公開処刑をやりましょう。
俺は、その日朝早くから、学校に来ていた。
まだ、生徒達が寮で寝静まっているだろう、そんなときに下駄箱が見える位置に居た。
嫌がらせしてきた連中を一人だけでも捕まえようと意気込んでいるわけだが…。
「よし、あたしはこっから理人の活躍をしっかり目に焼き付けておくからな」
「俺も関わるのは面倒だし、理人一人でどうにかなるだろうから、此処で見とく」
「…麻理ちゃんも隗も楽しそうだねぇ」
そう、後ろには麻理ちゃんと隗が居るのだ。
「いや、だって理人が嫌がらせされてるわけだし? それなら理人が相手をぶっ潰すのは必須!
そしてあたしはその潰しを見るのが楽しみなんだ!」
「右に同じ。自分で潰すのも楽しいけど、人がやるのを見てても面白い。
それに理人がやる潰しだしなぁ、面白うだし、見とく」
本当、この二人っていい性格してるよね。
「そっか
麻理ちゃんと隗っていう最高の観客がいるなら張り切ってやらなきゃね」
麻理ちゃんも隗も俺にとっては面白い存在で、お気に入りだから。
そんな麻理ちゃん達がせっかく観客をやってくれてるんだ。
二人を楽しませるぐらいにやらなきゃねえ? そんな事を考えたら思わず笑みが零れた。
「あ、理人来たぞ」
しばらく会話を交わしていれば麻理ちゃんがそんな事を言った。
ふと俺の下駄箱の方を見ていれば、数名の男子生徒が俺の下駄箱の前に現れていた。
ゆっくりと気づかれないように近づいて見ると、話し声が聞こえてくる。
「何で生徒会親衛隊が、佐原の味方してんだよ!」
「わかんねえ! つかおまえだろ。生徒会親衛隊は過激だから一人が生徒会なんかになったら味方するはずないって……」
「そうだよ! そのはずなんだよ。
大体あの、香川を潰したのも親衛隊だって噂されてるんだぜ
会長様のお気に入りだった香川を!」
親衛隊が、潰したね。
あながち間違ってないかもしれないけど潰したのは俺であって親衛隊全体ってわけじゃないのにね。
というか本当、俺のかわいいわんこ達を過激過激ってむかつくかも。
うん、そんなむかつく奴には痛い目あってもらわないと、ね。
俺はそんな事を思いながら彼らの前に姿を現す。
「何してんのかな?」
「さ、佐原!?」
「何で、此処に!?」
バカみたいに騒ぐ奴らに思わず俺は笑みを零す。
バカだな、なんてバカにした笑みを浮かべたまま俺はにっこりと笑った。
「そりゃあ、この俺に嫌がらせしてくるなんて悪い子はどうにかしなきゃなぁって思ってね?」
やられっぱなしなんて、俺の性分じゃないしね。
にっこりと笑って彼らを見れば、彼らは一瞬驚いたような顔をして、次には馬鹿にしたようにこちらを見てきた。
「は! てめぇなんかにできんのかよ!」
「淫乱のくせにっ!!」
「つか、一人で俺らに何する気だよ」
うん、一言いいたい事があるとすれば、むかつくね。
言い方からして、俺に君らをどうにかするすべない、みたいな言い方…、本当、むかついちゃった。
ふふふ…、っと思わず笑みがこぼれる。
「うん、君らにはとことん、俺という存在を恐怖の代名詞として刻んでもらうね?」
俺はそう言って、彼らに近づいて、一人の胸倉をつかんだ。
「なっ…」
「ねぇ、今すぐ謝ってよ? 改心しなよ? 俺に嫌がらせなんてバカな真似やめてよね?
あ、もしやめないっていうなら、こいつ思いっきり投げるけど、オッケー?」
にっこりと笑って俺はそう言った。
体が宙に浮いてる、俺に胸倉を掴まれている男はあたふたしてる。
周りの男達は、俺が口だけだとでも思ってるようだ。
「じゃ、カウントダウンするから、決めてね?」
俺はそう言って、バタバタと慌てふためき、暴れようとする男(あ、俺が胸倉つかんでる男ね)に一発軽く蹴りを入れて黙らせ、カウントダウンを始める。
「10…、9…、8、7」
その間に彼らはふざけんなというばかりに俺に向かってくる。
あ、掴んでる男を盾にしてたし、かわしてたし俺に被害はなしだよ?
