272日目 大掃除&最後の日
272日目
天井がぴかぴか。輝いている。掃除の手間が少し省けた。
ギルを起こして食堂へ。何と朝からステラ先生が食堂にいて、『今日はみんなで大掃除するよっ!』ってステキなスマイルを浮かべてくれた。もうこれだけでやる気マックス。今の俺なら冒険者の宴会後のゲロ塗れの床を瞬時にぴかぴかにすることができる。
気合を入れるため、朝食後にブラックコーヒーを飲む。『そんなの飲んでうまいの?』とおこちゃまポポルは極甘カフェラテを飲みながら聞いてきた。『大人の味がわからないのか?』と言い返すと、『大人は素直に自分の飲みたいものを飲む』と言われる。
あの苦さをわからないとか、これだからポポルは子供なのだ。ちゃっぴぃも極甘カフェラテを飲んでたし。
ちなみに、『──くん、甘いのお願い♪』、『あっ、先生にもお願いできる? 苦いのちょっと苦手なの』とプリティロザリィちゃんと女神ステラ先生に頼まれたので、甘めに仕上げた特製キャラメルラテを用意した。やっぱり冬場ってあったかくて甘い飲み物がジャスティスだよね。うれしそうに飲む二人は本当にキュートだったよ。
さて、気合を充填した後は早速ルマルマ寮の大掃除に入る。クラスルームを基本とし、キッチンとかその他もろもろを一斉に仕上げることに。
なんともうれしいことに、『今年の厄を喰らい尽くせ、ヴィヴィディナ』とパレッタちゃんが浸食活性したヴィヴィディナを展開させたため、頑固な汚れはあっという間になくなった。残った汚れもちょっとこすればすぐに落ちるレベル。
そんなわけで、みんなで手分けしておそうじ。ちゃっぴぃはパタパタ飛んで天井を、ミーシャちゃんはその小柄な体格とリボンを活かして細かいところを、ギルやジオルドと言った力自慢は机だのなんだのを外に運び出す。
俺はもちろん、新妻感あふれるおそうじエプロンを装備したロザリィちゃんとともに台所他全体的なサポートに。宿屋の息子的に、掃除には手を抜けないからね。
嘆かわしいことに、まともに掃除の技術をもっているのはほとんどいなかった。物はどかさないし、四角い部屋を丸く掃くし、洗剤も無駄にドバドバ使ったりしている。マデラさんの宿でこんなことをしたら、百連ケツビンタじゃ絶対に済まない。
ポポルもパレッタちゃんも『使えば使うほどいいんじゃないの?』ってガチで首をかしげていた。『汚れが落ちればいいんだろう?』と、アルテアちゃんは少々ガサツな掃除だった。ギルは『ちょれぇちょれぇ!』って雑巾がけだけはうまかったけどそれ以外はからっきし。
皮肉なことに、一番掃除がうまかったのがジオルドっていうね。あいつは丁寧に水槽とか虫篭の手入れをして、ロフトの掃除を一身に引き受けてくれてたよ。マジで感謝。
どうにもこうにも気になるので、ロフトを除くクラスルームは片っ端から俺が最後の仕上げの掃除をした。なかなか大変だったけど、『がんばれーっ!』って応援してくれたロザリィちゃんがいたから苦でも何でもない。
掃除終了後の部屋は、文字通り先ほどまでとは輝きが違った。空気も澄んでいるし、開放感のようなもので満ち溢れていた。『嫌味なやつと思ったけど、これを見たらなぁ……』とクーラスも感動。これを機にみんなも掃除の技術を身に着けてほしいものである。
そうそう、『せ、先生も見習わなきゃ!』って決意を新たにするステラ先生がめっちゃプリティだった。以前、魔法で掃除をしようとしたことがあるらしいんだけど、うっかり大事なものまで『掃除』してしまい、それから掃除が苦手になったのだとか。
『一生僕が掃除するので、気にしなくて大丈夫ですよ』って言ったら、『お、大人をからかっちゃいけません!』って真っ赤になりながらおでこをつんってされた。もっとしてほしかった。
割と本気で言ったんだけど、いつになったらステラ先生は俺の気持ちに気づいてくれるのだろう。あ、もちろんロザリィちゃんは『私もお掃除は──くんに任せるよ!』って抱きしめてくれた。ちょう幸せ。
