95日目 触媒反応学:複数の集中負荷がなされた場合の分布計算
95日目
俺とギルの靴に土が溢れていた。新手の嫌がらせだろうか。とりあえず、アエルノチュッチュ寮に向かってギル・アクアを染みこませたオステル魔鉱石をぶん投げておいた。
地味に土が残る靴を履いたまま食堂へ。アルテアちゃんが『靴くらいちゃんと洗ったらどうだ?』って言ってきたので、『同じことをギルにも言って欲しい』と返したら、『……なんか、ごめん』と言われた。
関係ないけど、アルテアちゃんは洗剤にそれなりのこだわりがあるらしい。彼女、狩りとかが好きでよく弓と杖を持って出かけるんだけど、獣臭さは普通の洗剤だとなかなか落ちないんだって。今度おすすめのを教えてもらおう。
ギルはいつも通りジャガイモを『うめえうめえ!』って喰ってた。今日はミーシャちゃんも一緒にジャガイモを食べていた。最近リボンにジャガイモをあげていなかったらしい。ついでなので俺の杖にもジャガイモを与えておいた。
とたんに輝きだすリボンと杖と筋肉が限りなく不気味。共鳴性を示しだしたので慌てて引き離した。共鳴を続けたらどうなってしまうのか、考えたくもない。
いつぞやの髪飾りを付けてくれるロザリィちゃんがマジプリティ。あれ、お気に入りだから、付けていいのは座学の日だけって決めているんだって。
授業はヨキの触媒反応学。ヨキの野郎、奥さんにデリカシーのないことを言ったらしく、家庭内で口をきいてもらえないそうだ。『なんであれくらいで怒るのかわからん……』ってぼやいていたけど、それがわからないからあいつはダメなんだと思う。
内容はやっぱり杖の強度計算について。面倒くさいので問題文だけ書いておく。
『固定端からα、βの距離にそれぞれ集中魔力ノルン1、ノルン2が負荷された杖の、裂界魔力図と荒れサークリア図を描け』
杖を二区間に分け、区間ごとの裂界魔力の式とサークリアの式をたてて条件をぶちこみ、その通りに分布を書けばおしまい。ただし、βの区間(αよりも固定端より)はサークリアにα区間の集中魔力要素も絡んでくるから若干計算が面倒。というか、概念を理解していないと計算ができない。
前回の授業と似ていると思ったら、こっちはより複雑な魔法に対するモデルを想定しているとのこと。魔力負荷が一か所しかないなんてことはそうそうありえないから、当然と言えば当然。今の俺達が使える魔法でさえ、もっといろんな方向からたくさんの魔力を負荷させているんだし。
『実際に自分の杖と見比べてみるとわかりやすいんやで』とかいうのでギルが自前の杖を取り出したら、ヨキの野郎は『それ、棍棒だろ?』とか言ってきやがった。俺特製の立派な杖なのに。
構成材料を教え、かつギルの戦闘スタイルを存分に活かすコンセプトに基づいた設計だと懇切丁寧に教えたら、『キミ、変なところで凝るよなぁ』って言われた。物理的な強度計算しかしていないのは事実だけど、俺は杖のつもりで作ったからこれは杖なのだ。
それも、切った材料をベンジャミングレート二号で固めるだけのお手軽品。量産化を視野に入れるべきだろう。
夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。なんか今日は書くことが少ない。いや、ただ単に異常が日常になっただけだろうか。もうちょっとやそっとのことじゃ驚かなくなったからなぁ……。
ふと思い立ったので、原点回帰しピクシーグラスをギルの鼻に詰めた。ヤツのイビキが進化しているかどうか、これで確かめられる。夢の中でロザリィちゃんとステラ先生とピアナ先生に会えますように。




