276日目 ティーチャーズ・サバト~リバース・リバース~
少々汚い表現が頻発しています。注意してください。
276日目
トイレが凍り付いていた。とりあえず溶かして流しておいた。さっさと体を温めないと。
いつも通り、ギルを起こして食堂へ……行こうとしたらなにやらプチ悲鳴チックな声を聴く。慌てて杖を構えてクラスルームに突入したところ、いくらかの人だかりを発見。女子の数人は腰を抜かしており、男子もヤバそげなものを見るかのように微妙にその中心から引いている。
もうひとつおまけに明らかな異臭。吐き気を催すレベルの異臭が人だかりの中心から確かににおってくる。悲しいことにマデラさんの宿とかでちょくちょく嗅ぎ慣れた臭い。
どうしたのか……と思って覗き込んでみたら、気絶したグレイベル先生と微笑みの天使ピアナ先生、それと麗しの女神ステラ先生が倒れていた。どうなってんのコレ。
『お……俺じゃない! 俺が来たときはすでにこうなっていた!』とはフィルラド。『ジョギングに行こうとこっちに来たら異臭がした。不審に思ってクラスルームを確認したら倒れていた』とはアルテアちゃん。『うっかりつまずいて踏んずけたけど俺悪くないよね?』とはポポル。
なんとも不可解なことに、ステラ先生、ピアナ先生はグレイベル先生を下敷きにするようにして倒れている。いったいどうしたらこんな風になるのか、とりあえず起こして聞いてみようと近づいたところ、饐えた臭いに交じってかなりの酒臭さを感じた。
よくよく見れば、三人とも服装がパジャマじゃない……っていうか普段着。どっからどう見ても、酔いつぶれて倒れたって感じ。
さて、とりあえず三人ともソファに寝かせて軽く頬をぺちぺちしたところ(ステラ先生のほっぺがめっちゃ柔らかかった!)やがて『う゛ぇぇ……!』と三人は意識を取り戻した。
『おみずぅ……! おみずぅ……!』、『くちから、だばーっ! って……!』、『ぐ、ぬ……!』と三人ともかなりグロッキー。特にピアナ先生は顔を真っ青にして震えていた。いったい何を見てしまったのか、興味を隠せない。
どうやら三人とも、昨日の夜に先生方の新年会に出席していたらしい。シューン先生やシキラ先生、ヨキにカルブ先生、それにキート先生やもちろんシキラ先生やミラジフまでもがそろった大きな催しだったんだそうな。
当然のごとく、シキラ先生とシューン先生がいる段階で普通の新年会で終わるはずがない。最初はそれなりに和やかに飲んでいたものの、そのうち魔法が飛び交う命がけの飲み会に発展したそうな。
『お気に入りの杖の触媒で対立して……』、『ジャスティスな陣造方法で意見が割れて……』、『…最後は魔法処理した酒を口にぶち込みあうサバトになった』って先生たちが言ってた。どういう経緯でそうなったのかイマイチ覚えてないらしいけど、ともかく思い出すのも嫌になるほど凄まじく荒れていたそうな。
とりあえず、早々にシューン先生がべろべろに酔い、ゲロをぶちまけたらしい。ステラ先生たちも魔法で対抗したものの、四方八方から飛び交う先生方の魔法には対処しきれず、やがて度数のハンパないお酒をモロに全身に喰らってしまったそうな。
もともとは普通に飲んでいただけに、酔いがいくらか回っていて不覚を取ったとのこと。自他ともに認める蟒蛇であるシキラ先生はともかく、この段階でステラ先生もピアナ先生もダウン一歩手前だったそうな。
が、逃げようとしたところですでに出入り口が誰かの魔法でふさがれている。『…シキラ先生か、面倒事を避けようとしたおばちゃんが外側から封印したのかどっちかだ』とはグレイベル先生。おまけに、『逃げるなんてズルい真似、させませんよ?』とすでに死にそうになっていたキート先生がグレイベル先生の足首をがっちりつかみ、ゲロか酒弾の二択を迫ってきたそうな。
非常にばっちぃ話になるから詳しくは書かないけど、この段階で吐いていないのはシキラ先生と女神と天使ぐらいだったらしく、後はもう互いにゲロ塗れになりながら暴れまくっていたらしい。
どれくらい酷いかっていうと、『ああいう場だと、ミラジフ先生の流魔法ってすごく脅威になるんだよ……!』ってピアナ先生がカタカタ震えながら呟いたくらい……って言えばわかるだろうか。