「6…、5…、4…3」
よーし、思いっきりぶん投げよう。
「2…1」
そうして、カウントダウンは終わる。
「0」
その瞬間俺は胸倉をつかんでいた男を思いっきりぶん投げた。
ゴミ箱の方に。
いや、花壇も近くにあるんだけど、お花が無茶苦茶になったりとか俺嫌だし、だからゴミがびっしり詰まってるゴミ箱の方へと投げてみた。
壁とかに直撃とかじゃ可哀相かなと思って、ゴミ箱に投げてみたんだよねぇ。
ドーンっという音を立てて、投げられた男は地面へと落ちていく
周りは何だか唖然としてるけど、俺を甘く見ないでほしいよね!
俺はやるといったらやるし。
「さーって、お次はだれがいい?」
にっこりとほほ笑んで残りの男達を見つめれば、全員が全員体をびくつかせた。
「お、お前っ、な、なんてひどい事を――」
「え、ひどい事って、俺に嫌がらせするって事は何されても文句ないって事だよ?
それとも何? 俺なら大人しくやられっぱなしだと、思った?」
まぁ、表だって動きたくなかったし、あんまり動いてなかったしね。
毛玉君の時は結構動いてたけど。
ま、生徒会副会長なんて、目立つ立場になったからには、目立たないなんて無理だろうし……、それならとことん、暴れてやろうじゃないか、なんて思って笑みがこぼれる。
青ざめた顔をしている男達。
俺の容赦のなさにびびっているのか、逃げようとする奴もいるけど。
「俺が逃がすと思ってるかなー?」
俺はそう言って笑うと、逃げ出そうとした奴らへと拳を入れる。
一撃で、次々と俺は奴らを気絶させていく。
ボコッ、バキッ、と打撃音がなり、立っているのは、俺だけへとなった。
「さぁて、公開処刑でもやろうかねぇ」
俺はそう言ってにっこりと笑った。
*渕上螢side
「由月、ご飯おいしいねぇ」
僕と由月は昼休み、食堂に居た。僕らが生徒会だからって、周りがキャーキャー騒いでる。
僕が食べているのはオムライス。で、由月が食べているのはかつ丼。
由月は甘い物も好きだけど、がっつりした食べ物も好きだからねぇ。
そういえば、朝から佐原や、隗を見ていない。
麻理先生に聞いたら、面白い事やってると一言返されたし、隗ってば、何かやってるのかな? なんて思ったり。
隗は僕がドッペルゲンガーみたいな双子やりたいって合わせてくれているけど、本当はすっごく面白い事好きだからなぁ。
もぐっ、もぐっとオムライスをほうぶっていたら、
「あ、小長井先輩だ」
「かっこいいー」
何て言う、声が響いた。
風紀委員長と、その友人の、幸一っていう先輩がいた。
風紀委員長はもてる。
美形だから仕方ない事だと思うけれども。
そういえば、風紀委員長って、佐原と結構仲良しだったよなぁなんて僕は考える。
僕から見た佐原は、何と言うか、得体のしれない存在…? 恐怖、をもしかしたら感じてるのかもしれない。
何だろう、佐原は自分が気にいってる人間以外には結構容赦ないように見えるし。
実際、会長の事は嫌いだからってかなりの毒舌だし。
操を、潰した時の佐原は、怖かった。
直哉さんをあんな方法で潰して、徹底的に敵を排除する姿……、それが、怖かった。
隗だってそういう所あるけれど、隗は僕のお兄ちゃんだし信頼しているし、怖くはないけど。
佐原と僕はそんなに仲良しってわけじゃないから、何だか少し怖い。
操の事を思うと、何だか少しかなしい。
僕は、隗から見ればとても単純な人間らしい。
…僕も、そう思う。
操が此処に居る時は、操が好きだって思った。
僕と隗を見分けてくれるから、好きなんだって。
だけど、離れたらその気持ちは消えた。
ああ、もしかしたら僕は本気で操を好きだったわけじゃないのかもしれない、なんて思う。
本当の恋、なんて僕はわからない。
ただ誰かを好きになる事はあるけど、その気持ちは浅い気がする。
「……け…ぃ、どした?」
「何でもないよ、由月」
頭を小さく振って、悲しいという考えを頭の隅にやる。
そうやって会話をしていれば、不意に放送がなった。
『あー、聞こえてる?
