4日目 触媒反応学:軽い理解度チェック
4日目
メモは行方不明になっていた。どこに行ったのか考えたくもない。
朝飯のデザートに選んだリンゴがすっごいうまかった。マジでうまかった。こいつはマデラさんの仕入れるものよりも倍はうまかった。蜜の面積が段違いだもん、勝てるわけがない。
あまりにうまかったから切られる前のを無理を言って分けてもらった。個人用の栽培スペースがあるらしいのでそこに植えてみようと思う。あとリンゴを嬉しそうに頬張るロザリィちゃんを見て活力がわいた。
ギルは『俺リンゴを握りつぶせるぜ!』とか言って遊んでおばちゃんに見つかり、テーブルを舐めさせられてた。少しはまともになることを切に願う。つーかおばちゃん、ギルを力づくで這い蹲らせるってどんだけだよ。あいつ脳ミソピクシー並みだけど筋肉はミノタウルスレベルなのに。
今日の授業は触媒反応学だった。触媒ってのはそのまま魔法の触媒のことだ。でもこの講義では触媒そのものの反応や組み合わせの影響よりも、魔法や魔道具に組み込まれた触媒がどのように影響するのかを重点に置いてやっていくらしい。一つの魔法にどれだけ触媒を置けるかだとか、触媒を置いた結果魔道具全体にどんな影響が出るかだとか、『触媒』を一つのものとしてみてそれそのものが及ぼす影響を考慮する……っていうのがその本質だと思う。
最初は触媒そのものの耐久性などといった基本的なパラメータの演算方法を学び、二年次以降はそのパラメータを用いてより実用的かつ専門的な内容に入っていくらしい。
触媒そのものの挙動もやるとか言ってた。反応と挙動は違うのか? 論理が破たんしてると思ったけどどうなんだろう。
触媒そのものについては基礎魔法材料学で詳しくやるらしいけど、学園を出た人間なのに触媒を使わない魔法を使う機会なんて滅多にないから、基礎魔法材料学と合わせてすべての科目の根底にあると言ってもいいくらい重要な講義だって。ちなみに基礎魔法材料学は単位取得率がヤバいって噂が流れてる。こっちはマシだけど。
で、この講義の担当がヨキという中年のオッサンだった。またオッサンかよ!
こいつさ、なんか信用できない。いい意味でも悪い意味でもお調子者っていうか、冗談ばっか言ってくるのに乗ってやったらガチギレするタイプだ。『君たちこれくらいは感覚的にわからない~?』とかヘラヘラ言ってくるけど、わかってたらここに来てないっつーの。
まあでも、『基本三星円構成の魔法陣の三ヵ所にこのように過剰魔力を注入した場合、崩壊が始まるのはどこからか』って問題は解けてもよかったと思う。あんなの一番脆くて一番力注がれている角に決まってるじゃないか。感覚っていうか一般人でもなんとなくわかるレベルだろ? どのみち三分の一に確率で当たるんだし答えればよかったものを。
なお、ロザリィちゃんはきちんと理論立てて解答した。プリティ&クールで惚れ直した。ヨキも普通にほめてた。さすがロザリィちゃん。
あ、ギルも指名されたけど、あいつはカンで答えを当てやがった。バカはバカなりの実力があるらしい。どうやって入学したのか不思議に思ってたけど、カンで筆記試験乗り越えたんだな。
何事も無く講義が終わるかと思ったら、ヨキの野郎、課題をたんまり残してきやがった。教科書の章末問題を来週までに解いてこいだってよ。前半は楽だが後半が鬼だ。しかも『きちんと読める字で途中経過を書かなきゃ受け取らんからな~♪』だとよ。
いい年したオッサンが音符マークつけるんじゃねえ。つけていいのはロザリィちゃんだけだ。ぶっ飛ばすぞ。
これ書き終わったらさっさと課題を片付けよう。あと、今日も愛すべき隣人はバカ面晒してイビキをかいている。触媒として使用済みのチタニア魔鉱石のカスが手元にあったので、寝る前に鼻の穴につっこんでおく。
がんばれ、俺。