270日目 子守のバイト再び
270日目
変な毛がドアの所にめっちゃ絡まっていた。とりあえず鋏でぱっちんしてトイレに流しておいた。
ギルを起こして食堂へ。今日は無難にハムエッグをチョイス。なんだかんだで飽きないいつもの味って素晴らしいと思う。もちろん白身の部分はちゃっぴぃに食べさせよう……としたら、俺の隣に座ったロザリィちゃんが『わんわんっ♪』って食べてしまった。
朝からこんなにプリティだとか、ちょっとロザリィちゃんは何を考えているのだろう。もし可愛いことが罪ならば、おそらくロザリィちゃんは真っ先に連行されていると思う。
なお、アルテアちゃんが『バカな真似はよせっ!』ってロザリィちゃんの頭をペシッて叩いていた。『くぅ~ん』とロザリィちゃんがいたずらっぽく甘えて抱き付くも、『──じゃあるまいし、通じるわけないだろう』とアルテアちゃんはデコピンを放つ。
ロザリィちゃん、『アルテアがいじめるよう……』って抱き着いてきたので、頭をポンポンしておいた。なんか、最近どんどんアルテアちゃんの行動が母親のそれになってきている気がする。
もちろん、ギルは『うめえうめえ!』とジャガイモを食べていた。何が面白いのか、今日はちゃっぴぃもヒナたちとともにジャガイモを貪り食っていた。俺、たまにあいつが何考えているかわからなくなることがある。
さて、釣りの支度でもしようか……とクラスルームに行こうとした矢先、ステラ先生が『──くん、いる?』とやってきた。ひゃっほう。
どうしたのかと思ったら、『ええと、──くんの指名でアルバイトの依頼が来ているの』とのこと。さてはこないだの食事処のメンテかと思いきや、『子守のバイトで、ポポルくんとギルくんもだって。後二人くらいまでなら一緒でも構わないって』とステラ先生がその依頼用紙を見せてくれた。
脳裏にナマイキなガキ二人の顔が浮かぶ。まったく、これだから人気者は困る。
そんなわけで、早速ギル、ポポル、それにロザリィちゃんとちゃっぴぃを連れていつぞやの家に行く。『すみませんが、今日一日かまってあげてください』とだけ言って、妙におめかしした両親はさっさと出かけて行ってしまった。さてはクリスマスデートだろう。
さてさて、久しぶりに見るティルトゥとトゥルトゥはこないだよりもちょっとだけデカくなっていた。トゥルトゥに至ってはなんか妙におめかししており、前までのイタズラ娘な感じがあんまりしない。しかも、妙にもじもじしている。
『さっそく遊ぶか!』、『筋肉もお前に会いたがってたぜ!』とポポルとギルはティルトゥとともに外に繰り出す。まあ、外って言ってもすぐそこで戦闘訓練ごっこをするだけだけど。
ティルトゥのやつ、ちゃっぴぃを見て真っ赤になり、『わ、わ……!』って見とれていた。ギルが盗賊担ぎで連れ出しても視線が外れない。ガキのクセにずいぶんませているものである。
気を効かせた俺は『ほら、あっちで一緒に遊んで来い』ってちゃっぴぃをけしかけておいた。『きゅーっ!』ってパタパタ飛ぶちゃっぴぃにティルトゥはカチコチになっていた。
やっぱりガキの相手はガキに任せるのに限る。
んで、俺も『よう、こないだはステキなプレゼントをありがとうな?』とトゥルトゥの頭を撫でてやる。俺はカエルの死骸の恨みを決して忘れない。
が、トゥルトゥはちょっとうれしそうに笑うも(驚いたことに、マジでイタズラする気配がなかった)、『ねえ、その人だぁれ?』とロザリィちゃんから目を離さなかった。
なにやらちょっと不穏な雰囲気。ロザリィちゃんもそれを察したのか、『──くんのクラスメイトだよ? 今日はよろしくね!』と奴と目線を合わせて柔らかく微笑む。聖母感あふれるその姿に惚れ直した。マジプリティすぎる。
しかし、ここで急展開が。なんと、『私は──の恋人のトゥルトゥです。おねえさんこそ、よろしくお願いします』とあいつは俺の腕を取って(ぶら下がるに近かったけど)と言い出したのだ。挙句の果てに、俺のほっぺにキスしてくる始末。
さすがに焦る。俺はロザリィちゃんとステラ先生とピアナ先生一筋なのに。ついでに言えばこんなに乳臭いガキは守備範囲外。ロザリィちゃんにロリコンとか浮気とか思われたらどうするつもりなのか……と思ったところで、クールな俺はこれがこいつのイタズラだということを見破った。
が、一瞬ロザリィちゃんの表情が固まったのを俺は見てしまった。アイコンタクトで『どういうこと?』と聞いてくる。ウィンクだけ返した。納得の表情のロザリィちゃん。心と心で通じ合うってすばらしいね!