ついこの前生徒会副会長に任命された佐原理人だ。
とりあえずー、ちょっとやりたい事あるからマイク借りてるんだよねー』
…聞こえてきたのは佐原の声だった。
『さて、今日何でマイクを奪っ…借りたかというと』
いや、佐原今奪ったって言いかけたよね!? 何やっているの? と僕の頭の中で疑問が一杯だった。
『…勝手に何放送使ってんだ!?』
『あ、こんにちは放送部部長の片山さん。あ、俺の邪魔しないでくださいね?
俺の友人に頼んであなたの弱み俺知ってるんで』
…さ・は・ら!!
何やってんの、何やってんの!!
「ゆ、じん……まき、…?」
”友人”というのが真希の事だろうか、と由月は隣で首をひねっている。
あー、確かに真希なら面白がってやりそう。
そもそも真希と佐原は親友らしいし。
『お、俺の弱み!?』
『はい、あなたが、じょ―――』
『わぁあ、ま、待て待て!!!』
『はい、じゃあ、黙っててくださいね』
…えっと、佐原、その会話放送で流れてるんだけど。そんな物騒な会話を何故、してるの!?
『さて、外野も黙った所で、本題に入りまーす。
俺の事不愉快に思ってる連中って多いみたいだよね。
ふふ、今朝も数名俺の靴箱に嫌がらせしようとした悪い子を見つけたから、そいつらでちょっと、公開処刑やりまーす
あ、教室とか食堂にテレビあるでしょ?
もしつけないならつけなくてもいいけどね。声だけの方が恐怖になるかもしれないし?』
そう言って笑う佐原の声は、どうしようもないほどに楽しそうだった。
…怖い。ひたすら怖い。僕はこれから何が起こるのだろうと考えて体をブルブルと震わせてしまった。
*龍宮渉side
『はーい、ではまず第一発目に、とりあえず、目を覚ましてもらいまーす』
……テレビの画面から、理人の声が聞こえる。
場所は、放送室だ。
放送部部長は青ざめているけど、弱みを握られているからか、大人しくしている。
そして、俺は見たくもないのに、理人の公開処刑を見せられている。
…隆道に。
消そうとしていた腕は隆道に押さえられている。
うぅ、隆道のドS! いや、別に隆道に苛められるのは悪い気はしな…ってこれじゃあ本当に俺変態っぽい。
何て思って、ちょっとへこんだ。
画面の中で理人が気絶している数名に、思いっきり拳を振り下ろした。
…寝ている相手に拳を振り下ろす。
なんていう、容赦のなさ。
『はは、目覚めた?』
笑っているあたりが、余計怖い。
というか、何で俺の弟達は、翔も理人も、都も、皆容赦ない奴らばっかなんだろう…。
「流石、理人君です」
そして、隆道…。理人の公開処刑を見ながら、笑わないで。お願いだから!
怖いから、俺滅茶苦茶怖いから。
『なにするんだよ!!』
『こんな事していいと…』
『思ってるよ?
