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64日目 まどろみのキミ

64日目


 ギルの目にクマ。つまらない。


 朝食でちょっと贅沢にホットケーキを選択する。朝っぱらからむせ返るレベルの甘さに背徳感がヤバい。クリームも蜂蜜もジャムもてんこ盛りにしてやる。ジオルドがめっちゃうらやましそうに見てきたので俺特製のトッピングを施してやった。


 ギルは相変わらずジャガイモ。『うめえうめえ!』っていっつも言っているけどボキャブラリーの貧しさに泣けてくる。休日くらいちょっと贅沢なもの食べればいいのに、なんであいつはこんなにもかたくなにジャガイモを食べ続けるのだろうか。


 朝食後は畑の様子を見に行く。カミシノもすっかり成長しきってたくましい感じになっていた。葉っぱも枝ももちろん果実もパーフェクト。ギルに手伝ってもらいながらナエカやヤカツともども一気に収穫する。次の収穫までもうしばらくかかるだろう。


 手間賃じゃないけど、手伝ってくれたギルには相応の額を『親友銀行』に振り込んでおいた。あいつはそのこと自体に興味がないからなんだかんだで結構な額が溜まっている。ジャガイモ以外の購入なら引き出しを許可しようと思う。


 なんとなくのんびりしたい気分だったのでそのあとはギルと別れてクラスルームでのんびりする。たまには何もしない日もいいもんだ。いつもは誰かしら座っているロッキングチェアを長時間占拠できてうれしい。読書にマジ最適。専用のものが欲しい。


 ふと水槽を見たらエンゼルフィンがちょっと減ってコメットテールが増えていた。エンゼルフィンは誰かが使ったのだろう。コメットテールはミーシャちゃん辺りが釣っていたに違いない。ここのところ全然水槽を見ていなかったから気づかなかった。あとでフライにしてやろうと誓う。


 せっかくなので虫かごの中も見る。マジックバタフライはいい感じに繁殖しているようで卵や蛹がいくつか増えているのが確認できた。ミヒャエルやジェイムスも代替わりする前に接着剤にしてしまおうと思う。


 パレッタちゃんのヴィヴィディナの虫かごからは怨念の声が聞こえたので、そっとギルの汗を入れておいた。悲鳴っぽい仕上がり。パレッタちゃん好みのいい仕事をしたと思う。


 それにしても本当に人がいなくてゆったりしてた。ステラ先生の匂いのする本を読みながら今後の予定を考える。頼まれていた夜食づくりと、薬品作りで資金を稼ぐのと、鉱山に足を運んで鉱石採取も行いたい。それに、考えてみれば俺だけ虫取りに行ったことがなかった。


 しかしまぁ、本当にゆったりすぎて眠気がすごかった。思えば先週はセイレンエイルの逆襲で、先々週は打ち上げだった。そのまた前もテスト勉強でギルの筋肉と格闘していた気がする。日記を読み返したら、さらにその前がハゲプリン騒動だった。一ヶ月以上ばたばたしまくってたって計算だ。俺、超頑張ったと思う。


 にしても、人のいない午後の昼下がりってどうしてあんな気分になるんだろうね? 本とロッキングチェアの組み合わせも最強だと思う。ナエカのアブナイ使用法の一つである惚れ薬(同性限定)の作り方を見ているところまでぼんやりと記憶があるんだけど、途中で寝ちゃったっぽい。


 んで、気づいたら毛布が掛けられていた。すっげぇ甘い女の子の匂い。ふと横を見たら、ロザリィちゃんが同じように椅子に揺られて寝ていた。


 ヤバい。思い出すだけで逆に冷静になってくる。もうね、可愛いって言葉じゃ足りない。新しく『ロザリィちゃん』って概念を作らないとこの気持ちは表現できない。


 毛布かけてくれたのもそうだけど、ちゃんと手をぎゅって握ってくれてたのにものすごく暖かい何かを感じた。冗談抜きで涙がこぼれた。


 俺、生まれてきて本当に良かった。あのとき死を選ばなくて本当に良かった。この幸せな気持ちをアエルノチュッチュの連中にだって感じてほしい。


 すーすーって眠るロザリィちゃんをじっと見ていたら(マジで疚しい気持ちはなかった。でもマジプリティでした)、しばらくしてロザリィちゃんが目を覚ました。ちょっと恥ずかしそうに笑った顔がキュート。


 『ここのところずっと頑張ってくれてたから、ゆっくり休んでもらいたかったんだ』って頭を撫でてくれたとき(たぶんふざけていたんだと思う)、その笑顔に心臓がドキッてなった。


 俺、冗談抜きにロザリィちゃんに惚れてるわ。そのまま一緒に食べたおやつのハゲプリンは今まで食べた何よりも甘かった。


 なんか書いてて恥ずかしくなってくるし、万が一誰かに見られたらとてもアレなので、このへんまでにしておこう。俺が思い出す分にはこれで十分だ。


 あ、ちなみにこれはクーラスとジオルドの寝室で書いている。テストの賭けのアレで交換お泊りしてるんだよね。この部屋、タペストリーとかそんな感じなのがいっぱいあってすっごくアットホームな雰囲気。殺風景な俺とギルの部屋とは大違いだ。


 ジオルドに俺が何かを書いているのは知られたけど、『万が一のためにギルの行動記録を付けているんだ』っていったら驚くほどスッキリと納得してくれた。『せっかくだから早めに寝とけよ』って言われたけど、ロザリィちゃんとお昼寝したせいでだいぶ目が冴えてる。


 俺の寝室に連れ込まれる直前のクーラスの絶望の表情もまた瞼に焼き付いている。あと、クーラスの机は俺の机よりガタつきが少ない。悔しいから俺のサインを彫っておいた。


 さて、そろそろ寝ようと思う。ジオルドのイビキはほとんど聞こえない。寝相も悪くなさそうだ。ナイトキャップを被っていたのがちょっと意外。あと就寝前に柔軟体操しているのも初めて知った。


 今日は幸せな気分で幸せな夢を見られそう。普通に眠れることのなんと幸せな事か。もし布団の香りがクーラスじゃなくてロザリィちゃんだったら、幸せすぎてあの世に行っていただろう。


 日記を見返しているだろう未来の俺よ。今の俺はこんなにも幸せだ。おまえもほどほどに幸せになれよ。それじゃ、おやすみ。

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