ロザリィちゃん、『そっかー、そっかー! トゥルトゥちゃんは可愛いなぁ!』とその豊かなる恵みを媒介に後ろからトゥルトゥを抱きしめた。『ホントだもん! 二人きりで魔法を教えてもらう仲だし、ぱんつだって見せたことあるし、はだかだってみせたことあるもん!』とトゥルトゥは母なる双丘に挟まれながらも喚く。
せくしー☆ぎるにビビって漏らした奴の下着を変え、風呂に入れてやっただけのことをそこまで言うとは。最近のガキはどうなっているんだろうか。
もちろん、ロザリィちゃんは『わかってる、わかってるって!』と超笑顔。『おねーさんはさすがにそこまではやってもらったことないなぁ、うらやましいなぁ!』とトゥルトゥにじゃれつく。
まさに正妻の余裕。経験が段違い。トゥルトゥのは子供の恋愛ごっこってのが誰の目に見ても明らか。さすがロザリィちゃんは格が違った。
ここで、トゥルトゥがロザリィちゃんの髪飾りとイヤリング、そして指輪に気づく。『まさか、それ……!』と俺の耳のイヤリングにも気づいて驚愕の表情。そんなはずはないとばかりに俺を見つめてきたけど、あいつは一体俺に何を期待していたのか。
『おそろいなの!? プレゼントしたの!?』と聞かれたので、『この世のものとは思えないほど可愛いサンタさんからもらった。たまたまダブっただけだろう』、『私もかっこいいサンタさんからこれもらったんだ!』と二人で仲良く答えてみた。
トゥルトゥ、撃沈。『私もサンタさんにおねがいしたもん!』と最後の悪あがき。どうやら、あいつはプレゼントとして『もう一度俺たちに遊びに来てもらうこと』をお願いしたらしい。
ちょっと可愛いと思ったのは気のせいだ。クリスマスの準備で疲れてたし。うん。
結局、『教えろ! 魔法教えろ! 絶対すぐに学校に行ってやる!』とトゥルトゥが妙にやる気を出したため、そのあとは普通に魔法のレッスンに入った。こないだ教えた水魔法はほぼ完璧だったので、今回はちょっと発展したものを教えていく。
夕方になるころには(この年にしては)上級な魔法を扱えるようになることに成功する。まだまだ粗削りとはいえ、もう確実に家事の領域を超えたレベルの魔法。
『これでどうだぁーっ!』ってあいつはロザリィちゃんに挑んでいたけど、『まだまだだよっ!』とロザリィちゃんはこれを軽くいなして終了。そりゃ、魔系として数々の死線を俺とともに乗り越えてきたロザリィちゃんがガキの未熟な魔法にやられるわけがない。
ちなみに、昼飯を作ったのは俺とロザリィちゃん。『ぐぬぬ……!』とトゥルトゥはこないだ教えた魔法で皿洗いだけやってくれた。『いいお嫁さんになるには、料理できないとねー』とロザリィちゃんは調理と皿洗いを同時並行でやってのけていた。もちろん皿洗いは魔法だった。
夕方遅くに両親が帰ってきたところでバイト終了。『次会うときは料理も覚えてるんだから!』、『俺もジャガイモいっぱい食べて筋肉付ける!』と二人は暖かい見送りの言葉を贈ってくれた。ギルたちがいったい何をしていたのか興味が隠せない。
夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。寝る間際、『私が──くんの一番だもん……っ!』ってロザリィちゃんがすごく情熱的に抱き付いてきた。なんだかんだで昼間は結構悔しかったらしい。
嫉妬ロザリィちゃんもマジプリティ。抱き締め返してキスしたのは書くまでもない。書いたけど。
ギルは今日も大きなイビキをかいている。左腕の筋肉に『友達の証』と拙い字で書かれているけど、マジであいつはいったい何をしていたのだろうか。つーか、ちゃんと風呂場で洗い落とせって思う。まあ、すぐに落ちるとは思うけどさ。
とりあえず、やつの鼻にはトゥルトゥがロザリィちゃんのポケットに仕掛けようとしていた蟲の脚……のおもちゃを詰めておいた。二人ともに気づかれず回収した俺って結構すごいと思う。おやすみらい。




