71日目 究極のリボン~ギルの愛(物理)を添えて~
71日目
変異魔力波を断続的に放出する液体を確認。極度に不安定ながら理想的な安定性を示すという極めて矛盾した特異性質があるらしい。尊敬と畏怖を込め、ギル・アクアと名付けた。
いつものメンツでサンドイッチを頬張りながら作戦会議。なお、ミーシャちゃんはシャンテちゃんに頼んで早朝から釣りに連れ出してもらっているから夕方まで帰らないことになっている。
とりあえず、やらなければならないのはリボンの作成。そのための材料はほぼそろっているから特別他の人がやることはないんだけど、なんとなく進捗の確認と予定工程を説明した。
まずは針の製作。魔法糸、魔法布を扱うのであれば針もふさわしいものでなくてはならない。次に魔法布の製作。リボンを作るのにリボンが必要だと知った時どれだけ衝撃を受けたことか。そして魔法糸。せっかくだからこだわり尽くす。最後に染料。パーフェクトなものを作りたい。
作業開始早々、困難にぶち当たる。よくよく考えたら一から織ってると夕方までに間に合わない。ギルの筋肉に教え込もうにも、これだけ繊細な作業だとかなり時間がかかる。
ところが意外な形でこれは解決した。なんと、クーラスのヤツは裁縫が得意だったのだ。部屋にタペストリーとかいっぱいあったけど、あれ全部手作りだったんだな。
『材料集めを手伝えなかったから、ここで頑張らせてくれ』と言うので、ミルキーフィーロ、エンシェントワームの不朽糸、ペーニュアルケニーの艶糸をギル・アクアで馴染ませ魔力的に混合したものを渡す。
クーラスのヤツ、罠魔法の連鎖反応型魔法陣で魔法ルーチンを組みまくってどんどん布に仕立てていた。なかなか器用なヤツ。魔法の応用の深さをしみじみと感じる。
んで、染料の製作。ギル・アクアと原初の霊水にナエカ、コケウス、カミシノを煮だすことでベースとしての安定性を高め、そこに夢想紅、レザン・エトワクルール、火、闇、雷の友陣片と水の友陣砂を混合することで発色と魔力的性質を与える。
夢想紅は超高級品の染物なんかに使われる花であり、自身の色合いはもちろん、混合することで別の染料の発色を鮮やかにすることが知られている。レザン・エトワクルールも自然界の中では最高峰の色(全部入れたら虹色。揃えるとマジで輝いて見えるらしい)で、夜空に輝く星の如き色合いで有名だ。普通に食べてもおいしいらしい。
それと、リボン作りをしているものの俺たちは魔系学生だ。せっかくだから魔力的要素を組み込もうってことで友陣片を加えた。効果がどうなるかわからないけど、ガチ戦闘でもつけられるような工夫を施すこの気配り。俺、自分がすごすぎて怖い。
ベースとして作ったそれらを一度ファイアスウィープで脱色して小分けにし、それぞれ夢想紅、レザン・エトワクルールと各種友陣片を多めに加えることで別の色の染料とした。全部の色に全部の効能が入っている優れもの。
ことことと煮込んでいる間に針の製作。アルテアちゃんには申し訳ないけどゼロ・レイの月美針を心材とし、エストラム魔鉱石、スタル魔鉱石の親和性とギル・アクアの共鳴性を利用して針の形成に入る。繊細すぎる作業に汗ダラダラ。
頑張ったかいもあり、魔法陣でさえ干渉できる恐ろしいほどの魔力的特性をもった魔法針を二本も作製することに成功する。鋭くも美しく輝くそれを友情の想縫針と名付けた。アルテアちゃんに吹き出されたのが地味にショック。
針の製作が終わったちょうどいい頃合いで魔法布の完成。問答無用で染料にぶち込む。方向によって微妙に変わる透き通った色合いがマジきれい。魔力の匂いもぷんぷん。耐久性もばっちり。ギルとグレイベル先生が一緒になって引っ張っても切れないだろう。
実際、ギルとジオルドが引っ張っても全然問題なかった。パレッタちゃんの呪いも全く浸食しない。『余ったらヴィヴィディナの捧げものにしたい』って言われたけど丁重に断っておいた。
糸ともども、友想の守護布、友想の希紡糸と名付ける。今度はジオルドに笑われた。俺のセンスって悪いのだろうか。でも『ステキな名前だよ!』って言ってくれたロザリィちゃんがマジ女神でした。
材料さえそろえばこっちのもので、あとは俺が丁寧にちくちく縫い上げた。クーラスとデザイン面で論争になったものの(あいつ、休んでいるときにずっとデザイン画書いてたらしい)、互いの良いところを採用した究極のリボンが完成する。
水魔法要素がちょっと多かったのか、全体的に水色っぽい感じを基調とした涼しげな色合い。魔力や光の加減でいろんな色にもなる。魔法的要素が強いから結べば誰でもお手軽パワーアップができるし、魔法的防御性能もピカイチ。たぶん、ステラ先生の炎の龍を喰らったらミーシャちゃんは一瞬でお陀仏だけど、このリボンだけは焦げ跡一つすらつかないで残る。
ついでに材料の全てにギルの愛が染みこんだ逸品。いろんな意味であまりにもすごすぎるものが出来てしまったため、クラス全体が異様なテンションに包まれた。売ったら相当大もうけできる。アエルノチュッチュの連中ならどんな手を使ってでも奪ってきそうなシロモノだ。
最後まで気を抜くことはなく、綺麗にラッピングを仕上げてギルに持たせる。宿屋の経験(主にテッドを中心としたトラブル)がこんなところで活きるとは思わなかった。
もちろん、箱はギルが握りつぶさないようにエストラム魔鉱石とリチャードスペシャル一号でガチガチに補強しておいた。気配りの鬼ってまさに俺じゃね?