いつぞやの恨みを晴らすためか、ミラジフは誰かがリバースしたそれを再び流魔法でリバースさせてたんだって。一応書くけど、後者のリバースは巻き戻しとかそっちの意味ね。
シューン先生、最終的にリバースをリバースされながらもミラジフの頭に魔銃を突き付けて魔弾(たぶん酒弾)をぶっ放していたとか。ミラジフも酔っぱらってるからストッパーが効いていなかったそうな。あいつ元からそういう性格だと思うけど。
一応それなりにお酒の強かったグレイベル先生は、キート先生に一撃をかまし、ヤバそげな笑顔を浮かべるゲロ塗れのシューン先生に押し付け、なんとか女神と天使を連れて脱出することに成功したんだって。
で、二人をそれぞれ盗賊担ぎで連れ出したはいいんだけど、自室まで送り届ける気力はなく、ならばいっそとルマルマ寮まで来たところで力尽き倒れた……と言うのが真相らしい。
『これだから先生同士の飲み会は嫌なのぉ……!』、『やっぱり断っておけばよかった!』、『…他の先生の安否? 知らんな』って三人とも疲れ切った顔でつぶやいていたのが印象的。水を飲ませたりして介抱してたらそのうち顔色だけはよくなったけど、表情の疲れはいつまでたってもとれていなかった。
その後は普通に朝食をとる。ギルは相変わらずジャガイモを『うめえうめえ!』って食ってた。食欲のない先生方には今日のデザートであるグレープフルーツヨーグルトを勧めたんだけど、なぜか三人ともが『うぷ……っ!』って口を押さえてしまった。
午前中はダラダラと過ごし……たかったんだけど、やっぱり気づかないようにしていた先生方のローブの汚れがどうにも我慢ならなかったため、洗濯をすることに。
『なんか……ごめんね……』ってすっごく申し訳なさそうに言われたけど、宿屋の息子的に、この手の処理は慣れている……というか、処理をしないとどうにも気持ち悪くて気になっちゃうんだよね。
『よくそんなの普通に洗えるな?』ってクーラスに言われたけど、むしろあの程度の汚れにビビっているようじゃ毎週末にある冒険者の宴会を仕切るのは無理だと思う。
書くまでもないけど、ステラ先生とピアナ先生自身は超いい匂いがしていたからね? つーか、むしろ先生たちならリバースしてもリバースじゃないし、俺的に全く問題ないどころか顔面から受けられる自信がある。
そもそも、女神と天使はリバースしないって俺は知っている。ゲロ吐くのはナターシャみたいなアバズレだけなのだ。
そうそう、結局先生方は午後もルマルマのクラスルームでゆっくりしていた。自室や職員室に行く気にはなれなかったらしい。下手に後処理を任せられたらたまったもんじゃないって顔に書いてあった。たぶん、それぞれ担当クラスの生徒が何とかするんだろう。
夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。なんか今日は先生の話しか書いてないけど気にしない。年明けでダラダラしていたことを書き連ねるよりかはマシだろう。
あ、雑談中にピアナ先生が『よく考えてみれば、うら若き乙女を盗賊担ぎで運び出すって酷くない? 下手したらぱんつ丸見えだよ? グレイベル先生はあの顔だし、本物の盗賊って言われてもおかしくないって!』ってグレイベル先生をさりげなくディスリスペクトしていた。
なお、話を振られたロザリィちゃんは『──くんになら、むしろやってほしい!』って超笑顔で俺に抱き付いてきた。ホント、ロザリィちゃんは可愛すぎると思う。『…個人の趣味をとやかく言うつもりはないが、変な道にだけは進むな』ってグレイベル先生が真剣な表情でロザリィちゃんを諌めていたのが印象的。
だいたいこんなもんだろう。ギルは今日も大きなイビキをかいている。こいつが飲み会に参加していたらいったいどうなっていたのか、ちょっとばかりのワクワクを隠せない。
とりあえず、やつの鼻には先生たちに処方した二日酔いの薬を詰めてみた。念のためにもってきていたコレをここで使うことになったことに驚きを隠せない。おやすみすと。
お酒を飲むときは節度を守り、無理はしない・させないで楽しく平穏無事に飲むようにしましょう。




