275日目 冬釣り
275日目
天井が青空。実にいい天気。
ギルを起こして食堂へ。考えることはみんな一緒なのか、すでにミーシャちゃんは釣りの準備をバッチリ済ませて待ち構えていた。『今日こそは釣りまくるの!』とやる気満々。
そんなわけで、軽くサンドイッチを食べて釣竿の準備をする。こないだ作った釣竿を用意し、今回はさらにロザリィちゃんたち女子用の釣竿を学生部に借りる。
男子は自前の釣竿があるからいいんだけど、女子ってミーシャちゃん以外自前の釣竿ないんだよね。今度作ってみるのもいいかもしれない。
ああ、書くまでもないけどギルは『うめえうめえ!』ってジャガイモを食べてたよ。で、『こいつは昼飯だぜ!』って俺がプレゼントしたズタ袋(おはなのアップリケとギルの名前の刺繍付き)におばちゃんからジャガイモを入れてもらっていた。
で、早速湖に。聞いていた通り、一面が凍り付いていてなかなかに壮観。アルテアちゃんもロザリィちゃんも『うわぁ……!』って感動していた。ポポルとパレッタちゃんは足を滑らせてケツをしたたかに打ち付けていた。
『呪ってやる!』ってパレッタちゃんは言ってたけど、いったいどうやって湖を呪うつもりだったのだろうか。若干の興味を隠せない。
さて、当然そのままでは釣りができないため、氷に穴をあけることに。『まあ、任せろ』とジオルドは焔姫の技鑿を具現魔法で具現化してパパッと穴をあけてくれた。大きすぎず小さすぎない、なかなかいい感じのサイズ。さすが匠だ。
ただ、ここでミーシャちゃんのダメ出しが。『みんなで固まってたら釣れるものも釣れないの!』とのこと。冬は回遊する小魚を狙うため、できればある程度にバラけて釣ったほうがいいらしい。
ポポルも『そんなの常識だろ? これだから勉強しか能のないやつは……』ってふんぞり返っていた。ガキに言われると腹が立つのはなぜだろうか。俺がテッドだったらこの場でズボン降ろしをしていたと思う。
そんなわけで、まあいつも通りのメンバーに分かれて釣りをする。あ、別れるときにギルが『任せろ!』ってワンパンで氷に穴をあけてくれて助かった。ギルほどの達人になると、無駄に衝撃を伝播させず拳型に氷をぶち破ることも可能らしい。サイズ的にはぴったりだから気にしないことにした。
んで、糸を垂らす。『寒いねー……』ってすり寄ってくるロザリィちゃんが最高。ちゃっぴぃも『きゅーっ……』って俺の膝……っていうか股の間に収まってローブに潜り込む。晴れているとはいえ、氷の上だし吹き曝しだから結構寒い。ちゃっぴぃの体温が高めだったから俺はそんなに寒くなかったけど。
家族で仲良く三本の糸を垂らしていたら、やがてロザリィちゃんのに当たりが。『どどど、どうするの!?』と聞かれたので、後ろから一緒に竿をもってひょいってやる。いい感じに丸々と太った小魚がぴっ! って氷上に打ち上げられた。
『やったぁっ!』ってロザリィちゃん超笑顔。めっちゃ癒された。
そこからはもうすごかったね。なんかちょうど群れが下に来ていたらしく、俺もロザリィちゃんも糸を垂らすたびに当たりが来るの。まさに入れ食い状態。新鮮ぴちぴちなのがどんどん魚籠の中に増えていく。ロザリィちゃん、『楽しい……!』ってすんげえ笑顔にっこりしていた。
が、なぜかちゃっぴぃの竿には当たりがこない。俺たちが何十匹と釣りあげてるのにうんともすんとも言わない。『ふーッ!』っとちゃっぴぃは明らかに機嫌が悪くなった。で、『そっちのよこせ』と言わんばかりに勝手に俺の竿と自分の竿を交換する
しかし、場所そのものさえ変えたというのにあたりは来ない。さすがのちゃっぴぃもこれには涙目。とうとう『きゅぅぅぅ……!』ってロザリィちゃんに泣きついた。ちゃっぴぃの腕が食い込むロザリィちゃんの大きな大きなそれが最高だった。
『──くん、なんとかしてあげられないかな?』とロザリィちゃんが頭をこてんって俺の肩にのせてきたため(めっちゃいい匂いがした!)あたりが来たところで竿をちゃっぴぃに渡してやる。当然のごとく釣れた。ちゃっぴぃ超ご機嫌。