どうでもいいけど、窓の掃除をしたら物置くらいの大きさはある巨大な蜘蛛が校舎の外壁をカサカサしているのを発見した。よくよく見たらルンルンで、おそうじルックのシキラ先生が上に乗っていた。蜘蛛の糸って掃除に便利だということを初めて知る。
さて、掃除後は風呂に入り、夕方からクラスルームでささやかながら宴会を始める。今日はもうみんな年が変わる瞬間まで起きていることを決めており、軽くつまめる夜食や飲み物もどっさりと用意した。もちろんエビフライは他のよりも多めに用意した。エビフライマジうめえ。
書くまでもないけど、ギルは俺特製のフライドポテトを『うめえうめえうめえ!』って貪ってた。ジャガイモフィーバーとはまさにあの事を言うのだろう。
おまけに、無礼講だからみんなパジャマ。ネグリジェ姿ロザリィちゃんがマジ可愛い。あと、『似合う? ねえ似合う?』って羽織ったストールをうれしそうに見せびらかすネグリジェ姿ステラ先生が女神過ぎて気絶しそうになった。
んで、ゴロゴロしながらカードゲームやおしゃべりに興じる。相変わらずステラ先生のイカサマテクは絶好調で、あっという間にケツの毛までしっかり毟り取られてしまった。先生の膝枕で喉をごろごろ鳴らしていたミーシャちゃんも、『今日はいつも以上に宇宙の愛がすさまじかった』って言ってた。
しかも、今回は『負けた人は勝った人の言うことをなんでも一つ聞く』というルール付き。『どうしよっかなぁ~?』って小悪魔的にほほ笑むステラ先生が本当にプリティだった。
でも、『それじゃあ、今度先生にジャムクッキー作って! スペシャルヴァージョンのやつね!』と案外大したことのないお願いしかされなかった。『もっと大胆なお願いでもいいんですよ』と提案するも、『だ、大胆なのとか無理だからっ!』と顔を赤くして固まってしまう。
せっかくなので、『ロザリィちゃん、お手本として何か命令してくれないかな?』とロザリィちゃんに声をかける。ロザリィちゃん、迷うことなく『お姫様抱っこ!』と言ってきた。
もちろんすぐさま実行。ロザリィちゃんすごくいい匂い。すんげえ柔らか。やっぱゲームのお願いってこういうのを言うんだよ。ステラ先生、『あうあう……!』って真っ赤になってたけど。
なぜかちゃっぴぃも『きゅーっ!』ってお姫様だっこを所望してきたのでお姫様抱っこしてやった。ミーシャちゃんも『あたしもしてほしいの!』とギルに甘え、ギルはトロールみたいな笑みを浮かべてお姫様抱っこをする。
ここまではいつも通りだけど、なんとパレッタちゃんが『この流れ……! 私もお姫様抱っこ!』とポポルに無茶ぶり。体格的にかなりきついし、そもそもポポル自身が『疲れるからやだ!』と乗り気ではなかったけど、『自信がないのか?』とちょっと煽ったら『そんなわけねーよ!』って顔を真っ赤にして気合で持ち上げていた。見るからに不安定だったけど。
さて、ここまで来ると勘のいい女子は『あら、私もたまにはお姫様扱いされてみたいわ!』、『役得、でしょ?』とクーラスとジオルドにお姫様抱っこを所望し始める。あいつら、『謹んでお受けさせていただきます!』、『最後の最後でようやく……!』と超嬉しそう。いつものローブならともかく、ネグリジェ姿だったしそれはもう刺激も強かったことだろう。
しかもしかも、あの気高きアルテアちゃんまでもが『まあ、空気くらいは読む……それだけだ』ってフィルラドにしなだれかかった。フィルラド超真っ赤。『尻を触ったらその時は……わかるな?』って鋭い眼光をアルテアちゃんは発していたけど、『お姫様にそんなことするはずないだろ?』と意外にも丁寧かつ紳士的にフィルラドにお姫様抱っこされて逆に赤くなっていた。
なかなかにレアな光景にクラスルーム内が湧き上がる。異様なテンション。あ、エッグ婦人とヒナたちはアルテアちゃんの腹の上に乗って疑似お姫様抱っこを楽しんでいたよ。
さて、いつのまにやら普通に立っている女子はステラ先生だけと言う状況に。『え、ええ……!?』とステラ先生はちょっとオロオロ。露骨なまでのこの状況に、頭の理解が追い付かないらしい。
