359日目 魅惑の古老
359日目
なにもない……と思ったら、今度はジオルドが食堂で頭をガンガン叩き付けていた。どういうこっちゃ?
ギルを起こして厨房へ……行く前に食堂にて『ウォァァァァッ!』って頭をガンガン叩き付けるジオルドを発見。朝の仕事をこなそうと起きだしたルマルマ女子もこれに気づき、あまりの様子にドン引きしていた。
とりあえず、ミーシャちゃんのリボンでぐるぐるに縛ってもらう。で、落ち着いたところで話を聞くと、『余りにも自分が惨め過ぎて耐えられなかった。なんで俺だけこうなんだ。そして、それに気づいた瞬間……』とジオルドは語りだす。
どうやら、自分にだけ恋人がいないことが酷いストレスになっていたようだ。それでいて昨日クーラスが目覚めちゃいけないものに目覚めかけ、しかもなんかモテているから最後の砦が決壊したらしい。
これだけならただの笑い話だった。魔系のいつもの日常だ。だが、ジオルドが次に紡いだ言葉がヤバかった。
あいつさ、『……マデラさんみたいな年上ってなんかよくね?』って真っ赤になりながら呟いたのね。さすがの俺もドン引きしたよ。
『あの貫禄……チャーミングな皺……長い間研鑚された知恵と経験……思わず守ってあげたくなるようなか弱さ……!』ってジオルドはうっとりと語りだす。
あいつ、すっかり老け専になってしまっていた。老人の魅力に目覚めたらしい。『ヘルプに行った時のトリノさんも、あと二十年すれば……!』ってすっごくうれしそうに語っていた。
ロリコンのクーラスに続き老け専のジオルドである。友人二人がヤバい道を歩み始めたことに深い悲しみを覚えない。もうマジで終わってんなこれ。
ともあれ、奇行を止めることはできたのでそのままみんなで朝食を取ることにする。『うめえうめえ!』とギルがジャガイモを貪る傍ら、フィルラドが『おまえ……そこまで思い詰めていたのかよ……!?』、ポポルが『ばーちゃん好きだけど、そっちじゃなくね?』ってコメントしていた。
さて、今日も今日とて仕事をしよう……と思ったところで、ロザリィちゃんから『そろそろ学校の支度しないといけないかなぁ?』ってお話が。『予定通り進まないことも考えたら、明日か明後日には出発したいところだ』とはアルテアちゃん。
言われてみれば、あと一週間で春休みも終わる。もう休みが終わってしまうことに絶望。もっと長いと思っていたのに、思いのほかあっけなくて短かった。
が、なんともうれしいことに、『みんなまとめて学校まで送ってやるから、別に気にしなさんな』ってマデラさんが言ってくれた。『このへん、何か便利な交通手段でもありましたっけ?』ってステラ先生が聞いたけど、『いえ、魔法で一瞬で送れますので』とマデラさんは事もなげに答える。
ステラ先生、めっちゃプリティなお顔でぽかんとしていた。『て、転移魔法を? 他人に対して? この人数なのに?』と、信じられないものを見たかのように問いただす。『少々齧った程度ですよ。我流ですし、先生の様な綺麗な魔法には敵いませんから!』ってマデラさんは答えた。
さすがはマデラさんと言わざるを得ないけど、謙遜も過ぎると嫌味になる。あと、ジオルドがそんなマデラさんを見てポッて頬を染めていた。
さて、帰りの話が出たからか、『今日明日の仕事はしなくてよろしい』とマデラさんからお達しが。さらに、『そろそろ学校だし、今日はおやつをちょっと贅沢にしてあげようかね』と、なかなかうれしい情報も。
その言葉通り、おやつの時間にはマデラさんの本気のケーキとプリン、それに加えてクッキーが振る舞われた。こないだのクリスマスの時と同じくらい、いや、それ以上にデリシャスで思わず小躍りするレベル。
リアもちゃっぴぃも、もちろんルマルマのメンツもすんげえ嬉しそうにバクバク食っていた。ステラ先生も『おいしいっ!』ってクッキーを頬張る。しかもしっかりジャムクッキー。日記で見ていたとはいえ、マデラさんはわざわざ先生の好みに合わせたようだ。
しかしまぁ、マジでおいしかったよ。美味しすぎてそれ以上書くことが無いくらい。あまりにも夢中になってたものだから、その時みんなが何をしていたのかもイマイチ覚えていない。
ただ、ジオルドが『俺もうマデラさんと結婚しようかな……』って言っていたのだけは覚えている。さすがにあいつをパパと呼ぶ勇気は俺にはない。なんとかして正気に戻さなくてはならないと強く実感する。
……言われてみれば、マデラさんって料理は出来るしお菓子も作れるし家事も完璧でついでに魔法もこなせるめっちゃすごい優良物件だよね。旦那さんの話とか聞いたことないけど、やっぱり生涯独身をとおしてきたのだろうか?
グランマな今ならともかく、若いころなら周りが放っておかない……と思ったけど、やっぱ性格に問題があったんだろう。俺でさえ、たまにあの人マジクレイジーだって思うときがあるし。
すごく関係ないけど、今日はルフ老がやたらとご機嫌だった。『女の子が素足で洗ってくれた衣服を着られて、うれしくないはずがなかろう!?』とのこと。ハァハァ漏らす息がいつもよりアブナイ。こんなジジイにだけはなりたくないものだ。
宴会して風呂入って雑談して今に至る。男部屋には老け専とロリコンとヒモクズとおこちゃまが揃っているというなかなかにカオスな状況。この手の話題に一番関係のないポポルが一番まともに見えるという不思議。あいつにはあのまま純粋に育ってもらいたいものだ。
ギルは今日も腹を出してクソうるさいイビキをかいている。今日はあまりロザリィちゃんともステラ先生ともイチャイチャできなかったのが非常に心残り。明日こそいいことがあることを願って、星屑の息吹をギルの鼻に詰めておいた。おやすみ。




