351日目 女神降臨
351日目
ギルの鼻が凄まじい吸引力を示している。チリとか埃とか全部吸い込まれた。とりあえず、小ぶりのジャガイモを鼻栓として採用することにする。果たしていつまでもつのか……。
うっひょぉぉぉぉ! ステラ先生! ステラ先生が来た! 我らが女神、ルマルマのアイドル、キュート&プリティなステラ先生が俺の宿に来てくれたぁぁぁぁぁ! 私服姿ステラ先生もエクセレント! マーヴェラス! ブリリアント! 俺、生きててよかったぁぁぁぁぁ!
ふう。落ち着こう。あまりにも嬉しすぎてちょっといろいろおかしくなっていた。まぁ、一か月以上ぶりにステラ先生に会ったんだし、これくらいしょうがないよね、うん。
順を追って書いていこう。
ギルを起こし、身支度を整えてから厨房へ。やっぱりすでにマデラさんは起きていて、『今日もいつも通りで。がんばったらおやつにプリンを作ってあげようかね』と、なかなかにサプライズな発言をしてくれた。
まさか二日続けてマデラさんの手作りプリンを食べられるとは。突然の幸せに喜びを隠せない。
んで、早速朝の仕事に。昨日の今日だと言うのにアルテアちゃんは元気に風呂掃除。『今日は贅沢して乳白色のやつを使っちゃおうと思ってな』って鼻歌を歌っていた。あと、わかっていたことではあるものの、泥とか血とか、脱衣所、風呂場共にいつもに比べて汚れが目立っていた。男子脱衣所なんて特にひどかった。
風呂掃除の後はロザリィちゃんとイチャイチャしながら朝餉の下準備。『疲れてない?』ってやさしく問いかけたところ、『──くんが隣にいるだけで元気いっぱい!』ってロザリィちゃんはほっぺにキスしてくれた。
ああもう、本当にロザリィちゃんは可愛すぎる。もし可愛いことが罪ならば、ロザリィちゃんは真っ先に捕まってしまうだろう。もちろん、ロザリィちゃんのキスには心の底から幸福を感じる愛魔法が込められていて、身体的にも魔法的にも元気いっぱいになった。
パレッタちゃんのお洗濯もいつも通り。粘塊状になったヴィヴィディナが修繕も含めて全部やってくれた。『さすがはジャガイモ……まさかこれだけヴィヴィディナの糧になるなんて……!』ってパレッタちゃんもステキにアブナイ笑みを浮かべている。いつも通りだ。
ちなみに、昨日のあの時ヴィヴィディナの姿を見ないと思ったら、宿屋内にてリアおよびその他宿泊客の護衛をしていたそうな。珍しく洗濯を手伝っていたリアが『私、ヴィヴィディナちゃんのこと、ちょっと誤解していたかもしれない』って言っていた。
あ、洗濯物干すのはミーシャちゃんの仕事ね。『やっぱりまだちょっと眠いの……』って言いながらも、クレイジーリボンを巧みに操って着実に干しまくっていたよ。
ただ、『ここはいいから、さっさと──は出ていくの!』って途中で追い出されたのがわけわかめ。別にナターシャの下着もミニリカの下着も見慣れている……っていうか今更互いに気にするようなものでもないのに。サイズだって知っているし、ミニリカの使われたことのない勝負下着の修繕(レース部分を箪笥にひっかけてできたもの。同じ種類の糸を探すのが非常に面倒だった)だってしたことあるのに。
……あれ、よく考えてみれば、今まで一回も俺ロザリィちゃんの下着を洗濯したことってないや。ギル・パンツやギルの靴下、ポポルの腹巻やジオルドのナイトキャップは洗濯したことあるのに。
まぁ、きっとマデラさんが俺が起きるよりも前に回収して洗濯していたんだろう……言われてみれば、マデラさんの下着も洗濯したことがない。グランマの下着なんてこれっぽっちも興味ないけど。
少なくともアレットやミニリカよりもデカいのはわかる。単純な数字だけならナターシャと勝負できる……かな? ってくらい。ぼん! ぼん! ぼん! なんだけどな!
