350日目 魔神激襲
350日目
非常に身に覚えのあるヤバそげな感覚が。ウチのシマに襲撃をしに来たバカがいるらしい。まったく、面白くなって来やがった……半壊してね?
慌てて飛び起き、ギルを起こして下に降りる。すでに冒険者連中はこの異常事態を感じ取っており、全員が装備を整えた状態でそろっていた。普段はクズだけど、こういうときだけはしっかりしているから侮れない。
もちろん、我がルマルマのメンツもちょっと遅れて到着する。『なにがあったの!?』、『それを今から確認するところだ!』などと言葉が交わされた。『この感じ……!』、『こないだの魔物の暴走と同じ、だのう……!』と、なんか重要そうな言葉もちらほら。
ともあれ、まずはマデラさんの意見を聞く。マデラさん、『ちょっと今朝餉の支度で忙しいから。とりあえずあんたらでなんとかしてきな』とのこと。朝餉の支度ならしょうがないよね、うん。
で、まだほとんど真っ暗の中みんなで外に出る。なんか複数の何かが暴れているっぽい。それも、どうやら闇夜に紛れてまっすぐこちらへと向かっている様子。
『しゃらくさいッ!』と、珍しく噂通りの大賢者の風格を漂わせたルフ老が【滅闇輝炎】を放つ。あっという間に周囲が昼間のごとく明るくなった。
いた。そいつがいた。ギルギルしいマッチョな土人形的な、全身のあらゆる部位に無残な屍を晒す魔物を埋め込んだそいつらが。
そう、いつぞやのジャガイモ魔人だ。それも、十匹はいる。絶望した。
『なんだこいつ──!?』って初見の冒険者連中が驚いている間にも、我がルマルマのメンツは動く。
『ざっけんなよッ!?』ってクーラスが極大暗黒罠魔法陣を周囲に展開。『シャレにならんぞ!?』とジオルドが具現魔法で夜神の冥箒を具現化してぶちのめしにかかる。箒と罠が共鳴してなんかヤバそげな魔法現象がジャガイモ魔人の全身を貫いた。
『あわせろ、フィル!』とアルテアちゃんが自身を核にした概念的魔銃を射撃魔法で構成し、魔力を集中させる。『おうよ、アティ!』とフィルラドがケツフリフリしてギルギルしくなったヒナたちを召喚魔法で強化召喚した。魔弾にしてもヤバそげなヒナたちは、二人の渾身の魔力に包まれてジャガイモ魔人にぶち込まれた。
『呪う。純粋に呪う。狂おしいほど呪っちゃう』とパレッタちゃんが呪怨の楔でジャガイモ魔人を呪う。『なめんじゃねーよ!』ってポポルが連射魔法で神速連射を構築し、パレッタちゃんの呪を何十倍にもして魔人に打ち込んだ。
『手加減なんて、できるはずがないの!』とミーシャちゃんは変化魔法でクレイジーリボンを非常に身に覚えのある筋肉に変え、残像が残るレベルの無慈悲なるラッシュを延々と打ち込む。ギルは『てめぇぇぇぇ!』ってガチギレ一歩手前の状態で全力ラッシュをリボンと共に叩き込んでいた。
もちろん、俺も動く。『──くん!』ってシリアスな感じにキス(愛魔法込み)してきたロザリィちゃんをぎゅっとだきしめ、さらには『ふ──ッ!』って猛るちゃっぴぃを精神憑依させてトランスブーストした。
真実の愛に目覚め、成長した今だからこそできる【浮気デストロイ;マグナ・ピュアハート】を躊躇うことなくぶっ放した。愛魔法と吸収魔法、さらにはちゃっぴぃの夢魔としての魔力が混じった、まさに愛で構成された至高の一撃ね。
土煙と轟音。まちがいなく、この一年間での最大火力だったと言えるだろう。地面もだいぶえぐれていたし、『さすがに成長したわねぇ……』ってナターシャにも褒めてもらえたし。
が、奴は生きていた。全体的にボロボロで、手足も千切れて吹き飛び、上半身と下半身が辛うじてつながっているって感じだったけど、追い詰めたって感じがしない。もとより、これくらいで仕留められるとは思っていなかったけど、みるみる再生していく姿は絶望感を与えるには十分すぎるものだった。
なにより、俺たちがあんだけ必死に攻撃したの、あくまで一匹だけっていうね。
