元彼+葉月がやってきました。
*渕上隗side
俺と理人は、転入生――あの寺口葉月と、理人の元彼らしい、吉井千尋って奴を迎えに校門に向かっている。
周りの生徒達が理人を罵倒してるが、俺も理人もとくに気にしない。
というか、理人の元彼って……、正直どんな奴か興味ある。
何故わざわざ迎えに向かっているかといえば、この学園はセキュリティー万全だからだ。簡単には入れない。中から許可がなければ入れないのだ。
校門の前へとたどり着けば、
「千尋! 理人は俺の!」
「りーは葉月さんに興味ないじゃん、嘘吐かないで!」
校門の向こうで、言い争ってる声が聞こえた。
……明らかにあの寺口葉月と、理人の元彼だな、これ。
隣の理人を見れば、理人は一回大きくため息を吐いて、その影に声をかける。
「葉月、千尋、開けるからちょっと待って」
「りーっ」
「理人ぉおおーー!!」
門を開けた瞬間、理人へと飛びかかろうとする二人。
赤い髪の大男、寺口葉月。
栗色の髪をした俺と同じぐらいの背の男、吉井千尋。
そんな二人から、理人はさっと体をそらした。
そうして、勢いあまって、倒れそうになる二人。
「うぅ、りー、何で避けるの!」
「理人! 思いっきり抱きつかせてくれ!」
「はぁ? 葉月さんはりーに抱きついちゃだめだもん!」
「いいじゃねぇか! 俺は理人と同じ学園に通える喜びを味わいたいんだ! 大体千尋! お前理人と別れてんだから口出しすんな!」
「口出しするもんねー。俺りーの事まだ好きだもん、大好きだもん!!」
「はっ、別れてんだから諦めろ!」
「ふっ、相手にもされない葉月さんが何いってんのー?
俺はりーの元彼。葉月さんは相手にもされない!
立場で行ったら俺のが断然上でしょ」
「それでも、それでも俺は理人が大好きなんだぁあ!」
…いや、何この二人。
理人の元彼も、『クラッシュ』の総長も、恥ずかしくないのか?
こんなに大好きだのなんだの口にして。
「ねぇ、この人達いつもこうなのー?」
「…少なくとも千尋が海外行くまでいつもこの調子だったよ」
理人はそう言って、苦笑いする。
そうして、理人は二人の方を向いた。
「葉月、千尋。騒ぐのやめて。やめないと、俺一生口聞かなくなっちゃうよ?」
ピタッと会話をやめて、理人を見る二人。
それに、理人は満足げに笑う。
で、二人を連れてまずは理事長室へと向かう事になった。
その最中に、吉井が問いかける。
「りー、何で渕上隗と一緒に居るの?」
「成り行きで生徒会副会長にさせられてね」
どうやら、副会長に就任していた事を話してなかったらしく、理人はいった。
というか、俺も含めて顔がいい連中四人で歩いてるから周りの視線が凄まじい。
「え、理人、生徒会親衛隊やってんのに、いいのかそれ」
「…りー、生徒会の親衛隊なんてやってるの? え、何? りーの好きな奴が『ブレイク』のトップに居たりすんの?
そいつ誰? 誰なの? りーに好かれてる人って。
ねぇ、教えてりー」
「いや、別に生徒会とか興味ないし。俺ただ強姦嫌いで止めるために親衛隊入っただけだし
そして、千尋。カッター握りしめるのはよしなよね」
懐から取り出したカッターを握っている吉井。
……流石、理人の元彼というべきか。なんか、面白いというか、変人というか。
とりあえず、俺は好奇心で聞いてみる。
「何でカッターなんてもってるのー? そして何で握りしめてんのー?」
「渕上隗――もう、隗ってよぶね?
何でカッター持ってるかって、カッター便利何だよ?
むかつく奴脅したり、ちょっとやりすぎな奴の肌切ってみたりね?
