは頷いてくれる。
そんな春ちゃんの頭を俺は可愛いと、なでた。
周りの視線が気になるけど、ほのぼのとした時間を俺は春ちゃんと教室で過ごした。
*菅崎真希side
「何か面白い情報ねぇかなぁ」
俺は寮室でそう呟いて、パソコン画面と向かい合う。
一学期はあの、香川を潰すので、忙しかったし、それにしても、香川が俺に惚れてたのは、本当今思い出しても鳥肌立つ。
あんな鳥肌立つような事じゃなくて、もっと楽しいだけの刺激がいい。
何だろう、こっちに一切害のない刺激…? 一学期が香川でこっちの気分が悪くなりまくりだったから、それが欲しい。
実際、この学園って生徒数かなりいるし、面白い事ありそうだし。
…そういえば、中等部の方にも転入生が来たらしい。
しかも即効で、親衛隊に入っただとか。
あとで、理人に聞いておこうかな。
パソコンをカタカタといじる。
学園中の監視カメラの映像を交互に見つめる。
―――んー、久しぶりに、街に出て、暴れるか。
しばらく画面を見つめて、俺はそんな気分になった。
一学期は本当香川の事で忙しくて、『銀猫』として暴れる気にはなれなかった。
でも、今は――、そういう存在が居ないのだし、久しぶりに街に顔を出すのもいいかもしれない。
そんな事を、俺は考える。
そうやっていれば、ドアがノックされた。
誰だ、と思いながら、扉を開ければ、
「真希」
美乃君が居た。
「美乃君っ!」
美乃君の顔を見たら、何だか嬉しくなって笑みが零れる。
そんな俺を見ながら美乃君は口元を緩める。
ああ、かっこいい。
思わず見惚れてしまいそうになるぐらい、かっこいいと思った。
まあ俺が美乃君が好きだからそう見えるだけなんだろうけど。
とりあえず、俺は美乃君を部屋の中へと入れる。
俺の部屋は趣味で染まっている。
同人誌とかゲームとかマンガとかがたくさんベッドの脇に積まれていたり、好きなマンガキャラのポスターが張ってあったりするからな。
あ、俺腐男子だけど普通のマンガとかも結構読むんだよね。
「美乃君、部屋に来てどうしたの?」
「真希にあいたくなってな」
俺の問いに対し、美乃君は優しく笑って俺をみる。
ちなみに俺と美乃君、机挟んで椅子に座ってるんだけどね。
「―――……っ」
ボッと顔が赤く染まるのが理解出来た。
そんな台詞と笑顔言われる、なんて嬉しくて、それと同時に恥ずかしくて、心臓がバクバクいっているのがわかる。
…俺が腐ったのは小学校高学年の頃だ。
俺ん家の奴―――要するに組員にな腐ってる奴が居たんだ。
で、俺はそいつと仲良くて、それでBL漫画やら色々読んで、はまってしまった。
その頃から、何ていうか俺は美乃君の事気になってた。
その当時は俺が美乃君に抱いている気持ちが、恋愛感情なんて思ってなかったけど……、何かBL読んでてああ、俺同性だけど美乃君が好きなのかって気づいた。
美乃君はノーマルだから振り向いてくれないって、俺が美乃君とつきあうなんてありえないって、そうあきらめてた。
だけど現実には、俺を優しく見つめてくれている美乃君が居る。
「俺も…っ、あいたかった美乃君!」
恥ずかしいけど、それは本心。
駄目だ、はずかしすぎる。
いや、もう本当他人がこういう事いってんなら、うん、萌えるんだけど…。
俺が言ってもなぁ…? と、思ってしまう。
はずかしくなって、俺は美乃君から視線を外した。
恥ずかしすぎて、見てられなかった。
そんな俺に美乃君は言う。
「真希は、本当可愛いな」
何て、言葉を。
ぼっと、顔が赤くなったのがわかる。
俺を可愛いなんて言う美乃君…。
俺はヤクザの息子として怖がられて生きてきた。
そりゃあ、理人みたいに俺の実家を受け入れてくれる親友は居るけど。
というか、思うに、俺がこんなに、顔が赤くなったりするのは、絶対美乃君の前だけだ。
はずかしいけど、美乃君の顔が見たくて、美乃君の方を見れば、美乃君は真っすぐこちらを見つめていた。
…そんな瞳にドキリッとする。
見つめ合ってるだけでこんなドキドキしてるって本当俺はどんだけ、緊張してるんだろうなんて思う。
いや、その、だな…。
付き合いだして、二人っきりってな、緊張するもんなんだよ、本当。
美乃君は真っすぐこちらを見据えたまま、俺に言う。
「真希、こっち来い」
そう言われて、近づけば俺の顎に手を伸ばす。
そしてそのまま、俺は唇を奪われた。
「………っ」
顔がぼっと赤くなる。
美乃君とキスしてる、美乃君とキスしてる……それを思うだけでいっぱいいっぱいで、どうしようもないほど心臓が高鳴っているのがわかる。
「……美…乃、く…ん」
俺はそのまま、美乃君の背中に手を廻した。
ああ、はずかしいはずかしい、だけど嬉しい。
舌と舌が絡み合うのがわかる。
絡み合う、水音が、その場に響く。
――何だか、何も考えられなくなる。
俺は、美乃君の背中に手を廻したままだ。
…美乃君だけの事しか、考えられない、ようなそんな気分になる。
溺れていく、美乃君が、好きだっていう、自分の思いに。
何だか、好きだって気持ちが溢れてきて、余裕が全くなくなっていく。
「……んっ」
口づけに漏れた自分の声に何だか、はずかしい。
しばらくして、唇が離れる。
なんとなく、物足りない気分になる、俺はきっと重症。
美乃君が、本当に大好きなんだ、と思う。
俺より背の高い美乃君を見る。
……やっぱり、かっこいいな、美乃君と顔を見ていたら思った。
じっと見つめていたら、美乃君が口を開く。
「真希さ」
「うん、なに?」
「そんな可愛いと襲うぞ?」
真顔で、そんな事を言われた。
……何だか、美乃君が肉食獣の瞳をしてる気がする。
うん…? 俺は可愛い事なんて一切してない、と思うんだが。…いや、しかし、美乃君、俺に欲情したのか?
いや、それはそれで嬉しいけど。
「美乃、君なら……、襲われ、ても、いい」
そんな言葉が、無意識に口からこぼれていて、顔が赤くなる。
…いや、うん。
俺実は童貞だし、処女なんだよね。
経験一切なし。
だって、美乃君の事好き、だったし。
好きじゃない人とするのって、なんか違う気がするし。
そういう行為って見る分には全然いいんだけど、いざ、自分がやるかもってなると少し怖い。
でもさ、俺、美乃君の事、本当に好きだから。
「…真希」
そうして、俺は、美乃君に抱きしめられた。
美乃君の、温かい腕が、俺の腰に回っていた。
キスが、落とされる。
熱い熱が、しびれるように体を熱くしている。
そんな感覚、ドキドキする。
緊張する。
「―――っ」
吐息が、口からこぼれ出た。
何だか、これからヤるのかもしれないと思うと、余計、息が漏れる。
「―――、ベッド、行くか?」
……聞かれて緊張しながら、俺は頷いて、大人しく美乃君と一緒にベッドに向かうのであった。