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文化祭を楽しみましょう 1

 『…不本意ながら、文化祭開催の挨拶をしろと言われたので、開幕の合図をします』

 ――文化祭当日、不機嫌そうな俺の声が、マイク越しに響く。

 そもそも開幕の合図、なんて会長がするはずなのにいきなり俺にしろとか言い出して、いきなり体育館の裏方に引っ張り込まれたのだ。

 文化祭とはいっても舞台上でやる劇とかの司会は放送部がやるわけで、生徒会なんて生徒会の挨拶程度しか開会式での仕事なんてない。

 だからのんびりとクラスにいようと思ったのに、いきなり教室にやってきた会長に手を引かれて、俺は今舞台に立っている。

 ……つーか、会長に腕つかまれて引かれたとかなんか気持ち悪い。

 俺会長嫌いだし、手を引かれるなんて真似されてますます苛々してくる。

 「不本意なら出てくんじゃねぇよ! 親衛隊のくせに、生徒会入りなんて―」

 『……今いったバカは誰? 出てきて、つか、差し出してくれない? そんな口利けなくしてあげるから』

 あんだけ、やったのにまだそんな事を言うバカが居たのかと、冷めた気持ちになりながらもそう言えば、体育館は一斉に静まり返った。

 『出てこないの? まあそれならそれでもいいけど。

 一つ、誤解してるみたいだから言わせてもらうとさ、俺親衛隊入ってても別に生徒会が好きなわけでもなんでもないんだよね』

 本当、俺が親衛隊だから生徒会に盲目的な愛情があるみたいなのさ、馬鹿みたいな話だよね

 親衛隊=生徒会信者ってのも違うしね。

 親衛隊の中には和志先輩みたいに腐男子だからとか恋愛感情抜きに生徒会を慕ってるからとか色々あるわけだしさ。

 『俺はね、可愛い親衛隊にいるわんこたちのが生徒会より好きだし。

 まあ面白い隗はともかくとして会長は親衛隊の子に態度ひどかったから嫌いだし、渕上君や安住君には対して興味もない』

 ぶっちゃけた話をすれば、ざわめきだす生徒たち。

 俺はそんな生徒たちを気にせず続ける。

 『つか会長に腕捕まれたとか気持ち悪すぎるし』

 「……佐原理人」

 『なんですか、会長』

 「ひどすぎるだろ!」

 『本心ですから。そもそも俺が開幕の挨拶しなきゃいけないのも会長がいきなり押しつけてきたからでしょう?』

 舞台裏から俺に近づいてきて話しかけてくる会長に向かってマイクを通したまま言葉を続ける。

 「だからって……」

 『ぐたぐたうっさいです。というかですね、俺が会長何かの仕事押し付けられた理由は何ですか?』

 「いや、その、だな……」

 なぜかどもる会長。

 正直に言うと見ていて気持ち悪い。

 なんだか言いにくそうな会長にさめた心しか浮かばない。

 「一緒に、だな……やりたくてな」

 ボソッと会長がいった台詞はどうやら周りには聞こえてなかったみたいで安堵する。

 会長の発言で生徒たちに勘違いされるとか気持ち悪すぎる。

 とりあえず、

 『気持ち悪いんで失せてください』

 心底気持ち悪くてそんな台詞を放った。

 「会長様になんてことをっ」

 「会長にあんな口聞くなんて」

 「つかマイク越しなのに思いっきりひでえ」

 そうやって周りが口々に言葉をこぼす中、ふと誰かが呟いた。

 「……何で親衛隊は何も文句いってないんだ?」

 その場に響いたその声に親衛隊メンバー以外の生徒達が一瞬静かになった。

 彼らにはわからないのだろう。

 過激なはずの生徒会親衛隊が、メンバーの一人が生徒会に入るという出来事に反発がないという事実に。

 副会長や下半身を潰した時にやめた人間も確かに居た。

 だけど、今親衛隊に残ってるメンバーは俺が副会長達を潰したっていうのに俺を慕ってくれてる子ばかりだ。

 まあ、この学園に中等部で編入してきてから親衛隊に入ってきっちり飴と鞭使い分けてわんこ達かわいがったからな。

 『ふふ、親衛隊が何で何もいってないかって?