ふふ、思わずカッター握りしめちゃったのはね。俺のりーの寵愛を受けてる人間をボッコボコな無様な姿にして、りーに愛想尽かれちゃえばいいのにーって思って。
ま、りーの好きな人が居ないならいいんだけどね?」
こいつ、危ねぇ! 真っ先に感じた事はそれである。
まぁ、面白いとは思うけど。こういう奴周りに居ないから。
「じゃあ、僕は千尋って呼んでいー?」
「うん。いーよ!」
「…渕上何で猫かぶってんの?」
「寺口葉月さー、ちょっと黙ってー?」
あの害虫潰した場に寺口葉月もいたから、こいつ俺の素の性格知ってんだよなぁ。
千尋が不思議そうな顔してるけど、説明するとしたら後でだ。
理事長室の前にたどり着く。理人は軽く理事長室をノックすると、中へと入った。
「理事長、連れてきたよ」
…何で理人、理事長にため口なんだ? と謎だが、こいつの事だから色んな所に伝手ありそう。
理人って思えば色々謎なんだよな。こいつは俺が思っているより色々と面白い事を抱えてそうだから楽しい。
「あ、渉さんだ!」
「千尋、知り合いなの?」
「ふふ、ちょっとねー」
俺の言葉に、千尋は一瞬理人の方を向いて、面白そうに笑った。
「じゃあ、理人君と隗君はもう行っていいぞ。葉月君と千尋君には俺から説明をするから」
「わかった。じゃあ、隗いこっか」
「うんっ」
そうして、俺と理人は理事長室から出ていくのであった。
*龍宮理人side
俺と隗は、葉月達を案内した後に、生徒会室に向かっていた。
転入生を理事長室に送り届けた事を会長に報告しないといけないからだ。
生徒会室の扉を開ければ、会長、安住君、そして、何故か真希が居た。
「真希、何でいんの?」
「あー、由月に連れてこられた」
その言葉に、俺は納得する。
真希は、安住君に気にいられているから、連れてこられたのだろう。現に安住君は、真希にべったりと密着している。
本当安住君が真希にどういう感情持っているかは気になるなー。
「…佐原理人」
安住君と真希を見ていたら会長に話しかけられた。何か言いたげな表情が気持ち悪い。
「何ですか、会長」
「お、お前の元彼や寺口じゃなくて俺と――」
「付き合いませんから気持ち悪い事いわないでください。
第一、千尋や葉月とも付き合う気なんて全くないんですけど」
俺、付き合ってもいいかなってレベルに好きにならなきゃ付き合わない人間だしねぇ。
つか、会長事あるごとに口説いてきて、気持ち悪い。
「理人、理人!!
理人の元彼ってどんな性格?王道転入生になりそう? てか、総受けにぜひなってほしい! 香川の時失敗したから、ぜひとも!!」
千尋の事を口にしたからか、何か、興奮気味に真希が俺に近づいてきていった。
総受け……千尋が愛され役。
んー、その素質っぽいものあるかもだけど、千尋見た目は可愛いし。
ただ、あいつは真希に見せられたBL小説の主人公みたいに無自覚でもないし、どっちかっていうと自覚ありで自分の都合のよいように動かすからなぁ…。
それに、千尋って、俺以外に執着してないっぽいから、真希の望む通りにはならないと思う。
前に無理やりキスしてきた女に切れて暴走してたし。
「総受け、はありえないと思う。
つか無理やりキスとかされればあいつ暴走して危ないしな」
「暴走って? 何、まさかのヤンデレ? ヤンデレなの?」
「…さぁ? ヤンデレかどうかはわからないけど、千尋が海外に行く時、別れるって言ったらすげぇ、危ない事いってたな」
別れよう、って言った瞬間、『え、りー好きな人でも出来たの?誰、誰なの?俺のりーだよ。俺のりー、奪うの誰?』と言いだしたからなぁ。
うん、どうにか別れる事承諾してもらったけど、相変わらず暴走気味な所は変わってないっぽい。
というか、毛玉君って真希と千尋が好きだったらしいけど。
千尋って毛玉君じゃ手に負えないよね、今考えれば。
というか、毛玉君前にしたら千尋絶対カッターで黙らせようとすると思う。
俺に迷惑かけてる奴に容赦ない所あるし、殺傷沙汰になってた可能性が…。
「てかさ、理人」
「ん、なぁに?」
「あの二人多分すぐ親衛隊出来るだろうけど。生徒会入りに加え、転入生二人と仲良かったら理人滅茶苦茶狙われそうじゃね?」
「まぁ、そうだねぇ。ま、俺なら平気だよ。何かあったら愛ちゃんにでも助けてもらうし」
隗の言葉に、俺は笑ってそう言った。
生徒会親衛隊って、メンバーかなり居るからね。
それを動かす権限俺持ってるし。
でも本当隗の言うとおり、あの二人すぐに親衛隊出来そう。
それに加えて、俺について回る事絶対間違いなしだからね、あの二人は。
「それなら、佐原理人は俺様が守る!」
「うわ、何気持ち悪い事いってんですか。何で俺が会長何かに守られなきゃならないんですか?