おまけにジャガイモ魔人さ、なんか前回とちょっと違ったんだよ。こないだはあくまで体内に魔物を取り込んでいたんだけど、今回は結構体表に出てきていたし、うめき声らしいのも全然上げずに、なんか生物的な嫌悪感と言うか、普通の感性していたら思わず吐き出したくなるような見た目だったんだよね。
『ほぉ……! なんとも奇妙な魔物……!』ってルフ老は余裕そうにそいつを観察する。『普通の魔物じゃない、油断するな』とは言ったし、テッド他トイレの邪神さまをしっている連中が『あれの再生力は異常だ』って忠告するも、『なあに、やりようなどいくらでもあるわ』って聞かなかった。
で、次の瞬間、十匹全部が一斉にカサカサしながら襲い掛かってきた。マジでちびるかと思ったよ。
いやだって、ルマルマのいつものメンツが必死こいて攻撃しても倒しきれない相手だぜ? ギルの筋肉とガチンコ勝負して打ち勝っちゃうようなジャガイモだぜ? そんなの怖いに決まっているじゃん。
だけど、ここにきてやっぱり大人……っていうかあいつらってすごいって思ったよ。『まったく、いくつになってもおねえちゃんがいないとダメなんだから』ってナターシャとかが普通に俺たちの前に出てきたの。
『冒険者舐めるなコラァ!』ってアレクシスが変幻自在の剛弓を放つ。一瞬でなぜか三十本近くの矢が複雑怪奇な軌跡を描いて飛んでいき、ジャガイモ魔人の全身を串刺しにして三匹まとめて地面に縫い付けた。
『魔系じゃないけど、見くびられるのは心外かなっ!』ってアレットが蛇鞭を振るい、ジャガイモ魔人の腕、脚、首を順に吹っ飛ばしていく。風を切る音が尋常じゃなかったこと、鞭が当たった部位が見るも無残にえぐられていたことを記しておこう。あと、なんで一振りで三か所以上も同時攻撃できるのか、いまいちよくわからない。
『……造形は結構好きなんだけど』ってチットゥが幅広の剣に魔法を灯して魔人の間を駆けていく。ギルの筋肉でさえ傷つけることが難しいのに、チットゥがひらりと身をかわしてジャガイモ魔人の腹を剣で撫でるだけで、何かが侵食して爆散した。優雅に切りまくり、分身なんかもしちゃっていた。
『八つ裂きにして丸焼きにして食ってやる』と、おっさんはあまりにもデカい大剣をジャガイモ魔人に叩き付ける。腕でガードしたはずのジャガイモ魔人は、腕ごと真っ二つに切り裂かれた。『再生なんて、させねえよ』と、おっさんは返す剣でジャガイモ魔人の体を打ち上げ、眼にもとまらぬ速さで大剣を振るってそいつを細切れにする。八つ裂きどころか千でも足りないくらい。
『たまにはかっこいいところ、みせんとのう!』って魔法舞踊を踊るミニリカ。魔法要素を身にまとい、踊りながらジャガイモ魔人を優雅にボコボコにしていく。あれだけの乱戦のさなか、ちゃんと演武として成立させているってところがすごい。もちろん、フィニッシュも最高に決まっていて、【戦炎神の獄葬舞】を圧縮したそれを叩き込んでいた。
テッドはテッドで『夏のウサ晴らししますか!』ってやる気満々。ギルとタメ張るスピードの拳をおちょくるようにかわし、なんかよくわからんトラップ的なのを仕込んでジャガイモ魔人をバラバラにする。いろいろ投げたり頭つかんでボキって折りながらヤバそげな魔力を注入したりしていたけど、正直なにしているのかよくわかんなかった。けっこう地味だったし。何体か行動不能にしていたのは確かだけど。
そしてナターシャ。『ひゃっはー! うちにカチコミかけるとはいい度胸じゃん!』と、ともかく魔法をバカスカ撃ちまくる。敵も味方もお構いなし、当たる方が悪いとばかりに堕雷とか腐氷とか獄炎を撃ちまくっていた。威力も範囲も凄まじく、ジャガイモ魔人全体に与えたダメージと周りへの被害(近くの建物。もちろん避難済み)は一番大きかったと思う。
『ちょっとは加減しなさいよ!』、『味方も殺す気か!?』って声も上がったといえば、そのあまりのクレイジーっぷりが伝わると思う。
そして、『あんた男でしょ? やられっぱなしで悔しくないの? おねえちゃんが手伝ってあげるから、ちょっとはがんばってみなさい!』とケツを叩かれる。『合わせろよぉ!』ってナターシャはノリノリで元祖【浮気デストロイ】の体勢に入った。