 俺ね、生徒会親衛隊の子とものすごーく仲良しなの』

 にっこり笑いながらそう言えば、何人かが、『笑顔可愛い』とか呟いてて気持ち悪かった。

 俺の言葉に、周りがざわめきだす。

 『俺はね、二年前に此処にきて、親衛隊入ってからずーっと、親衛隊の子と仲良くしてんの。

 中等部と高等部、全部合わせて700人近くの親衛隊メンバー、全員俺は知っている』

 覚えようと思えば、全校生徒だって覚えられると思うけど、対して興味もないから覚えない。

 今親衛隊に残ってる子達は可愛い子とか、ばっか。

 和志先輩みたいに腐った人間も居るけど、面白い人間は俺好きだし。

 『誰も仲良い人間を害しようとはしないでしょ?

 ねー、愛ちゃんも和志先輩も、猿渡君も、みーんな、俺の味方でしょ?』

 って、舞台の上から生徒達を見下ろす。

 そうすれば、可愛いわんこ達は言葉を零してくれる。

 「当たり前です、理人さん!」

 「理人君を敵になんて回せないよ」

 「散々、お世話になってるし…」

 「理人様かっこいいですー」

 「今まで目立ちたくないって理人様いってて騒げなかったから副会長なってくれて嬉しいです」

 「えー、てか僕生徒会ってより、理人さんのファンだし…」

 「ふっ、俺は萌えさえ見えれば全てよしっ。ま、理人は大事な後輩だしな」

 「理人さんっ、俺は理人さんの味方です」

 「てか、理人さん敵に回すとか、僕ら敵に回すのと同じだしねー」

 「うんうん。俺達理人さん、大好きだし」

 「理人さん、優しいもんね」

 「敵には容赦なくても僕らには優しいもんっ」

 「理人君、笑顔可愛いしかっこいいし、大事なお友達!」

 次々に声を上げる、親衛隊メンバー達。

 本当、俺に忠実で可愛い子達。

 俺が目立ちたくないっていってたからって、俺が親衛隊隊長だってわからないようにずっと動いてくれていた子達。

 まぁ、今も皆愛ちゃんが隊長だと思ってるしね。

 「りーっ、俺もりー大好き! りーのためなら何だってするもんねー」

 「俺も俺も! 理人大好き、つか、もう愛してる」

 千尋と葉月も何故か親衛隊メンバーの発言に参戦して声を上げる。

 『まぁね、俺ってね、親衛隊の子とご覧の通り仲良しなわけ。

 正直のんびりマイペースに学園生活遅れればよかったんだけどさー。まぁ、色々あって会長達と知り合っちゃうし?

 副会長になれとかいきなり言われちゃうしさ。俺親衛隊なんだけどね。

とはいっても面白そうだし、別にいいけど。

 たださ―――』

 俺はそう言って、舞台の上から生徒達を見下ろせて笑う。

 『なんていうの?

 俺が生徒会に媚びうって、生徒会が大好きな親衛隊なのに生徒会に入ってるとかいうアホな認識むかつくわけ。

 そもそも抱きたい、抱かれたいランキングで、生徒会って決まるものだし?そういうのなしで生徒会って何か、贔屓っつか、なんか嫌なんだよねー。

 というわけで、わんこ達。

 今までいれちゃだめっていってたけど、次から俺にもランキング投票オッケーだから。

 目立ちたくなかったけど、もう目立っちゃってるし? どうせならとことん、目立って暴れちゃいたいからね』

 抱きたい、抱かれたいランキング上位者が生徒会やるのが此処の決まりだからね。

 決まりを無視して、会長に気にいられたっつか、そんな理由で生徒会に居るとか嫌だし?

 そもそも、親衛隊のわんこ達はランキングで俺に投票したかったらしいけど、俺が目立ちたくないっていったからやめてたらしいし。

 俺の事慕ってくれてる可愛いわんこ達って本当可愛いの。

 俺の嫌がる事しないみたいな? 俺に絶対服従みたいな?

