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336日目 射撃と召喚

336日目


 夜中に微妙に金切り声が聞こえた気がするんだけど。いったい何があったのか、興味を隠せない。


 ちゃっぴぃを起こさないようにベッドを抜け出し、身支度を整えてから食堂へ。なぜかすでにピカピカに掃除されており、ちょっとの邪気が匂っていることを除けば非常にパーフェクトな仕上がりであった。


 不思議に思いつつも厨房でマデラさんの指示を仰ぐ。『今日は嬢ちゃんの仕事能力を見たいから掃除はしなくてよろしい』とのこと。なぜマデラさんはヴィヴィディナ(蜘蛛形態)を体に這わせながら平然とそのようなことが言えるのか。


 さて、とりあえず今日の掃除は全てヴィヴィディナがやるってことになったので、風呂掃除は行わずに朝餉の支度に入る。いつも通り皮むきを手早く済ませた後はわが級友の朝食を作ってみることにした。


 まあ、作るって言っても共通メニューにちょっとアレンジを加えてやっただけだけど。ポポルの奴には野菜を多めに、ロザリィちゃんのデザートにはハートフルピーチを気持ち多めに、パレッタちゃんはよくわかんないから無難にカオスなミックスジュースをつけておいた。


 が、作り終えたところでまだみんな起きだしていないことに気づく。起きているのは老害らしく早起きなミニリカとルフ老だけ。


 『ちょ、ちょっとくらいは構ってほしいのう……! ほれ、昔は時間があるとちょくちょく膝に乗ってきたじゃないか! 恥ずかしがることなぞない!』ってミニリカは膝をぽんぽんしてきたけど、体格差と言うものを考えてほしい。もはやミニマムだった俺ではないのだ。


 なお、『じゃあ儂が!』ってミニリカの膝に座ろうとしたルフ老は思いっきりケツを蹴られていた。『ちったぁ年相応の落ち着きを見せろ!』ってマデラさんにもケツビンタされていた。


 マデラさん、普段はあまりこういう時に口を出さないけど、今回は俺の友達が来ているから身内の恥を見せたくないらしい。


 なんだかんだで雑談していたところ(掃除がない分時間に余裕があった)、リアががくがく震えながら食堂へやってきた。『お、お、お兄ちゃん……!』とすんげえ涙目。漏らしていなかったところは褒めてやらなくもない。


 どうしたのかと話を聞くと、『き、昨日のお姉ちゃんを起こそうと部屋に行ったら、な、なんかすっごく怖いの……!』とのこと。


 まず間違いなくヴィヴィディナだろう。たぶん、群体化してパレッタちゃんの防寒具にでもなっているに違いない。


 そんなわけで、パレッタちゃんを起こしにリアの手を引いて客室へと向かう。なるほど、たしかに悍ましい邪気が扉からあふれていた。が、ぶっちゃけ今更感が半端ない。悲しいことに毎日浴び続けてすっかり慣れちゃったんだよね。


 で、普通に中に入ってパレッタちゃんを起こす。歯ぎしりしていた。布団の中にヴィヴィディナを発見。どうやら、ロザリィちゃんに配慮して外には出さなかったらしい。


 もちろん、ロザリィちゃんはマジプリティな寝顔を惜しげもなく晒していた。思わず見とれてしまったんだけど、『ふん!』ってリアに思いっきりスネを蹴られてしまったため、見続けることは叶わず。あのクソガキマジ何なの?


 おまけに、せっかくあの柔らかく愛おしい肩をゆすって起こすチャンスだったというのに、その時のドタバタのせいでロザリィちゃんは目を覚ましてしまった。


 が、『……おはよっ♪』ってとろんとした顔で微笑んでくれて最高に幸せ。ぎゅって抱き付てくるところとか、筆舌に尽くしがたい幸福を与えてくれた。なんかすごく甘いにおいもしたし、あったかくてやわらかいし、ロザリィちゃんは本当にロザリィちゃん過ぎる。


 なお、パレッタちゃんは『我の眠りを妨げるものは誰なり』って呟きながら起きていた。リアがヘンな物でも見るような目でパレッタちゃんを見ていたけど、パレッタちゃんは普段からこんな感じだ。


