263日目 発展魔法生物学:休講
263日目
靴の中にまつぼっくりが入ってた。足に刺さって地味に痛い。とりあえず全力でアエルノチュッチュ寮に向かって投げた。
ギルを起こして食堂へ。クリスマスも授業があることを知ったのか、ティキータの連中が『なんとかして当日休講にしようぜ』と持ち掛けてきた。あいつらもこの学校のクソ過ぎるカリキュラムには怒りの炎を燃やしているらしい。
とりあえず、『ギル・クリーチャーをなんとかして呼び出してみるか?』と提案したら、『超えちゃいけないラインを考えろ』、『それやったらクリスマスそのものが中止だろ?』と窘められた。一番確実だと思ったんだけどなぁ。
なお、当のギルは『うめえうめえ!』といつも通りジャガイモを喰っていた。『クリスマスディナーのリクエストは何かあるか?』と聞いてみたところ、『親友が作ったフライドポテト!』と超いい笑顔で答える。『安上りなのはいいことなの』ってミーシャちゃんが言ってた。
そうそう、『私は──くんが作るブッシュドノエルが食べたいな♪』ってロザリィちゃんが後ろからぎゅって抱きついてきた。やわらかくて暖かいものを背中に感じて超幸せ。あと、耳元で囁かれたもんだから背筋がぞくぞくして背徳感がすごかった。朝からこんなに幸せでいいのだろうか?
今日は天使ピアナ先生と頼れる兄貴グレイベル先生の発展魔法生物学。『クリスマスに授業? 魔系は昔っからそうだよ?』、『…そういや、毎年「クリスマスくらい会いたいよ!」って言われるな……』と、先生方はもはやクリスマスに授業があることに対し何とも思っていないようだった。完全に思考が染まっているらしい。
が、『でも、それだとさすがに可哀想だから、今日は休講にします!』とピアナ先生がエンジェルスマイルを浮かべてくれた。今年は大きな事故やけが人も出なかったから、割と時間的に余裕があるらしい。
『先生になったら絶対この週は休みにしてやるって、ずっと思ってたの! 惨めな思いをするのは先生だけで十分!』ってピアナ先生は言ってたけど、なにかあったのだろうか?
さて、せっかく休みになったので、『一緒にクリスマスツリーの飾りつけをしませんか?』と誘ってみる。『…まかせろ』とグレイベル先生も超やる気。ぶるぶる震えるクリスマスツリーを見ても眉一つ動かさない。
しかも、『…ちょっとバランスが悪いな』って枝の剪定までやってくれた。おかげで恐怖の森のヤバそげな樹みたいな見た目がすっげぇ普通のクリスマスツリーに変身する。さりげなくツリーの管理をしていたジオルドが『負けた……』って言ってたけど、先生が相手じゃしょうがない。
さすがはグレイベル先生。生物学の先生だけあって植物の管理もお手の物……だと思ったら、『そのへんは専門じゃなくてただの趣味だよ?』ってピアナ先生に教えてもらった。
グレイベル先生、もともと植物や薬学が好きだったんだけど、魔系の道を進んでから『あ、これ専門にしたら好きでいられなくなる』って思って生物学、特に魔物の生態に転向したそうな。
剪定後はみんなで飾りつけ。クーラスとジオルドがこないだ町で買ってきた飾りをこれでもかとデコりまくる。なんかキラキラしたやつをぐるりと巻き、ぴかぴかの球を随所にたらし、てっぺんに星を飾ればほぼ完成。
体に飾りを付けられるのが嫌らしく、怨念樹は時折身震いしてそれらを落とそうとしたんだけど、ピアナ先生が『クリスマス前に腐らせよっか?』、グレイベル先生が『…ぶちのめすぞ』って脅したら一発で大人しくなった。
おかげでポージングして待機していたギルの出番が消えた。呪を準備していたパレッタちゃんも残念そう。振りかざしたくちばしを持て余したエッグ婦人とヒナたちはなぜか俺のケツを突いてきた。解せぬ。
なんだかんだでいつもと同じくらいの時間に作業終了。朝よりもだいぶ華やかになったクリスマスツリーに一同喜びを隠せない。『あとは魔法触媒でライトアップすれば完璧かな!』ってピアナ先生。でも、あれって高いし消耗品(しかもすぐ壊れる)だからお財布に優しくないんだよね。
夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。なんかちょっと短いしざっくりしているけど、仕込みやプレゼントの関係があるからこの辺にしておこう。みんなとの初めてのクリスマスだし、最高のものに仕上げたい。
ギルの鼻には颶風の落とし子を詰めてみた。それなりに危ない魔法物質なのに、ギルはスヤスヤとイビキをかいている。処理性の高さに驚きを隠せない。みすやお。
20151223 誤字修正




