286日目 魔法構築学:魔光造形法の特徴について
286日目
ドアノブがくっつく。なぜ。
ドアをぶち破ってから食堂へ。『またぶち破ったのか!?』とジオルドは口では怒りつつも顔はニコニコしている。正当な理由である場合に限り、自らの腕を振るえる機会ができるので結構うれしいらしい。物壊れて喜ぶとか、あいつも結構クレイジーだと思う。
朝食はなんかの焼き魚をチョイス。ちょっと小骨が多かったけど、脂も多くて文句なしにデリシャス。塩コショウのみのシンプルな味付けもグッド。下手な料理人ほどごちゃごちゃといろんなものを使ってごまかすけど、その点おばちゃんはわかっている。小さく賞賛の拍手を送ったら、『どんなもんだいっ!』って笑顔で胸を張っていた。
そうそう、せっかく俺がちゃっぴぃのために魚の小骨を全部取ってやったのに、ちゃっぴぃのやつ、『きゅーっ♪』とかいって例のエプロン装備でクーラスにそれを貢いでいた。いくらなんでもひどくない?
なので、思いっきりガンを付けたら、『お、俺は何もしてないからな? あと、子供のやることなんだから気にするなよ!』って怯えるクーラスに杖を突きつけながら言われてしまった。『ここまでひねくれている人も珍しいの』、『いっそ清々しさすら覚えるな』、『それでこそヴィヴィディナのパパにふさわしい』と散々な評価ももらってしまう。
が、聖母ロザリィちゃんだけは『あのおさかな、ちゃっぴぃが嫌いなおさかなだよね?』って『めっ!』ってちゃっぴぃを叱っていた。どうやらクーラスは嫌いなものを押し付けられただけらしい。ざまあみろ。所詮お前はその程度なのだ。
書くまでもないけど、ギルは『うめえうめえ!』ってジャガイモを食べていた。こっそり取った小骨を混ぜたら、気づかずそれすら平らげてしまった。あいつ、もしかして食べられないものとジャガイモの区別がついてないんじゃあないだろうか?
今日の授業はシューン先生の魔法構築学。年明けだろうとやっぱりローブはズボンにイン。そして出欠取るのはめっちゃ遅い……上になんか妙に元気がない。
『新年会ではしゃぎすぎてひどいめにあった……おまけにここ数か月の間ずっと大いなる興味を持って取り組んでいた、かつてないほど学術的で先進的な試みが一瞬でぶっ壊された……』って嘆いていた。聞かれてもいないのに語りだすとか、どうしてその労力をもっと別なところに使えないのだろうか。
内容は前回に続き魔光造形法の特徴について。研究中の陣造法だけあって、やっぱりいろんなメリット、デメリットがあるから、それを把握しましょうって話だった。以下にその内容を記す。
【メリット】
・コスト、能率面に優れているため、一品物の生産(広義での魔道具への陣造を含む)に適している(オンデマンド)。
・裂造や流造では不可能な陣造、具体的には魔法陣内部に複雑な空孔や中空を有した陣造が可能である。
【デメリット】
・従来の陣造法と比較すると全体的に強度が低い。特に積層した層間の強度が低い。
・陣造の過程で魔素の凝固等が発生し、それに伴い収縮が発生する可能性が非常に高い。そのため、精度が低い。
・魔素、および魔法材料を積み上げて形状を作り出す原理上、陣造自体にかかる時間が長い。
・使用できる材料に制約がある(ほとんどが特定材質のもの。その他材料も実用化途上の段階)。
大きな実用化に踏み切っていないだけあって、なかなかにデメリットが多い。特に最後の奴は致命的だと思う。使用材料が決まったものしかできないってことは本当に形しか作れないってことであって、見せかけだけの出来損ないしかできないってことでもある。強度を出せないのも、材料の制約と相まって陣造法としては大きなウィークポイントだ。
ただ、『これから実証データを集めて研究が進めば材料や強度については解決するかな。現段階でもちょっとした試作品を手軽に作ったり、特殊形状のかなりマニアックなファンクションパターンを作ったり、魔道具の一部分の修理部品だけを作ったりと、それなりに広く活躍をしている』ってシューン先生は言っていた。
要は、強度とかどうでもいいからとりあえず効果を確認するためにちょっと手軽に作ってみたい……なんて時にはぴったりらしい。そもそも強度を求められないような魔法陣とかの場合、そのまま従来の陣造法と同じように扱うこともできるわけだ。
研究が進めば従来のものを手軽に陣造出来る……というなかなかに夢のあるお話だったけど、やっぱり大半の人はザントマンの砂にやられていた。週も後半だし、しょうがないっちゃしょうがない。
夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。なんか俺も妙に眠いので今日はこの辺にしておこう。日記のせいで寝不足なったらマデラさんに怒られちゃうしね。
相変わらず健康的にギルはスヤスヤとクソうるさいイビキをかいている。そろそろこいつにも期末試験の勉強をさせなきゃいけないと思うと頭が痛い。今回は実技試験もあるし、どうなることやら。
とりあえず、ギルの鼻には冬の右手を詰めておいた。いい夢見ろよ。




