菅崎真希の恋愛事情
「あぁあ、理人理人、俺どうしよ!」
今現在、俺と真希が居るのは、あのサボり用の空き教室である。
その部屋に入ってきた真希はありえないほどに動揺していた。
「鏑木先輩に告白しちゃったねぇ。
あたって砕けちゃえば?てか、学園中にしかけてる監視カメラ使って鏑木先輩に会わないようにしてるってさー、徹底的に避けすぎ」
呆れたようにそう言って、俺は真希を見る。
あ、ちなみに俺は椅子に腰かけて普通に文庫本読んでるんだけどね。
その隣では、真希は動揺したように言葉を発して、本当に時期組長なのかと疑いたくなるほどに、眉を下げていた。
「だ、だって! 美乃君に俺いっちゃったんだよ! 告白だよ、告白!
あー、気まずい。返事聞くのが怖すぎる!」
「真希ってさ…、他人の恋愛に関しては、というか、他人の性癖に関してとかそういう系でも結構平然と話してんのに、本当自分の事になると駄目だよね」
「いや、他人のは全然オッケーなんだよ! 男同志の恋愛全然いい。寧ろ俺に見せてくれ、何だよ。
絡んでいようが、エロい事してようが特に気にはならん。でも、な……、自分のはなぁ…」
本当、何て言うか、自分の恋愛には全く駄目な真希である。
というか、一応真希ってヤクザの時期組長のはずなのに、喧嘩も滅茶苦茶強いのに、見てて全然そうは思えない。
つか、エロい事でもいいって、公開プレイでもさせたいのか?
俺は遠慮するけど、それなら田中さんにいえば何かやってくれるかもしれないぞって気分になった。
「でもまー、鏑木先輩必死に真希に会おうとしてるみたいなんだよ?それを必死に避けてても何もないないでしょ?」
「そんな事わかってるけど…」
「本当、弱気モードって感じだよね。まぁ、鏑木先輩の事俺はよく知らないけど、鏑木先輩って他人の好意とか、ちゃんと受け止めてくれる人でしょ?
だったらもうあたってくだけなよ。
そっちの方がいいんじゃない? どんな結果出ようと、思いを伝えたって事が大事だろうし」
鏑木先輩って、真希の事は大事だって思ってるはずだし。
そもそも俺が真希と仲良いって知った時も真希の事鏑木先輩は心配してたしね。
そんな人が真希の気持ちをおろそかにするなんて考えられないし。
何より、必死に探してるって所が真希の事大事だって思ってる証拠だと思うし。
「そうかな……?」
「そうだよ。監視カメラの映像の中でも、鏑木先輩真希の事必死に探してるじゃん。
だからさ、真希の事それだけ恋愛感情は知らないけど、思ってくれてるって事でしょ?
逃げてちゃだめだよ? てか真希は俺の親友なんだから、そんなうじうじされるの俺が嫌」
うじうじしてる真希より、生き生きしてる方が真希らしいと思うし。
まぁ、動揺している真希は見ていて面白いけど。
「…そう、だよな
よし、俺いってくる!」
真希は決意するように頷くと、そそくさとその場を後にしてしまった。
わー、さっきまで動揺していた癖に、決意速すぎ。
まぁ、そこが真希らしいんだけど。
さぁてと、真希と鏑木先輩がどうなったかはあとで、真希に聞けばいいとして、俺は、俺を潰そうなんてバカな事企んでる悪い子をどうにかしなくちゃね。
見せしめでもしてあげようか…?
ふふ、俺だってこの学園の子いっぱい潰したいわけじゃないし。
とりあえず、千尋と葉月が俺への嫌がらせ知ったら色々面倒な事起こしそうだから、それまでになるべくどうにかしときたいな。
…千尋ってやりすぎるし、うん、やりすぎて千尋停学とかなられても気分悪いしね。
そんな事を考えていたら、ガラッと扉が開かれた。
「理人」
「…さは…り!」
入ってきたのは、隗と安住君だった。
てか、さは、りって、略しすぎだろ、安住君ってつっこみたくなるよね。
「さっき菅崎慌てて出ていったけどどうしたんだ?」
「何かね、好きな人に告白していい逃げしたって動揺しまくってたから背中押してあげたんだ。
真希ってば、人の恋愛は全然気にらないくせに、自分の恋愛は気にしちゃうから」
「へぇ、菅崎好きな奴居たんだな」
隗が面白そうに笑っていった。
まぁ、隗にとっては初耳だろうしね。俺と隗は仲良くなったけど、真希と隗は互いに俺の友人ってだけみたいな感じだし。
「そうそう、幼なじみで真希ずっと片思いしてたらしんだよね。
あ、てか安住君って真希に恋愛感情とかあるの? 真希の事好きってオーラ出てたけど」
俺はふと気になって、安住君を見ていう。
安住君って結構真希にべったりだったし、もし恋愛感情あるなら、失恋ってわけだしねぇ。
「…な、い」
「へぇ、そなの?
俺あるのかと思ってた」
「お……、真希…だい、じ…、な、と、もだ!」
真希は大事な友達か――。
安住君は本当、真希の事大切に思ってる。それを思うと、何だか嬉しくなった。
真希は、俺にとって親友で、だけどヤクザの息子だからって恐れられてたから、そういうの抜きにして真希を見てくれる存在が居るって事は良い事だと思う。
「で、隗達何しに来たんだ?」
「千尋と寺口に早速親衛隊結成。それと、やたらと理人の悪口いってる奴ら居るし、もしかしたら何か危害加えてくるかもしれねぇぞ」
「あー。嫌がらせならあったけど?