てかさ、隗。一人が危険かもっていうなら、俺が授業出る時隗も授業行かない?」
「あー、授業か、全然いってないからたまにならいいぞ」
「てかね、俺のお友達の春ちゃんに危害加わらないか心配だからちょくちょく教室行こうかなって思ってさ」
この学園の親衛隊って基本的に過激だからねぇ。
俺は自分で対処できるとしても、春ちゃんって自分を守る力持ってないから心配でたまらない。
まぁ、親衛隊の子にももちろん頼むけどね。用心に越した事はないし。
「つかさ、思ったんだけど、理人って今までサボりまくってたよな。生徒会に入ってなくても」
「そりゃあ、俺学年首席だよ? 成績。それで成績優秀者の特権だよ、特権!」
「…理人が主席だったのか」
隗は知らなかったらしく、驚いたような顔をした。
まぁ無理もないよね。
俺渉兄に頼んでそういう情報回らないようにしてたし。
「ふふ、ちなみにねー、次席は春ちゃんなんだよ! 隗も頭いいの?」
「俺、一応学年四番のはず」
「へぇ…。あのね、春ちゃんって次席なのに真面目でいつも授業出てるんだよね」
春ちゃんは本当真面目だからね。
授業中に春ちゃんに何かする輩もいるかもだし。
んー、やっぱ、俺と真希で気をつけるのが一番かなーと思う。
「腹黒×ヤンデレ。ヤンデレが受けで、理人が攻めで、それで……これはっブツブツ」
「…真希、妄想の世界から帰ってきなよ」
少し黙ってるなと思ったら、ブツブツ妄想していたらしい。
真希って、男同士のあれこれ見るの好きだからね。
俺と真希は見たこともない千尋で色々妄想していた模様。
「だって、理人の元彼がヤンデレとか予想外! 危険人物って、理人って愛玩動物っぽい、男の子愛でてたのかと思ってた!」
「いや、千尋可愛い系だよ? 常にカッター持ってるし、色々危ない発言してるけど」
「可愛い系の危ない奴……。
理人、そんな総受けなりそうな物件何処で見つけたの!?」
「いや、総受けなんないって、千尋多分、なっても真希が望むようにはなんないと思うんだけど。
千尋俺と違って口だけじゃなくていらつくと手がすぐでるから」
俺は会長に口説かれても、毒舌吐く程度だけど、千尋はしつこすぎると手が出るからね。
仮にも『クラッシュ』の幹部やってたわけだし。タチの男が千尋襲おうとしてボロボロにさせられてたの見た事ある。
もちろん俺と付き合ってる間にそんな奴居たら俺もぼこしたけど。
「で、で、何処で出会ったの?」
「何処でってか、夜の街で千尋が喧嘩してる場面に出会って。
あー、そういえば初めてであった時、殺すよ? ってカッター向けられたな」
そうそう、千尋が暴走してて、流石にやりすぎだからって止めようとしたらカッター顔に向けられたんだよね。
初対面でカッター向けられて内心ちょっとびっくりしたんだけど、それと同時に面白そうって思ったんだよね。
「初対面でカッター…、それは面白いな」
「だよねー。隗ならそう言ってくれると思ってた。
他の知り合いさ、初対面でカッター向けられてよく付き合ったなって感想ばっかなんだよね。
俺が千尋みたいな面白い存在に興味持たないはずないのにさ」
結構俺と千尋の共通の知り合いは、そう言ってたんだよね。
初対面でそれでよく付き合ったなと。
カッター初対面で向けてくる奴なんて他に居ないし、俺は滅茶苦茶興味深かったんだけどね。
普通びびる、だの、普通なら二度と関わりたくない、だの色々言われたんだよね。
「…それ、あた……前。
ふつ……びび、る」
「えー、安住君びびるの? カッター初対面で持ちだして脅してくるとか面白くない?」
「てか、理人その時どうしたんだ?」
「え、もちろん。カッターを弾き飛ばして、千尋の首しめて脅したけど」
だって、刃物持ち出したって事はこっちを傷つける気満々って事でしょ?
千尋の目本気ぽかったし、本気の奴には本気でぶつかるのが一番でしょって事で首絞めて見たんだよね☆
「何だその出会いは! そして貴様の元彼も首絞められて何故付き合ったんだ!?」
「え、何でって運命的な出会いだったからだよー?
