299日目 決別
299日目
やる気が出ない。世界が色あせて見える。
ギルを起こして食堂へ。珍しくグレイベル先生、ピアナ先生がいると思ったらラギもいた。泣きそう。
ラギはコーンポタージュを飲んでいた。『こっちのコーンポタージュも甘くておいしいね!』って言ってた。塩味しか感じないほどしょっぱいのに。あいつはコーンが好きらしい。
『私が作ったやつと比べてどう?』、『もちろん、キミが作ったやつが一番だよ?』ってラギとピアナ先生は二人で微笑みあっていた。しかも愛称で呼んでいた。今の俺にはその愛称を書く気力すらない。
ギルはジャガイモを『うめえうめえ!』って食ってた。
ラギはグレイベル先生を『先輩』って呼んでいた。三人はガーデネシアっていう学校の出身で、ラギはそこの武系に近い学科だったらしい。いろいろあってピアナ先生と知り合い、そこから上級生であるグレイベル先生と出会ったようだ。
書いてて泣きそう。いや、泣いている。
今日はテストなし。本来は基礎魔法陣製図の時間だから。だからテスト勉強をした。
無心でギルの筋肉に知識を詰め込む時だけは、ちょっとだけ心が軽くなった。
午後、俺の様子がおかしいことを心配したグレイベル先生、ピアナ先生、ラギがやってきた。『もしかして、昨日の打ち所が悪かった……!?』ってラギが心配そうに俺の顔を見てきた。奴のイケメン具合に泣きそうになった。
『…近所の初恋のお姉さんに恋人がいると知った子供のそれだ』、『……えっ、本気だったの?』と先生たち。俺はいつだって本気なのに、ピアナ先生には気づいてすらもらえていなかった。泣きそう。
『もう、しょうがないなぁ!』って天使ピアナ先生がぎゅっ! ってしてくれたけど、それでなお傷心の俺を心配するラギを見て、到底埋め合わせることのできない決定的な何かを感じてしまった。
もう、俺には……いや、最初っから俺が入る余地なんてどこにもなかった。少なくとも俺は、ロザリィちゃんやステラ先生が他の男に抱き付くのを見て、その男の心配などすることはできない。
負けた。完璧に俺は負けた。ここまで完膚なきまでに叩きのめされたのは、マデラさんに喧嘩を売った時と、ステラ先生にカードゲームを挑んだとき以来だ。
でも、俺も男だ。惚れた相手の幸せを望むのが良い男なのだ。悔しいけど、ラギならピアナ先生を任せることができる。
だから、『先生を泣かしたら絶対に許さない。末永く幸せになりやがれ』ってちゃんと奴の目を見て言い切った。『う、うん……?』、『なんか──くんキャラ変わりすぎじゃない?』、『…奴も男だ。察せ』って三人は言ってた。
夕飯食って風呂入ったはず。雑談中、再びグレイベル先生が個人的にやってきた。で、『…これでも食って落ち着け』ってみんなにウィスキーボンボンを振る舞ってくれた。先生の親友が作ってくれた秘蔵のものらしい。
『…無礼講だ。食え』って先生は俺と肩を組んできた。『…大人の階段を上るとは、こういうことだ』って背中も叩いてくれた。先生のやさしさに泣いた。
なお、わがクラスメイトは『先生って大変なんだな……』、『あんなのも面倒を見なきゃいけないのか……』って言ってた。ケツビンタする気力すらなかった。
最後に、ロザリィちゃんが『つらいときは泣いていいんだよ……!』って思いっきりぎゅーっ! って抱きしめてくれた。聖母感がすさまじかった。もちろん、ロザリィちゃんの胸の中でわんわん泣いた。
ギルはスヤスヤと寝ている。あと、俺を心配したらしきちゃっぴぃが布団の中で添い寝してくれている。ヨダレ臭いけど、今はそれすら愛おしい。あと地味にこいつ酔っているっぽい。なんか俺の指ぺろぺろしてくるんだけど。
明日からは切り替えていこうと思う。失恋を乗り越えて、俺はいい男になってやる。こっそりくすねたラギの髪をギルの鼻に詰めた。これくらいは許されるはずだ。




