35日目 魔法生物学:ノルルの光果の栽培について
35日目
部屋に聖気が満ちていた。予想外すぎる。
朝食はオムレツ。なんか神々しい空気を発するギルの隣では肉を食べる気になれなかった。でもなぜかオムレツは平気。オムレツの甘さとコショウの加減が絶妙。ふわとろオムレツマジ最高。ギルはジャガイモを『うめえうめえ!』っていつも通り貪っていた。貪る様はまさに邪神のようだった。
朝食後にバルトラムイスのシャンテちゃんがやってきた。風のうわさで俺たちが『バンシーさえハゲ上がるほど笑顔になる究極のしあわせ極上甘々スウィートプリンスペシャル~恋の女神が囁いて~』を作ると聞き、いてもたってもいられなくなったそうだ。
噂の一人歩きが怖すぎる。誰だこんなふざけた名前を付けたヤツ。
で、相伴に預かりたいとのことで、なんと、エレメンタルエッセンスをくれた。これ、マジで激レアもの。魔法材料としての需要が高く、食材(正確には香料)として流通することがあんまりないってやつ。実家でパパが上司にもらったものを送ってくれたらしい。シャンテちゃんは魔法薬よりもプリンがいいと晴れやかな笑顔で言い切ってた。
授業はグレイベル先生、ピアナ先生の魔法生物学。今日育てるのはノルルの光果ってやつ。やっぱりこれもそこそこ珍しい。別の国にはありふれているらしいけど、こっちにはあんまり入ってこないんだよね。
先生たちの話によると、ノルルの光果は神聖なものとして象徴されてきた歴史があるそうで、どっかの国では町に必ず一本はこれが植えられているらしい。魔法材料としては慰霊の効果、すなわち悪霊や邪気を払う効果が期待されるほか、うまく処理すると幸運をもたらす魔法薬を作ることができるそうだ。あと、眠気覚ましにもなるとか。
とりあえず簡単なポイントを下にまとめておく。
・寒さには弱いので冬場はなんらかの対策をする。対策しないと串刺しにされる。
・細かい根っこを張り巡らせるので畑はふかふかに。ふかふかにしないと串刺しにされる。
・魔法的害虫が非常につきやすい。一匹いたら百匹は絶対にいる。見つけ次第駆逐する。完膚なきまでに殺し尽くす。一匹でも生き残りがいると復讐しに来るので注意。一度でも付かれたら串刺しにされる。
・害虫から身を守るため、ある程度成長すると棘が生えるようになる。この棘は普段は隠れており、なにかしらの接触が起こると一斉に飛び出す。活きの良いノルルの場合棘を発射して離れた敵をも串刺しにする。離れてなくても串刺しにされる。
・まごころを込めて育てる。まごころを込めないと串刺しにされる。
・収穫は愛情を込めて行う。
実際の作業はこの棘処理についてだった。遠くから小石などをぶつけて棘を出させた後にパチンって切り落とした。もたもたするとひっこむから結構スピード勝負。棘そのものも結構硬くて苦戦する。
でもノルルの光果はおいしそうな見た目だった。ピアナ先生の話では普通に食べることもできるらしい。その年初の実を食べると一年元気に過ごせるとか過ごせないとか。
飛び出た棘にひゃってなったロザリィちゃんが超可愛かった。守ってあげたい。
あと、棘はギルの筋肉の前では無力だった。あいつの放つ聖気のせいでめちゃくちゃ活性化していたのに、飛び出た棘は筋肉に弾かれてた。ギルはなんで魔法使いの学園に来たんだろう。
ギルのおかげでノルルの光果がめっちゃ活性化したので、グレイベル先生が丁寧に収穫したものを分けてくれた。さすがに株はもらえなかったけど、なかなかの収穫。形も大ぶりで新鮮さが抜群。どう処理してやるか楽しみである。
で、夕飯食って風呂入って今に至る。明日はいよいよプリンの作成に取り掛かる。足りない材料は塩だけだ。ポポルがハゲになるかどうかは俺の手にかかっている。ほどほどにがんばらないと。
スキンヘッドも似合いそうなギルは今日も盛大なイビキをかいている。今日の実習で取ったノルルの棘(ちゃんと先端は丸めておいた。俺はそこまで悪じゃない)を鼻の穴に突きさしておく。おやすみ。




