50日目 打ち上げ準備
50日目
ギルの鼻毛の消失を確認。これは浄化という扱いでいいのだろうか?
起床後、ギルを引き連れ食堂へ。決まったばかりの打ち上げの為、準備は結構ばたばた。フィルラド、ポポル、ロザリィちゃん、アルテアちゃん、ミーシャちゃん、パレッタちゃんと一緒にサンドイッチをつまみつつ大まかな予定について話し合う。
会場はクラスルーム、予算はクラス資金から出すってのが確定した。問題は食べ物とイベント企画。おばちゃんに料理を全部頼もうとしたんだけど、残念ながらバルトラムイスとティキータ・ティキータの予約がすでに入っていた。連中、テスト前から準備していたんだって。
アエルノチュッチュの連中は町の高級な店を貸し切るんだとよ。聞いてもいないのに厭味ったらしいラフォイドルが教えてきやがった。『うるせえギルぶつけんぞ』って言ったら『はったりだろ』とか言ってきたのでヤツの顔面にジャガイモを投げておいた。受け止めたラフォイドルの右手がギルの涎まみれになったことを記しておく。
あとパレッタちゃんが部分ハゲの呪いをかけていた。ナイスパレッタちゃん。
んで、料理は俺が作れるから材料を確保するってことになり、役割分担をする。ミーシャちゃんは魚を取りにギルと湖へ、アルテアちゃんは獣を狩りにフィルラドと山へ、パレッタちゃんは会場準備や備品を購入しにポポルを連れてドサ周りに行けって指示を出す。他の連中の手も借りろって言っておいた。たぶん、言われなくてもジオルドやクーラスがいい感じに動いていたことだろう。
アルテアちゃんに『随分手馴れているな?』って聞かれてしまった。ロザリィちゃんに変に誤解をされても困るので、ちゃんと宿屋の息子だから慣れてるだけだと言っておいた。マデラさんのところではこの程度のことができないとミジンコ以下の扱いを受ける。
みんなを送り出した後、俺とロザリィちゃんはステラ先生の元へ。打ち上げの申請もそうだし、なにより先生を誘わなきゃルマルマの宴は始まらない。
まさか休日に訪ねてくるなんて思ってもいなかったらしく、ピアナ先生だと勘違いして無防備な格好で出てきたステラ先生を目撃してしまう。『きゃあっ!?』って真っ赤になるステラ先生が超可愛くて鼻血が出そうだった。あと、そっと俺を目隠ししてきたロザリィちゃんがマジプリティ。もしかしてジェラシーを感じてくれているのだろうか。
概要を話したらなんか涙ぐんで喜んでくれた。今までこういう風に誘ってくれた生徒はいなかったらしい。ステラ先生を誘わないとか、歴代の生徒はみんな頭がおかしいと思う。
そ・し・て! なんとそのままロザリィちゃん、ステラ先生と一緒に買い出しに行くことになった! ひゃっほぉぉぉ!
嫉妬に狂う男どもの視線を感じながら飲み物や軽くつまめるおやつなどを購入。あと、ピアナ先生、グレイベル先生のところで彼らが育てている野菜を分けてもらった。グレイベル先生、『若いときは全力で楽しむもんだ』ってマジでいっぱいくれた。イケメン過ぎて惚れそうになった。
せっかくなのでグレイベル先生もピアナ先生も参加しませんかと誘ったけど、ピアナ先生に『邪魔しちゃ悪いから、気持ちだけ大切に受け取っておくね!』って言われてしまった。変な遠慮はよしてくださいよと言ったら、今度はグレイベル先生に『クラスの仲間だけでの絆を深めるのも大切だ』と諭されてしまった。いい人過ぎて泣けてくる。次は絶対に参加してもらおう。
その後、デザート用のハゲプリンの製作と明日の料理の下準備に入った。久しぶりの本格的な調理に腕が鳴る。量も種類も豊富かつ、安上がりで誰もが楽しめる宴会用のメニューを考えるのってなかなか難しい。
そういえば、ほとんどの冒険者どもは宿屋の宴会(ほぼ毎日)で酒と肉があれば満足してくれたけど、そうでない客の宴会だとすごく気を使ってメニューを考案した気がする。
そういう場合は品数が多くなりがちだから、大皿の類は特に下準備をちゃんとしておかないと負担が多すぎて大変なことになる。宴会中の厨房ってマジで戦場だもん。
意外なことにステラ先生もロザリィちゃんも料理はちょっと苦手らしい。ナイフはおぼつかない手つきだった。でもそんなところが超かわいいです。
三人だけでこっそり味見したハゲプリンの甘さを俺は一生忘れない。たぶん、あのステキすぎる笑顔に囲まれた瞬間が俺の人生のピークだったんだと思う。
夕方になってクラスルームに戻るともうすでに会場はそこそこの形が出来上がっていた。ポポルやパレッタちゃんを中心としてみんな頑張ってくれたらしい。
『すげえだろ!?』ってポポルが超笑顔で言ってきたので、にっこり笑って頭を撫でてやったら『子ども扱いするんじゃねえ!』って言われた。そういうところが子供だと思う。
そのすぐあとくらいにミーシャちゃんとギルが帰寮。勇猛たるミーシャちゃんがめっちゃ笑顔で胸を張っていた。後ろでギルがいつぞやの魚より二回りは大きいやつを二匹も肩に担いでいた。連係プレーで獲ったらしい。すっごいうれしそうにミーシャちゃんがその活躍をロザリィちゃんに語っていた。ギルは半裸で筋肉を見せびらかしていた。
さらに後方で一生懸命荷台を引くジオルドは誰の眼にもとまっていなかった。肩をポンポンして荷台にあった魚を全部水槽にぶち込んでおいた。コメットテールがマジうまそうだった。ムニエルにするかフライにするか超悩む。
ちょっと不安なことが一つだけ。夕飯食って風呂入った後でもアルテアちゃんたちが帰ってこない。何人か引き連れて遠くに行ったとの報告はあったが、日帰りを予定していたとのこと。万が一のために遠征届を出していたのが救い。フィルラドがついているから最悪の事態にはなってないはずだけど……。
眠れそうにないので、クラスルームで待つことにした。日記を書いているのもクラスルームだったりする。最初はロザリィちゃんもまつって言ってくれたんだけど、お肌に悪いから遠慮してもらった。
なぜかギルもクラスルームで待っている。『親友の悩みは俺の悩みだ』とかギルのくせにカッコいいこといいやがった。ちょっとほろりと来る。徹夜のつもりだから寝ててもいいと言ったのに、今夜はとことんつきあってくれるようだ。
なんかどこかで感じたことのある感覚だと思ったら、宿で知り合いの冒険者が帰ってこないときのアレだ。マデラさんがいっつも夜遅くまで起きてた理由がなんとなくわかった。先に俺を寝かせていたのも不安な様子を見せないためだったんだな。
夜だからか、どことなく感傷的な気分。日記が長くなったのもそのせいだろうか。夜食のジャガイモに夢中なギルには絶対に知られたくない。




