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293日目 魔法構築学:テスト対策自由演習

293日目


 やっぱり夜泣きがすさまじかった。さすがのアルテアちゃんもこれにはお疲れの様子。あんだけ泣いていたのにぐっすり眠っていたフィルラドってある意味すごいと思う。そして相変わらずベイビーギルがアダルトギルに戻る気配がない。これ本格的にまずくない?


 ベイビーギルをだっこし食堂へ。『夜泣きがあんなに酷いとは思わなかった……』、『えっそんなにうるさかったの?』とアルテアちゃんとフィルラド。アルテアスペシャル美容液をふんだんに使ったおかげでなんとか人前に出られるけど、なかったら危なかったとはアルテアちゃんの談。


 そしてなんだかんだで俺も寝不足がたたっているらしく、『けっこうクマが濃くなってきたねー……』ってロザリィちゃんに心配された。『癒しのためにもぎゅってしてください』ってお願いしたら、とろけるような笑顔で『喜んで!』ってぎゅーっ! ってしてくれた。一瞬で癒された。


 さて、夜泣きが嘘かのようにケラケラ笑いながらベビーフードを食べるベイビーギルの面倒を見ていたら、アエルノチュッチュのラフォイドルが『おい、昨日夜泣きがうるさくて寝れなかったぞ!』といちゃもんを付けてきた。


 が、ルマルマの中でもクラスルームから遠い部屋のやつは夜泣きの声なんて聞いていない。ましてやアエルノ寮まで聞こえるはずがないと思ったら、なんでかラフォイドルだけピンポイントに夜泣きが伝わっていたらしい。さすがはギルである。


 『親なんだからきちっと面倒見ろやコラァ!』と寝不足で血走った瞳のラフォイドルは俺になんかの呪を放ってくる。つい反射的にベイビーギルでガードした。呪が跳ね返ってどこかに消えていく。


 まさか赤子の状態でここまでの魔法耐性があるとは。奴の筋肉の潜在的可能性に驚きを隠せない。


 が、突然放たれた呪にびっくりしたのか、ベイビーギルは『おんぎゃあああああああ!』とひときわ大きな声で泣き出す。なんだなんだとみんながこちらに注目すれば、そこには泣きわめくベイビーギルと杖を突きつけるラフォイドル。


 『うっわ……』、『最低……』、『泣かせた……?』と食堂内の空気が冷え込んでいく。せっかくなので『泣ーかせた! 泣ーかせた! ラフォイドルが泣ーかせた!』って煽ったら、『泣ーかせた!』、『泣ーかせた!』って食堂中から凄まじいコールが上がった。ティキータ・ティキータも、バルトラムイスも、もちろんルマルマも、そしてアエルノチュッチュからも泣かせたコールが上がっていた。


 この泣かせたコールにはラフォイドルも茫然。『えっいや盾にしたのあいつ……!』って言いかけたところで『子供に手を上げるクズが』ってアエルノのロベリアちゃんがゴミ虫を見る目でラフォイドルをぶん殴る。


 しかも、『怖かったね、怖かったね……! ああ、よちよち』って今までに見たことないほど優しげな表情でベイビーギルに黒薔薇(棘なし)を魔法で作ってあやしだした。アエルノでも赤ん坊にはやさしいらしい。なんかちょっと見直した。


 ちなみに、その後なぜか『赤ん坊を盾にするな』ってアルテアちゃん、ミーシャちゃん、パレッタちゃんから容赦ないケツビンタをされた。解せぬ。


 そうそう、今日はパレッタちゃんがベイビーギルのおんぶ係に。『小さな命のともしびがクセになりそう』って言ってた。正直おんぶしている姿はあまり似合わなかったけど、常にヴィヴィディナがサポートについていたから安心感だけはあった。


 今日の授業は魔法構築学。『えっ赤ん坊? ねえ誰の子? ねえ誰の子? 先生に教えてくれよ!』ってシューン先生は相変わらずのかまってちゃんぷりを発揮する。そんなことをしているから出欠取るのが遅くなるというのに。そして書くまでもなくローブはズボンにイン。


