龍宮家当主就任パーティーにて 4
「ようこそ、龍宮翔様、龍宮理人様、渕上隗様」
目の前でにっこりとほほ笑む男が居る。十文座家からの呼び出しという事で人気が全くないテラスに俺と翔兄と隗はやってきたわけだけど、そこにいたのは二つの影だった。
翔兄が接触したっていう十文座家は一人だったって話だったし、そこにいるのは一人だと思っていたから、二人もいて驚いた。
二人とも十文座家ってことはあるんだろうか? それなら面白いのだけれどなんて思う。
「お前、この前会ったやつか?」
「さぁ、どうでしょう? それはあなたが判断ください」
にっこりとほほ笑む、そいつ。翔兄が前にあった十文座家かわからないってことは、それだけいくつもの姿を十文座家は持っているということなのだろうか。
影の一族といわれる存在。
存在を隠し、闇夜に紛れる異端の一族。それが十文座家。
でも彼らは確かに存在していて、確かに痕跡を残している。裏に潜み、確かに事を起こしている。
それは、彼らが様々な姿を持ち、そして気づかないうちに俺たちの周りに居るのかもしれないという可能性さえも与える。
目の前にいる二人は両方男に見えるけど、実際の性別ももしかしたら違うのかもしれない。まぁ、聞いたとしても教えてはくれないだろうけれども。
それにしても言葉を発している者の、隣に居るもう一人はどこかめんどくさそうにしている。あいつは、付き添いのような存在なのだろうか? 言葉を発している方が十文座家で、もう一人は十文座家に付き従う家の者という可能性もあるけれど。
わからない。でも、面白い。
わくわくする。
いや、これはわからないからこそ面白いのだ。
存在自体が面白い。異端の一族で、現代社会で異能力を持っているなんて面白いとしか言いようがない。知りたいと、思って笑みが零れる。
「ねぇ、十文座家さんさ、当主の翔兄だけではなく俺と隗まで招待して良かったの?」
俺は十文座家と言葉を交わしてみたくて前に進み出た。
大体十文座家って、この前俺の学園の文化祭に来ていたっていうのに翔兄とはあっても俺とはあってくれなかったし。龍宮家の次期当主にだけ興味があるっていう意味なのかなとも考えていたんだけど、今回は俺と隗にも会ってくれて、どういう意図なんだろうとも思ったりもする。
まぁ、俺としては十文座家と会うことが出来てわくわくしているし、嬉しいとしか言いようがないのだけれども。
「興味があったからかな。私自身、一方的にあなた方の事は知っているので」
「ふぅん? 俺と隗は十文座家に関心を持たれてるってことか?」
「色々な事を隠して遊んでいた龍宮家の三男と、性格を偽り遊んでいた渕上家の兄の方という意味でも別の意味でも興味がありましたので。十文座家というより、私個人が貴方がたを知っているっていうだけですが」
にっこりとほほ笑んで、そいつはそういった。というか、なんだ別の意味って。
正直よくわからないが、十文座家の一人が俺と隗に関心を持ち、一方的に知られているらしい。それは何とも嫌だ。俺たちの情報だけが筒抜けでこちらは全然わからないっていうのは面白くない。
そんな不機嫌な俺の表情を見て、益々笑みを深くするそいつ。
「龍宮理人様は私たちの事が知りたくて仕方がないのですね」
「……おい」
「少しぐらい問題ありません。黙ってもらえる」
「………勝手にしろ」
にこにこと笑うそいつに、ようやくずっと黙っていたもう一人が口を開いて、会話を交わす。
そして笑みを深くしたそいつは、驚くべき事を言った。
「四宮学園には親しい方がいるのです。その方から龍宮理人様と渕上隗様のお話はよく聞いているのです」
「「は?」」
驚いたのも当たり前だ。十文座家と親しいかかわりがある存在が、四宮学園に通っていて、そこから情報が流れているだなんて。
「彼は貴方たち二人の事をそれなりに知っていますからね」
しかも、言い方からして俺と隗とそれなりに親しい生徒らしい。マジで、誰だ。全然わからない。
「まぁ、それはともかくとして龍宮翔様、この度は龍宮家当主へのご就任おめでとうございます。龍宮家とはこれからもビジネスのお相手としておつきあいしていきたい限りですので、何かありましたら我らにお声かけください。こちらも貴方様と仕事がしたければ接触しますので」
「……声をかけろってどうやって?」
「それは貴方様のお父上にでも聞いてくださいませ。では、龍宮家がこれからも我ら一門にとって愉快で、面白い存在であることを願っておりますよ」
それだけ告げて背を向けようとする。
「って、ちょっと待て。誰? 俺らと親しい生徒って」
「それは自分でお探しくださいませ。龍宮家とはいえ、当主でもない貴方様とはこうした形でお会いすることはないかもしれません。限りなく少ないでしょう。―――でももし貴方様が、彼を探し出すことが出来たら、我らは十文座家として個人的に貴方様と交流を持ってあげましょう。もちろん、そちらの渕上隗様も同様です」
そんなことを面白そうに笑って告げる。こいつは、俺と隗で遊ぼうとしている。ゲームをしようと持ちかけている。
それに勝てば、見つけられれば十文座家として俺にかかわるとそんな風に餌をまいて。
翔兄がいっていた面白いものがすきって性格は確かにそうなんだろう。愉快犯だからこそ、俺たちでこいつは遊ぼうとしている。
「もう、行くぞ。用は済んだだろう」
あまり言葉を発さないもう一人は、そう告げると、笑っているそいつを抱え込んだ。
同じぐらいの身長しかないように思えるのに、軽々と持っている。
「もうちょっと丁寧に持って」
「はいはい」
文句を聞き流したかと思えば、抱えたままテラスを飛び越えた。
「え」
それなりの高さがある。人を一人抱えたまま飛び越えるなんて正気の沙汰ではない。
だけど、
「では、またお会いできることを楽しみにしておりますよ」
抱えられたままのそいつは平然と笑い、抱えているもう一人は事もなさげに着地して抱えたまま去って行った。
「………この高さを、一人抱えて、着地?」
「あのもう一人の方も、十文座家の本家に近い血筋なのかもな」
隗のつぶやきに翔兄はそう答えた。
本家に近い血筋か。とりあえず、俺と隗がすべきことは、十文座家と親しい生徒を探すゲームを行う事。探し出すことが出来るかはわからないけれど―――、それでも俺は探し出したい。




