66日目 基礎魔法概論:魔塵の種類とその特徴
66日目
魔法陣が粒子状に砕け散っている。砕けたそれを水の友陣砂と名付けた。
朝食は軽めにガスパチョを選択。冷製スープにあまりいいイメージはなかったけど、どうしてなかなかいいかんじ。野菜の味もしっかりでていてさらっと入っていく。おばちゃんに美味しさの秘密を聞いたら『一晩寝かせるのがポイントだい』って教えてくれた。今度時間があったら作ってみよう。
ギルはやっぱりジャガイモを『うめえうめえ!』って喰ってた。調子はすっかり元に戻ったらしい。あいつの胃袋はどうなっているのだろうか。いつか解剖してみたい。
『んーっ!』ってしながらミーシャちゃんに口を拭ってもらっていたロザリィちゃんがマジキュート。女の子同士ってどうしてあんなに仲がいいんだろう? 俺も女に生まれたかったと思ったけど、女だとロザリィちゃんと恋人になれないと考え直した。
授業はシューン先生の基礎魔法概論。ズボンにインしたローブをなんとか引っ張ってみるもやっぱり抜けない。かまってもらって嬉しそうなシューン先生に若干イラッとする。
内容は魔塵の種類とその特徴について。裂造行程の特徴は魔力塊のカスである魔塵が出る事なんだけど、その魔塵を調べることでいろんなことがわかるんだって。一流の魔法使いとなると、例え戦闘中でもその魔力残滓(魔塵)を観察して相手の状態を正確に見抜く必要があるっぽい。以下に授業ノートの一部を示す。
・流形魔塵
魔法刃先の魔深上方にむかって発生する裂界すべりが連続的に起こるとリボン状に連なった魔塵が流出される。このときの裂界変形は連続的であるため、この魔塵は滑らかで一様な形状を保ちながら半永久的に連なって排出される。これを流形魔塵と言う。裂造抵抗もほぼ一定の値を取り、魔振動も起こらず、精度も良好となる。
・裂界形魔塵
魔法刃の進行とともに魔塵の受ける魔歪が増え、魔深が増し、限界に達するとクラックが発生して急に薄くなり、また次第に厚くなるという過程を繰り返すことで魔塵が排出されることがある。この魔塵は固まって断片群となり、これを裂界形魔塵という。裂造抵抗は一つの魔塵を排出するたびに変動するため、魔法陣表面に変動に応じた凹凸や魔歪ができてしまう。
・毟形魔塵
魔法刃先の手前で魔力塊に向かって小さな裂け目が発生し、刃先から裂界が起こって魔塵がバラバラになって排出されることがある。これを毟形魔塵と言う。裂界抵抗の変動が非常に激しく、魔法陣表面には発生した魔裂によってフラれて発狂したインプが掻き毟ったかのような傷跡が残るため、精度は荒くなる。
他にもいろいろあるらしいけど大まかにはこんな感じ。流形魔塵が理想的で、ほかの魔塵が検出されたら魔力塊の性質と魔法刃の構成を考え直さなきゃいけなくなるんだって。
これらは陣造条件や触媒の種類なんかでも影響されて、陣造された魔法陣の強度や精度を知る指標と成り得るらしい。『魔法使いの腕や能力は魔塵を見れば一発でわかる。例え大魔法が使えても、ヘボい魔塵を出してたらこけおどしに過ぎない』ってシューン先生が言ってた。
ヘタに相手に情報を与えるくらいなら流造のほうがよくね? って思ったけど、単純に魔法陣触媒魔法としてみたら裂造魔法陣のほうが遥かに威力や規模は大きいらしい。どれも一長一短ってわけだ。
ザントマンの砂にやられながらも必死にノートを取るロザリィちゃんがマジプリティ。後半、完全に落ちていたから後でノートを見せてあげよう。自然に話しかけられる口実を見つけるとか、俺マジ策士じゃね?
ギルのヤツは珍しく寝なかったけど、教科書の挿絵の女魔法使いを落書きしてダイナマイトボディーにしてた。味のある絵心に思わず感心する。が、ポポルがまじまじ見ていたせいかシューン先生に見つかった。
シューン先生は『個人としてはそういうのは結構好きだ。むしろ一緒に落書きしたい。だが、教育者として見過ごすわけにはいかない』って言って笑いながらデモンストレーションで作った毟形魔塵(風属性)を吹き付けた。
そしたらギルのヤツ、そのまま鼻で吸いやがった。あいつマジなんなの?
ギルは今日も大きなイビキをかいてぐっすりと寝ている。そんな親友の鼻の穴に廊下に落ちてたダンシングキャンサーの鋏をはめ込んだ。やっぱりぴったりフィットする。これはいいものを拾ったかもしれない。




