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98日目 魔法生物学:レイドフラワーの生態について

98日目


 部屋が超きれい。なぜ。


 いつも通りギルを叩き起こしてから食堂へ。食堂へ向かう途中に見たクラスルームも何故かピカピカだった。もしかしなくても、ギルの特異体質は進化しているらしい。


 朝食はフルーツサンドを選択。甘い系なのにガッツリ腹にたまるという、ある意味反則みたいな逸品。果物もクリームも贅沢に使われていてすごくデリシャス。ポポルとジオルドなんて二人で五人前くらい食ってた。胸焼けしないのだろうか?


 ギルはもちろんジャガイモ。『うめえうめえ!』っていつも通り貪っていた。六匹のヒナもジャガイモの山に頭を突っ込んでいた。


 せっかくギル・コーン印の餌を作ったのにって思ったけど、そっちも普通に食べているとフィルラドが教えてくれた。育ち盛りってのと、単純に俺たちの真似をしたくてジャガイモを食っているそうだ。あと、今日もごろごろエッグ婦人が卵を産んだんだって。明日か明後日にハゲプリンを作ろうと思う。


 指についたクリームをペロッてやるロザリィちゃんがマジキュート。直後に目が合って、かぁって赤くなるところも超かわいい。人目がなかったら思いっきり抱きしめていたと思う。


 授業はグレイベル先生、ピアナ先生の魔法生物学。ピアナ先生に『今度一緒にお昼寝したいので、ハンモックの場所を教えてくれませんか?』って聞いたら、『ないしょ!』っておでこをこつんってされた。あと、『ハンモックの場所なら……』って答えようとしたグレイベル先生がピアナ先生に思いっきり脛を蹴られて悶絶していた。イケメンでも痛いものは痛いらしい。


 『グレイベル先生のハンモックなら好きに使っていいよ!』と超笑顔で言われたので、時間があったら使ってみようと思う。


 そういや、ピアナ先生とグレイベル先生ってどういう関係なんだろう? 仕事だけの関係じゃなさそうだけど、友人って言うのもちょっと違う感じがする。


 恋人では絶対にない。もしそうだとしたら、例えグレイベル先生でも俺は決闘を申し込む。


 内容はレイドフラワーについて。なんかうねうね動いて花からガチガチと牙をのぞかせる、食虫植物のヤバそげなやつ。連れてこられる時もグレイベル先生の腕に噛みついていた。先生、眉ひとつ動かさずに拳骨で黙らせていたけど。


 ここにきて魔法植物に戻ったかと思いきや、なんとこいつ、魔法虫の一種で花や枝に擬態しているだけらしい。地方によって擬態が違い、その能力も変わってくるそうだ。以下にその概要を示す。



・レイドフラワーは植物に擬態する魔法虫である。擬態前(生まれたて、またはなんらかの理由により擬態を解いたもの)の姿はいわゆるナナフシにそっくりであり、そこから自分を”成長”させることでその地に適した姿を取る。擬態前の姿を見られると、恥ずかしがって赤くなる。


・擬態にはいくつもの種類があるが、大きく枝、花、幹、根、葉に分けられる。環境や個体のサイズにより何に擬態するかある程度の傾向がみられるが、比較的獲物を捕らえやすい花、根の形をとることが多い。なお、レイドフラワーの擬態の形態を知ることでその地の環境などを知ることができる。観察してると恥ずかしがって赤くなる。


・素材採取中、擬態したレイドフラワーを誤って刺激してしまい、襲われてしまうことがある。アヤシイと思った時は遠くから枝でつつくか、その辺のゴミでも投げて確かめればよい。擬態がばれると恥ずかしがって赤くなる。


・戦闘能力そのものは低め。ただし、長年生きたレイドフラワーは文字通り大樹のようになることもあるため、攻撃が通りづらかったり、そのまま押しつぶされることもある。また、毒のある植物に擬態したものはその成分さえも模倣することがあるため注意が必要である。戦闘中でさえ、なぜか恥ずかしがって赤くなる。


・レイドフラワーは集団で纏まって冬眠する。冬眠中も擬態を続けるため、誤って彼らの冬眠地に入り込み、一匹でも刺激してしまうと大群に襲われることになる。プライベートを覗かれた彼らは恥ずかしがって赤くなり、執拗に噛みついてくる。


・悪性成分は擬態(魔法的模倣)するが、我々にとって有用な成分を擬態する例はほとんどない。野生で擬態が確認された悪性成分でさえ、人工飼育下では擬態は確認できなかった。飼う意味はないと言ってよい。恥ずかしがってできないだけという噂もある。


・魔物は敵。慈悲はない。



 なんか割と面白い感じの植物ってイメージ。見た目はまんまそこらにありそうな枝とか花で、全然虫って感じがしない。ガチガチいってる歯はあるけど、あれくらいなら魔法植物なら割と一般的だし、もっとヤバい食獣魔法植物だっている。


 戦闘力も大したことないらしく、ちょっと触ってみた体は割と貧弱だった。擬態と言うより、半虫半草の魔法的キメラって表現のほうがしっくりくると思う。


 ただ、やっぱり集団で来られると結構キツイってグレイベル先生が言ってた。なんでも昔、先生は先生の先輩と山に遊びに行ったことがあるらしいんだけど、そのときさくらんぼに擬態して冬眠中のレイドフラワーの冬眠地にうっかり入り込んでしまい、大変な目にあったそうだ。


 『あの時は死を覚悟した。全身を噛みつかれ、小さな粒に擬態した奴が口や鼻にも入ってきて窒息しそうになった。口を開けたら別のヤツが入ってくるため、やむなく噛み潰すことで事なきを得た。視界はさくらんぼと羞恥の赤で染まり、とうとうパンツの中にまで奴らは侵入し、そして……』


 そこでグレイベル先生はそっと目を伏せた。男子全員、もちろんギルも含めて真っ青になった。こいつ、今までで一番ヤバいやつかもしれない。


 なお、その一件が原因で先生の先輩はしばらくさくらんぼが食べられなくなったそうだ。今でもさくらんぼを見せると反射的に股間を押さえるのだとか。


 『男ってバカよねぇ……』ってピアナ先生は言ってたけど、先生に俺たちの痛みなんて絶対にわかるまい。聞いただけでキュッてして震えてくる恐怖を、どう表現すればいいのだろうか。


 アルテアちゃん、ミーシャちゃん、そしてパレッタちゃんが『その手があったか……』と呟いていたのが限りなく怖い。何を思いついたのか、何をしようとするのか、考えるだけでチビりそうになってくる。


 『……ちょっと脅しすぎたか?』ってグレイベル先生が微妙に驚いた顔をしていたので、『不安で眠れそうにないのでなんかください』って言ったら、『意味が分からないぞ?』と言いつつも虹夢花の青、黄、白をくれた。俺がちゃんと赤色を育てられたのを知っていたらしい。『薬効は自分で調べてみろ』って言ってた。いろいろ試してみようと思う。


 夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。一週間も意外と短いもんだ。そろそろ長期休暇が見えてきたのが超たのしみ。でもロザリィちゃんに会えないのは超悲しい。みんな、休みはどうやって過ごすんだろう? 今度聞いてみよう。


 とりあえず、イビキのうるさいギルの鼻には夕食のデザートで食べたさくらんぼの種を詰めた。さくらんぼ食べ放題になるといいなぁ。

20150705 誤字修正

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