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もうすぐ、文化祭はやってくる。

   *島根和志side




 文化祭を控えた、ある日、週末開け。

 朝起きたら、彼女の夏美からメールが届いていたのに気付く。

 『和志ー、起きてるかぁ?』

 『…寝てるか。

 とりあえず、起きたら連絡プリーズですよ!!』

 なんて、書かれてる二通のメール。

 …つか、昨日は眠くて早く寝たからな、全然気付いてなかった。

 それにしても、緊急っぽく連絡しろとは何事なんだろうか。

 そんな事をおもいながら、スマホを耳に当て、連絡をする。

 プルルルッ、としばらく音がなり、夏美が電話に出た。

 『おー、和志おはよー』

 「ああ、おはよう。で、このメールはなんなわけ?」

 『昨日さー、ある暴走族が潰されたんだよねー。でさ、その潰したメンバー四人居るんだけど。

 一人は『銀猫』で、あとが、わからなかったんだけどさ。和志の学校に入っていったのは確認済みなんだよねぇー』

 何て言う、声が響く。

 …夏美は、ハッキングとかそういうの得意だ。

 それに、漫画とか小説の萌え要素って結構不良に関わってたりするから喜んで調べているらしい。

 まぁ、情報屋なんて大層なものはやっていないけれども、時たま気まぐれにネット上に情報を流したりする、それが夏美だ。

 そもそも俺と夏美が接触をしたのは、はじめはインターネット上だった。

 家の関係で、夏美の家は中学校からしか学校には行かない、という事になっている。

 俺より二つ下の夏美と出会ったのは、俺が中二の時、気まぐれにネット上に顔出していた夏美と知り合った。

 スカイプなんていう便利な機能で会話をかわして、まぁそうして実際に会って、中三の時に13歳の夏美と付き合いだしたわけだ。

 夏美の家は正直複雑だ。

 まず婚約者が出来るまで性別を逆にする風習がある。

 それに加え、基本的に全てを隠すようなそんな一族というか、一家なのだ。

 夏美の弟と妹は立派に女装、男装して生きてるらしい。

 俺もあった事ない。

 本当に婚約者出来るまで最低限に隠さなきゃらしい。

 「ふぅん、うちの学校? 『銀猫』っていえば、菅崎真希の事だろ?」

 …実はというと、俺も少しは不良に関わってた時期が、というかはっちゃけて時期があって、菅崎の事を知っている。

 『銀猫』=菅崎って情報を昔知ったのだ。

 それにしても、菅崎と一緒に暴れたか…。

 ……なんとなくだか、一人は理人な気がする。

 あいつ、喧嘩とか強そうだし。

 『そうそう、てか『銀猫』って彼氏出来たんでしょ。キャーって感じ。

 菅崎組の時期組長でありながら男前な彼氏に攻められるんでしょ!! もう、萌えるわよね。

 もう、和志の送ってくれた写真見て、『銀猫』と彼氏さん、滅茶苦茶応援したくなったもの』

 「だよな。なんつーの、ヤった後の菅崎見て俺滅茶苦茶興奮したからな。

マジ、萌えるから!!」

 『だよね!!

 あー、もう私が男だったら絶対乗り込むのに。そして萌えを見るのにぃい』

 「ちょ、それ困る。俺ノーマル。腐男子でもノーマル!

 あ、でも夏美なら男でも好きになったかもだけど」

 『きゃー。和志ってば嬉しい事いってくれるわねぇ。あ、でも、うちん家に生まれたからには異性と付き合わなきゃ色々面倒だったから、やっぱり、私女でよかったかもー』

 …あ、つか四人組が暴走族潰したっていう話が滅茶苦茶それてる気がする。

 まぁ、夏美と話してると結構それるんだ、話。

 「あー、話戻すけど、菅崎と暴れてたんだろ?

 だったら、一人はなんとなく暴れてる奴わかるかも」

 『マ・ジで? その子どんな子? 族潰すなんて滅茶苦茶面白い事してるんだから、いい性格してるんでしょう?』

 「前に話しただろ? 親衛隊隊長の癖に副会長になった奴。そいつ」

 『噂の理人君ね!!