 本当、聞きわけがよくて、忠実で可愛いんだよねぇ。

 「マジですか、理人さんっ!!」

 「とことん目立つって事はもう騒いでもいいんですよね!!」

 「りっちゃんにいれていいの? じゃあ次の奴俺りっちゃんにもいれるー」

 「理人様! 僕たち生徒会親衛隊は次のランキングで必ず理人様に投票しますね!」

 「理人さん、かっこいいもんね」

 「理人さん、カリスマ性あるからなぁ。僕理人さんが副会長になってくれてうれしかったしー」

 うんうん。いい子ばっかで思わず頭なでたくなっちゃう。

 次の親衛隊会議の時、クッキーとかプリンとか作ってもっていってあげよう。

 ちなみに言うと一般生徒は大分フリーズしてる。

 隣にいまだに居る、会長も。

 「さ、佐原理人」

 『なんですか会長、さっき気持ち悪いんで失せてくださいって俺いいましたよね?』

 「そ、そんな事言うな! それより、これは、どういう…」

 『どういうも何も、生徒会親衛隊は俺の支配下も同然です。そもそもですね、親衛隊無所属の生徒達って、生徒会親衛隊過激だっておもってますけど、今は違います。

 つか、会長も過激だと思いこんで愛ちゃん達傷つけましたしね。あー、愛ちゃん達が悲しまないってわかってたらとっくに潰してます

 まぁ、今は改善してますから、潰す必要はないですけど、個人的に会長ってキモイんですよね』

 まぁ、こんな事べらべら喋ってんのは、勢いで親衛隊が過激じゃないって事言っちゃおうかななんておもって。

 だって、俺の可愛いわんこ達が、俺の下で忠実なわんこ達が、淫乱なんておもわれてるの、嫌だし。

 『まぁ、なんかへこんでる会長はキモイんで置いておきます。

 俺はですね、強姦とかそんなの大嫌いなんですよ。よって、生徒会親衛隊でそんな真似しようとするバカは俺が排除しました。

 聞きわけのないバカはぼこすでも何でもするとか排除するのが一番でしょう?

 ちなみに言うと、別に親衛隊だからって淫乱なわけないし、誰にでも股開くみたいにおもってるとかどんだけバカなんだよって感じだし

 まぁ、性生活なんて人それぞれですし? 一途な子もいればゆるい子もいるでしょ。

 あ、一個俺に淫乱とかふざけた事言うバカにいいたい事はですね。

 何で俺がつっこまれるなんて想像されなきゃいけないんですか?

 俺はタチ何で気持ち悪い想像するなら、潰しますよ、急所を』

 一気に青ざめている生徒達が、何だか愉快だった。

 『あ、でも潰したりなんかしたら、汚いですね。ここはばっさりと去勢なんてどうでしょう?

 俺さっきも言った通り、無理やりって嫌いなんですよね。これから強姦なんてバカな真似した人間は去勢させるってどうでしょうか?

 やらなければそんな恐ろしい心配ないわけですし』

 そう言って笑えば、顔を赤くしてる人間と顔を青ざめている人間が沢山居た。

 青ざめてるって、俺をネコとして見てたって事だよねー。

 うわー、気持ち悪い。

 『あ、あと生徒会親衛隊は俺の大事な子達なので、傷つけたら俺がしっかり報復してあげますから。

 いいたいのは、それだけです。

 じゃあ、これより文化祭を始めます。

 気持ち切り替えて頑張ってください。

 あ、俺のクラスコスプレ喫茶なんで売上に貢献していただければ助かりますかね』

 そう言って笑顔を浮かべたのはわざとだ。

 だって、俺の笑顔って結構可愛いらしいし?