こうまで焚きつけられて黙っていられる俺じゃあない。『がんばって♪』とロザリィちゃんから愛魔法込みのキスをもらい、ナターシャに合わせて【浮気デストロイ】を構築していく。
『ひゃっはー! ぶちかませ!』ってナターシャの合図とともに、【浮気デストロイ:リンクドライブ】……じゃないね、あれ。あえて名づけるなら【浮気デストロイ:オーバーリンクドライブ】がぶっ放される。今までの【浮気デストロイ】はなんだったんだっていうくらいにめちゃくちゃな破壊力を持つ、ご近所からの苦情間違いなしのヤバい魔法。
うん、十匹全部まとめて吹っ飛ばしていた。塵も残さないってのはああいうのを言うんだろう。
少しは俺たちも強くなったと思ったけど、やっぱり本気を出したナターシャたちに比べればまだまだだった。『マジで……すごい人たちなんだな……』ってクーラスはぺたんって膝をついていたよ。
『あんたらも夏に比べたらずいぶん成長してんだから気落ちすんなよぉ!』ってナターシャはご機嫌。今回は魔法をたくさんぶっ放せたうえ、すっきりと全部倒せてうれしいのだろう。今更確認するまでもないけど、やっぱこいつってマジックハッピーだ。
でも、成長していたのは俺たちだけじゃなかった。たしかにナターシャが欠片も残さず吹っ飛ばしたのに、突如虚空から奇妙な吹き出物の様なものが浮かび上がってくる。
そう、ジャガイモ魔人だ。ミチミチと筋肉を再生させ、あっという間に元の気持ち悪い姿を取り戻す。『あれだけやったのに、なんで……!?』ってアレットが再生途中のジャガイモ魔人の頭とか下半身とかふっ飛ばしたけど、分身が増えるだけだった。
ジャガイモなのだ、欠片が一つでも残っているなら増えるのもうなずける……けど、まさか虚空からもよみがえるのは予想外。
しかし、ここでルフ老が『予想通り過ぎてつまらんわ!』と魔導結界……【絶孤独終】を展開する。なぜだかジャガイモ魔人の再生が止まった。殺したら普通に死ぬ。破片になっても再生しない。
どういうこっちゃと思ったら、『この手の再生する魔物には、必ず体のどこかに核がある。じゃが、こやつは全身を吹き飛ばされてもぴんぴんしておった。すなわち、魔物と言う肉体的な要素はあくまで本質ではなく、むしろ現象や概念……どちらかと言えば精霊やその類のものだと推測されるわけじゃ。まず間違いなく、周囲の魔力や生命力を糧に自身を構築していると言っていいじゃろう。だからこそ、単純に吹き飛ばしただけでは倒せぬし、いくらでも再生するというわけじゃ』……などとありがたいお話を頂いた。
つまり、こいつは周りの魔力を元に生きているから、それを強制的に絶ってしまえば仕留められるらしい。なぜこれだけのことをルフ老はあんなに長々と説明したのか。本当に理解に苦しむ。
くどくて嫌になるけど、ジャガイモ魔人はそれでなお倒れなかった。さっきまではピクリとも動かなかったのに、なんかだんだん普通に再生しだしたの。『話が違うじゃねえか!』ってテッドが怒鳴るも、ルフ老も『そんなバカな……!?』って驚いていた。
『こやつら、何もかもを……! 儂の【絶孤独終】も……! 仲間も、自身すらも喰っとるぞ!』ってルフ老が叫んだとき、さすがにヤバいって思ったね。
絶対不可侵のはずのルフ老の古の大魔術がさ、吸収されてたんだよ。バラバラになった自身の肢体を、ジャガイモ魔人は食っていたんだよ。そこら中に溢れ出ていたありとあらゆる魔素を、ジャガイモ魔人は喰らいつくしていたんだよ。
『何勝手に食ってんだぁ!?』ってナターシャが魔法をぶち込み、『行儀の悪い真似をするでない!』ってミニリカが魔法舞踊をぶち込み、『おイタがすぎるぞ!』ってルフ老が【滅零】をぶち込むも、その三人の魔素すら普通に食ってるの。
たぶんアレ、俺の吸収魔法だと思う。『えっうそ、なんで……!?』ってロザリィちゃんの愛魔法が反応していたから間違いない。その愛魔法すら、じわじわと魔人に吸い寄せられていた。