先にやってきたのはそっちでしょ? ねぇ、そっちこそ俺にそんな態度でいいと思ってんの?』
そう言って、無邪気に笑う理人を画面越しに見ながら、サーッと顔が青くなっていくのがわかった。
『な、お前―――』
『ねぇ、謝れる? 俺に謝れる? もう二度としません、って言える』
『んな事いうわけねぇだろ!!』
『ふぅん、そっかぁ。悪い事言う口はこれかなぁー?』
何て言いながら、理人が男子生徒の口を開けさせて、何かを流し込む。
それと同時に、『*>?*{_}!!』、声にもならない言葉を、男子生徒は発した。
それはもう、苦しそうに。
何を流し込んだんだろう…。
理人は、その、液体の入った瓶を持ったまま、他の男子生徒達へと向きなおる。
『ねぇ、君らは、これ、飲みたい?』
にっこりと笑う理人。
何処までも楽しそうな笑顔が余計恐ろしかった。
理人は、容赦ない。
…俺にも容赦ないし、都はまぁ、俺にも兄として慕ってくれてるけど。
翔と理人に関しては…。
翔は『弟は可愛いから可愛がろうって気になるけど。兄貴はなぁ…?』とかいってたし、
理人は『渉兄は面白くもかっこよくも可愛くもないから好きじゃない。大体俺の兄でありながらネコってねぇ?』だからな…。
『な、何を飲ませたんだ!』
『俺は、飲みたいかって聞いたのに、質問とは違う答えよしてくれない?』
ドスッ、と理人は男のある部分蹴った。
……急所をだ。
『+‘‘*<‘*<<L!!!!』
何とも言えない悲鳴が、また響く。
『俺怒ってるんだよね? わかってる? 俺怒ってるの。つか、俺に嫌がらせしてきたんだから、地獄見てもらわないとねー?』
そういって、理人は続ける。
『もう本当、君のアレをけるとか俺の上履きが穢れちゃったじゃんか。
あとで、かいかえなきゃなぁ。大体君らが俺の上履き駄目にしたりしたんだからねー?』
にこにこと微笑む理人。
『あ。そうそう、他にも俺に嫌がらせした悪い子の名前知ってる?
知ってるなら、教えてくれない?』
…教えなきゃ、わかってるよね?とでも言いたげな理人に、画面の中の男子生徒達は顔を真っ青にしている。
…うぅ、恐ろしい。
我が弟ながら、本当に恐ろしい。
理人は怒らせちゃ駄目だ、本当に。怖すぎる…。
『…い、いうから!!』
『に、二年B組の―――』
そして次々と明かされていく、理人に嫌がらせした面々達。
ああ、かなり数が居る。
…理人。まさか全員退学とかしないよな?
いや、理人ならできるけど。精神的に追い詰める事ぐらい。
しかしだ。そんなされたら困る。理事長として。なんて、思っていたら、『ふーん。やっぱり、そいつらだったか』なんていって、理人は画面の中で悪戯に笑った。
そして、ポケットの中につっこんでいたメモ帳を取り出すと、
『二年B組、野中。
実は少女趣味があり、寮室の中は、乙女チックに染まっている。
うん、きもいね』
そうして、理人は、次々という。
『一年D組の、高野。父親は社長。ふーん、高野って、父親の不倫で出来た子なんだねー』
ニ、ニコニコ笑っていう事じゃない!!
『三年S組の、高知。
へぇ。女に振られた回数計20回以上ねぇ。それで男に走って男にももてないって、うわー、可哀相』
………結局理人は自分に嫌がらせしてきた人間の秘密を一人一人次々とあげた。
そうして最後にこう締めくくるのだ。
『ねぇ、俺に何かやるなんてバカな真似やめてね? これは忠告だよ? これ以上やるなら、本当に精神的に潰してあげるからね?
あ、ついでに俺の大切な子達を傷つける存在にも俺怒っちゃうから』
*吉井千尋side
ああ、スピーカーからりーの声が聞こえる。
大好きで大好きでたまらない、りーの声が。
誰かを潰す時の、りーって本当に楽しそうで、見ていて俺も嬉しくなる。
ああ、りー、りー、りー、りーに何かするような奴、俺が潰したい所だけど、りーが自分で潰したなら俺が口出しする筋合いはない。
そんな事したら、りーが怒っちゃうのはわかってるし。
それにしても、いいなぁ。りー、最高。りー、大好き。
「千尋様っ」
ちなみに俺は今、教室に居たんだよね。
なんか、俺の親衛隊? とかいう連中がお菓子やら色々恵んでくれたからもらったの!
