表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/368

70日目 魔法生物学:ミルキーシルキーワームの生態について

70日目


 枕もとに友陣片がある……と思ったら雷属性なんだけど。最後の最後で予想外。


 ギルを起こして食堂へ。やっぱり筋肉の張りが悪く、いつものギルらしさがない。こいつがここまで繊細なハートを持っていることにびっくりした。チョイスしたのもやっぱり水だけ。


 見ていられなかったのでこっそり小量のジャガイモパウダー(かたくりこ)を混入したら気付かれてしまった。ほぼ無味無臭なのに。あいつの嗅覚マジなんなの?


 沈んだ空気の中で食事中、ゼクトとシャンテちゃん、ラフォイドルがマジで何があったのかと詰め寄ってくる。彼らは彼らですでに物資を集め、寮を要塞化し、隊の編成まで終わらせたそうだ。ギルがとても学生レベルじゃ狩れない相手を狩ってなおあんな調子なものだから、相当ピリピリしているらしい。


 『水臭いだろ、素直に話せ!』とラフォイドルが熱く肩を組んで問い詰めてきたので、『至高のリボンを作るのだ』と素直に話したらブチ切れられた。あいつはもっとミルクを飲んだほうがいいと思う。呪わなくても将来ハゲるに違いない。怒りっぽい人ってやーね。


 ゼクトとシャンテちゃんは話を聞いていろいろ理解してくれた。シャンテちゃんは『パパに頼んで同じものを取り寄せる』って言ってくれたけど、材料はすでに集まっているから気持ちだけ受け取っておいた。


 ゼクトには隙を見てギルの口にジャガイモをぶち込むように頼んでおいた。震えていたけどどうかしたんだろうか?


 ミーシャちゃんはラフォイドルに深爪の呪いをかけてケラケラ笑っていた。立ち直りが早いのか、それとも空元気なのかはよくわからない。あと、パレッタちゃんに意趣返しとして大粒のマジック・ドロップを口移しで食べさせようとふざけたら、パレッタちゃんが普通に乗ってぶっちゅーしてた。真っ赤になってぺたんと座り込んでたのがちょっと可愛いと思った。


 でも、『きゃっ!』って感じで顔を押さえたロザリィちゃんのほうがめっちゃ可愛かったです。赤くなりながらもチラチラ見ているのもグレート。いつか俺がちゅーしたい。


 本日の授業はグレイベル先生、ピアナ先生の魔法生物学。ステラ先生から話が回っていたのか、ピアナ先生がこっそり俺だけにウィンクしてきた。超うれしかった。ピアナ先生マジエンジェル。


 内容はミルキーシルキーワームについて。正式名称は違うんだけど、この幼虫は特にそう呼ばれている。こいつが吐き出す糸はミルクのような雲のような感じで、とても上質なことで有名だからだそうだ。『きちんと処理した糸はお裁縫好きの女の子の憧れなんだよっ!』ってピアナ先生が言ってた。


 以下にその概要メモの一部を示す。



・ミルキーシルキーワームは草食性である。餌はできれば魔力的要素のあるものが望ましい。コケウスを食べさせておけばまず問題ない。変なものを食べさせると悪臭の糸を飛ばしてくる。


・寒暖差に弱く、場合によっては夜の急激な気温低下で死んでしまうことがある。そのため、巣箱には毛布を掛けておくのが推奨される。毛布がボロイと悪臭の糸を飛ばしてくる。


・糸を目的とする場合、競争心をあおるため巣箱には雌雄ともに複数匹ずつ入れる。この方がより上質な糸を大量に紡ぐ。好みの相手がいないと腹いせに悪臭の糸を飛ばしてくる。


・変態期、あるいは然るべき刺激を与えるとカップの底に揺蕩うミルクのような濃く、深い繭を紡ぐ。採取する際は手を軽く湿らせ、千切り取るようにするとうまくいく。繭がなくなるとうまく紡げなかったと勘違いして翌朝までにまた紡ぐ。このときプライベートまで覗いてしまうと悪臭の糸を飛ばしてくる。


・繭は採取(処理)しないまま一晩放置すると恐ろしいほど硬くなる。しかし、熱した砂糖水(甘め。蜂蜜も入れるとなお良し)をかけると柔らかくなる。砂糖をケチると出直して来いと言わんばかりに悪臭の糸を飛ばしてくる。


・まごころを込めて育てる。込めないと悪臭の糸を飛ばしてくる。


・色んな意味で、最後はちゃんと愛情を捧げる。


・魔物は敵。慈悲はない。



 実際にこいつに触ることができたけど、めっちゃぶっさいくなイモムシだった。濃い緑色の体に毒々しい黄色のラインとオレンジの斑点があってキモチワルイ。顔はぶよんとしていて、太りすぎて目が脂肪に隠れたオッサンみたい。しかも大きさがポポルの両手から溢れるくらいある。潰すに潰せない。


 でも、繭だけはマジで綺麗。本当に雲みたいで、星雲のようにも見える。仄かに甘い香りさえした。よくよく見ると艶やかで光をよく反射する極細の糸がちりちりになったもので、こいつをほぐして然るべき魔法処理をすることでミルキーフィーロと呼ばれる魔法糸になるのだそうだ。


 フィルラドのヤツはなにか粗相をしたらしく、顔面に思いっきり臭い糸を吹き付けられていた。どこかで嗅いだことのあるヤバめのミルクスメルがした。同族嫌悪だろうか。


 虫の苦手なロザリィちゃんが真っ青になってたのが印象的。ずっとビクビクブルブル震えていた。さりげなく隣に行って、つい偶然うっかりミルキーシルキーワームを落としてしまったら、『ひゃあぁぁんっ!』って涙目になりながら抱き付いてきた。この世の天国を腕から感じた。


 授業後、グレイベル先生とピアナ先生が夜なべして処理したミルキーフィーロを記念ということでもらえた。俺たちも糸を回収するところまではやったんだけど、処理には時間がかかるから完成品まではこぎつけなかったんだよね。


 受け取るとき、『しっかりやれよ』とぼそっと二人から言われたので深くうなずいておいた。やっぱりわざわざこいつを選んでくれたのだろう。これだけ上質な糸ならばかなりいいリボンが作れるはずだ。パレッタちゃんから貰った糸と手触りも全然違うから、なかなか面白い仕上がりになるに違いない。


 で、夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。糸、染料、針、ガタつかないまともな机、そしてプレゼント用のラッピングと、材料はすべてそろったのであとは俺の裁縫と調合の腕にかかっている。明日は気合を入れなくちゃ。


 悲しみに咽ぶギルのイビキは今宵で最後にしてやろう。コケウス、カミシノ、スタル魔鉱石、そして秘蔵の原初の霊水を混合したものをギルの鼻の穴に垂らしておいた。


 何が起こるか一か八かの賭けだが、俺はギルの筋肉を信じている。おやすみ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