んで、それから何度か同じようにしてるうちに気づいたんだけど、どうやら魚はちゃっぴぃから湧き上がる闘志(魔力)に警戒してちゃっぴぃのやつだけ避けていたっぽい。試しに俺の竿に魔力を流してみたらピタリとも当たらず、ちゃっぴぃやロザリィちゃんのに集中しだした。意外とあっけない理由になんかどっと疲れた。
なんだかんだでおやつの時間ごろには撤収。フィルラド&アルテアちゃんペアもかなり釣れたらしく、『アルテアちゃんが釣れた傍からエッグ婦人とヒナたちにあげちゃってさ……』、『バカ言え、そうでもしないと持ち帰ることができなかっただろう』って二人が言ってた。実際、魚籠は魚でいっぱいだった。
ポポルとパレッタちゃんはそこそこ。男子の中で一番釣りのうまいポポルにしては少ないと思ったら、『こいつが釣れないからってあたり一帯を呪い始めたんだ!』ってポポルが涙目になっていた。それでもなお一定量を確保するあたり、あいつはすごいと思う。パレッタちゃんは『なんかヘンなの浮いてきた』って呪に当てられた冬眠中のコメットテールを戦利品にしていた。
一番すごかったのはギルとミーシャちゃん。『爆釣だったの!』とすんげえホクホク顔。その割には魚籠の中に俺たちと同じくらいしかない……と思ったら、『甘いぜ親友! このズタ袋の中全部魚だ!』とギルがパンパンになったジャガイモズタ袋を見せつけてきた。
俺たちなんて目じゃないくらいに釣りまくっていたらしい。『俺は終始ハニーの釣った魚を回収していたぜ……! マジでいいトレーニングになった!』ってギルがポージングを決めていたといえば、そのすごさがわかると思う。
あ、ジオルドとクーラスは『それなりに釣れたけど心が寂しい』、『吹き荒ぶ風がとても寒く感じた』って言ってた。
最終的な釣果はかなりのものとなった。魚でいっぱいの魚籠が六つに、あのジャガイモズタ袋が一つ。小魚とはいえ、このメンツで食べきれるはずもない。
そんなわけで、夕食はクラスのみんなでおさかなパーティをすることにした。調理法はシンプルに素揚げ。珍しくミーシャちゃんとポポルが手伝ってくれたため、本当に楽ちん。
もちろん味は超デリシャス。魚特有のうまみと揚げ物特有の食感が最高。バリバリもしゃもしゃ食いまくった。小魚にしては脂ものっていたし、ちゃっぴぃもエッグ婦人もうまそうに食べていた。
ミーシャちゃんは『おさかなおいしい!』、アルテアちゃんは『やっぱり自分が釣ったのはいいな!』、パレッタちゃんは『実に美味』、ジオルドは『こういうの結構好きだ』、クーラスは『いくらでも行けそうで逆に怖い』、フィルラドが『ヒナたちに食わせても大丈夫かな?』、ポポルが『今からフィッシュ&チップスにしようぜ!』、ギルが『うっめぇ! 仄かにジャガイモの風味がして最高!』って言ってた。
ロザリィちゃん? 『とってもおいしーっ!』って俺にぎゅって抱き付いてきてくれたよ。最近普通に抱き付いてきてくれて、本当に幸せ。幸せすぎて夢じゃないかって思えるくらい。
夕飯食って……じゃない、風呂入って雑談して今に至る。夕飯後の片付けがちょっと大変だったとはいえ、みんなの喜ぶ顔が見られてよかった。宿屋の息子としてこれほどうれしいことはない。
これもいい思い出になるのだろう。またみんなで……ルマルマのみんなで行ってみたいものだ。もちろん、今度はステラ先生も誘って。
そういや、今日はステラ先生の姿を見なかった。てっきり揚げ物の匂いにつられて遊びに来てくれると思ったんだけど……。
うん、ステラ先生とおさかなパーティを楽しむためにもまたみんなで行こう。今決めた。俺が決めた。組長が決めたのなら絶対なのだ。
ギルはスヤスヤと大きなイビキをかいている。なぜか俺のローブのフードに入っていた湖の氷を鼻に詰めてみた。おやすみーとろーふ。
※燃えるごみは湖に不法投棄。魔法廃棄物は冬眠中。