 どうせ文化祭やるなら一位がいいでしょ、もちろん。

 だから振りまいてみたんだよねー。

 ふふっ、これで俺もランキングに参戦する事になるけど、今度のランキングどうなるか楽しみだなぁ。

 なんておもいながら俺は舞台を後にした。






 *松井俊樹side



 ああ、もう理人様かっこいい。

 理人様、可愛い。

 胸がドキドキする。

 初めて会った時から理人様はあんな感じで、まぁだから僕は理人様に惚れて、好きでもない副会長の親衛隊隊長にまで上り詰めた。

 ……理人様に近づきたくて。

 副会長と会計が理人様に潰されて、理人様が副会長になって、理人様が表舞台に立った事は正直嬉しい、けれども、複雑。

 理人様の事、僕は好きだけど、僕は理人様に付き合うとかは求めてない。

だって、恐れ多い。

 恋愛感情の好き、だけど、手に入らないという前提で好きなんだと思う。

 …ただ、理人様はもっと人気になったら遠い人になっちゃう気がする。

 理人様が僕たち親衛隊に優しくしてくれている事をしっているけど、それでもそんな事を考えてしまった。

 「……か、可愛い。見たか、あの笑顔」

 「確かに…。佐原ってよく見れば綺麗な顔してるし…」

 「毒舌最高、やべぇ、罵ってほしい」

 「大人しいかと思ってたのに、何あの非凡っぷり」

 「ああ、でも恐ろしい。マジ容赦ねぇ」

 周りの理人様に対する評価が変わってきている。

 理人様が、自ら変えたんだけれども。

 理人様は生徒会に入った。

 それなら、もう理人様個人への親衛隊を作ってもいいはずだ。

 それは、嬉しい。

 生徒会メンバーのほとんどは理人様のファンだ。理人様を友人と思ってたり、理人様を慕ってたり。

 理人様は強姦が嫌いっていうただそれだけで人を助ける。

 理人様は他人には容赦ない。でも、僕たちには優しい。

 悪い事をしたらしっかり、言う事聞くまで色々やって、あれだけまとまりのなかった生徒会親衛隊を完全に統一してる。

 ……理人様が、どれだけ容赦なくて、どれだけの事をしても、僕はきっと理人様を嫌いにはならないんだと思う。

 だって、理人様はそういう、人だから。

 僕たち親衛隊は理人様にそれだけ感謝してる。

 理人様にそれだけお世話になってる。

 愛斗なんて、生徒会長が大好きなくせに、理人様と生徒会長、どっちかを選べと言われたら困るなんていってたし。

 ああ。理人様。

 かっこよくて、可愛くて、毒舌で、だけれども、気にいった人間には優しい。

 誰かを潰す時のあの企む顔は綺麗で、思わず見とれてしまいそうだ。

 面白い事が大好きで、楽しそうに笑う。

 親衛隊の僕らが傷つけば、本気で怒ってくれる。

 可愛い、って頭をなでてもらえるのが、好きだ。

 嫌いな人は嫌いってばっさり言って、気にいった人間は気にいったってはっきりいう理人様。

 ……自由気ままに、自分のおもうままに生きてる理人様。

 そんなあなたにだからこそ、僕たち親衛隊は、従うんです。

 そんなあなただからこそ、僕たち親衛隊は、あなたを慕うんです。

 今度のランキングは、きっと面白い事になる。

 理人様。

 僕たち親衛隊は、あなたの望むままに動きます。

 だって、あなたが、大好きですから。






 *龍宮都side





 キキィ、キィ!

 そんな鳴き声の主に周りが注目しているのがわかる。

 ―――鳴いているのはかー兄の肩に止まっている二匹のコウモリだ。

 俺とかー兄は今りー兄の通う学園の文化祭に来ている。

 ちーさんも帰ってきてるし、葉月さんもいるし、楽しみ!

 「かー兄、まずはどこいく?」

 「もちろん、麻理に会いにいくに決まってんだろ。その後兄貴ん所いくぞ」

 かー兄はまーちゃんが大好きだ。

 かー兄もまーちゃんも非凡って感じして面白いし、かっこいいから大好き。

 まず、俺らは職員室に向かった。

 メールしたらそこにまーちゃん居るらしいから。

 エレベーターに乗って職員室のある三階に到着した。

 俺とかー兄が歩いていると色んな意味で目立つ。

 かー兄はイケメンだし、俺も可愛い顔立ちしてる自覚はある。

 というか周りに散々可愛いって言われてきたからそうなんだってわかってる。

 それにかー兄がコウモリつれてるから余計目立ってる。

 職員室の前にたどり着いて、扉をあければ、ちらほら人が見えた。

 「失礼する

 龍宮麻理はいるか?」

 かー兄はそういって周りを見渡した。

 「麻理先生に何かご用ですか?」

 そう言って話しかけてきたのは白衣を着たメガネをかけた先生だった。

 化学とかの先生だろうかなんてその姿を見ながら思う。

 「ああ。龍宮翔が来たと言ってくれ」

 「え、じゃああなたが…龍宮家の!