 もう、隊長でありながら副会長ってあたり、非王道でもう興奮するわ。理人君には彼氏候補とか居ないの?』

 「それがさ、理人ってば、3人から告白されてんだって。しかも、風紀委員長とも結構仲良いみたいだし」

 『三人…っ!! どんな素晴らしいお方が理人君を攻めようとしているの?』

 「夏美、理人はタチだぞ?」

 『知ってるわよ。そんな事。でも写真見せてもらったら、なんかネコもいけると思うのよ。ぜひ攻められる快感にでも溺れちゃえば萌える』

 まぁ、俺も夏美同様、理人はネコもいけると思う。

 あいつ、可愛いとかっこいいが見事に混ざってるような奴だからな。

 …本人にいったら、絶対嫌だと断られたけど。

 「まぁ、俺が確認した理人に告白した奴は、まず一人目が会長」

 『親衛隊隊長と会長のラブストーリーってわけね、それはそれでいいわ。

 和志ん所の生徒会長って、見事に俺様なんでしょう?

 それならやっぱ、くっつくなら理人君って受けかしら?』

 夏美の息が荒れているのがわかる。

 というか、俺が腐男子になったのは夏美の影響である。

 「理人いわくヘタレらしいぞ?」

 『ヘタレ会長か! それはそれでいいわ!! で、後の二人は?』

 「二人目、このへん最強の暴走族、『クラッシュ』総長、寺口葉月」

 『会長に、総長ってくるわけね! いいわ。このままもっともっと惚れさせて総受けにでもなってしまえばいいのにっ!! あ。和志は理人君に惚れちゃだめよ? 私のだし』

 夏美…さらっと私のだしとか言うな。何か、照れる。

 総受けねぇ…。俺総受けより、固定のラブラブのが結構好きだしなぁ。

 それに理人が総受けは何か違うし。

 「惚れるわけないし、夏美居るし。

 あ、そうそう、で、理人に惚れてる三人目がさ、理人の元彼で元『クラッシュ』幹部の吉井千尋って奴」

 そう言えば、夏美はまた、嬉しそうに声をあげた。

 『…元彼って響きが何かいいよ! ああ、もう、理人君ってばもてもてで、いいわ。生で見たくなってきちゃう』

 「なら、文化祭くれば?