今犯人割り出してる最中だから、見つけたら見せしめに思いっきり潰してあげようかなーなんて思っちゃったり」
俺が笑ってそう言えば、隗も笑った。
二人して、潰す行為に笑っているからか、安住君はどこか呆れたような表情を浮かべている気がする。
「…やり、す……め!」
…やりすぎ、駄目っていってるのかな?、安住君は。
「安住君は優しいねえ
でも思いっきり潰すのは気分がいいし、やらなきゃきりないよ」
俺の事疎ましく思ってる奴らは沢山いるだろうし。
副会長なっちゃったし、葉月や千尋と俺は一緒にいるわけだし。
それに俺に嫌がらせしようっていうんだからそれなりに覚悟してもらわなきゃね。
「たの……し、そ」
俺が楽しそうにしてる、か。
まあ当たり前。潰しは楽しくやるのが一番だし。
「うん、これからどうやって潰してやろうかと考えるのは楽しいよ?」
「……そ、か」
「あ、でも安心してね? 安住君に危害を加える気ないし。
何より安住君は真希と仲良しだしね」
にっこりと俺は笑った。
そもそも俺は必要以上につぶす気はないし、現状のままだと面倒な事になりそうだし、見せしめは必要だよね。やっぱり。
「とりあえず、なったからには俺が副会長になった事を認めさせなきゃね」
――――――せっかく副会長になったわけだし、それを利用して楽しくしなきゃだよね。やっぱり。
*菅崎真希side
「美、乃君っ」
俺は絞り出すような声をあげる。理人に背中を押されて俺は美乃君の前に飛び出した。
「真希―」
俺の名を呼ぶ美乃君。そこは人気のない中庭。俺と美乃君以外、その場にいない。
夏の暑さに加えて、緊張から汗が滲むのがわかる。
逃げたいと、怖いと心が叫んでいる。
―――ああ、それでも逃げちゃ駄目だ。
そう思って、俺は言う。
「俺、は………っ」
伝えたい、そう思ったからこそ俺は美乃君の目を真っ直ぐに見る。怖いけど、はっきり言いたい。
「……美乃君の、事が、好き」
絞り出すように、言葉が漏れた。
美乃君の顔が、歪む。
それが何を思ってかわからないけど、俺の口は止まらない。
「この、前は―――逃げちゃった、けど……、ほん、と、ずっと―――美乃君が、好き……」
ずっとずっと、昔から俺は、美乃君が、好きだった。
「――この学園、ホモ多いけど……美乃君、ノーマルだか、ら……言えないなって、思ってた」
言うのが怖かったのは、関係が壊れる事をおそれたからだ。
言って関係が壊れるより、言わないで近くに居たいと思ったから。
「……でも、俺は、美乃、君が好き、だ」
怖いけど、それでもそれは真実だ。
「………ごめ、ん
突然言って、でも……中途半端は、嫌で」
「…こんな、いったら、嫌われるかなって、気持ち悪いって思われるかな、って、思ったん、だ」
この学園は異常で、周りから見ればおかしいぐらい同性愛者が多い。だけど、美乃君はそういう感じじゃないから。
男に告白されても断ってるし、バイでもホモでも、ないし…。
「……別に、付き合って、くれとか、無理に頼まないけど……いや、本当はそっちが、いいけど。
お願いだから……、俺の事嫌いに、ならない、で」
そこまで言うと俺は目線を下に下げてしまう。
恥ずかしいし、緊張するし上向いてられなかった。
そして、そんな俺に言葉はかけられなかった。
――――代わりに、体を包み込むような温もりを感じた。
抱きしめられている―――、それに気付いて体が熱くなるのが、感じられる。
え、てか、え…?
動揺して、仕方がないのも、きっと無理のない事だ。
「…よし、乃君」
本当に、どうして、俺は、美乃君に抱きしめられているんだろう…?
ああ、美乃君、美乃君、美乃君―――。
「…真希」
美乃君が、俺の名を呼んだ。
「俺、が、真希の事、嫌いになるはずないだろ?」
美乃君の澄んだ声が、すーっと、俺の耳に入ってくる。
「俺は、真希の事、大事だって思ってる。
昔から、一緒だったし、真希の実家の事とかで真希を恐れる奴居たけど、俺にとって、真希は、どっちかっていうと、守るべき存在、だったから」
美乃君が、俺を大切に思ってくれている。それだけで、嬉しかった。
「…弟、みたいなもんだって、思ってた」
美乃君の声が、耳元で響く。
「…男に告白されても、気持ち悪いだけで、女に告白されても、正直、どうでもよかった」
美乃君の声だけが、俺の耳元へ届いていく。
「でも、俺は―――、真希に、告白されて、嬉しかった」
驚いて、俺が顔をあげる。
そうすれば、優しい顔をして、こちらを見ている、美乃君が居た。
「―――俺は、真希の事特別に思ってる、って気付いた。
多分、嬉しかったのは、告白、してきたのが、真希だからだ」
「えっと、それは……」
期待するように、俺が美乃君を見上げれば、美乃君は、照れたように口を開く。
「……まぁ、そう、だな
俺も、好きだって事」
そんな美乃君の言葉に胸が熱くなるのが感じられた。
目に熱がこもる、そして、雫が溢れだすのを感じた。
「うっ…ぅ」
「…何で、泣いてんだ?」
「いや、嬉しくて。何か、嬉泣きと、いう…か…」
実感がわかない。美乃君が、俺を好きだっていってくれたという実感が。
ああ、きっとないだろうって思ってたそんな現実が目の前にあって、嬉しくて、だからこそ、涙があふれ出す。
眠りでもついてしまったら、夢になってしまいそうだと錯覚してしまうほどに、俺にとっては幸せでならない、現実。
「美乃君……、大好き」
そうして、俺の口からはそんな、恥ずかしすぎる言葉が、自然と口から洩れていた。