 内容はやっぱりテストに向けての自習。もう履修範囲は終わっているから、好きに勉強してわからないところは遠慮なく質問しに来なさいってスタイル。この学校、設備はボロいしスケジュールとか全然生徒のことを考えていないけど、テスト前にちゃんとこういう時間を取ってくれるところだけは評価しなくもない。


 で、いつものメンツにいつも通り勉強を教えていたら、パレッタちゃんの背中のベイビーギルの瞳に確かな知性の光を感じた。どうやら俺が教えている内容を理解しているらしく、ときおり『ほんぎゃあああ!』って泣いて続きを促したり、疑問点を指摘したりしてくる。


 試しに陣造変質層について正しい記述と誤った記述をランダムで見せてみたところ、ベイビーギルは正しい記述を見たときはきゃっきゃと笑い、誤った記述を見たときは『おんぎゃあああ!』って泣き出した。こいつ天才か。


 『なあ、これ元のときより賢いんじゃね?』とポポル。『子供だから吸収が早いんでしょう。ヴィヴィディナもそういっている』とパレッタちゃん。もしかして、奴の筋肉って無限の可能性を秘めているのだろうか。


 さて、なんだかんだでつつがなく授業が終わり(しかもけっこう早くに終わった)、ベイビーギルがお昼寝から目覚めた夕方ごろ、ステラ先生がクラスルームにやってきた。ひゃっほう。


 『まだ戻る気配はない……みたいだね』とステラ先生はベイビーギルをだっこしながら呟く。さすがに四日もこの状態が続くのはあまりよろしくない……というか、遅くとも来週までに戻さないと期末テストがアブナイ。


 『ちょっと先生、いろいろ検討してみるね』ってステラ先生はベイビーギルの髪の毛と尿を採取してさっさと帰ってしまう。もっとおしゃべりしたかったのに超残念。


 夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。ベイビーギルのお風呂はパレッタちゃんがヴィヴィディナを使ってパパってやってくれた。ベイビーギルのやつ、全身がヴィヴィディナ(粘液形態)に覆われているのにきゃっきゃと笑って気持ちよさそうだった。


 書くまでもないだろうけど、やっぱり今日もこの日記はロフトで書いている。今日の当番は俺&ポポル&パレッタちゃん。なんだかんだでポポルは真面目と言うか働き者で、夜のおしめ交換も言われずとも率先してやってくれた。フィルラドも見習うべきだと思う。


 なお、むずかゆかったのか、はたまた偶然か、ポポルがおしめ交換をする際にベイビーギルは盛大な小便をした。おもっくそ顔にかかっていた。彼の名誉のために誰とは言わないけど、涙目になっていたことを記しておく。あ、後処理は『手間をかけさせるのう……』ってパレッタちゃんがヴィヴィディナを使ってやってくれたけど。


 ポポルとパレッタちゃんは二人仲良く寄り添いながらキリキリと小さな歯ぎしりをしている。この二人とベイビーギルを見ていると子供を三人視ているかのような感覚に陥るから不思議なものだ。


 もっと不思議なのは、やっぱりパレッタちゃんも寝るまでベイビーギルを撫で、そして今も優しくその手を握っていることだろうか。ベイビーギルもスヤスヤと安らかに寝ているし、もしかしてこれが女の子が女の子である母性を示す最たるものなのかもしれない。あのパレッタちゃんが寝る直前まで慈愛の微笑みでベイビーギルを撫でていたのは結構衝撃的だった。


 たぶん、うちのクラスの女子の誰もが同じ行動をするのだろう。優しい女子……というか、母性の強い女子が多いのかもしれない。いや、女の子ならみんなそうなのだろうか? よくわからない。


 とりあえず、俺もさっさと寝ることにする。夜泣きが始まる前に寝られるだけ寝ておきたい。短時間睡眠は宿で何度もやったから慣れている。おやすみなさい。

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