 今すぐ麻理先生をお呼びします」

 あわてたようにその先生はまーちゃんを呼びにいく。

 龍宮家の名前って特にこの学園では多大な影響力を持つ。

 まあだからこそ、りー兄は面白がって隠してるんだけど。

 しばらくして先ほどの先生が、まーちゃんを引き連れてやってきた。

 「翔! 来たんだな」

 「ああ」

 まーちゃんが嬉しそうに笑って話しかければ、かー兄も笑ってまーちゃんをみた。

 「今から兄貴ん所行く。麻理も一緒行こうぜ」

 「いいぞ」

 まーちゃんがそう言って頷いて俺たちは職員室を後にする。

 三人で廊下を歩きながら、俺はおもう。

 かー兄とまーちゃんはお似合いだなって。

 かー兄はイケメンで、女も男も寄ってくるけど、爬虫類好きだったり、性格がSな感じだから一生一緒にいれるっていう人はあんまり居ない。

 まーちゃんは美人だけども、性格は個性的で、どっちかっていうとまーちゃんの周りには対等より、『犬』が多い。

 本当に、お似合い。

 少しだけ、そういうの羨ましい。

 俺は気にいるぐらいならあるけど、そんなのはないから。

 気にいったら男でも女でも食っちゃうけど、別にそこに執着心も何もないし。

 またエレベーターにのって、理事長室に向かう。

 わた兄、元気してるかなぁと最近あってないわた兄をおもう。

 りー兄とかー兄ってわた兄にそこまで優しくない。俺は弟だし、可愛がってもらってるけど。

 だからわた兄ってあんまり実家に帰ってこない。

 だからちょっと会うの楽しみだ。

 というか、かー兄がコウモリ連れてきたのはわた兄を脅えさせて楽しもうとでもしてるのかもしれない。

 しばらく歩けば、理事長室に到着する。

 ノックもせずにその扉を開けるかー兄とまーちゃんは流石だと思った。

 「よう、兄貴」

 「よう、渉」

 「わた兄おひさー」

 「か、翔に、ま、麻理さんに、都…っ」

 かー兄とまーちゃんの声を聞いた瞬間、わた兄はこちらに視線を向けてそんな言葉を放った。

 キィイイと鳴く、コウモリを前に、わた兄は脅えたような声を発する。

 「な、何で、コウモリなんか…」

 「はぁ? 何でって可愛いから」

 「か、可愛いって、気持ち悪いだけじゃ…」

 「は? こいつらより兄貴の方がきもいだろ。そもそも一学期散々理人に迷惑かけたんだろ?

 本当兄貴って、馬鹿だよなぁ? 田中さんっていう恋人がいるってのによぉ?」

 そういえば、りー兄に散々迷惑かけたあのまりもって、わた兄の浮気相手の子供だったんだっけ。

 うん…。浮気は駄目だよ、わた兄。

 そこは流石に俺も庇えない。

 りー兄もかー兄もそういうの嫌いだもんね。

 「本当、あのクソ、あたしにも迷惑かけやがったからな」

 あ、まーちゃんが苛々してる。

 そういえば、まーちゃんはあのまりもの担任させられてたんだっけ。

 「ひっ、す、すみません!!」

 そして、わた兄、流石に情けないよ!!

 弟とその奥さんに滅茶苦茶頭下げてるって…。

 「かー兄もまーちゃんもそれぐらいにしてやりなよ。わた兄だって反省してるって」

 「…都っ!」

 わた兄が嬉しそうな顔をしてこちらを見てくる。

 「都は優しいな」

 「んー、かー兄とりー兄のわた兄への態度がひどいんだと思うけど」

 俺はそうして苦笑いを浮かべた。



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