朝食はみんなでとる。書くまでもないけど、今日もまた男連中は俺とギルが起こしに行くまでぐっすりだった。あいつら昼間もけっこうぐうたらしているのに、どうしてあんなに眠ることができるのだろうか。あ、もしかしなくても俺のベッドメイキングテクのおかげか。
もちろん、ギルは『うめえうめえ!』ってジャガイモを貪っていた。普通のジャガイモとジャガイモ魔神はどっちがおいしいのだろうと思わずにいられない。もしあれを無害化することに成功したのであれば、うちでマンドラゴラのように育ててみるのもいいかもしれない。
さて、ここで本日のハイライトに入って行こうと思う。そう、あれはそろそろお昼の支度をしようかな……なんて思っていた時、ちょうどみんながカードゲームをしたり、思い思いにくつろいでいたときの話だ。
ばん! って扉が開いたの。懐かしい魔力の気配と、懐かしい女神先生の匂い。思わず振り返ってみれば、そこにはなんか慌てた表情の(もちろんマジプリティだった!)ステラ先生がいた。
もうね、めっちゃうれしかったね。まさかステラ先生まで来てくれるとは思わなかったもの。
ただ、明らかに様子が普通じゃない。『いらっしゃいませ!』って飛び切りの笑顔で受け応えようとしたところ、ステラ先生はサッと店内を見回す。俺と目が合った。
で、一瞬の葛藤の末、『ちょっと付き合って!』って腕を取られた。ぬくやわこいおっきいのがおもっくそ当たっていた。
天にも昇る気持ち。とうとう先生が俺の気持ちに気づいてくれたのかと心の中で踊り狂う。
しかし、その直後に『ステラぁ!』と大きな声が響く。先生、びくっと肩を震わせた。『いい加減下らん妄想から目を覚ませ! 現実に目を向けろ! お前だって子供じゃ……!』って言いかけたダンディなおっさんが、入り口のところで立ち尽くしていた。
ステラ先生、『こ、この人が彼氏だもん! すっごくらぶらぶだもん! だからお見合いなんて絶ッ対しないんだからね、パパっ!』って大きな声で宣言した。
【お見合い】って単語が出た瞬間、室内から尋常じゃない殺気が。見なくてもわかるけど、ルマルマの殺気。お義父さん、あんなにもダンディなのにぶるっと震えて一歩後ずさっていた。
さすがにここまで来ればだいたいの流れはわかる。そして、ステラ先生の敵は俺たちの敵だ。その敵を打倒するためならば、俺たちはどんなことだってすることができる。
とりあえず、『さ、さすがにこんな風に言われると照れるよ、ステラ?』ってやさしく微笑んで先生の肩を軽く抱く。先生、超真っ赤になりながら、めっちゃぎこちない&棒読みで『は、はずかしいよ、──くん!』って乗ってきた。
お義父さん、『いや、おま、それどう見ても生徒だろうが……!?』って唖然としていた。やべえ。
『キミ、先生に脅されて無理やり付き合わされているんだろう!? 無理して付き合う必要なんてないぞ!』とお義父さん。
『まさか。それに、僕はこの宿屋で十年以上も働いていますよ?』と返す俺。
『確かにその通りだねぇ……』ってマデラさんが相槌を打つ。お義父さん、眼をひんむいていた。
『ぼ、暴力で脅されているんだろう!? 普通の魔法使いじゃまず敵わないって言ってたし! あとは、賭けで負けて弱みを握られたとか!』とお義父さん。
『まさか。これ、独り言ですけど、クリスマスの時のストール、送ってくれた人って相当ステラのことを考えていますよね』と返す俺。
『先生、すっごくうれしそうにしていたの!』、『職員室で見せびらかしていたって聞いたな……』とミーシャちゃんとアルテアちゃんの援護射撃が。お義父さん、『こいつかァ……ッ!』って舌打ちしていた。
『だ、だがそもそもどこで出会ったんだ!? 魔系は出会いがないって聞いたぞ! 実はやっぱり生徒だろ! そんな童顔で騙されるか!』とお義父さん。
