74日目 触媒反応学:三連結回転魔法陣の魔軸強度計算
74日目
ギルのまばたきがすばやい。残像が見えた。
なんか漠然としたイライラ(?)を募らせながら朝食へ。イマイチ食欲がわかなかったけどトーストをコーヒーで流し込み、気分を落ち着けさせるためにハーブティーを飲む。ギルの瞬きを利用することで素早く、かつ自然な感じに冷ますことができた。
そんなギルはやっぱり『うめえうめえ!』っていつも通りにジャガイモ食ってた。瞬きの風圧だけでジャガイモの皮を剥くという荒業を披露。あいつ皮ごと食うからあんま意味なかったけど。
食事中、アエルノチュッチュのラフォイドルがこれ幸いと『芋の皮を食うなんて低俗だな!』と絡んでくる。無性にイラッとしたので拘束の呪いをかけた後にくすぐりの呪いをかけた。ラフォイドルは動くに動けず、くすぐったそうにヒイヒイ言いながらずっとビクビクしてた。超怖い。
で、最後の仕上げとして口封じの呪いをかけようとしたんだけど、なぜかここで通りがかったティキータ・ティキータのゼクトとジオルド、クーラス、そしてギルにまで止められた。彼ら曰く、『さすがにやりすぎ』、『おまえらしくない』、『目がガチだった』、『親友に似合わない怖い顔をしていた』とのこと。意味わかんない。
しかもミーシャちゃんもアルテアちゃんも、パレッタちゃんさえちょっと顔をしかめてたんだけど。俺、そんなに悪いことしたっけ? ポポルからは『これでも飲んで落ち着けよ』って飲みかけのオレンジジュース渡されるし。おいしかったからいいけど。
ロザリィちゃんはいなかったのが幸い……なのかな? ロザリィちゃん、最近クラスルームでもそんなに見ないし、いっつも眠そうにしてるんだよね。
んで、授業。ヨキの触媒反応学。ヨキのヤツ、なんか人の顔見るなり『……なんかヤな事でもあったのか? ちょっと怖い顔しているぞ』って言ってきやがった。別に普通だと思うんだけど、あいつが真面目な態度取ると逆に怖い。
妙な雰囲気のまま授業が始める。内容は前回と同じくねじりについて。三連結回転魔法陣の魔軸の計算問題だった。問題文だけ書いておく。
『三連結魔法陣がここにある。左魔軸の回転数をトーラ1、右魔軸の回転数をトーラ2としたとき、両軸に生ずる最大裂界魔応力が等しくなるためには各軸の呑径ガルの比をいくらにすればよいか。また、このときの両ねじり魔角オップの比はいくらか。ただし、サークリアは完全に無視できるものとする』
計算そのものはねじりについての等価の式をたててゴリゴリやっていくだけ。ただ、それが非常に面倒くさい。演算魔法触媒を何度も操作ミスしてついつい舌打ちがもれる。ポポルのヤツは途中で手を滑らせて落っことしたから最初からやり直しになっていた。
いつになくヨキが優しく丁寧に教えてくれたのが非常に不気味。なんかいいことでもあったのだろうか。しかも、『今日は先生がうまいモンおごってやるぜ~♪』とか言ってきやがった。あまりにも胡散臭すぎたので丁重にお断りしておく。
授業が終わってもなんかみんなのよそよそしい態度が収まらない。夕飯の時もなんかみんなぎこちなかったし、風呂の時もなんかちょっと避けられてた。雑談中もいつものメンツは割と普通……だったと思うけど、クラスの女子は俺が近づくとあからさまにビクってなってそそくさとどこか行ってた。
別に臭くはないし、なんかしたってわけでもないのになんでだろうか。ボードゲームも盛り上がらずに一回で終了。フィルラドも『お前は今日は早く寝たほうがいい』って言ってきやがった。『ロザリィちゃんを見るまで寝られない』って言ったら、『明日があるじゃないか』って諭された。なんか納得できない。
で、ギルのイビキの中この日記を書いている。一応この日記を読み返したけどみんながよそよそしい感じの理由はさっぱりわからなかった。しいて言うなら今週に入ってからすこしだけその片鱗を見せ始めた……かな? ってくらい。
きっとアエルノチュッチュの連中が何かやらかしたのだろう。絶対そうに違いない。ラフォイドルにもっときつめの呪いをかけてみせしめにすればよかった。
やっぱり今日もナイーブと言うか、もやもやみたいなヤな気分。原因がさっぱりわからない。マデラさんのところにいたときはこんなことがなかったことを考えると、マジで呪いか何かの線で検討したほうがいいかもしれない。最悪ステラ先生に相談するか、あっちに手紙を送って向こうの連中に調べてもらうほかないだろう。
とりあえず、ギルの鼻には食堂から夜食としてくすねてきた魚の燻製(の欠片)を詰めておいた。おやすミントティー。




