57日目 逆襲のセイレンエイル
57日目
ギルの爆声と誰かの悲鳴で飛び起きる。予想が当たってしまった。あとギルの鼻毛がぼーぼー。
慌てて窓を開けると、文字通り外一面が真っ青になっていた。羽音がうるさく、すっげぇ金切り声がした。間違いなくヒステリーを起こしたセイレンエイル。正確な数はわからなかったけど、千や二千でききそうにない。たぶん万単位でいただろう。
基本的には無害とはいえ、さすがにこの数はヤバい。クラスのみんなを叩き起こし、先生への連絡と他寮の状態を確認すべくクーラス、ジオルド他数名を派遣する。アエルノチュッチュは後回しでいいと言っておいた。
炎の魔法で窓からできるだけ駆逐していると、ジオルドが武装したステラ先生、グレイベル先生、ヨキ、あとシャンテちゃんを筆頭とするバルトラムイスの連中を連れてきた。
なんでも、昨晩いきなり付近一帯のセイレンエイルが異常活性し、どこからか大量に湧き出てこの学校を襲撃したらしい。金切り声がうるさくてすっげぇ聞き取りづらかった。
皮肉なことに、この襲撃の指揮をとっているのはうちのセイレンエイルたちだとのこと。イケメンなグレイベル先生が『……ぶっ潰す』と健全な青少年に見せちゃいけない顔で呟いていた。
あまりにもヤバい顔だったからそっと後ろからロザリィちゃんの眼を隠したら、なぜかミーシャちゃんにケツを蹴られた。解せぬ。
ピアナ先生やシューン先生、カルブ先生はティキータ・ティキータのほうへと向かったらしい。クーラスたちもそっちに行ったとのこと。大きく二班に分けて殲滅作戦を展開するってステラ先生が凛々しい顔で宣言した。そんなお顔もマジキュート。
アエルノチュッチュはどうしたのかと聞いたら、ふざけたことにアエルノチュッチュのほうが発生源くさくて連絡が取れないんだって。なんか密度が段違いとのこと。
その証拠に、数日前に大量の蛹が放置されているのが確認されているのと、やっぱり数日前にアエルノの連中が飼っている使い魔がどこからか大量の魚を持ってきたのが目撃されているらしい。
つまり、アエルノチュッチュのところにあった大量の蛹が羽化し、餌を食べ、何らかの拍子で超活性化してこの反逆を起こしたということだ。
蛹とか魚とか放置するとかマジ信じられない。俺だったら全部ギルに喰わせるのに。
シャンテちゃんが『夜明け頃にバカでかい下手くそなメロディが聞こえた、それから奴らが動き出した』って言ってた。この襲撃は何者かが手引きしたのだろうか? きっとアエルノチュッチュのやつだろう。絶対に許さない。
パレッタちゃんが『……やっぱり目覚めた!』とか言ってギルの肩とポポルの頭をパンパン叩いてたけど、見なかったことにした。
んで、殲滅作戦。触媒の大盤振る舞いで擬似爆破魔法をぶっぱなしまくる。口とか鼻にセイレンエイルが入ってきたり、噛みついてきたりすることに気を付ければまさにカモ撃ちで超楽しい。羽ばたく蒼と堕ちる焔のコントラストがマジビューティフル。
クラスの連中もバルトラムイスの連中も炎系を中心に魔法を連射しまくる。あんなふうに魔法が飛び交っているのを見たのは初めて。ちょっと感動。
中でもわが友人たちはすごかった。最初に先生が言っていた『ルマルマは個性的なクラス』ってのもなまじ嘘ではないらしい。
フィルラドが召喚魔法で炎魔を何匹も出して効率的に焼き殺してた。ポポルはとにかく連射。あの連射力はすごい。ミーシャちゃんが部分変化魔法で体を炎にして突撃。アルテアちゃんは射撃魔法で持続力のある弾幕を張る。パレッタちゃんは近づいただけでセイレンエイルが泡吹いてボトボト落ちてた。何をしたのか聞くのが怖い。
シャンテちゃんもなかなかだった。精霊を召喚して空から火の雨をふらしていた。もっと本気を出せば人を乗せられるやつも出せたらしいけど、それだと火力が高すぎるから小型のやつにしたらしい。
俺? 遊撃隊としてオールマイティな活躍をしつつ、ロザリィちゃんのナイトになってたよ。『背中はあずけるよっ!』ってロザリィちゃんとぴったり背中合わせになった時はめっちゃ燃えた。一生預かっていたいです。
ギルはすごかった。なんかやたらあいつにセイレンエイルが群がったんだけど、『弱ぇ弱ぇ!』とか言いながら爆音をだして一気にまとめて吹っ飛ばしてた。神速の拳で遠近問わず殴り潰してたし、軽くクレーターちっくなものもできてた。
あいつマジ怖い。なんで魔法使いなんてやってるんだろ?
