94日目 基礎魔法概論:砥魔石の目こぼれ、目づまり、目つぶれ
94日目
ギルのスネ毛の抜け毛が激しい。なんでこの日記の間にも挟まってるんだ?
部屋を軽く掃除してから朝食へ。ギルは新陳代謝が良いのか、歩いている途中でもスネ毛が抜け続けていたので、クラスルームでヴィヴィディナの虫かごにまとめてぶち込んでおいた。悲鳴が聞こえたけどきっと元気な証だろう。
朝食で目玉焼きを食べている途中、フィルラドが嬉しそうに駆け寄ってきた。どうしたのかと聞くと、その手にあった卵を見せつけられる。エッグ婦人が今朝方産んだらしい。
『産まれてくる子は男の子かな!? 女の子かな!?』とかきらきらした瞳で語られた。相手がいないのに子供が生まれるはずもない。ポポルが『甘めの卵焼きにしてくれ!』と言うのでリクエストに答える。フィルラドのヤツ、最初は涙目だったけど無精卵であることを理解し、俺特製の卵焼きを食べたら元気になった。現金なやつだ。
書くまでもないけど、ギルはジャガイモの大皿を『うめえうめえ!』って喰ってた。多分スネ毛も一緒に喰ってたと思う。
授業はシューン先生の基礎魔法概論。昨日好感度をあげすぎたのか、やたら絡まれた。あと、みんなには魔法陣のお礼を言わせておいた。あいつら、精神的に苦労した俺を差し置いてめっちゃ魔法陣で遊ぶんだもん。ずるくない?
内容は砥魔石の目こぼれ、目づまり、目つぶれについて。砥魔石ってのは補給なしに半永久的に使えるってのが特徴なんだけど、それはあくまで『理想状態の魔法刃として』であって、現実的にはいろんな問題が起こるそうだ。以下にその概要を示す。
・目こぼれ
作業面における砥粒の破砕や脱落が著しく起こる状態を指す。砥魔石の消費も激しく精度も落ちる。陣造抵抗を減少させるような条件設定をするほか、砥魔石の材料を見直すことで解消されることがある。
・目づまり
魔塵が魔力的に気孔に溶着し、気孔を埋めてしまった状態を指す。陣造条件が適切でない場合砥魔石の自生作用が働かず、消耗率、陣造抵抗、さらには陣造魔度も上昇してしまう。それらにより魔塵が魔法陣に溶着し、また目づまりを引き起こすという悪循環に陥るほか、異常魔振動も発生する。砥粒径を大きくする、陣造抵抗を大きめにするなどの対応策がある。
・目つぶれ
砥粒が摩耗し、砥魔石の作業面がとぅるとぅるツヤツヤになった状態を指す。消耗がマッハで作業面が奇妙にテカる。対策は目づまりとだいたい一緒で問題なっしんぐ。
今日もひたすら板書だったけど、雑談が多かったのが幸い。シューン先生、この前の入学式以降積極的に生徒との親睦を深めようと寮に遊びに行くんだけど、誰も相手してくれないんだって。みんな先生を見つけたとたんに愛想笑いを浮かべて、そそくさと用事を思い出してしまうんだとか。
『先生、なにか嫌われるようなことしたかなぁ……』ってしょぼんとしたけど、生徒だけの憩いの時間、憩いのスペースに毎日のように突撃したらウザったく思われるに決まっている。教師ってだけで対等じゃないんだから。この前だって風呂場に突撃してくるし。
優しいロザリィちゃんは、『プライベートな時間も大切なんですよ! 週に一回とか、ちゃんと行く日を決めたら解決すると思います!』って的確すぎるアドバイスを送ってあげていた。ジーニアスなところもステキ。俺、ロザリィちゃんを見る度に惚れ直していると思う。
とりあえず、今度ゼクトにあったらきつく言っておこう。こっちに飛び火されても困る。
夕飯食って風呂入って雑談の途中、パレッタちゃんに腕を噛みつかれた。なんか、ヴィヴィディナがキモチワルイ毛玉を吐き出していたらしい。『ハゲプリン十個か加齢臭の呪い、好きな方を選べ』と言うので慌ててハゲプリンを作った。
でも、なんでパレッタちゃんは俺に杖を向けてきたんだろう? 意味わかんない。隣でポポルと一緒にスネ毛玉を作って遊んでいたギルにはなにもしなかったのに。あと、ジオルドにもプリンを作ることになった。ロッキングチェアは材料集めと設計中だって。
最近、みんないい意味でクラスメイトに遠慮をしなくなってきたと思う。戦友と言うか、家族と言うか、うまく言えないけど強い信頼感と繋がりを確かに感じる。マデラさんのところにいたときは全然想像できなかったけど、こういうのってなんかいい。
筋肉な親友はいつも通り大きなイビキをかいている。手ごろなものが見当たらなかったので、土魔法で形成したジャガイモのミニチュアフィギュア(土製)を鼻に詰めた。グッナイ。