りーって本当最高何だよ? 俺りーの事だーいすき!」
……突然千尋の声が聞こえたかと思って振り返れば、いつの間にか生徒会室に入ってきていた千尋と葉月が居た。
「りーっ!」
また抱きついてこようとする千尋から俺はさっと避ける。
ついでに近づいてきて、俺を抱きしめようとしてくる葉月からも避ける。
「うー、りーりー、俺りーに抱きつきたいよ!」
「理人! 俺も思いっきり抱きしめたい」
「両方却下」
俺はそう言って、二人を見る。
「貴様が佐原理人の元彼か?」
「ん? りーこいつって『ブレイク』の俺様総長だよね! ふふ、そうだよー。俺はりーのものなんだよ?」
「別れてるだろ、千尋。お前もう理人のモノじゃないだろ」
会話を始めた、会長、千尋、葉月。
…隣でキラキラした目で千尋を見ている真希はとりあえず無視しておく。
「別れてても俺はりーのだもーん! りー以外のものなんかならないもん! 俺りー大好きだもん。寧ろりーさえ居ればいいもん。
他の人間全員破滅しても支障ないもん」
「千尋! お前恐ろしい事言うな! 大体俺だって理人が好きなんだよ! お前別れてんだろーが!」
「ふっ、佐原理人はいずれ俺様の物になるんだ。貴様らのものではない」
とりあえず、一言言いたい。
お前ら、本人おいて何話してんの。
そして、会長、会長のものになる気はないから気色悪い事言うのやめてくれないかな?
「りーがあんたの物になるわけないじゃんか。そもそもりー、生徒会に好きな人居ないっていってたもん。
りー俺に嘘はつかないもん。え、てか何? 東宮もりーが好きなの?」
「いや、何れ佐原理人は俺様の魅力に――」
「……だから気色悪い事言わないでください」
思わずうんざりして口をはさむ。
そもそも、自分で俺様の魅力がどうのこうの言うって痛い奴だよね。
「いや、貴様は俺様のモノになる。俺様は貴様を――」
「だから、やめてください。鳥肌立ちますから」
そう言っていれば、突然、会長の顔付近に何かが飛んできた。
会長はそれをさっと避ける。
飛んできた”ソレ”はドスッと、先ほどまで会長が居た場所の後ろの壁に突き刺さる。
……飛んできたのはカッターだ。
「………っ」
会長は青ざめた顔で、カッターを投げてきたであろう千尋を見た。
にっこりと笑う、千尋を見て俺はただ相変わらずだなと思う。
「りー嫌がってるじゃん。嫌がってるりー口説くとか何やってるの? 俺の大事なりーの嫌がる事しないでくれる?
俺ね、りーが楽しそうに笑ってる時が一番だーいすきなんだ。だからね、りーをうんざりとかさせないでくれる?
りー優しいから口説くぐらいじゃ手は出さないだろうけど、俺は違うからね? りーの嫌がる事するならさしちゃうよ? 殴っちゃうよ? 剥いじゃうよ?」
「千尋、ストップ」
何処までも危ない発言を言い放つ千尋を俺は止める。
千尋の事だから本当にやりかねない。
「え、りー。こんなの庇うの? え、え、りーに庇われてるの、こんなのが?」
「んー、庇ってるっていうか、どうでもいいから、会長なんて」
「…佐原理人、貴様―――」
会長が何か言おうとしてるけど、それは無視して俺は千尋に言う。
「昔も言ったけど、俺千尋に人傷つけてほしくないんだ。だからさ、そういう事しちゃダメだよ?」
「んー、りーは誰かを傷つける俺嫌いー?」
「本当にむかつく奴ぶちのめすのはどうとも言わないけど、その暴走しやすい所はどうにかしないと俺が困るんだよね」
「うん。じゃあ気をつける! 俺りーを困らせたくないもん」
にこにこと笑う、千尋。
本当、こんな笑顔だけ見てたら危険そうに見えないのに、千尋は危険思考だからな。
まぁ、そのギャップがいいんだろうけど。
思わずその笑顔に、千尋の頭を俺はなでた。
そうすれば、千尋は嬉しそうに笑った。
「千尋! ずりぃぞ! 俺も理人に密着したい」
「俺可愛い子はなでたくなるもん」
「うぅ…俺が可愛ければっ!!」
「葉月はどっちかっていうとかっこいい系でしょ?
てか、可愛い葉月って葉月じゃないって、寧ろそれ」
本当、葉月が可愛い男の子だったらおかしいよ。
葉月は葉月だし、可愛い系にいきなり変貌したらびっくりする。
そんな、俺らの様子を、真希はキラキラした目で見つめ、隗は面白そうに見ていた。