俺甘い物だーいすき。あ、もちろん、一番好きなのは、りーだけど。
「ん? どうしたの?」
「あ、あの、あんな、危ない奴近づかない方が、いいです!!」
「危ない奴…?」
「佐原理人の事ですよ!」
危ない、奴ねぇ?
りーはとっても、とっても優しいのに。
そんな事を思いながら、俺は、とりあえず顔に笑顔を張りつけて、彼らを見る。
「だから、佐原理人とは離れた方がいいですよ!」
「千尋君が汚されます!」
「千尋様は私たちが守りますから」
「あんな、悪魔みたいな――」
ああ、もう、無理。我慢できない。そう思った時には、俺は拳を振り上げていた。
「――――あぁああっ」
悲鳴にもにた声と共に、顔面を手で押さえて倒れる。名前も知らない、親衛隊の一員。
もちろん、殴ったのは、俺。
空気がシーンと固まった。
静まり返る、教室。
そんな中で、口を開く、親衛隊。
「ち、千尋さま!」
「ど、どうして!!」
驚いたように、信じられないものを見るように、彼らは俺を見る。
「ねぇ…」
俺はにっこりと笑いながら、親衛隊の連中含む、クラスメイト達を一瞥する。
見えるのは、脅えの表情。
ああ、ゾクゾクする。暴れたいっていう、感情が芽生えてくる。
「俺はね、りーが、一番大事なんだよ?」
俺の外見で、俺の事勝手に決め付ける奴らは、沢山いる。
俺が暴れたら暴れたで、恐怖を見せる人間も沢山いる。
――離れていく人間だって沢山いる。
寧ろ、俺と対等にそばに居てくれる存在なんて、数少ない。
「俺が、りーのそばに居たいんだ。俺が、りーが一番大切で、りーを一番大好きだから」
葉月さんは、りーに惚れたから、ちょっと嫌だけど。
それでも、葉月さんも、『クラッシュ』のメンバーもなんだかんだいって、俺の居場所なんだ。
何より、居心地良いのは、りーの隣だけれども。
「ねぇ、君たちはりーを俺からとるっていうの?
俺にりーから離れろっていうの?」
にっこり笑いながらいえば、彼らは脅えたように顔をゆがめる。
本当、そういう顔見てると、暴れたくなっちゃうんだねー、俺。
「そんなに脅えないでよね? 俺これでも少しは丸くなったんだよ?
昔の俺なら顔面殴るだけじゃなくて骨の一本ぐらい折ってるし、この教室に居る奴らも全員ぶちのめしてたよ、きっと」
本当、昔の俺って、荒れてたからね。
葉月さん達しか止められなくて、すぐに暴れてしまってたから。
だから俺、周りに『狂猫』なんて呼ばれてたんだよね。
狂った猫だって。
危ない、暴れる猫なんだって。
まぁ、そんな俺が少しは自制できるようになったのはりーのおかげなんだけどね。
周りの奴らの肩がびくっと震えた。
「ねぇ、俺の大事なりーの悪口、もう、いわないよね?」
言ったら、俺どうするか、わからないんだ。
だって、りーの敵は俺の敵。
りーは、俺の特別な人だから。
「ねぇ、答えは、イエス、ノーどっち? まぁ、イエスしか受け付けないけど」
にっこりと笑って、俺は彼らを見た。
「…い、言いません!」
「も、もういいません」
「ご、ごめん、ごめんなさぃい!!」
必死に謝る彼らを見ながら、滑稽だなと思わず笑ってしまった。
*渕上隗side
理人の公開処刑の後、教室に戻ると、千尋の前で泣きそうな顔をして、脅えている生徒達が必死に謝っていた。
「なら、いいや。
りーの事敵に回す奴は、俺が潰す」
そんな、千尋の言葉に納得する。
見れば、血を流して倒れている奴もいるし…。
千尋がやったのだろうか…?