『間に合え!』ってギルが寄生魔法を拳に宿し、今なお気持ち悪くぐじゅぐじゅしたジャガイモ筋肉の塊に殴りかかる。黒くヤバそげな浸食寄生魔法要素がジャガイモ魔人の全身を覆った。
さすがはギルだ……と思ったけど、『嘘だろ……!?』ってギルの絶望の声が。なんか、浸食寄生魔法が押されている。だんだんと普通の体に戻りつつあるうえ、その寄生魔法すら取り込まれてしまった。
文字通り、打つ手なし。この場にいるすべての生物の魔法要素を取り込み、とうとうそいつは真の姿を現す。ジャガイモでできた、ありとあらゆる生物の特徴を持つ、究極のジャガイモ……名づけるなら、ジャガイモ魔神といったところだろうか。
大きさはおっさん二人分くらいってところだろう。大きい方とはいえ、魔物の中にはもっとデカいのがザラにいる。が、その威圧感は半端ない。見た目的にはそんなに変わっていないはずなのに、ただただ圧倒されるオーラみたいなものを放っていて、『あ、こりゃもう終わったな』って誰もが感じてしまうレベル。
何が厄介かって、ただでさえ驚異的な浸食性と再生性を示していたというのに、俺の吸収魔法も取り込んだせいで、異常なほどの不死性と学習性を得てしまったことだろう。大抵の魔法は無効化されて力にしてしまうし、ギルみたいな寄生魔法でも取り込まれてしまう。
魔法も物理も完璧。そして、指先からぼとぼとと過剰魔力によって構成された種イモ……まぁ、分身を生み出してきた。
恐怖したね、マジで。種イモもやっぱり一瞬で周囲の魔力を吸い取り(主に親の。共食いもしていたけど)あっという間に成体と同じジャガイモ魔神になった。
当然、襲ってくる。一番活躍していたナターシャが狙われた。『人の女に手ェだすとか、いい度胸してるなァ!?』っておっさんがナターシャをかばう。おっさんが地面にめり込んだ。
『ヴァル!?』ってナターシャが悲鳴。『このやろぉぉぉ!』って魔法を連発するも、全部吸収された。おまけに、手足を拘束されて直接魔力を封じられる。なんか接触からでも普通に吸収できるっぽい。
『ざっけんなコラ!』ってそれでなお相手に頭突きを食らわせる当たり、ナターシャってすごいと思う。
その後は大乱戦。とはいえ、こちらは防戦一方。魔法全般が効かなくなったし、通用するのはせいぜいがおっさん、チットゥ、テッド、アレクシス、ギル、アレットと言った物理方面の攻撃手段を持つ連中くらい。それでさえ、肉体強度が驚異的に増したジャガイモ魔神には傷一つ付けられなかったけど。
『なんとかならないのか!?』ってルフ老に聞いてみるも、『あんな化け物、共食いさせるくらいしか対処法はない!』と言われてしまう。その共食いでさえ、相手の強化につながるだけだし。
いくらなんでも理不尽すぎる。もちろん、俺たちルマルマも全力で魔法をぶっぱなしたけど、ほとんど効果はない。あのジャガイモ魔神、本当にずるい。というか、無茶苦茶すぎる。
もはやここまで、せめてロザリィちゃんとちゃっぴぃだけでも逃げてもらおう……と覚悟を決めたその時、『ずいぶん騒がしいネズミがいるみたいだねぇ……?』って頼もしい声が聞こえてきた。
マデラさんだ。ようやく朝餉の支度が終わったらしい。希望が見えてきた。
『とりあえず、朝っぱらから騒いだツケ、払ってもらおうかね!』ってマデラさんが言う。一瞬でジャガイモ魔神の背後に立っていた。
そして、『言って分からないやつぁ、体に教えるって相場が決まってるんだ!』ってジャガイモ魔人にケツビンタをした。ジャガイモ魔人の下半身、文字通り吹っ飛んで消失した。
これには驚きを隠せない。まさかケツビンタがここまでの威力を発揮するなんて。しかも、さっきと違って全然再生しない。
『まったく、こりゃあ、野菜の値上がりも魚の不漁も、これが原因ってか……!』とマデラさんは次々にジャガイモ魔人をケツビンタしていく。時には暴れる魔神の首根っこを押さえこみ、地面に顔面をぐりぐりしたりもしていた。
