348日目 魔系と武系の仁義なき戦い
348日目
朝からヤバいものを発見。『あんちえいじんぐぅ……ッ!』って呻きながら徘徊する魔物が宿屋内に。慌てて杖を引き抜き対応しようとしたところ、ヴィヴィディナを顔面パックしたミニリカだった。あのババアロリマジ何なの?
朝の顛末を語るため、ミニリカと共にマデラさんの元へ。ミニリカ曰く、『起きてから意識がない。夢の中で漆黒の魔力に当てられたような気はするのじゃが……』とのこと。
どうやら何らかの魔法的原因により、ミニリカの中の潜在的欲望が剥き出しになってしまったらしい。『ちょっと恥ずかしいが、あのヴィヴィディナならば究極のアンチエイジング素材になりそうだと思っておっての。一度でいいから顔面パックしてみたかったんじゃ!』ってあのババアロリは言っていた。
さすがにクレイジーすぎる。何をどうとらえればあんなものを顔面パックに使用するなどと思うのか。もし発見者が俺じゃなければ、間違いなくナターシャやおっさんに倒されていたと思う。少しは自分のクレイジーさを自覚してほしいものだ。
だいたい、蟲ってのは顔面パックじゃなくてすり潰して接着剤にするものだ。ヴィヴィディナみたいな蟲ならなおさらである。まったく、本当にこのババアロリはわかっていない。
もちろん、マデラさんも呆れ顔。『子供たちが怖がるだろうに……アンタはまだまともなほうなんだから、頼むからこれ以上私の気苦労を増やさないでおくれ。それに、してもしなくても大して変わらないだろうに』って言ってた。
ミニリカのやつ、『見てくれを気にしなくなったババアと一緒にするでないっ!』って激おこだったけど、直後にマデラさんのケツビンタが飛ぶ。『あひぃんっ!?』って悶絶していた。久しぶりだった故に結構効いたらしい。あいつホント反省してねぇな。
いろいろ途中経過は吹っ飛ばすけど、そういった事情があったため今日はアルテアスペシャル美容液を作成することに。ロザリィちゃんやアルテアちゃんたちからも在庫がなくなったって話があったから、悪くはないタイミングと言えよう。
材料? 一から作成するのは面倒だから、あらかじめサンプルとして取っておいたアルテアスペシャル美容液にわけわからんかんじに増殖しているギル・アクアと適当にそれっぽいハーブだとかなんだとかを突っ込むだけ。実に手軽なものである。
当然のことながら、材料の、特にメインとなっているギル・アクアについては伏せる。『あら、これ本当に良い美容液ね!』ってアレットもやたらと気に入ったようなので、ついでに渡しておいた。アルテアちゃんが複雑そうにアレットを見つめていたことをここに記しておこう。
あと、何を思ったか、リアも美容液に興味を示したので、適量をぺちぺちとほっぺになじませてやった。『ねえ、可愛くなった?』と聞いてきたので、『少なくともあのババアロリよりかは肌の張りもうるおいもあるぞ』と答える。
『乙女心ってもんを理解しろ!』ってババアロリにケツビンタされたのが未だに解せぬ。俺、何一つとして嘘は言っていないのに。つーか、あの年で乙女ってあり得なくない?