でももっとすごいのが先生たち。グレイベル先生は化け物染みた身体能力でびゅんびゅん飛び回ってまとめて素手で八つ裂きにしてた。植物と土でできた巨大スコップとかもめっちゃ振り回していた。しかもスコップを一振りしたと思ったら、竜巻らしきものが起きてまとめてセイレンエイルをばらばらにしてた。グレイベル先生マジ最強。
あの人、補助的に魔法を使うタイプの魔法使いらしい。顔が鬼みたいでちょっとチビりそうになった。
ヨキはあっちこっちに反応式の魔法陣を仕掛けて自分は隊列の真ん中でオペレーターをしてた。設置数と威力、規模なんかはめっちゃすごいし、指示もすっげぇ的確だったけど、戦い方がいやらしい。
セイレンエイルの数少ない逃げ場所やこちらの弱点になりうるところを確実に潰していて、性格のひねくれ具合が戦い方にも出ていた。ヨキ自身もそうだけど、ヨキが指揮する敵と絶対に戦いたくない。
そして女神のステラ先生は炎の龍みたいのをぶわーっ! って出してた。やきつくすってのはまさにあのことを言うんだろう。ルマルマとバルトラムイスの生徒全員が魔法を使ってもあれだけの火力は出せない。というか、アレに比べれば俺たちの魔法なんてガキの火遊びみたいなものだ。
さすがグランウィザード。明らかに実力がダンチできゅんとした。カッコイイ姿も超ステキ。
なんだかんだで午後になるころにはすべてのセイレンエイルを駆逐することに成功する。原因はやっぱりアエルノチュッチュ寮に放置されていた蛹で、アエルノのやつらは寝込みにしこたま鼻をかまれてダウンしていたらしい。
さすが組長と言うべきか、ラフォイドルはブチ切れてオリジナルの暗黒の渦でセイレンエイルを飲み込みまくってたんだって。寮の一部もぶっ壊したらしいけど。
んで、みんなと合流してそれぞれの武勇伝を語り合う。ティキータの連中と戦っていたクーラスの話だと、ゼクトが付与魔法の達人らしくってみんながめっちゃ強化されていたそうだ。
あと、ピアナ先生の植物魔法が半端なくて、カルブの術式展開量が異常なレベルで、シューン先生はインしたローブをとうとう解放したらしい。
シューン先生、ローブの内側にありえないレベルの魔道具をこれでもかとつけていて、瞬時に使い分けてアクロバティックに闘う魔道具マスターだったそうな。超見てみたかった。三連魔銃の二丁拳銃スタイルとかわくわくが止まらない。
普段研究室に引きこもっている上級生も駆り出されたらしい。面倒くさそうに一瞬でごっそり減らし、『レポートの続きをやらなきゃ……』『誤差要因がわからん……』『捏造じゃない……あれは捏造じゃなくて情報処理……』って言って死にそうな顔で帰っていったそうだ。色んな意味で、上級生マジすげぇ。
ばたばたした一日だったけど、無事に終了することができた。そうそう、死骸はおばちゃんのお掃除魔法で一掃したんだって。あの人ただの料理人じゃなかったんだね。
『みんな、お疲れ様ーっ!』って笑ってくれたステラ先生とロザリィちゃんが超可愛かった。がんばったかいもあったというものだ。
ある意味事件の発生原因であるギルの鼻の穴に、今日はセイレンエイルの翅を詰め込んだ。消音効果はイマイチ。みすやお。