そこで、『さあ、今こそ命令を使う時です!』と声をかける。ロザリィちゃんも俺から降り、『せんせえ、一回くらいは体験しないと損だよ!』といい笑顔。ちゃっぴぃは俺の肩車にジャストフィット。
ウブな先生は『あう……!』と固まったままだったので、『少し失礼をば』とカッコつけてさっとお姫様抱っこしてみた。『きゃあっ!?』っと可愛らしい声とともに、真っ赤になってカチコチなステラ先生が俺の腕の中にいた。女神過ぎて腰が砕けそうになった。
ステラ先生人生初のお姫様抱っこ。『い、意外な安心感……』と目をぱちぱち。『そうでしょそうでしょ!』とロザリィちゃんは自慢げ。そして俺の背中からぎゅっとぶら下がるように抱きしめてきた。
背中にロザリィちゃん。腕の中にステラ先生。なんて幸せなことだろう。夢じゃないかって思ったくらい。二人ともちょういい匂いするし。しかも今回に限ってはクラスのみんなは舌打ちしなかったし。
そして、ちょうどその瞬間に年が明ける。女子たちみんな空中にいるという実に面白い年明け。みんなで盛大に『あけましておめでとう!』と叫ぶ。
なんかちょっと特別なことがありそう。そこまで狙ったわけじゃないけど、やっぱこういうおふざけって大事だよね。
そのあとは普通にさっきと同じようにおしゃべりに戻る。心なし、みんなの距離がまた近くなった気がする。『今日は徹夜しようぜ!』ってギル含む数人が意気込んでいたけど、やがて一人、また一人と寝入ってしまった。優しい俺はひとりひとりに毛布を掛けてやった。
あ、ロザリィちゃんとちゃっぴぃにはおやすみなさいのキスもしておいたよ。今日は十分にイチャイチャ出来て大満足。
だいたいこんなもんだろうか。実は、こっそり起きて日記を書いてるわけだけど、『あうあう……!』って唸るステラ先生(おそらくドキドキしすぎて寝られなかったのだろう)に見つかってしまった。【深き森の子守唄】を魔歌歌唱したのに普通に抵抗されたっぽい。さすがステラ先生。
しかも、『や、やっぱりさっきのも日記に書くの? へ、変な事書かないかチェックしますから!』と今まさに書いている所を横から見られている。
もう一度書こう。今まさに、このスペシャルな万年筆で書いているところをステラ先生に横からのぞき込まれているのだ。
ステラ先生の髪の毛がいい匂い過ぎてなんか頭がクラクラする。そのせいかいつもに比べて文章にキレがないような気がしなくもない。
見ての通り、事実しか僕は書いていませんよ? あと、なんでさっきからそんなに赤くなったりオロオロしたり口を膨らませたりしているのでしょう? 褒めちぎってるんじゃなくて、事実ですから。ステラ先生はすごくかわいくて綺麗ですよ。
ほめてもなにもでません! あと大人をからかうのもえっちなこととか変な事とかを書くのもよくありません! そんなこと書いていないで早く寝ましょう!
からかっているつもりなんてありませんよ。最初にプライベートなことも書くって言ったじゃないですか。あとなんだかんだでノリの良いステラ先生が本当に大好き。今の、わざわざペンを俺から受け取って書いたんだよ。
声を出したらみんなが起きちゃうからです! ──くん、なんでそんなこと真顔で普通に書けるの? いつもと日記じゃ全然キャラが違うよね。
偽らざる僕の本心だからです。キャラが違うのはご愛敬ってやつですよ。あ、なんかこうして一本のペンを貸しあって書くのってちょっと面白い。このまま朝までこれやってみませんか? いくらでも先生の素晴らしさを書きつづけられる自信があります。
ロザリィちゃんやみんなに日記のことバラすけどいいかな?
ごめんなさい。
さて、そろそろ真面目に締めに入るとしよう。ギルはやっぱり大きなイビキをかいている。特に詰めるものもないので、先生と一緒に強力な結界でも張ってみようかと思うんですけど、それでいいですか? 了承が得られたので、そういうことにする。
最後に。あけましておめでとう。今年もよろしくお願いします。




