354日目 至高の枕
354日目
ギルの瞳がメタリック。よく見たら甲羅っぽい。好事家が高値で買ってくれるかも?
ギルを起こして厨房へ。今日は普通に仕事があるらしく、『先生にいいところ見せておきな』って言われた。見せようにも先生はぐっすりスヤスヤしているんだけどね。
で、早速朝の仕事。一応風呂掃除中にアルテアちゃんに先生の動向について聞いてみたんだけど、やっぱり『ぐっすり寝ているよ。起こさないように腕から抜け出すのが大変だった』って言っていた。
……うん、俺、このときばかりはアルテアちゃんが凄まじく羨ましかったよ。もしかしてステラ先生、抱き付き癖か何かがあるのだろうか? そんなところもマジプリティ。
書くまでもないけど、男連中は定時までぐっすり。ギルはいつも通りスクワットをしながら朝の光を浴びていたらしい。実に健康的だと言えよう。
朝食はみんなでとる。『普段みんな、なにやってるの?』ってステラ先生の問いに、ポポルは『おつかい』、フィルラドは『臨時ヘルプ』、ジオルドが『ウェイター、皿洗い、修理』、クーラスが『ウェイター、皿洗い、裁縫やその他雑務』、ギルが『力仕事と普通じゃないネズミ狩り!』って笑顔で答えていた。
『せ、先生もやっぱり何かお手伝いしたほうが良いかな……!?』ってわたわたするステラ先生が本当にかわいい。『先生みたいな美人なら、いてくれるだけで売り上げが上がりますよ』って笑顔で返す。『お、大人をからかっちゃいけませんっ!』って真っ赤になるところがエクセレントだった。
実際、ロザリィちゃん他女子たちがやってきたあたりから、着実に売り上げが伸びているから笑いが止まらない。宿帳を確認してるからこそわかるけど、いつものこの時期に比べて明らかに人が多い。ステラ先生が加わった今、より高い集客効果が望めるのは想像に難しくない。
そして、増加分は大半が男だ。もちろん、色目を使ったやつはみんなチェックしている。学校に戻ったらルマルマの総力を挙げて全力で呪いをかけようと思う。
そうそう、ギルが『うめえうめえ!』とジャガイモを貪る傍ら、ちゃっぴぃが『きゅーっ♪』ってお行儀悪くあちこちのコップに口をつけてはほったらかしにする……という謎の奇行を見せだした。どうやら冒険者どもがやっていた酒の飲み比べの真似をしているらしい。
被害にあったのはルマルマのコップ。全部ふちがヨダレででろでろ。一口ずつ飲むくらいならまだしも、なぜあいつはふち全部を舐めまわすのだろう。理解に苦しむ。
『そこに直れ』と低い声でしかりつけても言うことを聞かず。耳クソでも詰まってんのかと思って耳を引っ張って止めたら、マジであいつの耳の中耳クソでいっぱいだった。きたねぇ。
そんなわけで、仕事の合間を縫って耳掃除をする。ポンポン膝を叩いたら、意外にも素直に『きゅ!』って頭を乗せてきた。どうやらこいつ自身、耳の中のディストピアな状況に思うところがあったらしい。
思い出したくないので、これ以上詳しくは書かないことにする。『い、いっぱいとれたね……!』ってびっくり顔のロザリィちゃんがとても素敵だったことだけは記しておこう。
なお、そんな感じで耳掃除を済ませたら、『どれ、久しぶりにやってやろうではないか!』ってあのババアロリが膝をポンポンしてきた。あいつはマジでいったい何を考えているのだろう?
もちろん無視する。ミニリカのやつ、『これが反抗期なのかぁ……!』めそめそしだした。『あ、あたしが代わりにするから! ちょうどしてもらおうと思ってたの!』ってリアに気を使われる始末。本当に終わってんなこれ。
が、ミニリカに耳掃除をさせるわけにはいかない。だってあいつ、こういうときだけチキンで全然奥まで耳かきを突っ込まない。あんなのまるで意味がない。
そして、ナターシャはもっとダメだ。膝枕の心地よさは認めなくはないが、あいつは耳かきを容赦なくつっこんでぐりぐりしてくる。俺もおっさんも、耳から出血と言う類稀なる経験をしているのだ。しかもそのくせ『やわな耳をしているあんたらが悪い』って開き直るし。
マデラさんを除けばなんだかんだで一番うまいのがおっさんっていうね。どうして世の中こうも残酷なのだろう?