 俺が招待状送るし」

 うちの学校は名門校だし、来るには招待状が居るのだ。

 まぁ、高値で取引されている場合もあるけれども。

 『行く行くー!!!』

 そうして、俺の恋人である夏美は、文化祭に来る事になった。






 *龍宮理人side



 「あ、小長井先輩、こんにちはー」

 のんびりと廊下を歩いていれば、前から小長井先輩が歩いてくるのが見えた。

 俺が話しかければ、小長井先輩はこちらに視線を向ける。

 「…佐原か、久しぶりだな」

 「久しぶりです。何してるんですか?」

 「風紀の見周りだ。佐原は何をしている?」

 「サボろうかと思いまして。それにしても風紀って大変ですね。授業中とかにも見回りしなきゃみたいですし」

 生徒会親衛隊は俺がしっかり管理しているから全然大丈夫なんだけど、他の親衛隊って過激な所ちょくちょくあるからねぇ。

 授業中であろうと風紀委員は結構大忙しだ。

 「サボりか…。授業受けずに成績は大丈夫なのか?」

 「心配してくれてるんですか? 大丈夫です。俺これでも主席なんで」

 そういって笑ったら驚いたような顔をされた。

 俺が主席ってそんなに意外なのかね。

 「そうか。サボってばかりいるのに……佐原は頭いいんだな」

 「そういう小長井先輩だって頭いいですよね? 和志先輩が言ってました」

 「あぁ、そういえば島根は親衛隊だったな

 ……会計の親衛隊だった気がするが」

 「そうです

 あの下半身の親衛隊隊長でしたよ。

 まあ、副会長と会計の親衛隊だった子たちでやめた子も居ますけど結構残りっぱなしですよ」

 副会長と会計を慕ってた子たちで止めちゃった子いるんだよね。

 残りっぱなしが圧倒的に多いけど。

 親衛隊の子達って本当に可愛い。

 俺の事慕ってくれて笑いかけてくれて、思わず守ってあげたくなる。

 「そうか。佐原は親衛隊を大切にしてるんだな」

 「そりゃそうですね。皆可愛いですし」

 「可愛いから好きなのか?」

 「そうですねー。俺って可愛い子とかっこいい奴と面白い奴が好きなんですよね」

 というか正直可愛くもかっこよくも面白くもない人間はどうでもいいかなって思う。

 お気に入りの子には笑っててほしいし、何かしてあげたいなって思うけどね。

 「ふふ、小長井先輩もお気に入りですよ?