さらに、『最期にせめて、人様の役に立って見せな』と杖を一振り。虹がかかり、そこから虹色の雨が降ってくる。ジャガイモ魔神、それを浴びてなぜか悶え苦しみだした。
逆に、俺たちはなぜか体中の傷が治り、ついでに魔力も回復する。ちょう元気いっぱい。今までにないってくらいに絶好調。本当にあの虹の雨って何だったのか。
そして、『ジャガイモはジャガイモらしく、人間様に食べられな』とまたも杖を一振り。巨大な鍋が出現。コックの帽子を被った人形の騎士もいっぱい出現。
で、コックな騎士の人形が、そこら中に散らばるジャガイモ魔人を力づくで拾い集め、次々に鍋にぶち込みだした。
『ジャガイモとしては、けっこういいものだったみたいだね』とはマデラさん。ジャガイモ魔神、鍋の中でおいしいシチューになっていた。
こうして俺たちの死闘を尽くした騒動はあっけなく終わってしまう。『宿もだいぶ壊れちまった……まったく、どうして面倒事ってのは立て続けに起こるのかねぇ……? 』ってマデラさんは杖を一振りする。
途端に、まるで時が巻き戻ったかのように瓦礫なんかが浮かび上がり、昨日とまるで変わらない元の宿屋に戻った。もちろん、町の壊された部分も全部元通りになっている。マジで何なのアレ?
いろいろ言いたいことはあるけど、全部事実だ。ルマルマのメンツ(ギル以外)は口をあんぐりと開けていて、言葉を紡ぐことすらできなかったよ。
ある意味当然だけど、今日はみんなお仕事はお休み。宿屋としての仕事も、冒険者としての仕事もだ。『まぁ、被害拡大を防いでくれたからね』ってマデラさんも俺たちが休むことを許容してくれた。しかもおやつにプリンを作ってくれた。マジデリシャスでおいしかった。
なお、例のシチューは夕餉に出てきた。『えっあれ食べるの?』とみんなは困惑するも、『元はジャガイモなんだしいいだろう? それに、ここで処理しないとまた復活するかもしれないねぇ?』とマデラさんは悪戯っぽく笑う。
もちろん、ギルは『うめえうめえうめええええええ! 今まで食ったシチューの中でいっちばんうめえええええ!』って狂喜乱舞していた。試しに食ってみたらマジでうまかった。
冒険者連中も、ルマルマも、『悔しいけど本当においしい……』、『ちょっとジャガイモ魔神なんとかして復活させようぜ』って言っていたといえば、どれだけおいしかったかわかってもらえるだろう。俺は四回、ロザリィちゃんだって三回、ギルに至っては数えくれないくらいおかわりしていたりする。
非常に長くなったがこんなものに……いや、まだ書くことあった。
寝る直前、マデラさんにギルの寄生魔法について聞いてみた。アレ、明らかに普通の寄生魔法と違うし。
どうやらマデラさんもそれには気づいていたらしく(そもそも俺の日記見ているし)、『あの子、体の中に厄介なものを飼っているね。たぶん、小さいころは相当苦労しただろうねぇ……』との衝撃の情報が。
やはり予想通り、ギルは体内になにかしらの魔法生物、おそらく魔神のそれに近いなにかを飼っている……いや、この場合は封印している、あるいは寄生されているというわけだ。
が、『まぁ、今の様子を見る限りじゃしっかり制御しているし、寄生や封印と言うよりかは共生……互いに力を利用しあういい関係みたいだね』ってマデラさんが教えてくれた。
で、ついさっき寝る前にそれとなくギルにその話を振ってみた。ギルのやつ、『親友にならいいか……』と、ちょっと真剣な表情で話しだす。
なんでも、ギルが生まれるちょうどその日、何らかの理由に因りギルの村で祭られていた異界の神(邪神)の封印が解けてしまったらしい。で、その神がギルのママに寄生憑依してしまったそうな。
当然、これはかなり由々しき事態。ちょう一大事。母子ともに大変危険な状況……っていうか、下手したらギルだけ死んでギルママは邪神に体を乗っ取られてしまいかねないところだったんだとか。
しかし、ギルママは強かった。子供を死なせるくらいならと、自らの全てを胎の子供に託し、自分は邪神を寄生憑依させたまま死のうとした。
