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355日目 そんなことより筋トレしようぜ! (頂上決戦)

355日目


 俺の体がマッスルボディ。長年鍛え上げたかのような鋼の肉体。なのにエレガントさは欠けていないというパーフェクトな仕上がり。俺ってばマジビューティフル。


 いつも通りギルを起こしたところ、『親友ッ! とうとう親友も筋肉の素晴らしさに目覚めてくれたのか!』ってなんか涙ぐまれた。筋肉を語り合える相手ができてうれしいらしい。魔系は筋肉な人が全然いないから、ギルは結構さみしかったようだ。


 もちろん、友情のダブルポージングをする。『なかなかの筋肉だな……!』、『へっ、親友こそ……!』と、熱い友情を確かめ合った、


 でも正直、首周りから肩にかけての筋肉は俺のほうが上だったと思う。下半身はまるで敵わなかったけど。


 で、マデラさんのところへ。『お、おう……』と、マデラさんは俺たちの美しすぎる筋肉に言葉も出ないようだった。まったく、自分の筋肉の素晴らしさが恐ろしいぜ。


 その後は普通に朝の仕事を進める。風呂場にて、アルテアちゃんに『な、なんか本能的な恐怖を感じる……!』って後ずさられた。洗濯物のところで、パレッタちゃんに『虚構……それもまたヴィヴィディナの糧になるなり』ってヴィヴィディナを全身にぶっかけられた。同じく洗濯物のところで、ミーシャちゃんに『ギルの筋肉のほうがすごいの!』ってなんか惚気られた。


 ロザリィちゃん? もちろん、『今日の──くんも最高にかっこいいよ♪』ってぎゅっ! って抱きしめてくれたよ。『ね! ね!』って甘えてきたので、腕にぶらーんってぶら下げてみたりもした。俺の腕にがっしりと抱き付いて甘えるロザリィちゃんがブリリアントにキュートでした。


 その後は普通に朝食。なぜだか無性に腹が減ったので、ギルと共に『うめえうめえ!』とジャガイモを貪ってみた。


 俺、ジャガイモのことを少し誤解していたかもしれない。あのすばらしい味と腹持ちの良さ、そしてジャガイモのジャガイモらしさは何物にも代えがたいものだ。


 あ、『あーん♪』ってロザリィちゃんが俺にいっぱいジャガイモを食べさせてくれたよ。ミーシャちゃんも『負けないの!』ってギルの口にいっぱいジャガイモを放り込んでいた。


 そのほかのメンツは『やべえ……やべえよあいつら……!』、『あんなのが二人に……!』、『よりにもよって頭が飛び切りクレイジーなやつが……!』ってぶつぶつ呟いていた。食欲も無さそげ。きっと俺たちの筋肉が美しすぎて、見惚れてしまっていたのだろう。


 午前中はいつも通りに仕事をこなす。筋肉が素晴らしいおかげか、いつもより体が軽くて仕事の効率も段違いだった。『ムキムキはともかく、これくらいなら結構ありじゃの!』ってミニリカが後ろから背中にぶら下がってきたのがちょっと印象的。


 わかっちゃいたけど、ミニリカは軽すぎる。もっと重くなきゃ筋トレにならない。ついでに背中から感じるそれがわびしすぎて泣けてくる。


 『もっと胸を重くしてから出直してこい』っていったら『こんの、バカタレがぁッ!』って真っ赤になってケツビンタしてきた。未だにこの手の話題はタブーらしい。もっと筋トレするべきだと思う。


 午後の時間も宿帳とにらめっこしていたら、『今日はもう休んでよろしい。お客さん、みんなアンタを見てビビって逃げている』とマデラさんからお達しが。


 サービスでポージングしていただけだというのに、どうやら昨今の人間は筋肉の魅力ってものがわからないらしい。何とも嘆かわしいことだ。


 そんなわけで、日向ぼっこしていたステラ先生を誘ってカードゲームをしてみることにした。『今度こそリベンジを果たす!』、『一回でいいから、先生とやってみたかったんだよねぇ?』と、テッドに加えて珍しくマデラさんも参加してきた。


 意外なオールスターの集合に驚きを隠せない。俺の胸筋もびくびくしてそのうれしさを語っていた。


 ルマルマのメンツ&オマケに見守られながら早速ゲームスタート。今日は非常に指の筋肉の調子がよろしく、いつもより精密&高度なサマを簡単に仕掛けることができた。


 『腕を上げたね……!』とステラ先生は嬉しそう。当たり前のようにテッドを飛ばした。あいつだけ役なしのブタ。『嘘……だろ……!?』って何もせずテッドはゲームオーバー。


 わかりやすいイカサマをしかけるからそうなるのだ。テクニックは確かにすごいけど、自分より格下しか相手にしていなかったせいで研鑚が足りない。あいつの敗因はそこだ。


 残るは俺と先生とマデラさん。調子の良い俺は二人纏めてぶっとばそうと慎重かつだいたんにイカサマを張る。確実に二人は役なしだし、俺の手札は最高の役という、どう考えても勝利間違いなしの状況。


