77日目 魔法生物学:ビートラッパーの生態について
77日目
俺が知る限り最高の魔法耐性を持つ友想の守護布が焼け爛れていた。自分が今生きていることが不思議でならない。
なんとなく朝食でミルクを飲む。腰にしっかり手を当ててぐびっと飲んでやった。ポポルのヤツは砂糖をいっぱい入れたホットミルクにして飲んでいた。あいつは味覚もお子様なのだろう。ギルはいつも通りジャガイモ。『うめえうめえ!』って貪ってた。
食器を返しに行ったとき、おばちゃんが『これでも食って機嫌を直しな』ってキャンディの詰め合わせをくれた。おばちゃんにも俺が拗ねていたことがバレていたらしい。ちょっとタイミングがずれていたけど、ありがたく受け取っておいた。でもハグはノーセンキューしておいた。さすがに守備範囲外。
授業はグレイベル先生、ピアナ先生の魔法生物学。こないだのクッキーとマジック・ドロップ、あとはく製のお礼を言ったらグレイベル先生が照れてた。イケメンだけどちょっとあざとい。いや、だからこそのイケメンなのか。
今日のテーマはビートラッパー。ゴブリンの一種の人型の魔物で、十歳の子供よりちょっと大きい程度の体格なのにやたら筋肉がごついのが特徴。たぶん普通の魔系が魔法もナイフもなしで挑んだら殺される。
こいつら、頭の角が感覚器官になってるらしくって、獲物を殴ったりつねったりした時に出る音で快感を覚えるらしい。リズミカルなほどそれが強くなる傾向がみられ、よく死んだ魔物をリズミカルに殴りまくる奇妙な儀式を開いているそうだ。
正真正銘、敵対生物の対処法についての講義。自然と真剣になる。以下に概要メモを示す。
・ビートラッパーは肉弾戦を好むため、遠距離攻撃の手段があれば比較的楽に倒せる。しかし、身が軽く素早いため遠くにいても油断しないこと。近づかれると執拗に殴ってくる。
・鋭い歯が生えているものの、威嚇としてカチカチ噛み合わせるだけで攻撃には利用しない。このカチカチ音のビートによって興奮具合がわかるので聞きのがさないように。興奮度合いが高いと執拗に殴ってくる。
・どんな行動でもリズミカルに行うという習性がある。移動もリズミカルに行い、攻撃もリズムを刻むように連撃をする。見切れば躱すのは容易いが、飲まれると非常に厄介である。やっぱり執拗に殴ってくる。
・まれに集団化し、より高度な行動をしてくるラッパーズアーミーとなることがある。よほどの自信がない限り、一人で相手をするのはやめた方がいい。華麗なるコンビネーションで執拗に殴ってくる。
・その特性上、騒音に非常に弱い。また、あえて相手の行動のリズムを乱すことで大幅な弱体化を図れる。なお、弱体化してもフラフラになりながら執拗に殴ってくる。
・音痴な歌を聞かせるとと不機嫌そうな顔でブーブーと抗議してくる。すぐさま黙らないと、音楽性の違いに怒り狂って執拗に殴ってくる。
・魔物は敵。慈悲はない。
実物が三匹ほど連れてこられたけど、歩行もリズミカルで、ブーブー唸りながら地面を太鼓みたいに殴りまくってた。超怖い。あと、角がギルが折ったスプーンみたいな形をしていた。
ある程度行動を観察した後に鎖を外し、先生に見守られながら実戦。俺とクーラスで接触反応型の罠魔法陣で挟み込んでやった。あいつら、攻撃が来るとわかっているのに魔法陣を叩くからバカだと思う。しかも悲鳴を上げながらもリズミカルに叩くのをやめない。
その生き様だけは尊敬に値すると思った。あれが生命の鼓動というやつなのだろうか。
ギルは真正面からぶん殴って勝ってた。神速の筋肉はあの程度の魔物なんて敵ではないらしい。一撃で仕留めて退屈だったのか、まだ残ってた罠魔法陣を叩いて遊びだしたんだけど、それでも無傷なのがすごく怖い。
最後の一匹は練習台にさせられた後、グレイベル先生の土魔法によるラッビア・テラ・スコップ(名前初めて聞いたけどマジかっこいい!)でぺしゃんこにされてた。きっちり仕事するグレイベル先生マジイケメン。
授業後、ピアナ先生に呼び出しをくらう。デートのお誘いかと思ったら『クッキーはおいしかったでしょ?』とニヤニヤしながら言われた。そんなあなたもキュートです。
そんで、『拗ねるのはいいけど、女の子に当たるなよぉ!』って頭をポンポンしてくれた。超うれしい……けど、俺、そんなに怖かったのだろうか? あと、おねえさんぶってるピアナ先生が超かわいい。これがギャップの魅力なのだろうか。
グレイベル先生にも『何かあったらとことん付き合ってやるから、迷わず俺のところに来い』って言われた。先生たちがいい人過ぎて泣ける。
そうそう、ピアナ先生はクッキーの作り方をグレイベル先生から習ったらしい。彼の女子力はどこまで上昇するのか皆目見当がつかない。ピアナ先生は『ようやく私も可愛い弟子を取れてうれしい』って言ってた。裁縫も料理も全部グレイベル先生に教わったそうな。
これからもロザリィちゃんに料理やお菓子作りを教えることになっているとのこと。今度からロザリィちゃんと一緒に料理ができるかもしれないと思うとわくわくが止まらない。
なお、二人ともやっぱりヨキから『拗ねてるっぽいから少し気にかけといてくれ』って言われたらしい。あいつの意外なマネージメント能力に戦慄を隠せない。今度お礼……しなくていいや。ヨキだし。
夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。最近どうも日記が長くなっていけない。書く時間はそんなに変わってないんだけどね。
あまり運動できなかったからか、ギルのイビキはやや不規則だ。拾っておいたビートラッパーの角の欠片を鼻に詰め込んだ。
明日はとうとうロザリィちゃんとのデート。ドキドキして眠れないけど頑張って寝よう。おやすみなさい。