ここで計算外だったのは、邪神があまりにも抵抗したため、邪神までもがギルママの生命力、魔力と一緒にギルに移ってしまったことだろう。
正確にいえば、ギルの魔力の親和性(特性)と邪神のそれが非常に近かったこと、ちょうど出産と言う特殊な条件が重なったことでそれは起きてしまったらしい。『なんか、自分が受け渡す以上の魔力をごっそり持っていかれてマジで死ぬかと思ったってお袋は言っていた』ってギルは言っていた。
ともあれ、移ってしまったものはしょうがない。ギルママはギルパパと相談し、泣く泣く生まれたばかりの赤ん坊であるギルに邪神を寄生封印したそうな。
とはいえ、これは結果的に悪くはなかったらしい。ギルママは衰弱したものの生きていて、ギルも結構危なかったけど逆に邪神の生命力を取り込んで一命をとりとめたとか。生まれたばかりの赤ん坊故に邪神の魔力をすんなりと受け入れることができ、邪神が封印されながらも普通に生活を送ることが可能だったんだって。
ここでちょっと面白いのは、幼少期のギルは今とは違ってひょろひょろの病弱だったということだろう。普通の生活が可能とはいえ、やはり体に邪神を封印した影響は結構大きかったらしく、病気しがちで運動も長時間行うのは難しかったのだとか。
『今じゃ考えらんないけどな!』って言ってたけど、まったくその通りである。
しかし、成長するにつれて体調もだんだんとよくなっていく。寄生魔法に適応した結果体が丈夫になったのか、体が成長したから寄生魔法を抑え込めるようになったのか、あるいは変質寄生の影響で体が変質したのか、そのへんはよくわからないそうだ。
十になるころには寄生魔法も危険が無い程度には制御できるようになっていて、体調も同年代の子供とほぼ同じくらいのものになっていたそうな。
ここまで来たら体を鍛えるしかないと幼少期のギルは思い至ったらしい。そもそも寄生魔法は放出して使うのは危険で(魔力に反応してあっちこっちに飛散していく。ギルの寄生魔法はより凶暴だったらしい)、相手を殴って(触れて)直接流し込む方が効率もいいしはるかに安全。そして、相手を確実に殴るためには体を鍛えないといけないってわけだ。
このころのギルはちゃんとした脳みそがあった。暴発しやすい寄生魔法を直接流し込むとか、子供が簡単に思いつけるものではないだろう。
だけど、ここでギルは筋トレの魅力に取りつかれてしまう。相手に難なく接触できるほどの肉体を手に入れた後も、ひたすら筋トレをし続けた。その結果、『殴って寄生魔法で倒す』のではなく、『殴って直接倒す』事が出来るほどの強靭な肉体を手に入れてしまったのだ。
『最初は寄生魔法をぶち込もうって思ってやってたんだけど、なんかそのうち殴ったほうが早くね? ってなった!』って超笑顔で言っていた。奴の脳みそはすっかり脳筋になっていた。
そして今に至るというわけである。あ、あいつが異常なほどの魔力耐性を持っているのって、肉体が寄生魔法要素に寄生されているかららしい。すでに魔法に寄生(この場合は共生だけど)されているからこそ、普通の魔法はギルの肉体に魔法的影響を与えることが難しいのだとか。
アレを突破するには、寄生している魔法要素以上の魔法を叩き込むしかない。すんげえ力技。吸収魔法とかでひっぺがしたりするのは不可能。肉体にしっかり定着しているから、そういった意味での魔法的耐性も高いっぽい。
非常に長くなったが、今日はこんなもんにしておこう。朝っぱらかあれだけ動いておいてなんだけど、午後はがっつりロザリィちゃんとちゃっぴぃ、そして不本意ながらもナターシャに枕代わりにされておひるねしたから、けっこう目が冴えていたんだよね。
ギルは非常に大きなクソうるさいイビキをかいてスヤスヤと寝ている。重要な秘密を話したという割にはいつも通りぐっすりしているとか、こいつの神経って結構図太いと思う。
詰めるものが特に思いつかなかったので、吸収魔法をやつの鼻周囲に展開してみた。おやすみなさい。