『試験やイベントの打ち上げの料理は僕が腕を振るわせてもらいました。その関係でちょっと……ね。一緒に材料を購入しに行ったり、その他打ち合わせでちょくちょく会ってましたよ』と返す俺。
『確かに若いし、生徒の中にいても違和感はないな』、『ずっと働いていただけあって、打ち上げの準備の腕はすごいよな』、『熱でフラフラになりながらも準備しようとしてくれたよな』とジオルド、クーラス、フィルラドが証言。お義父さん、『飲食……それがあったか……?』ってぶつぶつ呟きだした。
『し、しかしそれでもなにかがおかしい! だいたい、あのステラに恋人だと!? 親族以外の男とじゃ手を握った事すらないステラが!?』とお義父さん。
『手を握ったこともありますし、抱きしめてくれたこともありますし、お姫様抱っこも、膝枕も、ほっぺにキスも、エビフライゲームもありますよ……はは、お義父さん相手になんか気恥ずかしいですね』と爽やかに返す俺。
『そ、そこまで言わなくていいのっ!』って真っ赤になるステラ先生。本当にめっちゃプリティ。『ほ、本当……な、のか……!?』ってお義父さんもその様子を見て俺が言っていることを事実と認識したらしい。
俺たちみんな、何一つとして嘘は言っていない。本当のことも言ってないけど。
その後もルマルマの援護射撃は続く。『気のいい人で、よくプリンやクッキーを差し入れしてくれる。先生もそれを楽しみにしている』、『時間のある時にテスト勉強を教えてくれる。おかげで助かった』、『クリスマスの時、この宿から立派なケーキが届いた』、『今回も春休みだからって特別に招待してくれた』、『仮に生徒と先生の関係だったとしても、愛の前にはそんなの関係ない。それに、そういうイケナイ関係ってなんか……よくない?』……などと、あくまで俺は外部のタダのイケメンクール宿屋って印象を受けるように情報を選択してお義父さんに流してくれた。
さすがにこれだけの人数の証言が取れたからか、お義父さんはすっかり信じ込んでしまった。『疑ってすまない。私はてっきり、この子がお見合いをしたくないばかりに「恋人がいる」などと嘘を言い、生徒に協力してもらってなんとかしようと画策していたとばかり……』ってぺこぺこと謝りだした。
さすがお義父さん。勘が鋭い。ほぼ正解だ。
で、いつのまにやらにこにこと笑うお義母さんが隣に。『まぁ、ステラも女の子なんだから、恋人だってできてもおかしくないわよ……それに、友達すらろくにいないこの子が、生徒に「恋人のふりをしてくれ」なんて大それたお願いできるはずないじゃない?』と非常に悲しい言葉も。
『は、反論できない……』って涙目なステラ先生がめっちゃプリティだった。
とりあえず、その場はそういうことでいったんは落ち着く。俺は暫定で『ルマルマの面倒をよく見てくれる童顔のイケメン宿屋のお兄さんなステラ先生の恋人』という設定となり、宿屋として真摯にステラ先生&お義父さん&お母さんをもてなす。
もちろん、我がクラスメイトも『──さんが働いているところ、やっぱりかっこいいっすね!』、『なんかちょっと新鮮な気がするの!』などと、しっかりと口裏を合わせてくれた。さすがに一年間同じ飯を食い、死線を潜り抜けてきただけあって、俺たちのコンビネーションは最高だ。
そんなかんじで一日を過ごす、あ、お義父さんとお義母さんは一泊だけしていくらしく、『いろいろあったが、お見合いの件は片付いたし、ちょっとは安心できた。今日明日とゆっくりさせてもらうとするよ……はは、私の稼ぎじゃ連泊は難しいけどね』って言っていた。
ともあれ、宴会もその他サービスも楽しんでくれたのは僥倖。みんなも空気を読んで俺をほめちぎってくれたし、ステラ先生の相手として不合格とは思われなかったことだろう。きっとこれでしばらくはお見合いの話は出てこないはずだ。