そうそう、一応マデラさんにも進めてみたんだけど、『材料云々はともかく、あたしは年寄りに相応しく年を取るって決めてるんだ』とやんわりと断られた。
なお、それを見ていたルフ老は『そういえば、儂がフサフサだったころにはすでにババアでおったのう……?』って首をかしげていた。
……思えば、マデラさんの実年齢っていくつなんだろう? 少なくとも、俺が拾われたときはすでに今と全く変わらないグランマだったし。
書くまでもないけど、ルフ老も元祖全力ケツビンタをされていた。『あべしっ!?』ってルフ老は床に叩き付けられてバウンドしていたし、インパクトの瞬間の音もまるで雷が落ちたかのような、とても素手によるそれではなかった事をここに記しておこう。
『いくつであろうと、デリカシーは必要ってことは覚えておきな』とはマデラさん。その背中は歴戦の王者の風格が漂っていた。
宴会の時、ちょっと面白いことが。酒に酔っぱらった冒険者連中が腕相撲大会を始めたのだ。
当然、黙っているギルじゃない。『俺もやるっす!』と元気よくポージングしながら名乗り出る。
冒険者側も黙っちゃいられない。仮にも魔系に負けるとなると沽券に関わる。なので、この中では最強の力を持つヴァルヴァレッドのおっさんが躍り出た。
『いくら筋肉がすごかろうと、所詮は魔系……負けるわけにはいかない』、『俺の筋肉に賭けて、恥ずかしい真似は出来ない!』と、二人とも超ノリノリ。
もちろん、こんな楽しいことをただ見てるだけってのはあまりにももったいない。ミーシャちゃんは『ギルにおこづかい全部賭けるの!』と宣言する。ルマルマの連中はみんなギルが勝つ方に金をかけた。もちろん俺もかけた。
『いや、なんだかんだであいつ魔系だろ?』とアレクシスはおっさんに賭ける。『ああ見えて、ヴァルヴァレッドはテクニックもあるからのう!』とルフ老もおっさんに賭けた。『ヴァルよりあっちの方が信頼できるわ』ってナターシャはギルに賭けた。おっさんは泣いていた。
で、試合開始。『ぬぉぉぉぉ!』、『うぉぉぉぉ!』と、二人とも全力で相手の腕を押し倒そうとする。強者同士のぶつかり合いのみが成せる、一種独特の空気が食堂を包んだ。
もうね、二人の腕の筋肉が凄まじいことになっていたね。見るからにカッチカチで、なんかすんげえ力が入ってるってのが感覚で分かるの。
なにより、あのギルに引けを取らないおっさんに驚いた。だってギルだぜ? あのギルと互角なんだぜ? 正直おっさんを見直したよ。
『がんばれなの!』とギルを応援するミーシャちゃん。『おい、ふざけんなよ!? 今日の稼ぎの半分賭けてんだぞ!?』とおっさんを応援するアレクシス。計画性のまるでない夫を持つアレットが可哀想になった。
手に汗握る筋肉同士のぶつかり合い。やがて、決着は突然に表れた。
うん、机のほうが二人の力に耐えきれなくてぶっ壊れたんだよね。そらもう見事に真ん中から真っ二つよ。
とうぜん、『うぉぁぁっ!?』って二人はつんのめって倒れる。グラスや料理もぶちまけられた。『おっしゃぁ! 少なくとも負けちゃいない!』とアレクシスは嬉しそうだった。こいつクズだな。
もちろん、『限度ってものがあるだろうが!』ってギルとおっさん(と、なぜかアレクシス)にマデラさんから制裁のケツビンタが飛ぶ。『ぐああああッ!?』と悶絶する三人。結構いい音が響いていたし、たぶん奴らのケツはワンサイズ大きくなったことだろう。
……ふと思ったけど、ギルの筋肉の鎧を貫通するマデラさんのケツビンタってどうなってるんだ? おっさんを力づくで抑え込んでいたし、実は最強なのマデラさんじゃね?
あ、念のため書いておくけど、落ちた料理はエッグ婦人とヒナたちとヴィヴィディナがおいしそうに食べていた。ジャガイモに関してはギルが『うめえうめえ!』って食っていた。あいつ、ホントぶれないよね。
ちょっと片づけて風呂入って何やかんやして今に至る。ふと読み返してみたけど、今日は結構変則的だった。たまにはこういう日記があってもいいだろう。
できればあったことを全部書き起こしておきたいものだけど、そうすると明らかにページ数が足りなくなるし、ついでに冗長&グダグダになるからできないって言うね。
マデラさんならその辺も全部完璧にまとまった日記が書けるのだろうか? それとも、出来事を直接紙に焼き付ける魔法とかを使えたりするのだろうか? もしそんな魔法があるのだとしたらぜひ教えてほしいものである。
ギルはやっぱり大きなイビキをかいている。今日は無難に残ったアルテアスペシャル美容液を詰めてみることにした。グッナイ。
20160317 誤字修正