 だのに、『最後の最後で油断するのはいっしょだねっ!』、『いつになっても詰めが甘いねぇ……?』って二人に言われた。そんなバカなとカードを開示したら、俺の手札は役なしで、二人の手札が最強いっこ下の役になっていた。


 ありえなくね? マジ何なの? しかもさ、なんか俺の右手が傷だらけで、すんごいぶるぶる震えていたんだけど。


 『見えたか……?』って誰かの問いに、ギルとテッドが『影が少しだけ』、ナターシャとルフ老が『奇妙な魔力残滓が一瞬だけ』、チットゥが『それ以外のヘンなのもあった』って答えていた。


 どうやら、テクニックも魔力も、なにもかもを使ったかなり高度なイカサマらしい。『やりますわね、先生!』ってマデラさんがいつもよりワンオクターブ高い声で笑っていた。


 そしてとうとう頂上決戦。僭越ながらディーラーを務めさせてもらう。二人にカードを配った。


 なのに、二人ともカードを手に取らない。ピクリとも動かない。視線すら動かさない。


 張り詰める空気。何もないはずなのに、何かがそこにあり、何かが激しいやりとりをしているのだけはなんとなくわかる。


 つっとステラ先生の玉の様なお肌のほっぺに冷や汗が。ピクリとマデラさんが不機嫌そうに片眉を上げる。『うふふ』、『おほほ』と、背筋の凍るような笑い声の応酬。


 やべえって思ったね。明らかに次元が違う。俺の筋肉も、ギルの筋肉でさえ、震えが止まらなかったよ。


 やがて、同じタイミングで二人の手の甲にぴしっ! って血の線が走った。二人ともそれにひるむことなく、カードを同じタイミングで手に取る。取った瞬間、ステラ先生の髪が三本断ち切れ、マデラさんの髪が二本断ち切れた。


 なんで物理的にケガなんてしているのだろう。しかも、直後に二人の魔力が思いっきり乱れたし。やってるの、カードゲームのイカサマだよね?


 気づけば、二人ともが手に無数の小さな傷を負っていた。なんとなく魔力の渦が渦巻いていたような気さえする。


 そして、コールして手札を開示しようとしたまさにその瞬間、マデラさんが持っていたカードは八つ裂きになり、ステラ先生が持っていたカードは飛散し、そして両方ともよくわからん隠蔽魔法要素に浸食されてチリになっていた。


 『まぁ、これでは勝負はできませんね……!』と、多少息の上がったマデラさん。『こ、こんなに白熱した勝負、初めてです……!』と頬を紅潮させて呼吸を整えるステラ先生。


 マジでいったい何をしていたのだろうか? 明らかに、なんかすんげえ運動でもしたかのように二人とも疲れていたんだけど。


 こっそり後で二人ともに勝負の時に何をしたのか聞いたんだけど、マデラさんは『あれ以上やってたら……本気になってたら明日の仕事に障ったねぇ。先生に気を使われちまったよ』、ステラ先生は『あれ以上やっていたら、先生たぶん明日ずっと寝込んでいたと思う。少なくとも無事じゃあなかったかな。マデラさんが最後に手加減してくれたから助かっちゃった』って言っていた。


 ……イカサマの話だよね? 俺の脳筋、別に衰えてないよね?


 長くなったからこんなもんにしておこう。ふと思ったけど、もし今日おれの筋肉がパーフェクトでなければ、もしかして先生とマデラさんのイカサマに巻き込まれて大変な目にあってしまっていたのだろうか? 先生に傷をつけてもらえるなら喜んでこの体を差し出すけれども。


 いけない、筋肉のことを考えたら日記を書くのが非常に面倒になってきた。少々繋がり……というか全体構成が甘い気もするけど、そんなことより筋肉だ。


 最後に腹筋、腕立て、スクワットとポージングをしてから寝よう。親友のグレートな筋肉に負けないくらいに鍛えないと。とりあえず、ギルの鼻にはナンポラペの花を詰めてみることにする。


 この花、とある砂漠の奥地にあるオアシスにしか生えない貴重なものらしく、疲労回復と筋肉増強効果があるそうだ。しかも嘘かホントか、マッスルで強力なドラゴンがこの花を番人のように護っているから、なんとかしてそいつを打倒しないといけないのだとか。


 そのため、採取しに行くだけでも最高の筋トレになるんだって。で、最高の筋肉を愛する者が筋肉にその愛を示すために筋肉友達に送ると友情の筋肉で結ばれるという噂が。


 おそらくそのドラゴンもこの花を食して筋肉になったのだろう。やっぱり筋肉はロザリィちゃんとステラ先生の次に最高だ。みすやお。

20160324 誤字修正

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