時間も時間だったのでみんなでクラスルームに隠れ、ミーシャちゃんが帰寮するのを待つ。夕方の遅くになってホクホク顔のミーシャちゃんが帰ってきた。
ギル、彼女と目が合った瞬間に神速で跪く。昼間、暇な時間にポポルとロザリィちゃんが筋肉に教え込んだ成果だ。美しすぎる完璧な仕上がり。
片膝を立てたまま、ギルはぱかっとその箱を開けた。中身を見たミーシャちゃんは目が真ん丸になってた。ひゅって息をのむ声がこっちにまで聞こえた。
『許してくれとは言わない。代わりになるとも思っていない。だけど、これが俺の精一杯の謝罪と誠意だ』ってギルはそのまま箱を渡した。ミーシャちゃん受け取った。コメットテールを水槽にぶちこんでからしゅるしゅると髪に結ぶ。超笑顔。『うひひ……!』ってにやにやが止まらない。頬がゆるゆるになってて顔の締りがない。ずっと笑ってた。
『リボン、ありがと!』ってゆるゆるなミーシャちゃんが宣言したところで男子連中が飛び出す。なんかいい雰囲気になりそうだったからぶち壊しにかかった。もちろん俺も。ギルのくせにいい雰囲気とか生意気だ。
ちょっと残念そうな顔をしたミーシャちゃんだけど、リボンを見てはにへって顔を崩していた。あそこまで喜ばれると逆に怖い。ギル成分が染みわたっているというのは内緒にするとクラス全員の暗黙の了解になった。
んで、食堂から料理を持ってきてクラスルームでプチ・パーティーを開く。ぶっちゃけ騒ぎたかっただけともいう。優しい俺はギルのためにコメットテールをフィッシュ&チップスにし、フライドポテトも作ってジャガイモフルコースを拵えてやった。
ギルのヤツ、『うめえうめえうめえ!』って久しぶりのジャガイモを堪能する。フィッシュ&チップスもフライドポテトも、もちろんいつもの蒸かし芋の大皿もまとめて平らげていた。喰った瞬間にしぼんでいた筋肉が膨張するのが超不気味。アイツの体どうなってんだろう。
気分が良かったのか、ミーシャちゃんがふかし芋やフライドポテトをギルに『あーん♪』ってやってた。口に差し出した途端に吸い込まれていくジャガイモに恐怖を隠せない。あと少しミーシャちゃんの手が奥にあったら、彼女の指はなくなっていただろう。
裏方根性が染みついたのか、俺、ずっとジャガイモを蒸したり揚げたりしてた気がする。正直油の匂いとはじける音しか覚えていない。このクラスにはなぜ俺以外料理できる人がいないのか。
縁の下の力持ちってつらい。俺もみんなの輪に入って騒ぎたかった。今日はロザリィちゃんもミーシャちゃんにつきっきりで、ステラ先生も来てくれなかった。マジで一人で鍋振ってるだけだった。超悲しい。
俺を慰めてくれるのはみんな忘れ去っている余った材料と、ジオルド製のワンダフルな机だけだ。あと、こんな悲しみの中でもちゃんと日記を書く俺ってすごくね? しかもめっちゃ長いし。
ギルのイビキは弾みだしそうなほど喜びに満ちている。たいそうイラッとしたので邪魂の悪泥を鼻に詰めた。明日こそロザリィちゃんとイチャイチャできますように。