本当理人命って感じで、なんつーか、いい性格してるし、面白い奴だなと思う。
正直千尋がどれだけ暴れようが俺は面白いし、傍観しておきたいけど、仮にも俺は生徒会の一員だし、止めなきゃと思い、千尋に声をかける。
「千尋。そのへんにしときなよ~」
「あ、隗だ」
俺の方を見て、先ほどの冷たさが嘘のように消え失せて、その変わり身のはやさに面白いと思ってしまう。
流石理人の元彼だ。
『クラッシュ』の幹部だったらしいし、一度やりあってみたいななんて思ってしまう。
「んー倒れてる人いるけどどうしたのー?」
猫かぶり状態じゃなければほかに言いようがあるんだけど、猫かぶった俺はこういう事楽しまないキャラだからな。
むしろ蛍みたいにびびるんだと思う。
だから、わざと俺は面白いなんていう、言葉は口に出さない。
「あのねー。俺がりーのそばにいたくてたまらないのに、俺にりーから離れろなんていうんだ。
優しい優しい俺の大好きなりーの悪口言うから、つい…」
「なるほどねぇ~。千尋は理人の事好きって、感じだもんね」
理人の悪口いって、離れろっていったからか…。
理人がいったように本当に手が早いっぽいな。
「―――うん、大好き。俺りーが一番大好きなんだ。何よりも」
にっこりと笑って、嬉しそうにいう、千尋。
寺口にも思ったけど、こいつらってストレートすぎ。
まぁ、面白いから千尋みたいな奴も仲良くなれそう、とは思うけど。
そういえば、千尋に俺の素は見せてないんだよな。
……こいつになら、見せてもいいかな。
そう思って俺は口を開いた。
「ねぇ、千尋、少しお話しよっかー」
*龍宮理人side
「佐原理人! 貴様は何をやってるんだ」
会長がそんな事を言いながら、俺を見てくる。
ちなみに俺が今居るのは第一会議室。まあ、風紀の部屋にいるわけである。
「佐原…やり返したのはなんとなく察するがやりすぎではないか?」
小長井先輩は俺と向かい側のソファに座って、まじまじとこちらを見てくる。
んー、やりすぎねえ?
「まあ、わざとやりすぎってぐらいやったんです。言うなら見せしめって奴ですかね」
笑顔を浮かべて小長井先輩を見れば、小長井先輩は何ともいえない表情をした。
「で、小長井先輩やりすぎた俺は何か謹慎でもうけるんでしょうか?」
「……いや、向こうがやってきたのは確かな事だからな。そんなにはないが…、ただ少しやりすぎだなと個人的に思っただけだ」
まぁ、小長井先輩は、結構平等っていう感じの人だからなと俺は思う。
何て言うの? 俺は面白くない人と面白い人で結構色々態度変えちゃうけど、小長井先輩は平等に判断できるっていうか、そんな人だから。
だからこそ、小長井先輩に風紀委員っていう位置はぴったりだと思うんだけどね。
「そうですか。まぁ、やりすぎは自覚してますよ?
やった事は後悔していませんけれども」
後悔は一切していない。
というより、寧ろスッキリしていて、そこに罪悪感も何もない。
「そう、か…」
「はい、そうです。ところで、用事はお話したかっただけですか?」
「ああ、それだけだ」
そうやって、俺と小長井先輩が会話を交わしていれば、
「佐原理人! 俺様が話をするだけの時は文句を言うくせに。何故小長井には――」
「は? 小長井先輩と会長じゃ態度違うの当たり前でしょう?
小長井先輩は会長と違って出来た人だし」
うん、本当小長井先輩と会長を同レベルに見るとか、小長井先輩に失礼だよね。
だって、会長だし。
「なっ――そ、そんな」
「…うわー、傷ついた顔が妙に気持ち悪いですね」
俺はとりあえず、会長の悲しみに歪んだ顔に対して感想を述べると、小長井先輩に向き直る。
「じゃあ、俺行きますんで」
そう言って笑えば、小長井先輩は、ただ、ああと答えてくれた。
ちなみに言うと何故か第一会議室を出た俺の後ろから会長が追いかけてきて、何だかうんざりした。