36日目 通称ハゲプリン
36日目
ギルの髪がツンツン。似たようなのを前にも見た気がする……と思ったら若干の芳香を発していた。器用なヤツだ。
朝食後、さっそくクラスルームでプリン作りに入りたかったのだが、ここでやっぱり事件が発生した。ポポルのヤツ、プリン作りの肝である塩を入手することができなかったらしい。そんなバカな話があるかと詰め寄ったら、なぜかどこも都合よく売り切れで、売り場の近くにはアエルノチュッチュの連中がいたそうだ。
『連中には七代続く若ハゲの呪いと切れ痔の呪いをかけてやる』って血涙を流すポポルが恐ろしかった。ギルの汗すら触媒に使う覚悟を決めたとか。
でも、そこにクーラスがティキータ・ティキータのゼクトを連れてやってきた。んで、ゼクトがクレイジー・クレイジー・ソルトを提供してくれた。ジオルドから材料収集の相談を受けたクーラスが、万が一のためにゼクトに協力要請をしていたらしい。ゼクトのほうはアエルノチュッチュへの嫌がらせになるのならとよろこんで協力したそうだ。
コーラスバードの卵、スノーシュガー、夢魔の乳、エレメンタルエッセンス、クレイジー・クレイジー・ソルトとなかなかに豪華な材料が揃ったため、早速調理に入る。というか、なぜルマルマの連中は当たり前のように俺に調理を任せたのかがわからない。出来るから別にいいんだけど。
こないだ買った調理器具を用いて(クラスルームには包丁やフライパンなんかの基本的な調理器具だけで、お菓子作り用の道具はない)パパッとプリンを仕上げる。材料を混ぜて蒸して冷やすだけだから楽と言えば楽。約一か月ぶりの調理。腕が落ちてなくてホッとする。
夢魔の乳をちょびっと味見したら目の前がくらくらして心臓がどきどきした。すっごいくせになりそう。背徳感がヤバい。
プリンが蒸しあがるにつれ、香りに反応したのか虫かごのリチャードやジョンソンが激しく暴れていた。エンゼルフィンなんかはぼうっとして水槽に頭をぶつけていた。あと、私服のロザリィちゃんたちが何かに誘われるかのようにやってきた。『いいにおいだねっ!』って顔をうっとりさせるロザリィちゃんがマジキュート。あなたのほうがいい香りです。
クーラスが冷却用の魔法陣を作ってくれたおかげで作業はかなり早く終わった。できたプリンは『呪われバンシーの七代続くハゲ上がりスウィートプリン~夢魔の吐息にときめいて~』と名付けられていた。もういろいろ諦めた。
できたプリンをパレッタちゃん、ロザリィちゃん、ゼクト、シャンテちゃんに渡す。大本の理由と材料提供者だ。ロザリィちゃんは言うまでもない。
パレッタちゃんは満足したようで、ポポルに『フサフサの祝福を授けよう』ってスプーンを舐めながら言ってた。シャンテちゃんも目がうっとり。ゼクトは『なんでこんなにうまいんだよ!?』って驚いてた。
宿屋の息子の力を舐めてもらっては困る。この程度の事が出来なければマデラさんのところではミジンコ以下の扱いしかされない。
ロザリィちゃんが『すっごくすっごくおいしーっ!』って食べていたのがマジプリティ。腕を振るったかいがあった。
残った分はクラスのみんなで頂いた。ジオルドが超嬉しそうだったのが印象的。目が乙女でビビる。当然のことながら全員が『呪われバンシーの七代続くハゲ上がりスウィートプリン~夢魔の吐息にときめいて~』を食べることはできなかったので普通のプリンも作った。
ギルも『うめえうめえ!』って芳香を放ちながらプリンを食べてた。プリンとジャガイモをすり替えても気づいていなかった。
その後、ミーシャちゃんとアルテアちゃんに『逃げたら悲恋の呪いをかける』と脅され一日中プリン作りをさせられた。出来た大量のプリンはクラス共通の食材用保冷庫に。普通の食材とはいえ、女子の満場一致で材料費がクラス財産から使われてしまった。ちくしょう。
でも、ロザリィちゃんのほわほわした笑顔を見ることが出来てラッキーだった。あと、ステラ先生用に一個『呪われバンシーの七代続くハゲ上がりスウィートプリン~夢魔の吐息にときめいて~』をちょろまかしたことに気づかれなかったのは僥倖。
一日中立ち仕事で腰が痛い。ギルは気持ちよさそうにイビキをかいている。ビンの底にわずかに残っていた夢魔の乳をコルクに染みこませ、鼻に突っ込んでおいた。




