280日目 とある冬朝の風景
280日目
ギルのおでこにクッキーの模様が浮かび上がっている。今度デザインに使わせてもらおう。
ギルを起こして食堂へ。今日はすっきりいい天気。雲一つない快晴で、冬場にしてはそれなりにあったかい。久しぶりにお散歩したい気分。
そう思ったのは俺だけじゃないらしく、ティキータ・ティキータのゼクトはいつぞやの休日プリンの女の子を誘って早朝ピクニックと言う名のデートに向かっていた。おばちゃんに『昼のぶんもサンドイッチよろしく!』ってお弁当をもらってたから間違いない。
毎回思うけど、この学校の連中っておでかけするとき決まっておばちゃんにサンドイッチ頼むよね。もうちょっとこう、他のバリエーションにしてみるチャレンジ精神はないのだろうか。向上心とハングリー精神のないやつは食いつぶされていくって冒険者の間じゃ割と常識だ。
朝食はハムエッグをチョイス。なんかポポルがニヤニヤしてこっちを見てきたため、俺の全力をもってうまそうに白身まで食べてやった。『えらいぞっ!』って頭をポンポンしてくるロザリィちゃんに全俺が癒された。
ギルは書くまでもなくジャガイモ。『うめえうめえ!』と今日もモリモリ食べている。そろそろきちんと野菜も食わせるべきだと思うけど、不思議とあいつは体調を崩したことが無い。健康の秘訣を聞いてみたいものだ。
さて、せっかく晴れたので、俺もゼクトにあやかってロザリィちゃんとお散歩に行くことにする。で、お邪魔虫であるちゃっぴぃをアルテアちゃんに預けよう……としたところでアルテアちゃんとフィルラドの姿が見えないことに気づいた。
どうしたものかと思ったら、パレッタちゃんが『アルテアなら早朝にフィルラドとジョギングしに行った。部屋を出るとき、私の晒け出ていたお腹に毛布を掛けてくれた。小さな温かさが心にしみた』って教えてくれた。
とりあえず、ミーシャちゃんとクーラスにちゃっぴぃを任せてお散歩しに行くことに。『やってやるの!』、『何があっても俺は知らないからな!』、『きゅーっ♪』と三人は快く俺とロザリィちゃんを見送ってくれた。
クーラスにはささくれの呪をかけておいた。なぜうちのちゃっぴぃを侍らせてやがるんだろうか。しかもあんなに密着してたし。理解に苦しむ。
さて、朝のいい感じの空気の中、ロザリィちゃんと手をつないでお散歩。『えへへ♪』って恋人つなぎにしてくるロザリィちゃんがホントかわいい。しかも腕も組んでくれたし、マフラーも付けてくれた。
『風が吹くとちょっと寒いねー?』なんて言いながら俺の腕にぎゅってしがみついてくるところとか、もう言葉にできない。柔らかいのがめっちゃ当たっている。しかもロザリィちゃん、わかっててそれをやってくる。小悪魔過ぎて気絶しそう。
『本当に寒いね。キミのほっぺも真っ赤だよ』ってロザリィちゃんのほっぺを突いたら、『……赤いのは寒さのせいじゃないよ』ってにこって微笑まれた。からかうつもりだったのにまさかのカウンターを喰らう。ロザリィちゃんはどこまで俺を幸せにすれば気が済むのだろうか。
なんかすっごくいい気分。まさに恋人の雰囲気。ゆっくりと枯れ木の間を歩くのがこうも楽しいとは。冬のデートも趣があって最高だった。
が、そんな最高の気分だったのに、突如悲鳴が聞こえてくる。慌ててロザリィちゃんを背中にかばい、杖を構えた。『もう……!』って口をぷっくり膨らませながら杖を出すロザリィちゃんがめっちゃプリティでした。
さて、新しいギル・クリーチャーでも現れたのか……と思ったら、女の子がしちゃいけない表情をしているアルテアちゃんと必死過ぎる形相のフィルラドが、こっちに向かって全力ダッシュしているのを発見。
しかも、その後ろには全力で脚をカサカサさせて二人を追いかけるルンルンが。さらに、その上には腹を抱えてゲラゲラ笑っている運動着姿のシキラ先生がいた。
『早朝からイチャつきやがってよぉ! ジョギングってのはこういうことを言うんだよ!』と、シキラ先生はルンルンに絶妙な指示を飛ばし、フィルラドたちに微妙に外れるように糸を発射させる。『あんた先生だろ! 私情を生徒にぶつけんなよ!』ってフィルラドがビッグゴブリン(肉壁)を泣きそうな顔して召喚して防いでいた。
もちろん、この間も二人は全力で走っている。さすがはシキラ先生と言うべきか、微妙に追いつきそうで追いつかない速度をルンルンにキープさせていた。
どうやら、シキラ先生も日課のジョギング&ルンルンのお散歩をしに来ていたらしい。そこで『イチャイチャ』していたアルテアちゃんとフィルラドを見て、ついうっかり襲い掛かりたくなってしまったそうな。
アルテアちゃんとフィルラドが何をしていたのか興味を隠せない。まあ、走りながらだしそうたいしたことはしていないだろう。せいぜいフィルラドがアルテアちゃんの尻を見て、アルテアちゃんが適当にあしらっていたくらい……だろうか?
さて、こっちに気づいたアルテアちゃんは『あそこにもっとイチャついているバカップルがいる! やるならそっちにしてください!』とご丁寧にも射撃魔法で魔力マーキングまで施してきた。『こういうときくらいいよな!?』とフィルラドも二重に魔力マーキングを施してくる。あいつら人を何だと思っているのだろうか。ひどくない?
が、ここではいそうですかとそれを受け入れる俺じゃない。クールな俺は吸収魔法でそれを吸収し、『もっと大物がどこかでデートしていますよ!』とゼクトの魔力に反応する感知式魔力マーキングを打ち上げた。
『そっちの方が面白そうだな!』とシキラ先生もグレートなドリフトを決めていずこかへと去っていく。寮への帰り道、聞き覚えのある男と女の子の悲鳴が聞こえたけど、俺には全く関係ないよね。
『ひどいめにあった……』とはアルテアちゃん。『私もゆっくりデートできなかった!』とはロザリィちゃん。『汗ばんでいるふとももも最高じゃね?』って呟いてぶん殴られるフィルラド。『お……俺は悪くないッ! 元はと言えはお前の呪が……!』と、ささくれでいっぱいの指をちゃっぴぃにぺろぺろしてもらっているクーラス。
とりあえず、クーラスにはこむら返りの呪をかけておいた。まったく、超えちゃいけないラインくらい考えてほしいものである。
夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。ギルの姿を見かけない……と思ったら、今日はティキータ・ティキータとバルトラムイスのために薪割りをやっていたらしい。『なかなかいい筋トレになったぜ! あとこれ親友銀行に入れといてくれ!』って少なくない額を俺に渡してきた。自分から貯金の習慣を付けようとしているのはいいことだ。
そんなギルは今日もスヤスヤと大きなイビキをかいている。せっかくなので、いつぞやゼクトとシャンテちゃんからもらったクリンゲル・トーアを異界の雫に浸したものをやつの鼻に詰めてみた。おやすみーとすぱげてぃ。




