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93日目 襲撃のシューン先生

93日目


 ギルが貴婦人。どうなってんだコレ。


 エレガントに筋肉を見せびらかすギルを伴い食堂へ。貴婦人だからか、ギルは片手で包むようにジャガイモを持ち、食べるその瞬間を見せずに一瞬で口の中へと放り込んでしまった。『うめえですわうめえですわ!』と笑いながら口を拭っても恐怖しか感じない。前触れなく消えていくジャガイモがただひたすらに怖い。


 『とってもおいしゅうございました。シェフ、楽しい時間をどうもありがとう』なんておばちゃんに微笑んでいたけど、おばちゃんすらドン引きだった。蒸かしただけの芋に出来の良し悪しなんてないのに。


 だいたいあいつ、途中で芋の山に頭を突っ込んでいたグリルとソテーを食いかけたことに気づいてすらいない。俺がいなければ、あいつらは今頃ギルの腹の中だっただろう。


 テーブルマナーを極めようと一生懸命になっているロザリィちゃんがマジキュート。アルテアちゃんのマナーは完璧。ミーシャちゃんはイマイチ。パレッタちゃんは独特すぎて評価できない。ポポルは下手くそ。フォークの使い方がガキそのもの。


 さて、休日なのでゆっくりしようと思い、栽培スペースの水やりを済ませてから俺専用ロッキングチェアでゆったりと揺られる。昨日と打って変わって風の音と鳥の鳴き声、そしてヴィヴィディナの悲鳴しか聞こえなくて実に穏やか。


 フィルラドはエッグ婦人たちを散歩に連れだし、ポポルはどっか遊びに行った。ギルは『貴婦人の嗜みですわ』とか言ってクラスルームの端っこで筋トレしている。非常に暑苦しい。


 汗で照るギルの筋肉をボーっと眺めつつ、ロザリィちゃんでも通りかからないかな、なんて思っていたらステラ先生がやってきた……ただし、後ろに超満面の笑みのシューン先生も付いていたけど。


 『ちゃんと許可を取って遊びに来たから文句ないだろ?』とか言ってウリウリと突いてくるシューン先生がうざったい。なんでも、シューン先生はティキータ・ティキータの担任で、昨日ゼクトたちから話を聞いてとうとうしびれを切らしたらしい。


 で、職員室で直々にステラ先生に許可を取ってやってきたわけだ。『一人占めしたいのもわかるけど、いじわるしないでね?』って微笑んでくれたステラ先生が超可愛い。私服もすっごくオシャレ。


 しかしまぁ、シューン先生のはしゃぎっぷりがすごかった。もともとこういうロフトとかそういうのが好きらしいけど、休日に生徒に構ってもらったってのが大きいんだと思う。ローブをインしたまま(休日でもこのスタイルを貫くらしい)登ったり下りたり、水槽に手を突っ込んだりでデカいガキみたいだった。ステラ先生の苦笑いが止まらない。


 途中でジオルドとクーラスがやってきたけど、面倒なのに絡まれたらかなわないとばかりに、目が合った瞬間に個室にダッシュして逃げやがった。後で覚えとけ。


 そうそう、さすがにただ遊ぶだけじゃなくって、『こっちの方が便利で楽しいだろ?』ってシューン先生が蝕造浮遊魔法陣をロフトの下のカーペットに刻んでくれた。これ、そこに乗って魔力をほんのちょっと込めるとふあ~って体が浮く優れもの。上り下りがエキサイティングに。ついでに落下防止にもなる。


 秘蔵の特殊魔法刃と触媒を使って作ったらしく、普通に使う分なら一年近く持つとのこと。陣造時間もあっという間だった。さすがは教師。できればインしたローブも解放してほしかった。


 貴婦人と化したギルは魔法陣に乗った時、『きゃあっ!?』って言って足元を押さえたけど、そこにはスネ毛しかなかった。無性にイラッとしたのでズボンを風魔法狙撃したら、『破廉恥なお人……!』とか言って体をくねらせた。もうやだ。


 その後、おしゃべりしたいシューン先生に付き合ってクラスルームで四人で談話。授業はどうだ、とか、何か困っていることはないか、だとかいろいろアットホームな感じで聞かれる。そう聞かれることそのものに困っていることにシューン先生は気づかない。


 でも、各寮の改築案だとか、職員室での裏話だとか、先生たちの休日の過ごし方を聞けたのはラッキー。ピアナ先生、休日はときどきハンモックでお昼寝してるんだって。俺も一緒にお昼寝したい。


 あと、我がルマルマが一番寮を自分の色に染めているらしい。三か月でロフトまで作ったのはルマルマだけだそうだ。上級生になるともっとはっちゃけてくるらしいけど。


 なんでも以前、地下賭博場を作ろうとしてゲンコツくらった人がいるらしい。構造魔法学や魔法力学の知識をふんだんに使った、ぶっちゃけダンジョンと遜色ないデザインの設計図が見つかったために未然に防がれたとのこと。


 『あの知識と情熱をどうして勉学に使えないのか……』ってシューン先生はぼやいていたけど、その直後に『俺だったらもっと完璧な設計図をひいて、もっとエキサイティングでスリリングなやつをばれないように仕上げるのに』って漏らしていた。やっぱ魔系ってクレイジーだ。


 延々と話が続くからハゲプリンとギル・ポテトのポテトチップをシューン先生の口に詰めて帰そうと思ったんだけど、逆にたいそう気に入られてしまった。好感度が大幅アップ。シューン先生、生徒に物を貰ったことがないらしい。 


 『また遊びに来るからな!』って帰った時には、精神的な意味で疲れがたまってしまっていた。中途半端に親しい大人との会話って神経使うよね。


 でも、『今日は付き合ってくれてありがとね……』って机に突っ伏してぐてっとするステラ先生がマジプリティだった。大きな胸ってつっぷすとクッションみたいになるって初めて知った。いつかこの手に収めたい。


 せっかくなので一緒に夕食を取り、風呂後の雑談で久しぶりにカードゲームを挑む。ステラ先生は超ノリノリで、今日もケツの毛までむしり取られた。卒業までには勝ちたいものだ。


 さて、いつも通りギルは大きなイビキをかいている。そこに貴婦人らしさはかけらもない。最近詰めるものにも困ってきたので、今日は浮遊魔法陣の陣造の際に生じた流形魔塵をチョイスした。おやすみなさい。


※燃えるゴミを出しておくこと。魔法廃棄物はノーセンキュー。

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