あ、リアの耳は俺が掃除してやった。途中で泣きわめかれたけど無視した。ちゃっぴぃは何ともなかったというのにあの程度で泣きわめくとか、おそらく今まで相当ミニリカやアレットに甘やかされていたのだろう。ナターシャに任せたらまず間違いなく漏らしていたはずだ。
なお、せっかくなのでロザリィちゃんに耳掃除をお願いするも、ついこの前したばかりであったことを思い出す。が、『おいで!』ってロザリィちゃんは膝をぽんぽんして普通に膝枕してくれた。マジで最高だった。
ちなみに、俺もロザリィちゃんを膝枕した。『うへへ……!』って俺の腹に頭を埋めてすーはーすーはーくんかくんかするロザリィちゃんが本当に愛おしい。あと、なんか膝のところにロザリィちゃんの頭が当たった瞬間、いい意味で背筋がゾクッとした。すんごくこそばゆくてくすぐったい。もぞもぞ動いたときは特にすごかった。
せっかくなので『耳掃除しようか』って耳かきを装備するも、『は、恥ずかしいからまた今度で!』と言われてしまう。別に全然恥ずかしくないし、ロザリィちゃんなら全然ばっちくもないのにね。
俺たちが膝枕をしていたからか、おやつの時間過ぎになぜかみんなが膝枕を楽しんでいた。特にミーシャちゃんは『やっぱり先生のおひざが最高なの!』ってステラ先生の膝枕で喉をごろごろ鳴らして心地よさそうにしていた。代わってほしかった。
『きゅぅぅぅ!』って暴れもがくちゃっぴぃを組み伏せ、そのケツ枕を堪能していたら、『あ、あたしもまーぜてっ♪』ってナターシャに転がされ、ケツ枕するはめになった。解せぬ。
『アンタ、あたしにケツ枕にされて泣いて喜んでたし別にいーじゃん』って開き直られたけど、アレは泣いて悔しがって暴れていただけだ。このアバズレの思考回路はどうなっているのだろう?
なんかろくでもないことしか書いていないけど、今日はこの辺にしておこう。あ、寝る間際、衝撃の光景を見てしまった。
なんと、あの気高きアルテアちゃんがフィルラドにケツ枕してあげていた。
いや、あれ見たとき俺また狂ったんじゃないかって思ったね。だってアルテアちゃんだぜ?
どうやら、フィルラドの魔法構築学の成績がめっちゃよかったらしい。盗み聞きした内容から鑑みると、どうも期末テストで満点かそれに近い点数を取ったようだ。
『あの、やっておいてもらってなんだけど、アティ、本当にいいの?』、『……や、約束を守っただけだっ! それ以上の意味はないっ!』ってアルテアちゃんはめっちゃ真っ赤になりながら怒るように言っていた。
そういや、『良い点取れたらご褒美をやる』って中間のテスト返却の時に言っていた気がする。たしか、そのときフィルラドは『お尻触っていい?』って聞いてケツビンタされていたはずだ。
まさかフィルラド、このためだけにガチで勉強していたのだろうか。動機が不純過ぎて泣けてくる。そして、あんなに前の約束を体を張ってまでも果たすとか、アルテアちゃんってマジで気高いと思う。
なお、俺ってばそんな現場からクールに去ろうとしたのに、『よう親友! 夜の筋トレか!?』ってギルに声をかけられたため、二人に見つかってしまった。
『ひょぁぁぁぁっ!?』って真っ赤になったアルテアちゃん、ためらいもなくガチな射撃魔法をぶっ放してきた。『ごめん、今回ばかりはイラってきたわ』ってフィルラドも笑顔でガチギレ。とっさに射線から飛び退いたというのに、召喚魔法で射撃魔法による弾丸を座標召喚し、俺とギルの面前にそれを出現させた。
未だに額がヒリヒリする。諸悪の根源であるマッスルモンスターはまったく気にした様子もなくクソうるさいイビキをかいている。理不尽とはこのことか。
急速に書く気が失せたのでここらで切り上げよう。『このへんにしておこう』って書いてからだいぶ長くなった気がするけど気にしない。
ギルの鼻には俺の額から流れ出た血を垂らしてみた。何が起こるのかちょっとワクワク。おやすみ。