 ああ、その後ポポルも起こしに行ったけど、あいつは寝相は悪いし腹は出しているし歯ぎしりはひどいしでマジでおこちゃまだったよ。


 三人を起こした後は朝食をとる。ヴァルヴァレッドのおっさんとナターシャは遠出するため、弁当を持って出かけたらしい。せっかく作った毒杯を無駄にするのもアレなため、ヴィヴィディナに捧げておいた。ヴィヴィディナもめっちゃうれしそうに床をカサカサしていた。アレットが悲鳴を上げていたけど知ったこっちゃない。


 午前中はなんだかんだでグダグダと過ごしていたと思う。俺が宿屋として仕事をしているさなか、ポポルたちはおしゃべりに興じ、外面だけはいい冒険者どもの武勇伝を聞いたり、(初対面では優しいグランマで通す)マデラさんと学校の話なんかをしていた。


 『本物の宿屋っぽくってすっげー!』ってポポルが俺をほめてくれたけど、そもそも俺は本物の宿屋だ。いったいあの時なんと返せばよかったのか、未だにわからない。


 あとポポルの奴は思った以上に口が軽かった。自分の仕事をしっかり終わらせたマデラさんや今日はサボると決め込んだアレットやアレクシス、ついでにリアにも学校での出来事をペラペラ話しやがっていた。


 もしあいつが変な事を口走っていたら、俺は容赦なく呪を放っていたことだろう。


 ちなみに、パレッタちゃんはパレッタちゃんでヴィヴィディナの素晴らしさを語りまくっていたよ。チットゥは興味をもってそれを聞いていたけど、あいつの趣味はナンセンスすぎる。


 午後の昨日と同じくらいの時間、奇妙な魔力の気配を店先にて感じた。どうやら予想が当たったようで、誰かが例の招待状を使ったらしい。


 さて、誰が来たのかしらん、と俺が動くよりも早く、猛烈な勢いでケツフリフリするヒナたちが扉に突っ込んでいく。その先にいたのは、アルテアちゃんとフィルラドだった。


 『よう、ひさしぶり!』、『元気そうだな』と二人。アルテアちゃんの私服は非常に凛々しく、フィルラドは特にコメントしようがない無難な物だったことを記しておく。


 あと、ヒナたちはアルテアちゃんの胸には飛び込んだけど、一匹たりともフィルラドには飛び込まなかった。フィルラドは泣いていた。


 で、ここでマデラさんが『まぁ、よくいらっしゃいました! ──の友達ですね!』と超笑顔でアルテアちゃんとフィルラドを迎え入れる。二人が『えっすごくまともな人……?』、『──の家族なのに……?』って呟いたのを俺は聞き逃さない。二人ともいったい俺を何だと思っているのだろうか?


 その後は昨日と同じようにアルテアちゃんを女子部屋へ、フィルラドを男子部屋に案内する。『ここのベッドすっげぇふかふかじゃん!』ってフィルラドもベッドにダイブしやがった。ベッドメイキングするのは俺なのに。まぁ、気持ちはわかるけどさ。


 アルテアちゃんもロザリィちゃんとパレッタちゃんに『ね、やって!』と頼み込まれてしょうがなくダイブしていた。アルテアちゃん、なんだかんだで結構優しいよね。


 だいたいこんなもんだろうか。クラスメイト達は五人で仲良くおしゃべりし、近況などを報告したり、宴会では冒険者と一緒に楽しく過ごしていたようだけど、俺は仕事があったためあまり一緒に話すことは出来ず。ちょっと悲しい。


 俺が風呂に入るころにはみんな部屋に戻っていたし、夜の見回りの時にはポポルの歯ぎしりとフィルラドの寝息がしっかり聞こえていたから、仕事終わりに旧交を温めるのも難しい。


 でも、見回りの時、ロザリィちゃんが『おやすみ……ね。……おしごと、よくがんばっててえらいぞっ!』っておやすみなさいのキスをしてくれて超幸せ。あの時間で周りに誰もいなかったし、けっこう長い間やっていたと思う。


 俺、夜の見回りをしているってロザリィちゃんに話した覚えないんだけど、どうしてロザリィちゃんはわかったのだろうか。あんな夜遅くに、俺がロザリィちゃんたちの部屋の前を通るタイミングでわざわざ起きてくれたのだろうか。


 そう考えると、なんかすごくどきどきしてくる。愛されるってこういうことか。ちゃっぴぃなんて俺のことをすっかり無視して女部屋でぐーすか寝ているというのに。


 今日も一人で就寝だけど、未だにくちびるにはあの感覚が残っている。これだけあれば十分だ。明日も仕事を頑張ろう。みすやお。

20160306 誤字修正

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