292日目 基礎魔法陣製図:課題提出
292日目
やっぱり夜泣き。隣に誰かがいないと不安らしい。しょうがないので俺とミーシャちゃんの間に寝かせたら、明け方におもっくそ鼻面を叩かれた。赤子の癖になかなかの威力。将来が楽しみでならない。
ベイビーギルをだっこし食堂へ。『昨日は不覚をとったの! 本当にごめんなさいなの!』とミーシャちゃんはベイビーギルの着替えとか、朝の支度だけはやってくれた。別に全然怒ってるわけじゃないのに、激昂した龍王を前にしたかのように謝られたのが印象的。
朝食になんとなくホットミルクをチョイス。ベビーフードを作るときに搾ったちゃっぴぃミルクもいれてみた。甘くてなんか背徳的で飲んでいるとどきどきしてくる。この感じ、クセになりそう。
なお、ベイビーギルは『おんぎゃあああ!』って大きく泣いてその滾る食欲を示していた。ベビーフードもこれまたよく食べる。バルトラムイスのシャンテちゃんが『いい子になあれ、いいこになあれ♪』って急遽パパから取り寄せたらしい豪華なガラガラでベイビーギルをあやしていた。
今日の授業はキート先生の基礎魔法陣製図。『おや、赤ちゃんですか』とキート先生はベイビーギルを一目見るだけで特に何も言及しない。『人の形を保っているだけマシですよ』って遠い目をしてヤバそげに笑っていたけど、いったい過去に何があったのだろうか。
肝心の内容だけど、課題を提出するだけで終わってしまった。『半年とはいえ、とりあえずお疲れさまでした』って渡した時に言われる。まだ来年以降もこの製図の授業はあるけど、一応は一区切りだからね。
あと、『本当にこれで後悔しませんね? これで成績つけちゃいますからね?』ってキート先生は受け取る前に何度も確認を取っていた。
ああいうことされるとホントビビるからやめてほしい。ベイビーギルも『ほんぎゃあああ!』って泣いて漏らしていた。
さて、そんなわけで早々に授業が終わったので、午前の早い段階からクラスルームに戻って来週のテスト対策をすることに。あ、すでにこの段階で『どれ、疲れただろう? 今日は私がやろう』ってアルテアちゃんがベイビーギルをおんぶ紐でおんぶしてくれていた。
なんか、アルテアちゃんがやるとお母さんとか新妻ってより、かーちゃんって感じが凄まじい。『すげえカーチャンの貫禄がする……』って呟いたフィルラドは『バカ亭主の減らず口はここかぁ!?』ってアルテアちゃんに顔面をケツビンタされていた。その状態でも背中のベイビーギルに一切の衝撃を伝えないあたり、アルテアちゃんってすごいと思う。
で、ぼちぼちとテスト勉強。ロザリィちゃん、ポポル、パレッタちゃん、ミーシャちゃんに重点的に教え込む。幸いと言うべきか、基礎魔法陣製図は課題提出のみで評価されるからテストがない。ちょうラッキー。
なお、『とりあえずまずは休憩するか』ってジオルドはこの時間にベビーベッドを作っていた。そんな余裕があるのかと問いただすと、『今ちゃっぴぃのベッド使わせているんだろ? なら早く新しいの作らないとダメだしな』と返される。匠ってなんかすごい。
そうそう、ロザリィちゃんが匠ジオルドのベビーベッドの腕前を見て、『私が──くんと一緒になったときはよろしくね?』って早くもベビーベッドの予約をしていた。『お、おう……』とジオルドは何とも言えない表情。
全く、ロザリィちゃんは気が早すぎて困る。まだ結婚だってしていないというのに。そんなところが可愛いんだけどな!
夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。夕飯の時、なんとなくジャガイモを食べていたら、ベイビーギルが『お、ん、ぎゃああ!』ってジャガイモを食わせろとばかりにつかまりたっちを披露した。
まだハイハイすらできないというのにこの執念。ミーシャちゃんが『うちの子すごいの!』と感極まって涙ぐんでいた。『えっ、うそ、見逃した!』、『ああああ!』と、その瞬間を見逃した者は悲しみの悲鳴を上げる。『俺ちゃんと全部見ちゃったもんね!』ってポポルがやたら自慢げだった。
ちなみに、ジャガイモはベイビーギルの腹にはいかなかった。だってあいつまだ歯が生えそろっていないし。代わりにジャガイモを気持ち多めにしたベビーフードをやったけど。
ああ、あと、今日はアルテアちゃんがベイビーギルを風呂(クラスルームのたらい)に入れてくれた。妙に手馴れていると思ったら、『エッグ婦人の入浴もヒナたちの湯あみも私の仕事だからな』ってフィルラドを見下しながらその理由を教えてくれた。フィルラドのやつ、下手くそな口笛を吹いて目を逸らす。あいつとことんクズじゃね?
そしてまたまた、この日記をロフトで書いている。今日の当番は俺&アルテアちゃん&フィルラド。なぜまた俺が一緒なのかと思ったら、『緊急事態に備えるためだ』って言われた。基本はアルテアちゃんとフィルラドが対応するらしく、現にさっきアルテアちゃんがフィルラドにおしめの交換をやらせていた。
そろそろ寝よう。アルテアちゃんが大半のことをしてくれたため、夜の俺の仕事は少なめだった。ベイビーギルは匠ジオルドが作ったベビーベッドの中でスヤスヤと寝息を立てている。
このベビーベッド、微妙にゆらゆらできるように作られていて、揺らしてやってるうちに寝ちゃったんだよね。ジオルドマジですごいって思った。
フィルラドはエッグ婦人とヒナたちに埋もれながらぐぅぐぅと小さなイビキをかいている。アルテアちゃんはベイビーギルを撫でながら……じゃない、ベイビーギルの手を軽く握ってすぅすぅと寝息を立てている。
昨日も思ったけど、これって女の子の本能的なやつなのだろうか? アルテアちゃんはいいお母さんになると思う。思えばちゃっぴぃを預けるのもいつもアルテアちゃんだっけ。
フィルラドのヒモ気質とダメ亭主感が少しでもマシになることを願って、今日の日記の締めとする。おやすみずしぶき。