 かっこいいってか、面白いキャラしてますし」

 そう言って笑えば、小長井先輩の頬が少し赤く染まった。

 照れてるんだろうか。

 まぁ、普段結構表情変えない小長井先輩が表情変えてるって面白い。

 「…佐原は、素直だよな」

 「そうかもです。まぁ自分の思うようにはっきりいいたいっていうのが俺ですし」

 可愛い子は思いっきり可愛がりたい。

 かっこいい奴とはおもっきり話したい。

 面白い奴とはおもいっきり遊びたい。

 って、そうおもうから。

 だから春ちゃんや愛ちゃんは可愛がりたいし、

 翔兄みたいなかっこいい男には憧れるし、

 小長井先輩みたいなかっこいい系とも話してみたいし、

 隗みたいな面白い人間とはおもいっきり遊びたいって思う。

 たった一度の人生だし、思いっきり楽しんで、思いっきり愉快な人生過ごしたいって思うし。

 「そういえば、小長井先輩のクラスって文化祭何するんですか?」

 「お化け屋敷だ」

 「へぇ、楽しそうですね、行きます」

 「佐原のクラスは?」

 「俺のクラスは喫茶店です。きてくれたらおもいっきりもてなしますよ?」

 「じゃあ、行く」

 「はい、楽しみにしてますね」

 俺がそうやって笑えば小長井先輩も笑った。

 「じゃあ、俺行きますね?」

 「ああ」

 そうして俺は小長井先輩に背を向けて、その場を後にする。

 ――小長井先輩が、俺の背中をじっと見つめていた事など、知る由もなしに。







 *柏木千春side





 「ねー、りーどこいったの?」

 教室で千尋がそういいながらこちらを見つめてくる。

 千尋は口を開けば理人のことばかりで本当に好きなんだなって何だか暖かい気持ちになってきた。

 一学期―――操には沢山の思いがむけられていたけど、それは独占欲や嫉妬にまみれた汚い感情だったから。

 そんな感情のせいで俺は――と思い出すと怖くなって体が大きく震えた。

 ……ぎゅっと自分の拳を握る。

 そうして、大丈夫だと言い聞かせて、平常心を保ちながら俺は千尋に対して答えた。

 「理人は、結構授業出ないから……」

 今は、俺があんな事になって、だから理人は俺を一人にしないように配慮してくれてる。

 授業にも結構来てるし、真希も俺と一緒にいてくれている。

 理人も真希も優しい。

 理人は親衛隊やってながら生徒会副会長になんてなって周りによく思われてない。

 真希は菅崎組の息子として恐れられている。

 だけど、誰よりも優しいと思う。

 「ふーん、そっか。まありーは昔から授業サボる事あったしなあ」

 そういえば俺は理人とか真希の昔を知らない。

 理人に関しては色々と隠す事を楽しんでいる節があるしなあ。

 まあ聞けば答えてくれるんだろうけど。

 「千春は、りーといつ仲良くなったの?」

 「…あーっと、一学期に理人が、人潰したって話は聞いてる?」

 「うん、知ってる。むかつくよねー。しかも俺と真希に恋してたとか気持ち悪し、俺いたら絶対ギタギタに切り刻んでたのに」

 さらっと恐ろしい事をいうものだから、周りの生徒達の肩が震えた。

 千尋は一度、教室で暴れて、まぁだからこそ、表だって千尋のファンだって言う奴は居ないけれども、それでも千尋は顔がいいから、ファンは居る。

 ……理人は今恐れられてるというか、容赦なさすぎているけれど、まぁ、生徒会親衛隊内では理人の親衛隊作ろうとかいう動きもあるらしい。

 よくわからないけど、理人は生徒会親衛隊メンバー全員覚えてるらしいし。理人って親衛隊内じゃ慕われてるらしいから。

 でも、やっぱり、理人って凄いなって思う。

 だって親衛隊でありながら生徒会に入ってそれでも周りから反感を買ったり、抜け駆けだっておもわれたりしていないから。

 「その時に俺、巻き込まれちゃったっていうか、色々あって……」

 裏切られた記憶と、襲われた記憶が、頭の中によみがえってくる気がしてきて、気分が悪くなってくる。

 幾ら嘆いたって起こってしまった事は消えなくて、俺は親友を失って、襲われて大事なモノも失った。

 「ふーん、それでりーが千春を助けてくれたの?」

 「うん…。そうだね。理人には世話になってる。俺理人とか真希とかがいなきゃ、今、此処にいれなかったから。多分、駄目になってたと思う」

 理人がいなければって考えると恐ろしい。

 俺の家は第一一般家庭で、金持ちでも何でもないのだ。

 あのまま操に絡まれ続けていれば、俺はきっと――、周りの嫉妬心で大変な目にあってただろうから。

 「…千春は、りーの事どうおもってるの?」

 ライバルだったら容赦しないよ? とこっちを見てくる、千尋。

 それに思わず苦笑する。

 「安心していいよ。俺は理人とは友達なだけだから。

 そもそも俺ノーマルだし、同性愛に偏見はないけど、自分がやるのはちょっと…」

 「そうなの?」

 「うん、そう。

 だから俺が理人に感じる気持ちっていうなら感謝とか、あとうん、やっぱ友達だと思ってるから笑っててほしいかなぁ」

 感謝してもしきれないって気持ちがある。

 理人は気にいらない人間にはひどいけれど、何故か俺の事は可愛いなんていいながら頭なでてくる。

 …正直男として可愛いなんて複雑な気持ちだけれども、理人と一緒に居るのは楽しいし、これからも仲良くしていきたいと思う。

 「…俺は、理人に感謝してるし、理人の事好きだよ。あ、もちろん、友情だけど。

 まぁ、だから、俺も、理人のために何かできるなら力になりたいなってはおもうよ」

 そう言って笑えば、千尋は俺に問いかけてくる。

 「…ねぇ、千春は、何で俺を怖いって離れていかないの?」

 暴れたの、知ってるでしょとでも言う風に、鋭く細められた瞳がこちらを見つめる。

 正直に言うと、怖くないわけではない。

 ただ、俺は……、千尋が理人のお気に入りで、理人に信用されてるってその事実があるだけで、恐怖心が薄れたんだ。

 「…理人が、千尋を信用してるから。俺は理人を信用してる。だから、千尋は怖くないって思う。

 それに……、なんか、しばらく一緒に居て、千尋って理人の事大好きで、真っすぐで、怖いっていうより、何か、見ていて温かい気持ちになる」

 正直にそんな台詞を放てば、千尋は一瞬驚いたような顔をして、そうして、その後、

 「千春、はーちゃんって呼んでいいー?」

 って、突然聞いてきた。

 「え、まぁ、いいけど。理人もそうだけど、何でちゃん付けなの」

 「んー、なんとなく、それにちゃん付けの方が呼び方可愛いじゃん!」

 「そっかぁ、で、何で突然あだ名なんかを…」

 「はーちゃんいい子だから! 流石りーのお気に入りなだけあると思ったしね!」

 いい子だなんて言われても正直なんて答えればいいかわからない。

 というか、これは俺、仲良くしてもらえるって事なんだろうか…?

 「千尋、メアド交換しよう」

 そう問いかければ、千尋も笑顔で頷いてくれた。

 何だか、友達が増えたんだっておもうと嬉しくなる。

 「ねぇ、千尋、文化祭楽しみだね」

 「そうだね。りーと文化祭送れるとか俺嬉しい」

 ――そうして、もうすぐ文化祭はやってくる。




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