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俺とお前のガンダーラ

2011年12月の作品。

クリスマスだったので書きました。ぴったり2000字。

 

 

 

 

 

「ねえねえフーちゃん」

「んー?」


 冬樹(ふゆき)の部屋にはいつも通り(しゅん)がやってきていて、二人でコタツに足を突っ込んでゴロゴロ、ぐだぐだしている。

「すごい話教えてもらったんだけど、聞いてくれる?」

「いいぜ」

 携帯電話をイジりながら答える冬樹に、隼はこう話した。


「僕さ、解脱(げだつ)しようと思うんだ」


 噂のアイドルの流出写真を探している冬樹は答えない。携帯の操作に夢中であるのに加え、隼が口にした言葉にまるで聞き覚えが無かったからだ。


「だからさあ、フーちゃんもどうかなって思って」

「なに? リダツ?」

「解脱だよ! げ・だ・つ!」

「なにそれ?」

 面倒くさそうに眉間に皺を寄せ、冬樹はようやく小さな画面から目を離した。真剣な、力の入った表情の友人の顔に、プっと笑う。

 笑われた隼は、至極マジメな顔でこう答えた。

「もうすぐクリスマスじゃん」

「ああ」

「で、僕達は毎年、彼女も出来なくて、男ばっかりで鍋とかゲームとかじゃん」

「ああ」

「そういうの、イヤじゃん?」

「まあなあ」

「だから一緒に解脱しようよ」


 ポリポリと、冬樹が額を掻く。前髪の生え際の部分に爪の後が小さくついて、赤く染まる。


「ゲダツって何よ?」

「前川先輩に聞いたんだよ。解脱すると、モテなくても気にならなくなるんだって」

「はあ?」

 隼のバイト先の先輩である前川の事は、冬樹も知っていた。スキンヘッドの強面で、一緒に外を歩いているとただでさえ寄って来ない女性に更に避けられる。

「意味がわかんねえし」

「それさえすれば、モテなくても、お金がなくても平気になるんだって言ってたよ。前川先輩はもう五年も前に解脱したって言ってた!」

「バカじゃねえの?」


 冬樹と隼は幼稚園の頃からの付き合いだ。現在十九歳の二人は、いつだって冬樹の家の狭い四畳半でぐだぐだしている。大学には通っているが、真剣に勉学に打ち込んでいるわけではない。通っているのも有名大学ではない、まだまだ遊びたいからどこでもいいから潜り込めそうな場所に潜り込んだだけの、将来が悲観される類のダラダラ系若人である。


「バカじゃないよ。前川先輩は立派だよ! 彼女がいなくても全然平気なんだよ。クリスマスなんか知らねえって、バイト先に飾ってあったツリーをまっぷたつにしたんだから」

「それくらい誰でもできるだろ?」

「できないよ。フーちゃんはできるわけ?」

「そりゃお前、やろうと思ったらいくらでもできるだろうさ」

 じゃあリビングに飾ってあるツリーを折ってきてよ、なんて隼は思う。

 母の怒りを買いたくない冬樹は、もちろんそんな事はしない。

「解脱って、ツリーを折るのが目的じゃないんだろ?」

「うん。モテなくても、お金がなくても、全然辛くないって」


「ヤレなくても?」


 二人が憧れてやまないアレに関してのツッコミに、隼は焦った。そんな大事な事を、一番肝心な事を先輩に聞いていなかった自分の迂闊さに唖然とする。


「……多分?」

「多分じゃねーよバカ。一番大事なとこだろ、それ」

「電話して聞いてみる!」

 隼は慌てて携帯電話を取り出すと、即座に前川に連絡をした。

「あ、先輩。隼です。はい。あの、聞き忘れた事があって……」

 冬樹は、しょうがねえなあ、といった顔で再び画像を探し始める。

「はい、あの、解脱の事なんですけど。……ええ、そうですそれです!」

 検索の結果に、冬樹は舌打ちをした。案の定偽者だ。お目当てのアイドルとは似ても似つかないブサイクのあられもない姿が画面に出てきて少し腹を立てたが、最終的にそれはそれで、みたいな気分でちょっとだけニヤッとする。

「本当ですかー? はーい、わかりました。やってみます。はい」

 電話を終えると、隼は輝かんばかりの笑顔で冬樹に叫んだ。

「平気になるんだって!」

「マジかよ」

「ガンダーラだって」

「ガンダーラ?」

「とにかく、正座して何も考えるなって言ってた!」


 しょうがねえなあ、と冬樹は呟く。

 友人が動いた事に、隼は喜ぶ。


 あったかぬくぬくのコタツから出て、二人はビシッと背を伸ばすと、正座を始めた。

 言葉を発せず、動かず、目を閉じて。

 ひたすら己と向かい合うその時間。


 チラチラと舞う煩悩の影の数々が、冬樹の頭上で踊る。

 それが段々と一つになっていき、隼の心の底へと降りていく。


 珍しく何の音もしない四畳半。


 心を鎮める二人の内に、(たえ)なる音楽が流れた。


 


 二人が目を開いたのは、ほぼ同時の事だった。

「フーちゃん」

「隼、聞こえたか?」

「うん」


 心に流れたのは、とある、古い歌。


「愛の国ってどこにあんの?」

「インドじゃん?」

「……っていうかやっぱ、ラブじゃね?」

「うん。やっぱ、ラブだね」

「クリスマスまであと……三日か」


 顔を見合わせる二人。

 心は一つ。


 愛と現実の充実を求めて。

 

 ――今年はもう、ブサイクでも構わない。


 毎年、年末の恒例行事となりつつある即席解脱体験四回目で得た「妥協」を胸に、今年の二人はポジティヴに夜の町へと繰り出して行った。

 

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