寝る間際になってドキドキイベントが。恋人らしく、『おやすみ、ステラ。いい夢を』っておやすみのあいさつをわざわざお義父さんたちの前でしたところ、『あらあら、まぁまぁ。恋人なのに同じ寝室じゃないの?』ってお義母さんがニヤニヤ笑いながら挑発(?)してきた。
『『え゛っ……!?』』って先生とお義父さん。『せ、生徒もいるし、ちょっとそういうのは……!』と、しどろもどろなステラ先生。
『一緒の部屋ってだけでしょ? 何考えてるのかしら?』とお義母さんのニヤニヤが止まらない。もちろん俺も、『別にお昼寝だってしたことあるし、一緒の部屋で寝たことだってないわけじゃないだろう? ……お義母さんも、あんまりからかわないでくださいな』って爽やかに返しておいた。
『でも、あれは看病とかそっちの……!』、『うん。だから今回もそんなもんだよ』と、ボロを出しそうになるステラ先生のフォローもしっかり行う。うっかりステラ先生もマジ可愛い。
しかし、ここでちょっとした問題が。そう、俺の部屋にはギルがいる。さすがにアレを見られたらアウト。いろんな意味で。
『ちょ、ちょっと片づけてくるから待っててくれるかな?』ってうっかり言ってしまったのが俺の最大のミス。『……見せらないものでもあるのか?』とお義父さん怖い顔。『やだぁ、ちょっと見てみたくなっちゃったぁ!』とお義母さんうれしそう。
ヤバい。ギルだけならともかく、ギル・ベッドは簡単に隠せるものじゃない。
正直気が気じゃなかった。誰か何とかしてくれって思った。
そしたら突然、どんがらがっしゃん! という大きな音が。『ご、ごめんなさいなの!』、『あ、あたしがいけないんです!』とリアとミーシャちゃんがルフ老に平謝り。どうやら無謀にも運んでいた二十本もの酒瓶を、ルフ老の目の前で落としてしまったらしい。
『ほっほっほ。嬢ちゃんたちのケガが無くて何よりじゃ』とルフ老は穏やかに笑う。ハァハァ息を漏らしていなければ好々爺だったのにね。
で、とうとう俺の部屋。『は、初めて入るけど、なんかすっごくドキドキする……!』とステラ先生。先生、なんか目的忘れちゃってない?
覚悟を決めてドアを開ける。最悪お義父さんを昏倒させようと思った次第。
が、扉を開けたそこにベッドは影も形もなく。『なんだ、なんともないじゃないか。むしろ、綺麗な方だと思うぞ』とお義父さんもすぐに興味を失った。
お義父さんたちの後ろの窓ガラス、時折目玉がぎょろぎょろしていた。間違いなくヴィヴィディナだった。
お義父さんたちが戻って今に至る。やはりというか、ミーシャちゃんたちが酒瓶を落としたタイミングでギルがベッドを窓から投げ、割れた窓をヴィヴィディナの擬態でごまかしたらしい。『タイミング大丈夫だったー?』って【想いを伝える愛魔法】でロザリィちゃんから連絡が来たから間違いない。
長々と書いてしまったが、こんなもんにしておこう。
うん、俺のベッドでステラ先生が今なおスヤスヤと可愛く寝息を立てている。あのあと、『つ、疲れたぁ……! ホント、変な事に巻き込んじゃってごめんねぇ……』ってすぐに寝ちゃったんだよね。
よほど気疲れしていたのだろう。冬の時もそうだったけど、お見合いの話で結構ナーバス&ストレスを感じていたみたいだし。
少しでもステラ先生の役に立てたのだろうか。ちょっとは恩を返せたのだろうか。ステラ先生がこれで喜んでもらえるのなら、これほどうれしいことはない。
非常に魅力的ではあるけれど、さすがに先生の隣に潜り込むわけにはいかないので、今日はこのまま椅子に座って眠ろうと思う。
快眠とは言い難いとはいえ、屋根と壁のあるところで眠れるだけありがたいものだ。そしてなにより、後ろにはステラ先生がいるし。
今日は久しぶりにステラ先生にあえて本当にうれしかった。ごっことはいえ、ステラ先生の恋人に成れて本当に幸せだった。いつか本当の恋人になれることを願いつつ、この幸福感を胸に抱きつつ眠ることにする。みすやお。




